移転価格税制国税庁対応と通関業務への影響

移転価格税制は通関業務従事者にとって無関係に思えますが、関税評価との交錯により実務に大きな影響を与えます。国税庁の調査動向や独立企業間価格の算定方法、文書化義務まで、通関業務に関わる方が知っておくべきポイントを解説します。あなたの業務にどう関係するのでしょうか?

移転価格税制国税庁

移転価格調整で関税還付が必要になります。

📋 この記事の3ポイント
⚖️
移転価格税制の基本構造

国外関連者との取引を独立企業間価格で評価し、所得の海外移転を防止する制度。通関業務にも影響

📊
独立企業間価格の算定方法

6つの算定方法から最適なものを選択。CUP法、RP法、CP法などが基本三法として活用される

📝
文書化制度と事前確認

平成28年改正で文書化義務が強化。APA制度の活用で移転価格課税リスクを事前回避可能

移転価格税制の基本的な仕組みと国税庁の役割


移転価格税制とは、海外の関連会社との取引価格を通じて所得を海外に移転させることを防止する税制です。日本の親会社が海外子会社に商品を低価格で販売すれば、本来日本で課税されるべき利益が海外に移転してしまいます。
参考)移転価格税制の概要 : 財務省


国税庁は「移転価格事務運営要領」や「移転価格ガイドブック」を公表し、この制度の運用方針を示しています。税務調査では、国税当局が独立企業間価格を再計算し、実際の取引価格とのズレがあれば差額分を課税する仕組みです。
参考)移転価格の仕組み - 「5分でわかる」移転価格税制 - 移転…


つまり独立企業間価格との差額が課税対象ということですね。
近年の事例では、ファナック株式会社が台湾子会社との取引で約97億円、ヨネックス株式会社がアジア子会社との取引で約11億円の申告漏れを指摘されました。スノーピーク株式会社も韓国子会社への製品販売で約6億円の申告漏れを受けています。
参考)日本における移転価格課税の動向と最近の事例−企業に求められる…

移転価格税制と通関業務の交錯点

通関業務従事者にとって見落とせないのが、移転価格税制と関税評価制度の交錯です。関税評価では原則として実際の輸入取引価格を課税価格としますが、移転価格調整が行われると輸入申告時の価格と事後調整後の価格にズレが生じます。
参考)https://zeihogakkai.com/press/files/577/191-219.pdf


移転価格調整金が税関輸入申告価格を構成する場合、輸入企業は税関修正申告を行い、追加の関税や輸入消費税を支払う必要があります。逆に、移転価格が下方修正された場合は関税還付の対象となる可能性があります。
関税還付が必要になることもあるんです。
国税庁の調査担当者がアパレル製品の輸入取引について質問した際、納税者から「関税や通関業務の都合上」という説明があったケースも記録されています。通関業務の実態が移転価格調査の論点になることを示しています。
参考)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/itenkakakuzeisei/pdf/takokuseki_02.pdf

2024年以降、関税率の変動が移転価格方針に与える影響も注目されています。関税負担の配分を一方的に行うと移転価格税制に抵触するリスクがあるため、価格変更の理由を明確に文書化することが求められます。

移転価格税制の独立企業間価格算定方法

独立企業間価格とは、企業グループ以外の独立した第三者間で同様の条件下で行われる取引の価格です。日本では6つの算定方法が定められており、企業は最適なものを選択します。
参考)移転価格税制と独立企業間価格の算定方法について解説 – 国際…

基本三法として以下があります。


  • 独立価格比準法(CUP法):同じ製品やサービスを提供する独立企業間の価格を比較​

  • 再販売価格基準法(RP法):再販売価格から適正な利益率を差し引いて算定​

  • 原価基準法(CP法):原価に適正な利益率を加算して算定​

その他の方法として、取引単位営業利益法(TNMM)、利益分割法(PS法)、ディスカウンティッド・キャッシュ・フロー法(DCF法)があります。TNMMは関連会社の売上高や利益率を基に取引単位での営業利益を算定し、他の独立企業との比較により適切な価格を導き出します。​
比較対象取引が複数ある場合、原則として比較対象利益率などの四分位に基づいて独立企業間価格を算定します。国税庁の移転価格事務運営要領では、貿易条件の調整(運賃・保険料相当額を加減算)や決済条件の調整(決済までの金利相当額を加減算)などの差異調整方法が示されています。
参考)独立企業間価格(ALP)とは?定義から算定方法まで分かりやす…

これらは通関業務で扱う貿易条件と直結します。
具体例として、対象法人が100万円で仕入れた商品を国外関連者に200万円で販売し、国外関連者が第三者に400万円で販売するケースを考えます。比較対象取引で第三者が300万円で仕入れ400万円で販売(利益100万円)している場合、独立企業間価格は300万円と算定されます。​

移転価格税制の文書化制度と国税庁の要請

平成28年度税制改正により、OECD/G20 BEPSプロジェクトの勧告を踏まえ、移転価格税制に係る文書化制度が整備されました。この改正により、文書の保存期間は原則7年間、保存場所は国内と明確化されました。
参考)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/takokuseki/pdf/04.pdf


文書化制度には3つの階層があります。


  • ローカルファイル:個別企業の国外関連取引に関する詳細情報

  • マスターファイル:多国籍企業グループ全体の事業概況

  • 国別報告書(CbCR):国別の所得や税額の配分状況

改正前は当局の要請後に文書提出が求められていましたが、改正後は事前準備と保存が義務化されました。これは文書化の実効性を担保する措置です。​
国税庁は令和6年6月に「移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)」を公表し、実務上の疑問点に対する回答を示しています。中堅企業においても、国外関連取引が一定規模を超える場合はローカルファイルの作成が必要です。
参考)https://www.tkc.jp/consolidate/tkc_express/2024/07/202407_11447


文書化対応が調査リスク低減の鍵になりますね。
中国における事例では、赤字企業が移転価格調査を受け約2億円の追徴税額を指摘されたケースがあります。移転価格文書(ローカルファイル)の整備と税務調査官との交渉により、約半年で当初指摘額を大幅に低減させることに成功しました。
参考)【事例紹介】中国における移転価格税務調査リスクの高い企業

移転価格税制のAPA(事前確認制度)活用

APA(Advance Pricing Arrangement)とは、移転価格事前確認制度の略称です。納税者の申出に基づき、国外関連取引に係る独立企業間価格の算定方法について、税務署長などが事前に確認を行う制度です。
参考)https://www.pwc.com/jp/ja/services/tax/transfer-pricing/apa.html


APAには3つの種類があります。​


  • ユニラテラルAPA(ユニAPA):日本税務当局とのみ事前確認を行う

  • バイラテラルAPA(BAPA):日本税務当局と相手国当局の二国間で確認

  • マルチラテラルAPA(MAPA):三国間以上の多国間で確認

BAPAおよびMAPAは租税条約に基づき国際的な二重課税の排除を図ることができます。税務調査とは対照的に、企業が自ら提案するため税務当局とより柔軟に交渉できる余地があります。​
事前に税務コストの把握が可能です。
APAでは、企業が一定期間で国外関連者と行う予定の取引に対し、税務当局に自主的に申請し審査を受けます。確認通知が届けばAPA取得となり、企業は定められた期限までに年次報告書を提出します。
参考)移転価格APA(事前確認制度)の概要やメリット・申請の流れ


確認された独立企業間価格算定方法に沿って申告すれば、税務当局は移転価格課税をしません。事前作業は増えますが、予測が難しい移転価格の問題を回避できる可能性が高まります。​
通関業務において関税評価と移転価格調整の整合性を保つためにも、APA制度の活用は有効な選択肢となります。価格変更がある場合は、事前価格合意(APA)の有効性が損なわれたり、移転価格文書で採用した価格算定方法との矛盾が生じる恐れがあるため注意が必要です。​
詳細な移転価格事務運営要領は国税庁の公式サイトで確認できます。
国税庁|移転価格税制
移転価格税制に関する文書化制度の詳細なFAQも公表されています。
国税庁|多国籍企業情報の報告




チャレンジ! 移転価格税制