自己認証済みの自動車でも、日本の基準に適合していなければ通関後に走行できません。
自己認証(セルフサーティフィケーション)とは、自動車メーカーが政府機関による型式承認を受けることなく、自社製品が定められた安全・環境基準に適合していることをメーカー自身が宣言・保証する制度です。代表的な採用国はアメリカで、米国道路交通安全局(NHTSA)が定めるFMVSS(連邦自動車安全基準)への適合をメーカーが自ら確認し、宣言するかたちをとっています。
日本では、国土交通省による「型式指定制度」や「認定制度」が主流であるため、自己認証という言葉に馴染みがない通関業従事者も少なくありません。しかし、米国や一部の新興国から完成車を輸入する場合、この自己認証方式に基づいて製造された車両が対象になるケースが増えています。
制度の違いは重要です。
型式指定制度では、国土交通大臣が車両の型式ごとに審査・承認を行い、量産車に対して同等性を認める仕組みです。一方、自己認証では製品の適合確認はメーカー側の責任で完結しています。したがって、輸入通関の場面で「自己認証済みだから問題ない」と判断するのは誤りです。
実際、自己認証で製造された自動車を日本に輸入する場合は、道路運送車両法に基づく保安基準(国土交通省令)への適合が改めて求められます。輸出国での認証は、輸入国(日本)での法的要件を自動的に満たすものではありません。これが基本です。
参考リンク:自動車の型式指定・自己認証に関する国土交通省の公式解説
自己認証車両を日本に輸入する際に最初にぶつかる壁が、保安基準への適合確認です。日本では道路運送車両法第75条以下に基づき、一定の基準を満たさない自動車は公道走行が認められていません。
輸入通関自体は、関税法上の手続きとして別途進行します。しかし通関が完了しても、それだけでは公道走行の許可にはなりません。通関後に、国土交通省または指定自動車整備事業者による保安基準適合証明を取得する必要があります。
具体的な流れを整理すると、まず輸入者が税関に対して輸入申告を行い、関税・消費税等を納付して通関を完了させます。その後、陸運局への新規登録検査(または予備検査)を経て初めて道路運送車両法上の登録が完了します。つまり「通関=走行可能」ではありません。
通関業従事者にとって特に注意が必要なのが、輸入申告の際に提出する書類の確認です。自己認証車両であれば、製造国での適合宣言書(DoC:Declaration of Conformity)や、排ガス規制に関する証明書、VINコード(車体識別番号)の記載の正確性などが求められます。書類の不備や記載の相違は、通関遅延や差戻しの原因になります。
厳しいところですね。
なお、日本とEUの間では2019年施行の日EU・EPA(経済連携協定)に基づき、UN/ECE規則(国連欧州経済委員会規則)に適合した車両については、一部の保安基準検査が簡略化される協定が適用されています。米国のFMVSS基準準拠の自己認証車両は、このEPA特例の対象外となる点にも注意が必要です。
国土交通省:日EU・EPAにおける自動車基準・認証の相互承認について
通関業従事者として、自己認証車両の輸入申告を扱う際に準備すべき書類は通常の完成車輸入と比較してやや多くなります。ここでは実務上の確認ポイントを詳しく解説します。
まず基本書類として必要なのは、インボイス(商業送り状)、パッキングリスト、船荷証券(B/L)またはAWB、原産地証明書です。これに加え、自己認証車両固有の書類として以下が求められます。
これが条件です。
特に中古の自己認証車両(主に米国製中古車)の場合、NHTSAのリコール情報の確認は通関上のリスク管理として非常に重要です。リコール未対応車両を輸入した場合、後日の改修対応や部品調達が困難になり、輸入者からクレームを受けるケースがあります。
通関業従事者として輸入者へのアドバイスを行う場面でも、「自己認証済みだから書類はシンプルでいい」という認識を修正してもらうことが業務リスクの回避につながります。
また、HS(統計品目)コードの適用にも注意が必要です。完成乗用車はHS8703、商用車はHS8704が基本ですが、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCEV)については別途分類の検討が必要です。自己認証方式を採用しているEVメーカー(テスラ等)の車両輸入では、HS8703.80(電気モーター駆動の自動車)の適用が一般的ですが、車種・仕様によって税率が変わるため、事前の品目分類確認が求められます。
自己認証方式か型式指定方式かという違いは、単なる制度上の区別にとどまらず、輸入コストと納期に直接的な影響を与えます。この点は通関業従事者として荷主(輸入者)に説明できるようにしておくと実務上の信頼につながります。
型式指定を取得している車両(主に日本国内で正規販売されているモデル)は、すでに国土交通省の審査を通過しているため、輸入後の保安基準確認が大幅に省略できます。一方、自己認証車両は個別に保安基準適合確認が必要となるため、通関後から公道走行可能になるまでの期間が型式指定車に比べて長くなる傾向があります。
具体的な日数でいうと、型式指定車の新規登録は書類が揃っていれば陸運局での手続きが1〜3日程度で完了するケースが多いのに対し、自己認証車両で構造変更や灯火類の改修が必要な場合は2〜4週間以上かかることもあります。
時間のロスは大きいですね。
また、改修が必要な場合の費用も見逃せません。たとえばヘッドライトの配光角度が日本の保安基準(道路運送車両の保安基準第32条)を満たしていない場合、ライトユニットの交換が必要になります。この改修費用は車種によって5万円〜30万円以上になることもあり、輸入コストの見積もりに影響します。
通関費用の見積りを依頼された際には、通関手数料だけでなく、保安基準適合確認・陸運局手続き費用・改修費用の概算も含めた全体像を荷主に提示できると、トラブル防止につながります。これは使えそうです。
これは検索上位にはほとんど取り上げられない独自視点ですが、自己認証車両の輸入に携わる通関業従事者として知っておきたい「再輸出リスク」について解説します。
一度日本に通関した自己認証車両が、何らかの理由で輸出国に返送(再輸出)される場合があります。たとえば、保安基準の適合確認において改修不可と判断されたケース、または輸入者のキャンセルにより輸出国への返品が発生したケースです。
この際、日本での通関時に関税・消費税をすでに納付していた場合、再輸出による還付(輸入関税の戻し税)には一定の条件と期限があります。関税定率法第20条に基づく「輸入時関税の戻し税」は、輸入許可日から6か月以内に再輸出されたことが要件であり、かつ税関長への申請が必要です。
6か月という期限は意外と短いです。
輸入者(荷主)がこの期限を知らずに6か月を超えて再輸出した場合、関税の還付が受けられず損失が発生します。通関業者としては、自己認証車両の保安基準適合確認に時間がかかる見通しがある場合、あらかじめ輸入者に戻し税の期限を案内しておくことがリスク管理として有効です。
また、EV(電気自動車)の自己認証車両では、バッテリーの輸送規制(UN3480、IATA規定)が絡むケースもあります。再輸出の際に航空輸送を選択した場合、SOC(充電状態)が30%以下でなければ航空貨物として受け入れられない規定があり、現地での充電管理まで対応範囲に含まれることがあります。
こうした周辺知識を含めて対応できる通関業従事者は、荷主からの信頼度が高まります。自己認証車両の輸入案件は件数こそ型式指定車より少ないものの、1件あたりの複雑度が高いため、1案件を通じてノウハウが大きく蓄積されます。