犯則調査権限とは何か税関の強制調査と告発の仕組み

犯則調査権限とは何か、関税に関わる輸出入取引でどのような場面に発動されるのか。税関が持つ強制調査権の内容や通告処分・告発の違い、令和6事務年度300件超の実態まで詳しく解説します。知らないと法的リスクを見逃しますか?

犯則調査権限とは何か|税関の強制調査と告発の仕組みを解説

通告処分を受けても前科はつかないが、通関士資格を失う可能性があります。


この記事の3ポイント要約
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犯則調査権限とは何か

関税法に基づき税関職員が持つ調査権限。任意調査に加え、裁判官の令状があれば臨検・捜索・差押えといった強制調査まで実施できる、通常の税務調査とは次元の異なる権限です。

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告発と通告処分の違い

調査結果により「罰金相当」なら通告処分(行政処分)、「懲役刑相当」なら検察官への告発(刑事手続)に分岐します。前者は前科がつきませんが、後者は刑事裁判に発展します。

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令和6事務年度の実態

全国税関の犯則調査処分件数は300件(前年比91%増)、脱税額は約7億円(同79%増)。金地金密輸が約6割を占める深刻な状況で、調査件数は急増しています。


犯則調査権限とは何か|通常の税務調査との根本的な違い

関税に関わるビジネスをしていると、「事後調査」という言葉はよく目にするかもしれません。しかし「犯則調査権限」となると、その内容を正確に理解している方は決して多くはないのが実情です。


まず、前提として押さえておくべき点があります。税関が実施する調査には大きく分けて2種類が存在します。1つ目は「事後調査」で、輸出入者の事業所を訪問し、帳簿や貿易書類の内容を確認する行政上の調査です。これはあくまで申告の正確性を確認するための手続きであり、正当な貿易取引を行っている事業者であれば修正申告の指導で終わるケースが多いといえます。


2つ目が今回の主題である「犯則調査」です。これは事後調査とは明確に目的が異なります。


税関の公式ページでは以下のように定義されています。


「犯則調査」は、事後調査とは別に、不正な手段により故意に関税を免れた納税義務者(輸入者)に対して、正しい税を課すほか、反社会的行為(犯罪行為)に対して刑事責任を追及するため、犯罪捜査に準ずる方法でその事実の解明を行う調査です。


つまり犯則調査とは、単なる申告誤りの是正ではなく、「故意による関税免脱」という犯罪行為の捜査に準じた手続きです。これが事後調査との本質的な違いです。


では、犯則調査権限の中身はどのようなものでしょうか。大きく「任意調査」と「強制調査」に分かれます。


- 任意調査:犯則嫌疑者や参考人に対し出頭を求め、質問を行い、所持品や物件を検査する
- 強制調査:裁判官があらかじめ発した許可状(令状)に基づき、事務所・倉庫・住居などへの臨検・捜索・差押えを実施する


この「強制調査」こそが犯則調査権限の最大の特徴です。令状さえあれば、相手の同意なしに事業所の中に立ち入り、帳簿や書類のみならずパソコン内のデータや貨物そのものも差し押さえることができます。


なお、税関職員は司法警察員の身分を持たないため、刑事訴訟法上の「逮捕」は行えません。ただし関税法の規定に基づく犯則調査は認められており、それに伴う捜索・差押えは可能とされています。これは意外に知られていない重要な点です。


参考リンク(税関の犯則調査と事後調査の概要をまとめた公式ページ)。
事後調査等 - 税関 Japan Customs


犯則調査権限の法的根拠|関税法が定める手続きの全体像

犯則調査権限の法的根拠は関税法第11章「犯則事件の調査及び処分」に集中しています。輸出入ビジネスに関わる方なら、この章の構造を頭に入れておくことで、万が一の調査通知が届いた際にも冷静な対応が可能になります。


関税法上、犯則調査の流れは大まかに次の通りです。


段階 内容 根拠条文
①調査開始 任意または強制による証拠収集・事実確認 関税法119条等
②調査完了・報告 税関職員が調査結果を税関長へ報告 関税法140条
③処分の決定 通告処分または検察官告発の選択 関税法146条
④犯則なし通知 犯則の心証が得られなかった場合に嫌疑者へ通知 関税法149条


注目すべきは関税法146条の「通告処分」と「告発」の分岐です。犯則調査の結果、情状が罰金刑に相当すると判断された場合は通告処分に付されます。一方、懲役刑に相当する、または通告処分を履行できる資力がないと認められる場合には、税関長は直ちに検察官に告発しなければなりません。


また関税法119条2項には重要な規定があります。税関職員は犯則事件の調査において、官公署や公私の団体に照会して必要事項の報告を求めることができると定められています。これは調査の範囲が当事者の事業所にとどまらず、取引先・金融機関・行政機関にまで及ぶことを意味しています。


さらに、平成17年10月からは申告納税方式が適用される貨物に係る犯則事件については、通告処分を行うことなく直ちに検察官に告発することができるよう改正されました。これにより現代のEコマースや一般的な輸入取引に対しては、従来よりも厳しい処分が下りやすくなっています。


関税法のフルテキストは以下で確認できます。


参考リンク(e-Gov法令検索による関税法の条文確認)。
関税法 - e-Gov 法令検索


犯則調査と通告処分・告発の違い|前科がつくのはどちらか

ここは多くの方が誤解しているポイントです。犯則調査の対象になった場合、「刑事事件になるのでは」と極度に恐れる方もいれば、逆に「行政手続だから大丈夫だろう」と高をくくってしまう方もいます。どちらも正確とは言えません。


通告処分は、前科にはなりません。これは関税法146条に基づく行政処分であり、税関長が「罰金に相当する金額の納付」を求めるものです。犯則者がこれに応じて定められた金額を支払えば、手続きはそこで終結します。刑事裁判には発展せず、犯罪人名簿にも記載されません。


ただし注意点が1つあります。通告処分は前科にならないものの、通関士や行政書士といった国家資格には影響する可能性があります。資格の欠格事由に「関係法令違反」が含まれているケースがあるためです。「前科がないから安心」と完全には言い切れないのはこの点が理由です。


一方、告発は刑事手続への移行を意味します。懲役刑相当と判断された場合には検察官に告発が行われ、以降は刑事裁判の流れに入ります。有罪判決が確定すれば前科が付き、その後のビジネスや社会生活に長期的な影響が出ます。


ここで整理しておきましょう。


| 区分 | 性質 | 前科 | 手続きの終結 |
|------|------|------|------|
| 通告処分 | 行政処分 | つかない | 納付で終了 |
| 告発 | 刑事手続 | 有罪確定でつく | 検察・裁判に移行 |


告発事例として記録されている具体的なケースを見ると、その深刻さが伝わります。令和5年7月・東京税関では、タイから入国した犯則者がプラスチックケースに金地金約105kgを隠匿し、消費税等約8,080万円を不正に免れようとした事案が告発されています。また令和5年12月から令和6年1月・門司税関では、韓国からの活魚運搬車内に金地金約30kgを隠匿し、消費税等約2,896万円を免れようとした事案も告発されています。


この金額規模の脱税が「懲役相当」として告発される代表例です。


参考リンク(通告処分の手続き詳細と解決事例を解説)。
【解決事例】関税法違反での通告処分について - 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部


令和6事務年度の犯則調査実態|300件・脱税額7億円の衝撃

犯則調査が「自分には無関係」と感じている方も多いかもしれません。しかし最新データを見ると、その認識は改める必要があります。


財務省が令和7年11月12日に公表した「令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)の関税等脱税事件に係る犯則調査結果」によれば、全国の税関が処分した件数は300件(前年比91%増)、脱税額は約7億円(同79%増)に達しています。


件数・金額ともに前年度から約2倍近い急増です。


内訳を見ると、そのうち金地金密輸事件が186件(前年比82%増)と全体の約6割を占め、脱税額では約6億2,000万円と全体の約9割を占めています。金地金の密輸は消費税(現行10%)を不正に免れることを目的としたもので、海外で金を購入・携行し、税関申告なしに持ち込んで国内で税込価格で転売するという手口が典型的です。


金地金の密輸を小さなイメージで捉えている方もいますが、告発事例の1件当たり脱税額は平均でざっと1,000万円前後に達しています。消費税率が10%である現在、金地金を100kg密輸すれば消費税だけで約8,000万円超の脱税になり得ます。身近に感じにくい金額ですが、これはコンビニを複数店舗で数年間経営した利益規模に匹敵する金額です。


それ以外の処分事例でも、中古自動二輪車や有名ブランド品(バッグ・時計など)の関税等脱税事件が定期的に摘発されています。これらは一般の輸入事業者やフリマアプリを活用した個人輸入とも接点があるため、決して「大企業・専門犯罪者だけの問題」ではありません。


💡 犯則調査件数の急増は、税関の調査体制強化・AIを活用した申告データの分析技術向上とも連動しています。


参考リンク(財務省による令和6事務年度犯則調査結果の公式発表)。
令和6事務年度の関税等脱税事件に係る犯則調査の結果 - 財務省


犯則調査権限と輸出入事業者が取るべき対応|弁護士・通関士との連携が鍵

犯則調査の通知を受けた場合、事業者としてどのような対応を取るべきでしょうか。ここでは具体的な判断フローを整理します。


まず大前提として、犯則調査は「任意」の部分と「強制」の部分が混在しています。任意調査での出頭要請は、その名の通り任意ですが、正当な理由なく拒否し続けると強制調査(令状による臨検・捜索)に発展するリスクが高まります。協力することが原則です。


とはいえ、調査への協力と「不利な自白」は全く別の話です。


犯則調査は行政手続でありながら、判例・学説上、「実質的に刑事責任追及を目的とする」と認められる場合には、憲法38条の自己負罪拒否特権(黙秘権に類似した権利)の保障が及ぶとされています。これは2025年10月の有斐閣の判例解説でも確認されています。つまり事業者側にも、一定の範囲で不利な供述を強制されない権利があります。


実際に犯則調査の対象となってしまった場合の対応としては、以下の3点が重要です。


- 🛑 虚偽の主張・自白は絶対に避ける:事実に反する内容を供述すると、後の刑事手続において重加算税・重い刑事処分につながる可能性があります
- ✅ 冷静に状況を確認し、調査側の手続きには協力する:敵対的な態度は逆効果です
- 📞 速やかに専門家(弁護士)に相談する:通関士は輸入申告の是非を判断できますが、税関対応の代理・交渉を行えるのは弁護士に限られます(税理士は税関問題については職務権限外です)


特に見落とされがちな点として、輸入事後調査と犯則調査では弁護士の必要性が全く異なります。事後調査は税理士・通関士でもある程度対応できますが、犯則調査はその延長線上に刑事手続が存在するため、犯則調査対応の経験がある弁護士への相談が不可欠です。


弁護士選びの基準として、「通関士資格を有する弁護士」や「税関対応・輸出入トラブルを専門分野として掲げている弁護士」を選ぶと、法律面だけでなく関税・通関手続の実務知識に基づいた的確なアドバイスが期待できます。


参考リンク(犯則調査対応の注意点・弁護士相談の必要性を解説)。
犯則調査にご注意ください | 有森FA法律事務所