「CC方式を満たしていればHS変更なしでもRVC不要と思い込み、修正申告を余儀なくされたケースがあります。」
CTC方式(Change in Tariff Classification、関税分類変更基準)とは、産品の製造過程において非原産材料が一定レベルの関税分類の変更を経ることで、その産品が特定の国・地域を原産とすると認める原産地規則の判定手法です。FTA・EPAを活用した通関業務において、最も頻繁に登場する判定基準のひとつと言えます。
CTC方式には大きく3つのレベルが存在します。それぞれの意味と要求水準は以下のとおりです。
| 略称 | 正式名称 | 要求される変更の範囲 |
|---|---|---|
| CC | 類(Chapter)変更基準 | HS2桁レベルで非原産材料と異なる類に分類される |
| CTH | 項(Heading)変更基準 | HS4桁レベルで異なる項に分類される |
| CTSH | 号(Subheading)変更基準 | HS6桁レベルで異なる号に分類される |
CCが最も厳しいように見えますが、実際には類レベルでの変更を求めるだけですから、使用する非原産材料が最終産品と同じ類(2桁)に属している場合は要件を満たせなくなります。つまり、同じ類の材料を多く使う産品ではCCよりCTHやCTSHのほうが有利に働く場合もあります。これは意外ですね。
HSコードの分類変更は、あくまで「非原産材料」を基準に判断する点も重要です。原産材料そのものはCTC判定の対象外となるため、どの材料が非原産かを最初に特定することが判定作業の第一歩になります。原産材料の確認が条件です。
各協定の品目別規則(PSR: Product Specific Rules)を参照すれば、対象産品ごとにCC・CTH・CTSHのいずれが要求されているかが明記されています。日本税関の「EPA税率・原産地規則検索システム」や各協定の附属書を使って確認するのが実務の基本手順です。
日本税関:原産地規則に関する制度・手続きの解説ページ(協定別のPSR検索にも対応)
CTC方式による原産地判定は、手順を正確に踏まないと判定結果が変わってしまうことがあります。実務では以下の5つのステップで進めるのが基本です。
ステップ1:輸出産品のHSコードを確定する
最終産品のHS番号(輸出国・輸入国双方の分類)を確認します。協定によっては輸入国側のHS分類が基準になるケースもあるため、どちらを使うかを先に確認しておく必要があります。
ステップ2:使用材料を洗い出し、原産・非原産を区別する
BOM(部品表)などをもとに、産品の製造に使用したすべての材料を列挙します。そのうえで、各材料が原産材料か非原産材料かを判断します。非原産材料の特定が条件です。
ステップ3:非原産材料のHSコードを確定する
非原産材料それぞれのHS番号を確認します。この段階でHSコードに誤りがあると、後の変更判定が根本から狂ってしまいます。
ステップ4:品目別規則(PSR)を確認し、要求されるCTCレベルを把握する
対象協定の附属書から当該産品のPSRを引き出し、CC・CTH・CTSHのいずれが要求されているかを確認します。PSRによっては「CTH(ただし第××類からの変更を除く)」のような例外規定が付されているケースも多く、この除外リストを見落とすと誤判定につながります。
ステップ5:非原産材料と最終産品のHSコードを照合し、変更要件を満たすか確認する
PSRが求めるCTCレベルに照らし、非原産材料のHS番号が必要な変更を経ているかを確認します。すべての非原産材料が要件を満たしていれば、CTC方式をクリアしていると判断できます。
この5ステップが実務の基本です。特にステップ4の除外規定の確認を省略してしまうケースが現場では多く、協定上の恩恵が受けられないまま申告してしまう事例も発生しています。厳しいところですね。
JETRO:EPA活用ガイド(原産地規則の判定手順や証明書類の解説が充実)
CTC方式を満たせば必ず原産性が認められると思い込んでいると、実務で大きなミスをおかすことになります。協定によっては、CTCを満たすだけでは不十分で、他の基準を同時に満たす必要があるケースが存在するからです。
代表的なのがRVC(付加価値基準:Regional Value Content)との組み合わせです。たとえばRCEP協定では、一部の産品に対して「CTH、またはRVC40%以上」という選択肢が設けられています。一方で「CTHかつRVC40%以上」と両方を同時に要求する規定も存在します。この「または」と「かつ」の違いを読み飛ばすと、要件を満たしているかどうかの判断が逆転してしまいます。
また、特定製造工程基準(SP基準)との組み合わせも注意が必要です。繊維・縫製品や化学品では、単純な分類変更よりも「どのような製造工程を経たか」を問う規定が設けられている場合があります。これはCTCとは独立した要件として設定されているため、分類変更の有無だけで判断してはいけません。
結論はCTCのみで判定が完結するとは限らないということです。
さらに、「僅少の非原産材料(デ・ミニミス)」の特例にも注意が必要です。PSRが求める分類変更を満たさない非原産材料が一部含まれていても、その価額や重量が一定水準以下であればCTCを満たしたものとみなす規定が多くの協定に存在します。RCEP協定では価額ベースで産品価額の10%以下、TPP11でも同水準の規定が設けられています。この特例を知っているかどうかで、原産地証明の発行可否の判断が変わる場面もあります。これは使えそうです。
経済産業省:RCEP協定原産地規則解説(CTC・RVC・デ・ミニミス規定を網羅的に解説)
日本が締結しているFTA・EPAは2025年時点で20を超えており、それぞれの協定でCTC方式の運用ルールが異なります。「CTC方式だから同じ」と思って別の協定のルールを流用すると、要件を満たさない申告をしてしまうリスクがあります。
主要な協定間でのCTC方式の運用上の違いを整理すると、以下のような差異があります。
| 協定名 | CTCの適用方式 | 主な特徴・注意点 |
|---|---|---|
| RCEP協定 | CTH中心(CC・CTSHも産品別に存在) | RVC40%との選択肢あり。輸出国のHS分類(HS2017)が基準 |
| TPP11(CPTPP) | CTSH中心(産品によりCTH・CCも) | 品目別規則が非常に細かく、除外規定が多い。HS2012基準 |
| 日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) | CTH中心 | ASEAN累積規定あり。原産地証明はForm AJまたは自己申告 |
| 日EU・EPA | CTH・CTSH混在 | 加工工程基準(SP)との組み合わせ規定が多い |
特に注意が必要なのは、HSコードの版が協定によって異なる点です。RCEP協定ではHS2017が基準で、TPP11ではHS2012が基準です。HSの改訂(HS2022への移行など)があった場合、同じ産品でも協定によって適用するHS番号が変わるため、分類変更の有無の判断も変わります。協定ごとに確認が必須です。
日本の税関では、EPA特恵税率の適用にあたって事前教示制度(タリフ・クラシフィケーション・ルーリング)を活用することができます。判定に迷う産品については、事前に税関へ照会して文書回答を得ておくと、申告時のリスクを大幅に軽減できます。これは実務上の保険として機能します。
日本税関:事前教示制度の概要(原産地・HS分類に関する照会手続きを解説)
CTC方式の原産地判定は、制度としての理解と実務での運用の間に大きなギャップがあることが多いです。通関業務の現場で実際に起きやすい誤りとその対策を確認しておくことが、ミスを未然に防ぐ最短ルートになります。
よくあるミス①:PSRの除外規定の見落とし
CTH要件が設定されている産品で「第28類から第30類からの変更を除く」などの除外規定が付されているケースは珍しくありません。PSRの本文だけを確認して除外リストを見ていないと、要件を満たさない非原産材料を見逃してしまいます。
よくあるミス②:同一HS番号の材料を「原産」と誤認する
「最終産品と同じHSコードの材料だから分類変更が起きない→CTC要件を満たさない」という流れは理解していても、仕入先から「国産品」と説明されてそのまま原産材料として扱ってしまうミスが発生することがあります。原産性の確認書類が条件です。
よくあるミス③:デ・ミニミス特例の誤適用
デ・ミニミスは「CTCを満たさない非原産材料が全体価額の10%以下であれば無視できる」という特例ですが、農産品や繊維製品など一部の産品には適用除外があります。すべての産品に使えると思い込むと誤りになります。
よくあるミス④:累積規定の活用不足
RCEP協定などでは、締約国内で行われた付加価値や加工を累積して原産性を判断できる「累積規定」が設けられています。この規定を活用すれば、単独では原産性を満たせない産品でも、サプライチェーン全体で見れば要件をクリアできるケースがあります。知らないと損する規定のひとつです。
これらのミスを防ぐために、実務では「原産地判定チェックリスト」を協定別に整備しておくことが有効です。チェックリストには、①PSRの確認(本文+除外規定)、②デ・ミニミスの適用可否、③累積規定の活用余地、④使用HSコードの版の確認、の4項目を必ず含めるのが実践的な構成です。財務省関税局が公表している「原産地規則ポータル」にも判定支援ツールが整備されているため、業務フローへの組み込みを検討する価値があります。
財務省関税局:原産地規則ポータルサイト(協定別PSR検索ツールや判定支援情報を提供)
近年のFTA・EPA活用では、第三者機関が発行する原産地証明書に代わり、輸出者や生産者が自ら原産性を申告する「自己申告制度」が広がっています。この制度においてもCTC方式は原産性の根拠となる中心的な基準であり、自己申告の精度が直接的に申告リスクに結びつきます。
RCEP協定とTPP11では、正式に自己申告制度が採用されています。輸出者・生産者・輸入者(TPP11では輸入者申告も可)がインボイスや申告書類に原産性の申告文言を記載することで、原産地証明書の取得なしに特恵関税の適用が可能になります。手続きが簡素化されるのは確かですが、申告の根拠となる原産地判定の正確性はむしろ高い水準が求められます。
自己申告を行う場合、CTC方式による判定結果を裏付ける記録(BOM、仕入先証明書、製造工程記録など)を一定期間保存することが義務付けられています。RCEP協定では原則として申告から5年間の記録保存が求められています。保存義務には期限があります。
また、輸入国の税関当局から事後調査(PSC:Post-clearance Audit)が入った際に、CTC判定の根拠書類を提示できなければ特恵税率の適用取り消しと追徴課税のリスクが生じます。場合によっては関係する複数の輸入申告にまで遡って調査対象が広がることもあり、金額的な影響は軽視できません。これが最大のリスクです。
自己申告制度の導入を検討している事業者や、通関業者として顧客企業をサポートする立場であれば、CTC方式の判定根拠となる書類フローを事前に整備しておくことが不可欠です。JETRO(日本貿易振興機構)が提供する「自己申告実務ガイド」は、協定別に必要書類や保存義務を整理した実用的な資料として業務の参考になります。
JETRO:自己申告制度実務ガイド(RCEP・TPP11における自己申告手続きと書類保存義務を解説)
CTC方式は、FTA・EPA原産地規則の根幹をなす判定基準です。CC・CTH・CTSHの3レベルの違い、PSRの除外規定、デ・ミニミス特例、協定別のHSコードの版の差異、そして自己申告における記録保存義務まで、それぞれのポイントを正確に把握しておくことが、申告ミスや事後調査リスクを回避するための確実な備えになります。