修正申告に応じたその場で、不服申立ての権利が消える。
国税通則法第74条の11第2項には、「国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする」と定められています。これが「調査結果説明」の根拠規定です。
この規定は平成23年12月の国税通則法改正によって新設されました。改正前は、税務調査の終了手続について実定法上の明確な定めがなく、税務職員の裁量に委ねられていた部分が大きかったのです。意外ですね。
改正のねらいは、手続の透明性と納税者の予見可能性を高め、課税庁の説明責任を強化することでした。つまり、輸入者の側からすれば「調査結果の内容をきちんと聞く権利が法律で保障された」ということを意味します。
関税の輸入事後調査においても、この規定は適用されます。税関の調査職員が輸入者の事業所を訪問し、輸入貨物の申告内容を調査した結果、不足額があると判断した場合には、その金額と理由を含めた「調査結果説明」を輸入者に対して行う義務があります。これは原則です。
調査結果説明の場は、単に「追徴額の告知」ではありません。輸入者にとっては、修正申告を行うか、あるいは税関長による更正処分を待つかを判断するための、重要な意思決定の機会でもあります。この場で何をすべきかを知っておくことが、後の経済的負担を左右します。
参考:国税通則法第74条の11の法令原文(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000066
調査結果説明を受けた後の対応として、多くの輸入者が選ぶのが修正申告です。しかし、ここに重大な落とし穴があります。
国税通則法第74条の11第3項は、調査職員が修正申告を勧奨できると規定したうえで、「当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない」と明記しています。つまり、修正申告に応じると、その修正申告内容に不服申立てはできないということです。
不服申立てとは何でしょうか? 税関の処分(追徴課税、関税評価の決定など)に納得できない場合に、再調査の請求や審査請求を通じて再検討を求める制度です。この権利が、修正申告に応じた時点で事実上失われます。これは痛いですね。
一方、「更正の請求」は残されます。更正の請求は、納めすぎた税金を取り戻すための手続きであり、輸入許可の日から原則5年以内であれば請求できます。ただし、更正の請求は税関長が認めなければ効果がなく、納税者側の主導で確定できるものではありません。不服申立ての方が対抗手段として強力な面があるのです。
実務では、税務職員・税関職員が修正申告の勧奨に際して「不服申立てはできないが更正の請求はできる」旨を書面で交付することが法律上の義務とされています。この書面を受け取ったら、まずその内容をしっかり確認することが重要です。すぐに修正申告書にサインしないことが原則です。
調査結果の内容に疑義がある場合は、修正申告に応じる前に専門家(税関に詳しい税理士や通関士)への相談を検討するとよいでしょう。更正処分を待ったうえで不服申立てを行うという選択肢も存在します。
参考:国税庁 第4章 調査の終了の際の手続に関する通達(6-4等)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/03_3.htm
輸入事後調査における加算税は、調査のどの段階で修正申告等を行うかによって、大きく異なります。具体的な割合を整理すると、次のとおりです。
| 修正申告のタイミング | 過少申告加算税の割合 |
|---|---|
| 税関の調査通知前に自主修正 | 0%(加算税なし) |
| 調査通知後・更正予知前に修正 | 増加税額の5% |
| 更正予知後に修正 or 税関が増額更正 | 増加税額の10%(※超過分は+5%) |
| 隠蔽・仮装が認められる悪質事案 | 重加算税:基礎税額の35% |
この差は非常に大きいです。たとえば、追徴される増加税額が500万円だった場合、自主的に修正したなら加算税ゼロですが、調査結果説明を受けた後の更正予知後では、10%すなわち50万円の加算税が加算されます。さらに隠蔽・仮装が認定されると35%、つまり175万円の重加算税が課される計算になります。
実際、令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の輸入事後調査では、調査対象者3,609者のうち2,690者に非違が認定され、非違率は74.5%に達しています。追徴税額の総計は157億799万円でした。10社調査を受けたら、およそ7〜8社に何らかの指摘が入っているという高い割合です。
インボイス(仕入書)に誤りがないにもかかわらず、申告に誤りがあるケースが全体の約87.1%を占めている点も注目に値します。つまり、「書類は正しかったのに申告の仕方がまずかった」という事例が圧倒的多数です。これは使えそうです。
調査結果説明を受けた後の修正申告では加算税が課される、という構造が明確にわかります。日ごろから自主的なコンプライアンスチェックを行い、税関通知が届く前に誤りを是正することが、金銭的な損失を防ぐ最も効果的な手段です。
参考:税関 輸入者・通関業者向け 加算税に関する説明資料(PDF)
https://www.customs.go.jp/kaisei/kasanzei.pdf
調査結果説明は税関(課税庁側)の義務ですが、実はその説明が「不十分だった」あるいは「行われなかった」という場合に、課税処分の取消しが認められる可能性があることは、あまり知られていません。
近年の裁判例では、この問題が複数争われています。東京高裁令和4年8月25日判決は、特に重要な内容を示しました。裁判所は、税務当局が「自ら納税義務の内容の確定を行う意思のある納税義務者の修正申告等の機会が実質的に失われたと評価される場合」には、説明義務違反として課税処分を取り消すべき場合があると判示したのです。これまでの「重大違法でなければ処分は取り消さない」という裁判例の流れを明確に否定した初めての判決です。
調査結果説明には3つの要件があります。①調査結果の内容を説明すること(説明義務要件)、②説明の相手は当該納税義務者であること(相手方要件)、③「更正決定等をすべきと認めた額及びその理由」を含めること(説明内容要件)です。これが条件です。
この3つを満たさない説明は違法となりえます。ただし、納税者自身が複数回にわたり説明を「拒否」した場合は、説明を受ける機会を自ら放棄したと評価され、処分の取消しは認められない傾向があります(東京高裁令和2年・令和4年各判決)。
輸入者の側からすれば、調査結果説明の場で「説明が不十分だ」と感じた場合は、そのまま修正申告に応じず、説明の補足を求めることが重要です。後から「説明を受けなかった」と主張するためには、その場での記録(担当者名、説明内容のメモ、交付書面の保存)が欠かせません。記録が命です。
参考:租税資料館 論文「国税通則法74条の11第2項に規定する調査終了手続が違法となる場合」(2025年)
https://www.sozeishiryokan.or.jp/x_core/uploads/ronbun_2025_12.pdf
「調査結果説明を一度受けて修正申告をしたのだから、もう調査は終わり」と考えている輸入者は少なくありません。しかし、これは誤解です。
国税通則法第74条の11第5項は、調査終了後であっても「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」は、再び質問検査等(再調査)を行うことができると明記しています。つまり、一度の調査結果説明・修正申告が完了しても、税関が新しい情報を入手した場合には、再調査が実施される可能性があります。これは盲点ですね。
ただし、「新たに得られた情報」には条件があります。前回の実地調査において調査担当職員が有していた情報以外の情報である必要があります。前回の調査で既に把握していた情報を後から「新たな情報」として用いることはできません。また、前回の調査が「実地の調査」でなかった場合は、この縛りが適用されず、再調査がより容易に行われる可能性があります。
再調査が入りやすいケースとしては、取引先への調査(反面調査)で新たな申告漏れが発覚した場合や、別の事業年度の調査で当該輸入者に関する情報が出てきた場合などが挙げられます。
こうした再調査リスクを最小化するためには、修正申告を行った後も、関税関係帳簿や書類を適切に7年間保存しておくことが重要です(帳簿は輸入許可の日の翌日から7年間、書類・電子取引情報は5年間の保存義務があります)。また、輸入申告の内容と実際の取引の整合性を定期的に自社レビューする仕組みを持つことが、長期的なリスク管理につながります。
なお、令和6事務年度の輸入事後調査では、申告漏れ価格の総額が1,390億7,156万円に達しています。この数字は、国内の野球場(東京ドーム建設費約350億円)をおよそ4棟建てられる規模のお金に相当します。税関の調査が今後も強化される傾向にあることは明らかです。輸入事後調査への備えは継続的に行うのが原則です。
参考:税関 輸入事後調査手続に関するQ&A(更正・修正申告の期間延長等を含む)
https://www.customs.go.jp/shiryo/jigochousafaq.htm