複合一貫輸送でEPA関税を適用しようとして、積送基準を知らなかったせいで特恵税率がゼロ円になるケースがあります。
複合一貫輸送(Multimodal Transport)とは、船舶・鉄道・トラック・航空機など、種類の異なる2つ以上の輸送手段を用いて、単一の運送人が一元的な管理のもとに、貨物の引受地から最終仕向け地まで一貫して輸送する形態です。英語では "International Multimodal Transport" と表記され、複数の国をまたぐ場合は「国際複合一貫輸送」と呼ばれます。
最大のポイントは「1つの契約・1枚の書類」で完結する点です。
従来の国際輸送では、輸出者がまず船会社と海上輸送の契約を締結し、さらに別途トラック会社・鉄道会社と陸上輸送の契約を個別に結ぶ必要がありました。書類も区間ごとに異なり、トラブル発生時には複数の事業者とそれぞれ交渉しなければならず、荷主の管理負担は相当なものでした。
複合一貫輸送では、複合運送人(Multimodal Transport Operator)が全区間の輸送を引き受け、複合運送証券(Combined Transport Bill of Lading)という1枚の書類を発行します。荷主は窓口を一本化できるため、手続きの手間が大幅に省けます。これが基本です。
なお、複合一貫輸送が世界的に普及した背景には、コンテナ輸送の標準化があります。コンテナはそのままの状態で船舶・鉄道・トラックに積み替えられるため、異なる輸送機関間でのスムーズな移行が可能になったのです。1980年代以降、アメリカ国内でダブルスタックトレイン(コンテナを2段積みにした専用列車)が急速に普及したことも、この流れを加速させました。
| 項目 | 従来の個別輸送 | 複合一貫輸送 |
|------|-------------|-------------|
| 契約形態 | 各区間ごとに別契約 | 1つの輸送契約で完結 |
| 運送書類 | 区間ごとに複数枚 | 複合運送証券1枚 |
| 責任の窓口 | 区間ごとに異なる業者 | 複合運送人が一元管理 |
| トラブル対応 | 発生区間の業者に個別連絡 | 窓口1本で対応 |
| コスト傾向 | 個別契約のため割高になりがち | 最適組み合わせで削減可能 |
複合一貫輸送を担う事業者には2種類あります。1つは船会社のように自らの輸送機関を持つ運送人、もう1つはNVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier=自らは船舶を保有しない運送人)です。
NVOCCは自社で船を持ちません。
それでも、NVOCCは荷主に対して「運送人」として複合運送証券を発行し、全輸送区間の責任を負います。実際の輸送は船会社・鉄道会社・トラック会社などの実運送人に委託します。現代の国際物流では、フォワーダーの多くがNVOCCとして機能しており、複合一貫輸送サービスの大部分をNVOCCが担っています。
代表的なルートとして以下が挙げられます。
- MLB(ミニ・ランドブリッジ):日本→北米西海岸(海上輸送)→北米東海岸・メキシコ湾岸(大陸横断鉄道)。最も利用頻度の高いルートの1つ。
- IPI(インテリア・ポイント・インターモーダル):日本→北米西海岸(海上輸送)→北米内陸部の鉄道基地(鉄道)。内陸都市への直送が可能。
- RIPI(リバースIPI):日本→北米東岸(海上輸送)→内陸部(トラック)。地図上ではIPIの逆戻りになることからこの名称。
- SLB(シベリア・ランドブリッジ):日本→ロシア極東(海上輸送)→ヨーロッパ・中東(シベリア鉄道)。
- シーアンドエア(Sea & Air):日本→北米西岸(海上輸送)→ヨーロッパ(航空輸送)。海上単独より速く、航空単独よりコストを抑えられる折衷型。
シーアンドエアは欧州向け貨物で特に有効です。
例えば日本から欧州主要都市に貨物を送る場合、海上輸送のみだと30日前後かかり、航空のみだと数日で届くもののコストが跳ね上がります。シーアンドエアでは日本からシアトルやロサンゼルスまでをコンテナ船で運び(約12日)、そこから欧州まで航空機を使うことで、所要日数と運賃の両方を中間値に抑えることができます。世界のシーアンドエア輸送量のうち約8割が日本発欧州向けで占められているとも言われており、コスト・スピードのバランスを求める荷主に広く活用されています。
権威性ある参照情報(ルート・仕組みの詳細)。
JETRO「国際複合一貫輸送:日本」貿易・投資相談Q&A
複合一貫輸送を利用する際、関税に興味を持つ実務者がもっとも見落としやすいポイントがあります。それが「積送基準(Direct Shipment Rule)」です。これを知らないと、せっかく原産地証明書を取得してEPAの特恵税率を申請しても、税関に認められず通常の関税率(MFN税率)が適用されてしまうリスクがあります。
積送基準とは何でしょうか?
簡単に言えば「貨物が原産国の港を出発してから日本の港に到着するまでの間、輸送途中で貨物に何も手を加えていないこと、かつ原則として直送されていること」を証明しなければならないルールです。この証明は船荷証券(B/L)の「船積港(Port of Loading)」が原産国の港であること、「荷揚港(Port of Discharge)」が日本の港であることで確認されます。
複合一貫輸送では第三国を経由する(トランシップ)ことが珍しくありません。例えば中国からの貨物が香港を経由して日本に来るケースです。この場合、B/Lの荷受地(Place of Receipt)が中国、船積港(Port of Loading)が香港となることがありますが、東京税関の見解によれば、この形態でも積送基準を満たすと判断されます。重要なのは、第三国において貨物に手を加えておらず、保税状態のまま蔵置・積替えが行われていることです。
ただし、第三国で一旦「輸入通関」されてしまった場合はアウトです。
また、複合一貫輸送の文脈でもう一つ重要なのが、複合運送証券(Combined Transport B/L)の取扱いです。EPAの積送基準を証明する書類として、税関は通常のB/Lと同様に「COMBINED TRANSPORT B/L」も運送要件証明書として認めています(一般特恵関税マニュアル・EPA原産地規則マニュアル参照)。これは複合一貫輸送を使っていても、適切な書類があればFTA/EPA特恵税率を活用できることを意味します。
積送基準が原則です。
なお、協定によって「直送」の解釈が異なる点にも注意が必要です。日EU EPAではEUを「1つの国」とみなすため、船積港がドイツでなくてもEU加盟国の港であればOKです。一方、日ASEAN包括EPAは多国間協定で、インドネシア原産品を輸入する場合は船積港がインドネシアの港でなければなりません。同じASEAN加盟国であってもシンガポールやタイの港からの積み出しではNGになります。協定ごとに確認が必要です。
積送基準を詳しく解説した参考ページ。
丸一海運株式会社「【原産地証明書】積送基準について解説します!」
複合一貫輸送のメリットはコスト面だけではありません。環境負荷の低減という側面も、現代のビジネスにおいて無視できない要素です。
鉄道利用で約91%、船舶利用で約80%のCO₂を削減できます。
国土交通省のデータによれば、トラックと比較したときの排出量の差は非常に大きく、鉄道に切り替えることで約91%、船舶に切り替えることで約80%のCO₂削減が期待できます。東京ドーム5つ分の体積を埋め尽くすような大量の温室効果ガスを、ルートを変えるだけで大幅に減らせるとイメージするとわかりやすいでしょう。この輸送手段の切り替えを「モーダルシフト」と呼び、複合一貫輸送はその中核的な手段です。
このモーダルシフトは、2024年問題(物流業界のドライバー時間外労働規制)の文脈でも注目されています。長距離トラック輸送の一部を鉄道や内航船舶に置き換えることで、ドライバー不足の緩和と輸送コストの安定化を同時に図れるためです。国内物流でのトラックのモード比率は約5割ですが、国土交通省は鉄道・内航海運へのシフトを推進しており、政府は2050年カーボンニュートラルに向けた物流の構造転換として、複合一貫輸送の活用を明確に位置づけています。
これは使えそうです。
企業のESG(環境・社会・ガバナンス)評価が取引先選定の基準になりつつある今、物流のCO₂排出量を数値化して開示する動きも加速しています。欧州では物流カーボンフットプリントの開示義務化が進んでおり、日本企業が欧州企業と取引する際にも、Scope 3排出量(自社の事業活動に間接的に関わるCO₂)の中に物流が含まれるようになっています。複合一貫輸送でモーダルシフトを推進することは、環境対策であると同時に、輸出入取引の競争力維持にも直結します。
モーダルシフトと複合一貫輸送の詳細なデータを参照。
関光ロジNEXT「モーダルシフトが2024年問題の解決策になる理由とは?」
複合一貫輸送を利用するうえで、見逃してはならない重要な知識があります。それが「ネットワーク・システム(Network Liability System)」と呼ばれる責任原則です。
一元管理に見えて、実は区間ごとに責任基準が変わります。
複合運送証券(Combined Transport B/L)を発行した複合運送人は、全輸送区間を通じた責任を荷主に対して負います。しかし、その内部的な責任原則は「全区間統一」ではなく、各輸送区間に適用される個別の法規・約款に準拠するという仕組みになっています。具体的には、海上区間では「ハーグ・ウィズビールール(船会社の責任限度額:1包・SDR666.67、または1kg・SDR2のいずれか高い方)」、航空区間では「モントリオール条約」が適用されるといった具合に、区間ごとに賠償限度額と責任原則が異なります。
どういうことでしょうか?
例えば、貨物が鉄道区間で損傷を受けたとします。このとき複合運送人は荷主に対して確かに補償責任を負いますが、補償額の上限は「鉄道区間に適用される鉄道運送約款の限度額」に縛られます。海上輸送区間の基準ではなく、損傷が発生した区間の基準が適用されるのです。さらに困るのが、損傷発生区間が特定できない場合です。どの区間で問題が起きたかわからないときは、最も賠償限度額が低い約款が適用されるリスクがあり、荷主が受け取れる補償額が大きく下がることがあります。
厳しいところですね。
このリスクへの対策として有効なのが貨物保険(Marine Cargo Insurance)の活用です。輸送中の損傷・紛失・遅延に備え、貨物の実際の価値に見合った保険を付保しておくことで、ネットワーク・システムの賠償限度額の低さをカバーできます。複合一貫輸送を日常的に利用している企業であれば、フォワーダーや保険会社に相談し、輸送経路全体をカバーする包括的な貨物保険の設計を検討することをおすすめします。まず「自社の輸送ルートに複数の輸送区間があるか」を確認するところから始めましょう。
複合一貫輸送は単なる「物を運ぶ手段」ではなく、関税コストを最適化するための戦略的なツールでもあります。この視点を持てている実務者はまだ少数派です。
FTA/EPAを使えば関税が大幅に下がります。
日本は現在、RCEP(地域的な包括的経済連携)、日EU EPA、日米貿易協定など多くの経済連携協定を締結しており、参加国全体でのRCEP関税撤廃率は品目数ベースで91%に達します。これらのEPA/FTAを活用することで、MFN税率(最恵国税率)と比べて関税を大幅に引き下げることができます。ただし、EPA特恵税率を受けるには原産地証明書の提出に加え、前述の「積送基準」を証明できる書類が必要です。
複合一貫輸送を使う場合、Combined Transport B/Lが「積送基準の証明書類」として機能するため、適切に発行・管理されていれば問題なくEPAを適用できます。これが基本です。ところが実務では、フォワーダーに手配を任せきりにして、B/Lに記載された荷受地・船積港・荷揚港の情報をチェックしていない担当者が少なくありません。特にASEAN諸国からの輸入では、第三国経由の複合輸送が多く、協定によっては積送基準を満たさないケースがあります。書類が届いたら必ず確認するだけ覚えておけばOKです。
また、課税価格の総額が20万円以下の輸入申告については、原産地証明書の提出が省略できる簡易申告が認められています。日常的に少額貨物を複合一貫輸送で輸入している事業者は、この閾値を念頭に置いて輸送ロット管理を行うことで、事務コストをさらに削減できます。
実務において最終的に判断が難しいケース(第三国での在庫保管を経由した輸送など)は、事前に輸入地を管轄する税関に照会しておくことが、EPA特恵税率の喪失リスクを確実に回避する方法です。「おそらく大丈夫だろう」という曖昧な判断は、後になって追徴関税という形で痛い出費につながることがあります。
関税・EPA活用の実務情報を参照。
税関「EPA原産地規則マニュアル」(複合一貫輸送の積送基準・Combined Transport B/Lの取扱い記載あり)