少額貨物1億6,966万件が、2028年から全件課税対象になります。
デジタル課税は、Google・Apple・Amazon・Metaのような「拠点を持たずに世界中で稼ぐ」企業への課税を可能にした国際課税ルールの大改革です。これまでの国際課税制度は、現地に「恒久的施設(PE)」を持つ企業だけに課税できる仕組みでした。しかし、デジタル技術の進歩によって、倉庫も支店もなく、日本のユーザーから年間数千億円を稼ぐことが可能になりました。この課税の空白を埋めるために、OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において、約140か国・地域が2021年10月に大枠合意したのがデジタル課税です。
デジタル課税は「第1の柱(Pillar 1)」と呼ばれ、世界全体の売上高200億ユーロ(約2兆8,000億円)超、かつ利益率10%超の多国籍企業を対象にしています。世界で約100社が該当し、日本国内では数社にとどまります。課税の仕組みはシンプルで、残余利益(全体利益のうち10%超の部分)の25%を、そのサービスが消費された市場国に再配分するというものです。
この制度と並行して導入されたのが「グローバル・ミニマム課税(Pillar 2)」です。年間売上7.5億ユーロ(約1,200億円)以上の多国籍企業に対して、法人税率の最低ラインを15%と定め、タックスヘイブン(租税回避地)を活用した節税に歯止めをかけます。日本では2024年4月開始の会計年度から既に適用が始まっており、法人税の申告実務に直接関わります。
通関業者の皆さんにとって重要なのは、これらのルールが「大企業だけの話」で終わらない点です。つまり原則です。自社が対象でなくても、取引先の多国籍企業から「御社との取引で発生した利益の市場国(消費地)情報を教えてほしい」という情報提供依頼が来るケースが実際に起きています。課税権の配分には消費地の特定が不可欠なため、取引先のサプライチェーン全体に情報提供の波紋が広がるのです。
国税庁|グローバル・ミニマム課税への対応に関する改正のあらまし(PDF)
「デジタル課税は大企業の話だから、通関現場には関係ない」と思っていませんか。実は、デジタル課税の流れと直結した形で、通関業務の根幹を揺るがす制度変更が同時進行しています。その中心が「少額免税制度(デミニミス)の廃止」です。
現在、課税価格の合計額が1万円以下の輸入貨物は、関税・消費税ともに免除されています(関税定率法14条18号)。個人使用貨物の場合は「海外小売価格×0.6」で課税価格を算出するため、実質的に海外小売価格が16,666円以下なら免税となります。この仕組みを利用して、中国系EC(Temu・Shein等)を中心に少額貨物が急増し、国内の輸入件数は年間1億6,966万件、輸入金額は4,528億円に達しています。
この規模感をイメージするために比べてみると、東京都内の全コンビニの年間レジ通過数に匹敵するともいわれるほどの件数です。問題は、これらの貨物に消費税が課されないため、国内の小売業者が常に消費税分(10%)の価格ハンディを背負って戦わされている点です。これが「イコールフッティング(公平な競争環境)の歪み」として税制調査会で繰り返し議題に上がってきました。
対応の方向性は令和8年度税制改正大綱(2025年12月26日閣議決定)に盛り込まれました。2028年(令和10年)4月1日から、「通信販売の方法により輸入される税抜1万円以下の貨物」について消費税の課税対象とすることが決定しています。これは単純計算で約450億円の税収増が見込まれる大きな変更です。
通関業者への直接的な影響は大きく2点あります。まず輸入申告項目の追加として、「プラットフォーム事業者等の番号」と「販売時における課税の有無」が追加される予定です。次に、年間取扱額50億円超のデジタルプラットフォーム事業者が「第2種プラットフォーム事業者」として指定され、消費税の納税義務者になります。この2パターンを通関時に区別する実務が生まれるのです。課税済みか否かを輸入申告書上で識別する新たなチェック項目が増える、ということですね。
内閣府税制調査会|国境を越えたEC取引に係る適正な課税に向けた課題(専門家会合資料・PDF)
2028年の少額免税廃止より先に、すぐそこに迫っている変更があります。それが「課税価格決定の特例(いわゆる0.6掛け)」の廃止です。これは2026年4月1日にも施行される可能性があり、目が離せません。
0.6掛け特例とは、輸入される個人使用貨物の課税価格を「海外小売価格×0.6」で計算できる制度です。1980年に個人輸入の税負担を合理的に算出するために導入されたものですが、今や越境ECの普及によって、実質的に「国外事業者が国内事業者より安く売れる」ための抜け穴として機能しています。これが廃止されます。
廃止後は、個人使用貨物についても原則どおりの課税価格(通常は海外小売価格または取引価格)で計算することになります。通関業者の実務上は、「この貨物は個人使用貨物か否か」を判定する必要がなくなるため、判定業務の手間は省けます。厳しいところですね、とはいえ、10,001円以上16,666円以下の個人使用貨物については、新たに課税対象となるため、その分の輸入申告処理が増加します。
これらの変更への対応として実務上、最初に着手すべきことは顧客別の影響調査です。取引先の中で越境ECを通じた輸入が多い荷主が存在する場合、2028年の制度変更後に通関コストと処理件数がどう変わるかを今から試算しておくことが重要です。また、HSコード(関税番号)の分類精度向上も急務です。少額免税が廃止されると、これまでマニフェスト通関(HS番号すら不要な簡易手続き)で処理していた貨物に正確なHS番号の申告が必要になります。
| 制度変更 | 施行時期 | 通関業者への主な影響 |
|---|---|---|
| 0.6掛け特例の廃止 | 2026年4月(予定) | 個人使用貨物の判定業務消滅・一部貨物の課税増 |
| 保税業者への業務改善命令新設 | 2026年4月(予定) | 水際取締り強化・帳簿管理の精度向上が必要 |
| 少額免税廃止(消費税)・PF課税 | 2028年4月 | 全少額通販貨物が課税対象・申告項目追加 |
アンダーソン・毛利・友常法律事務所|輸入貨物に係る少額免税制度の見直しを巡る動向(2026年1月PDF)
ここからは、あまり語られていない視点を提供します。デジタル課税(Pillar 1)の課税権配分では、「どの市場国でどれだけ利益を生んだか」を多国籍企業が証明する必要があります。その証明には消費地情報が欠かせません。日本の大手製造業や商社が多国籍企業グループと取引している場合、「日本での売上・消費者所在地のデータを出してほしい」という照会が、取引先から通関業者へも波及するシナリオが現実味を帯びています。
通関業者は輸入申告書を通じて「誰が」「何を」「どこから」「いくらで」輸入したかの情報を保有しています。これは課税権の再配分において非常に重要なデータです。グローバルミニマム課税の申告においても、市場国ごとの実効税率計算に取引データの精度が影響します。これは使えそうです、取引先との情報連携の仕組みを整えることは、単なるコンプライアンス対応を超えて、付加価値サービスとして提供できる可能性があります。
実際に取引先から情報提供依頼が届いた場合の対応として、3つのポイントを整理しておくと現場が動きやすくなります。
グローバルミニマム課税は2024年4月以降に始まる会計年度から日本でも適用済みです。申告期限は初年度が2026年3月末または6月末(選択制)、次年度以降は各決算期末から1年以内とされています。取引先の大企業が申告準備で動き出しているのは今この瞬間です。これが条件として、依頼が来る前に自社の対応フローを固めておくことが、トラブルを避ける最善策です。
PwC税理士法人|グローバル・ミニマム課税に係る実務対応ガイド(制度内容と対応ポイントの整理)
デジタル課税をめぐる国際情勢は、2025年に大きな波乱を迎えました。トランプ政権が復帰した米国は、OECD主導のデジタル課税(Pillar 1)について、米国企業への適用を実質的に阻止しようとする姿勢を鮮明にしました。2025年7月には、G7の場でグローバルミニマム課税(Pillar 2)について米国企業への適用を除外することが合意されたとの報道も出ました。これは意外ですね。
この動きは通関業従事者にとっても無関係ではありません。米国が反発を強める中、欧米諸国の間では「デジタルサービス税(DST)」という独自課税を維持・強化する動きもあります。フランスやイギリスはすでにDSTを導入済みです。一方、米国はDSTを導入した国に対して「制裁関税」を発動する可能性を繰り返し示唆してきました。この貿易摩擦が現実化すれば、日米間の関税率・貿易条件にも影響が及ぶため、輸入申告業務の前提条件が変わりうるのです。
さらに注目すべきは、米国のデミニミス(少額免税)廃止の影響です。2025年8月末、米国は800ドル以下(約12万円)の少額貨物への関税免除制度を廃止しました。これにより米国向け越境ECは大打撃を受け、日本の輸出事業者も対応を迫られました。この米国の動きが日本の少額免税廃止議論を加速させた一因でもあります。つまり日本の制度変更も、海外の政策変化と連動して進んでいるということですね。
国際的な政治リスクが高まっている今、通関業者として重要なのは「制度の確定を待って動く」のではなく、複数シナリオを想定して準備を進める姿勢です。現状考えられるシナリオとしては次の3パターンがあります。
いずれのシナリオでも、HSコード分類の精度向上と輸入申告システムの更新対応は共通の課題です。今から取り組むに越したことはありません。
ここまでの制度変更を、実際の通関業務に落とし込んで整理します。制度は複雑でも、現場でやることは具体的に決まっています。以下のポイントを一つずつ確認しておくことが重要です。
まず、2026年4月施行が予定される変更への対応が最優先です。0.6掛け特例の廃止により、「個人使用貨物か否か」の判定が不要になります。ただし、新たな課税対象となる10,001円〜16,666円の個人使用貨物については、正確な取引価格(または海外小売価格)を把握して課税価格を算出する申告手続きが生まれます。顧客である荷主に対して、インボイス記載価格の正確性を改めて確認するよう今から働きかけておくと、施行後のトラブルを防げます。
次に、2028年4月施行の少額免税廃止・PF課税への対応として、現在マニフェスト通関を使っている少額貨物の全件について、将来的にはHS番号(税番)申告が必要になる可能性があります。これは事務負担の急増を意味します。HS番号の申告には品目の特定が必要で、同じ「小物雑貨」であっても材質・用途によってHS番号が変わるため、誤分類のリスクが高まります。誤分類は関税額の過不足につながり、修正申告や延滞税の原因にもなります。これは必須の準備事項です。
通関業の許可を持つ事業者にとって、制度変更への対応は単なる義務ではなく、顧客への付加価値提供のチャンスでもあります。「複雑な制度変更を先読みして荷主を守れる通関業者」になるための準備を、今この段階から始めることが、競合他社との差別化につながります。業界団体である日本通関業連合会(日通連)が発信する通達・情報も積極的に取り入れ、最新動向をキャッチアップしていきましょう。
財務省|急増する少額輸入貨物の現状と課題(ワーキンググループ第1回資料・PDF)