自主規制でも通関申告の負担は減らない。
日米自動車貿易摩擦は1970年代の石油危機に端を発しています。米国の消費者が燃費の良い小型車を求めるようになり、ホンダの「シビック」などが人気を集めました。
1980年には日本の自動車生産が米国を抜いて世界一になり、米デトロイトでは日本車がハンマーでたたき潰される「ジャパン・バッシング」が繰り広げられました。全米自動車労組(UAW)は通商法201条に基づき、日本車の輸入制限を米国際貿易委員会(ITC)へ提訴しました。
こうした圧力を受けて、日本政府と自動車業界は1981年に対米自動車輸出台数を制限する「自主規制」を導入しました。初年度の枠は168万台で、1980年の実績182万台を下回る水準に設定されました。つまり自主規制ということですね。
この自主規制は1993年度まで続きました。通関業務従事者にとっては、この期間中も輸出申告の際に台数管理という追加的な実務負担が発生していたのです。
参考)日米自動車紛争(1981年)
輸出自主規制の期間中、通関業務従事者は通常の輸出申告に加えて、自主規制枠内での台数管理という業務を行う必要がありました。申告件数が減るわけではなく、むしろ管理項目が増えた形です。
1995年には米通商代表部(USTR)がトヨタ「レクサス」など日本製高級車13車種の輸入に100%の関税を課すと発表する事態も発生しました。関税率の急激な変更は、通関申告時の税額計算やHS コード分類の確認作業に大きな影響を与えます。
日本では1978年に米国車を輸入する際の関税6.4%を撤廃していました。一方、米国は日本車に2.5%の関税をかけ続けています。関税率が非対称なため、日米双方向の通関業務で異なる税率適用が必要でした。
参考)日米貿易摩擦が再来? 「日本車たたき」はトランプ氏の事実誤認…
通関業務では正確なHSコード分類が不可欠です。乗用車は6桁で「8703」、貨物自動車は「8704」、自動車部品のホイールは「8708.70」というように細かく分類されます。貿易摩擦で関税率が変動する際、誤ったコード適用は追徴課税リスクにつながります。
参考)自動車のHSコード - PLANETCARS
自動車の輸入通関では、HSコードによる商品分類と自動車通関証明書の申請が同時に求められます。輸入した自動車を公道で使用するには運輸支局等での登録が必要で、その際に自動車通関証明書(税関様式C第8050号)が必要書類の一つとなります。
通関手続きの際は、車台番号(VINコード)などの必要事項を輸入申告書の記事欄に記載するか、それらが記載された書類を準備します。車名、型式、形状、車台番号といった詳細情報の正確な記入が求められます。
参考)輸入通関手続き
日本では6桁のHSコードに日本独自の細分コードを足して分類しています。最初の6桁は世界共通ですが、日本の輸出入通関申告では9桁または10桁のコードを使用します。これが基本です。
例えば排気量2001cc~2500ccのガソリンエンジン乗用車は「8703.32-9250」、総重量5トン以下でディーゼルエンジン2000cc以下の貨物車は「8704.21-9156」と分類されます。貿易摩擦で関税率が変動する際、こうした細分類の正確性がより重要になります。
2025年4月3日から、米国は1962年通商拡大法232条に基づき完成車と自動車部品に25%の追加関税を適用しています。米国調査機関のセンター・フォー・オートモーティブリサーチ(CAR)によると、この関税導入により米国内で生産された車両と輸入車両を合わせたコスト増は総額1,077億ドルに達する見込みです。
参考)自動車関税による車両コスト増は総額1,077億ドル、米調査機…
1台あたりの平均では、輸入車両に対する追加関税で8,722ドル、米国生産車両に含まれる部品に対する追加関税で4,239ドルのコスト増となります。日本円で換算すると、輸入車1台あたり約130万円の負担増です(1ドル=150円換算)。東京都心の月極駐車場約5か月分に相当します。
ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティスの「デトロイトスリー」では、部品コストで全社平均を上回る4,911ドルの増加となると分析されました。つまり米国メーカーも影響を受けるということです。
関税は輸入者が納付しますが、最終的には関税分がコストとして商品価格に上乗せされ、消費者が負担します。通関業務従事者は、この関税負担増を正確に計算し、荷主に説明する責任があります。
参考)関税とは何?誰が払う?仕組みや種類、日本経済への影響などカン…
1986年から87年にかけて実施された市場重視型分野別(MOSS)協議では、自動車部品が重要な議題となりました。米国側は日本メーカーによる米国製自動車部品の調達拡大を求め、「日本市場での販売障壁」の改善策として系列取引の是正など13項目を提示しました。
参考)トヨタ企業サイト|トヨタ自動車75年史|第3部 第1章 第5…
MOSS協議では、コンピューター部品・本体・周辺機器の日本側関税撤廃とコンピューター部品の米側関税撤廃に係る合意がなされました。エレクトロニクス製品の関税20%引き下げも実施されました。
参考)MOSS討議に関する日米共同報告,分野別討議に関する日米共同…
自動車部品の通関実務では、完成車とは異なるHSコード体系が適用されます。第87類の「87.08」が自動車部品及び附属品に該当し、さらに細分化されます。系列取引の是正要求は、部品調達先の多様化を促し、通関業務でも輸入相手国や品目の多様化への対応が求められました。
参考)web輸出統計品目表
日米構造協議(SII)でも自動車部品は継続的に取り上げられました。米国側は排他的取引慣行などの6項目を日本の構造問題とし、その具体的分野の一つとして自動車部品を指摘しました。結論は市場開放の圧力が続くことです。
通関業務従事者にとって、こうした二国間協議の結果は、関税率変更や原産地規則の見直しといった実務変更に直結します。MOSS協議やSIIの教訓は、貿易摩擦が単なる政治問題ではなく、日々の通関実務に影響を与え続けるという点にあります。
2025年に日米関税協議が行われ、米国側は日本に対して自動車輸出の自主規制を求めました。しかし日本側は25%の自動車関税適用後、それを不当として撤廃を求める姿勢を固め、対米自動車輸出の自主規制は選択肢から外れました。どうなりますか?
参考)日米関税協議は延長か打ち切りか:日本の自動車輸出自主規制も議…
貿易摩擦の歴史から学ぶべき実務的教訓は、関税率や貿易協定の変更に迅速に対応する体制の構築です。通関業務では、HSコード分類の正確性、関税計算の精度、そして最新の貿易政策への理解が不可欠です。
現在、米国製車両に占める外国製部品の含有率は20~91%と幅が広く、メーカーやモデルごとに影響の度合いが異なります。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の自動車原産地規則を満たす車両については、非米国産部品の価格に対してのみ追加関税が課されます。
原産地規則の適用判断は通関業務の重要な要素です。貿易摩擦の歴史を知ることで、なぜ原産地証明や部品構成比率の確認が厳格に求められるのかが理解できます。過去の教訓は、現代の通関実務の基礎となっているのです。
関税率の変動リスクに備えるため、通関業務従事者は貿易政策のニュースを日常的に追う習慣が重要です。財務省や経済産業省のウェブサイト、JETROの貿易ニュースなどを定期的にチェックすることで、関税率変更の事前情報を入手できます。
JETROビジネス短信では2025年4月の自動車関税による車両コスト増の詳細分析が掲載されており、通関業務での関税計算の参考になります
税関のカスタムスアンサーでは自動車の輸入通関手続きと自動車通関証明書の申請方法が詳しく解説されています