通商代表部ロシアとの取引で知らないと罰金30万ルーブル事例

ロシア通商代表部との貿易業務において、2022年以降の制裁措置で輸出入が大きく制限されています。通関業務従事者が知っておくべき制裁内容、禁止品目、違反時の罰則について、最新情報を基に解説します。あなたの業務は本当に安全でしょうか?

通商代表部ロシアとの取引実態

この記事の3つのポイント
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通商代表部は諜報活動の拠点

在日ロシア連邦通商代表部の副代表ポストの1つは、常にロシア対外情報庁(SVR)のスパイ用に確保されており、先端技術を狙う工作活動の拠点となっている

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2022年以降の輸出はほぼ全面禁止

外為法に基づき産業機器、航空部品、油圧ショベル、ダンプカーなど146品目以上が輸出禁止対象となり、原則として承認されない仕組みに変更された

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違反時の罰金は最大30万ルーブル

通関時の適合マーク貼付漏れなど申告不備があった場合、ロシア行政違反基本法第16.2条により最大30万ルーブル(約57万円)の罰金が科される

通商代表部は普通の経済協力機関ではありません。
在日ロシア連邦通商代表部は、東京都港区高輪四丁目の品川駅近くに設置されており、日露間の貿易やロシアでの駐在事務所開設、合弁会社設立などについての窓口機能を果たしています。表向きは商務関係の相談を受け付ける機関ですが、実態は異なります。
参考)駐日ロシア連邦通商代表部 - Wikipedia


日本の情報当局関係者によれば「通商代表部には外交官の肩書を持つ者が3人在籍しており、副代表2人のうち1人はずっとSVR(ロシア対外情報庁)のスパイのためのポストとなっている」とのことです。
参考)“偶然”知り合った人物が実はスパイだった 日本企業の社員を狙…

2026年1月には、在日ロシア通商代表部の元職員が精密機械メーカーの機密情報を不正に入手したとして書類送検される事件が発生しました。元職員は路上で偶然を装って元社員に道を尋ねて接触し、その後定期的に飲食店で会食を重ねながら、最初は公開資料から徐々に機密情報を金銭と引き換えに取得していました。
参考)「ウクライナ人」名乗りスパイ活動か、在日ロシア通商代表部元職…


通関業務従事者は、通商代表部との接触や情報提供要請があった場合、極めて慎重に対応する必要があります。

通商代表部ロシアの機能と役割

ロシアの通商代表部は、社会主義国時代からの伝統的な組織形態です。貿易は国家にとって重要な外貨獲得手段であり国家が独占すべきものであったため、貿易相手国における統一的な窓口として設置されました。
参考)通商代表部 - Wikipedia

在日ロシア連邦通商代表部は、ロシア政府の経済貿易投資の日本での公式窓口であり、ロシア市場に進出しようとしている日本企業に対して必要に応じて支援を行っています。駐日ロシア連邦商工会議所も含まれる組織です。
参考)https://www.near21.jp/kan/publication/journal/96/96_6.pdf

ロシアは在日ロシア連邦通商代表部を在日ロシア大使館とは別組織として設置しており、これはロシア特有の体制です。​
通商代表部はロシアの肥料メーカーなどと直接なコンタクトを維持しており、新規取引の相談について日本とロシアの企業同士による対話構築を全面的に支援する役割も担っています。つまり窓口機能が基本です。
参考)在日ロシア連邦通商代表部

しかし、ソビエト連邦時代から日本国内のソビエト・ロシア関連のスパイ事件に通商代表部所属の職員がしばしば関与しており、通商代表部はスパイに表向きの身分を付与する機能も兼ね備えています。
参考)駐日ロシア連邦通商代表部とは - わかりやすく解説 Webl…


通商代表部ロシア向け輸出の制裁措置

2022年2月のウクライナ侵攻以降、日本政府は主要国と連携して段階的に対ロシア制裁措置を強化してきました。2022年3月18日より、ロシア等への輸出の一部について外国為替及び外国貿易法(外為法)第48条第3項に基づく経済産業大臣の承認が必要になりました。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_export/17_russia/russia.html

原則として、輸出は承認されません
これは表現だけではありません。
承認基準として「原則として、承認は行わない。但し、次のいずれかに該当する場合には、承認を行うことがある。(1)食品・医薬品(2)人道支援の目的で輸出するもの」とされており、これ以外の承認はほぼ不可能です。​
財務省関税局は2022年3月から2024年にかけて、以下のような累次の制裁措置に関する通達を発出しています:
参考)https://www.customs.go.jp/shiryo/keizaiseisai.htm


  • ロシアへの軍事能力等強化関連汎用品等の輸出禁止(2023年1月)

  • ロシアの産業基盤強化に資する物品の輸出禁止(2023年3月、4月、6月、8月、2025年1月)

  • ロシアに対する先端的な物品等の輸出禁止(2022年5月)

  • ロシアに対する奢侈品の輸出禁止(2022年3月)

  • ドネツク・ルハンスク両共和国を原産地とする貨物の輸入禁止(2022年2月)

2023年3月の閣議了解では、ロシアを仕向地とする油圧ショベル、航空機用エンジン、航行用無線機、電気回路等の輸出が禁止されました。同年6月には、ブルドーザーや交流発電機、貨物自動車、ダンプカー等146品目の輸出が追加で禁止されました。
参考)【経済産業省】≪輸出入に携わる方は必ずご確認ください≫ ~ロ…


禁止対象品目の例としては、鉄鋼、鉄鋼製品、アルミニウム及びその製品、ボイラー及び機械類並びにこれらの部分品及び附属品、輸送用の機械及びその部分品の一部、航空機及び宇宙飛行体並びにこれらの部分品及び附属品(無人航空機等)、光学機器、写真用機器、測定機器、検査機器、精密機器並びにこれらの部分品及び附属品などが含まれます。​

通商代表部ロシアからの輸入制限

輸出だけでなく、ロシアからの輸入にも厳しい制限がかけられています。2022年4月12日、ロシア連邦を原産地又は船積地域とする特定の貨物の輸入が禁止されました。​
具体的には、上限価格を超える価格で取引されるロシアを原産地とする原油(2022年12月)および石油製品(2023年2月)の輸入が禁止されています。これは価格上限メカニズムと呼ばれる仕組みです。​
2022年7月には、ロシアを原産地とする貴金属の輸入が禁止されました。​
また、2022年4月20日には「ロシアを原産地とする貨物に対する適正な関税率の適用について」という通達が発出され、ロシア産品に対する最恵国待遇が撤廃されました。最恵国待遇の撤廃は非常に重いです。​
通関業務従事者にとっては、ドネツク人民共和国(自称)又はルハンスク人民共和国(自称)を原産地とする貨物の輸入も完全に禁止されているため、原産地証明の確認作業が極めて重要になっています。​
2024年の日本の対ロシア貿易統計をドル換算すると、輸出額は前年比24.2%減の21億6,700万ドル、輸入額は22.8%減の57億2,600万ドルと大幅に減少しました。ウクライナ侵攻に端を発した日系各社のロシア向け出荷の停止、日本政府による追加の輸出禁止措置が影響しています。
参考)ロシアの貿易投資年報

通商代表部ロシア取引での通関トラブル事例

ジェトロが2022年7月に実施した「通関アンケート」によると、過去1年間で通関関連のトラブルに直面したと答えた在ロシア日系企業の割合は29%(前回調査比16ポイント減)で、過去5年で最も低い水準でした。これは喜ばしいことではありません。
参考)物流停滞の影響8割超、アフターサービス提供に壁(ロシア)

トラブル発生件数の減少は、日本からロシアへの物流が停滞し、そもそも取引自体が激減したことを反映しているだけです。実際、物流の停滞がビジネスに影響を与えていると答えた企業が全体の86%に上りました。​
トラブルの発生場所としては、シェレメチェボ税関(モスクワ・シェレメチェボ空港を管轄)、バルト税関(サンクトペテルブルク港を管轄)、モスクワ州税関、ウラジオストク税関(ウラジオストク港を管轄)が上位に挙がっています。​
最近では、ロシアの税関で「ユーラシア適合マーク(EACマーク)」の貼付がないことを理由に輸入貨物の通関を拒否され、行政違反に問われるケースが発生しています。これまでロシア輸入後に倉庫でマークを貼付していた企業や業者は、通関前に貼付をすることになったり、追加費用が発生したりするなどの影響が出ています。
参考)通関時の「ユーラシア適合マーク」貼付の有無でトラブル−ロシア…

ロシア行政違反基本法第16.2条「貨物の不申告または信ぴょう性不十分の申告」に該当すると、最大30万ルーブル(約57万円、1ルーブル=約1.9円)の罰金が科されます。痛いですね。​
なお、欧州自動車工業会(AEB)によると、こうしたトラブルはロシアだけで、カザフスタンなどでは発生していないとのことです。​
通関書類や許認可の管理が複雑化し、貨物遅延、支払い遅延、契約解除リスクへの対応が課題となっています。
参考)【最新版】今更聞けないロシアへの経済制裁について徹底解説

通商代表部ロシア関連業務で注意すべきポイント

通関業務従事者がロシア関連業務で最も注意すべきは、制裁対象品目の網羅的な把握です。経済産業省は「ロシア等への輸出入に関するFAQ」を公開しており、これを定期的に確認することが必須です。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_export/17_russia/qa.html

制裁は複数の分野にまたがり、総合的にロシア経済の基盤に打撃を与えることを目的としています。特に金融、エネルギー、技術分野での規制強化が目立ちます。​
輸出規制では、高度技術品(産業機器、航空部品、デュアルユース品など)の輸出が禁止されており、ロシアの軍需産業と経済の中枢を直撃しています。輸入禁止では、原油、石炭、金、ダイヤモンドなどロシアの主要資源への依存低減を狙った措置が取られています。​
金融制裁として、ロシアの主要銀行がSWIFTから排除され、国際送金が困難になっています。中央銀行の外貨準備6300億ドルが凍結され、通貨防衛能力に制限が加えられています。​
ロシアは西側諸国による金融制裁を回避するため、友好国との貿易決済で自国の通貨ルーブルや相手国通貨を使う比率を高めており、2024年にはこれらの通貨による決済の比率が79.8%に達しました。つまり通貨面でのリスクも増大しています。​
通関業務従事者は、ロシア関連の取引について社内での情報共有と法務部門との連携を徹底する必要があります。特に、第三国経由でのロシア向け迂回輸出の可能性にも注意を払い、最終仕向地を厳密に確認することが求められます。
経済産業省の貿易管理ページでは、対ロシア等制裁関連の最新情報が随時更新されているため、これを業務の参考資料として活用することをおすすめします。
経済産業省 対ロシア等制裁関連ページ
このページでは、輸出入禁止措置の詳細や、よくある質問への回答が掲載されており、通関業務の実務において判断に迷った際の確認先として有効です。

通商代表部ロシア制裁の今後の見通し

EUと英国は2025年に入っても対ロシア制裁を強化し続けています。EU理事会規則2025/395により、ロシアの特定の港および閘門と直接的または間接的に取引を行うことが禁止されました。
参考)EUと英国による最近の対ロシア制裁 - Japan P&I …

すでに実施されているロシアのLNGプロジェクトの完了に必要な物品、技術およびサービスの提供の禁止は、Vostok Oilプロジェクトなど、ロシアの原油プロジェクトにも拡大されました。さらに、ソフトウェアに関する既存の禁止事項が拡大され、石油・ガス探査に関連するソフトウェアのロシアへの輸出が制限されることになりました。​
EUの制裁措置は「massive and targeted(大規模かつ的を絞った)」と表現されていますが、実際にはロシア経済を「diminish(縮小させる)」し、戦争資金調達能力を「cripple(無力化する)」ことを目的としています。これは実質的な経済戦争です。
参考)https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/9BC060810A86D05A97201DCE58B17CB7/S1528887023000095a.pdf/div-class-title-the-eu-s-massive-and-targeted-sanctions-in-response-to-russian-aggression-a-contradiction-in-terms-div.pdf

日本政府も国際社会と連携しつつ、今後も累次の閣議了解により制裁措置を継続・強化していく方針です。通関業務従事者は、制裁措置が段階的に追加される前提で、常に最新情報をチェックする体制を構築する必要があります。​
ロシアの貿易構造は変化しており、2024年には「友好国」とのシェアが拡大しています。2023年通年分と2024年1~9月分の合計で計算すると、中国、ベラルーシ、トルコ、インドがロシアの貿易の5割を超えるものと推察されます。
参考)貿易に占める「友好国」のシェアが拡大(ロシア)

これは、ロシアが制裁を回避するために貿易相手国を変えていることを意味します。通関業務従事者は、第三国経由でのロシアとの取引に巻き込まれないよう、サプライチェーンの透明性確保に注力すべきです。
日本企業にとって、ロシアとの直接的な貿易は極めて困難な状況が続くと予想されます。通商代表部との接触についても、情報漏洩リスクを考慮し、慎重な対応が求められます。