「7年保存すれば問題ない」と思っていたあなた、輸入帳簿だけは7年でも書類は5年で足りて、さらに赤字決算の年は10年保存が必須です。
「法人の帳簿保存期間は7年」という認識は、多くの通関業従事者が共有している常識です。確かに法人税法第126条では、確定申告書の提出期限翌日から7年間の保存が義務付けられています。しかし、それだけが全てのルールではありません。
重要なのは、適用される法律が複数あるという点です。法人が関係する保存義務の根拠法は、主に以下の3本立てになっています。
| 根拠法 | 対象書類 | 保存期間 | 起算日 |
|---|---|---|---|
| 法人税法 | 帳簿・書類全般 | 原則7年(欠損金あり年は10年) | 確定申告書提出期限翌日 |
| 会社法 | 会計帳簿・重要書類 | 10年 | 帳簿閉鎖の時 |
| 関税法 | 輸入関係帳簿 | 7年 | 輸入許可日翌日 |
| 関税法 | 輸出関係帳簿・輸出入書類・電子取引情報 | 5年 | 許可日翌日 |
つまり「7年」という数字は、法人税法における原則値に過ぎないということです。
特に重要なのは、会社法第432条第2項の規定です。会計帳簿と事業に関する重要な資料については、帳簿閉鎖の時から10年間の保存が義務付けられています。会社法上の保存対象は、総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳などの会計帳簿が中心です。
税法上の7年と会社法上の10年、どちらを優先すべきか迷う場面では、コンプライアンスの観点からより長い方の10年に従うのが実務上の標準的な対応です。これが基本です。
通関業者や輸入を業とする法人が日常的に扱う書類は、関税法・法人税法・会社法の3つが交差するゾーンにあります。「税法7年で廃棄して問題ない」という判断が、税関事後調査で思わぬ追徴につながるリスクがあるため、各法律の保存期間と起算日を個別に確認する習慣が欠かせません。
参考リンク(国税庁 帳簿書類等の保存期間 公式解説)。
No.5930 帳簿書類等の保存期間 - 国税庁
通関業従事者が特に注意すべきポイントが、輸出と輸入とで保存期間と起算日が異なるという点です。混同してしまうと、廃棄してはいけない書類を誤って処分したり、逆に不必要に長く保管し続けたりする非効率が生まれます。
まず輸入側を確認します。関税法第94条第1項に基づき、申告納税方式で輸入を業とする法人は、以下の書類を保存する義務があります。
- 帳簿(輸入関係):品名・数量・価格・仕出人の氏名・輸入許可年月日・許可書番号を記載したもの → 7年間(輸入許可日の翌日から起算)
- 関係書類:契約書、インボイス、運賃明細書、保険料明細書、包装明細書など → 5年間(輸入許可日の翌日から起算)
- 電子取引情報:EDI取引、電子メールによる取引情報など → 5年間(輸入許可日の翌日から起算)
ここで重要なのが「帳簿は7年、関係書類は5年」という非対称な設定です。
インボイスを帳簿と同様に7年保管している実務担当者は多いのですが、関税法上の根拠から言えば5年で足りる書類も存在します。厳密に言えば、インボイスや契約書などの関係書類の法定保存期間は5年間ということになります。
次に輸出側です。輸出帳簿・輸出関係書類・電子取引情報、いずれも5年間(輸出許可日の翌日から起算)の保存が求められます。輸入と異なり帳簿も5年が原則です。
意外ですね。輸出より輸入の方が、帳簿の保存期間が2年長い設定になっています。これは輸入における課税リスクが相対的に高く、税関による事後確認の必要性が大きいためと理解されています。
また、起算日についても注意が必要です。「輸入許可日の翌日から7年」であり、「書類を受領した日から7年」ではありません。例えば、2020年1月15日に輸入許可が下りた貨物の帳簿は、翌日2020年1月16日から起算して2027年1月15日まで保存が必要です。受領日基準で計算してしまうと、許可日より前にインボイスを受け取っていた場合に廃棄タイミングを誤る可能性があります。起算日が条件です。
参考リンク(税関による保存義務の公式ページ)。
帳簿書類の保存義務と電子帳簿等保存制度 : 税関 Japan Customs
「法人税法上は7年保存すればOK」と思っている担当者が最も見落としやすいのが、この10年保存が必要になる例外ケースです。これを知らずに7年で廃棄すると、繰越欠損金の控除が認められなくなる可能性があります。
法人税法第126条(注3)には、以下の場合に保存期間が10年間になると明記されています。
- 青色申告書を提出した事業年度で、欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度
- 青色申告書を提出しなかった事業年度で、災害損失金額が生じた事業年度
平成30年4月1日以後に開始した事業年度からは繰越期間が10年間に延長されており、それに伴い帳簿書類の保存期間も10年間に延長されています(それ以前の開始事業年度は9年間)。
つまり、赤字決算の年の帳簿は原則より3年長く保存しなければならないということです。これは使えそうです。
具体的な影響をイメージしてみましょう。例えば、輸入コストが急増したことで2022年3月期決算が赤字(欠損金発生)となった通関関連法人の場合、その年度の帳簿書類は本来なら「2022年5月末(確定申告期限)翌日から7年」で2029年5月末までの保存ですが、欠損金が発生しているため2032年5月末まで10年保存が必要になります。
繰越欠損金の控除を受けるためには、欠損金が発生した年度の帳簿書類が適切に保存されていることが要件の一つです。仮に帳簿書類を7年で廃棄してしまうと、その欠損金の控除が否認されるリスクがあります。法人税の節税効果が帳簿の廃棄によって消滅してしまう、という事態は避けなければなりません。
さらに、会社法第432条第2項では会計帳簿については10年保存が定められているため、どの年度であっても会計帳簿そのものは10年保存が求められています。総勘定元帳や仕訳帳はすべて10年保存が原則です。
欠損金が生じた年度かどうかを毎期確認し、保存期間の管理を年度ごとに記録しておくことが、確実なコンプライアンス対応の第一歩となります。
参考リンク(繰越欠損金と帳簿保存期間の解説)。
No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 - 国税庁
帳簿の保存義務を軽く考えてしまう担当者は少なくありません。「保存期間が過ぎたものを早めに捨てたとしても、税務署や税関がすぐ来るわけでもないし、大丈夫だろう」という感覚です。しかし実際には、発覚したときのリスクは非常に大きいです。
税関事後調査は、輸入通関後に税関職員が輸入者の事業所等を訪問して、貨物の申告が適正に行われていたかを確認する調査です。調査範囲は、通常、事後調査日から遡って5年間が対象とされています。調査の際には、輸入許可書、インボイス、契約書などの貿易関係書類と、会計帳簿が照合されます。
帳簿書類が適切に保存されていない場合、もしくは記載内容が不十分であった場合には、以下のようなペナルティが発生する可能性があります。
- 申告漏れが発覚した場合:過去5年分の追徴課税(関税+消費税)
- スキャナ保存等の要件違反が重なる場合:重加算税が通常の税額に加え10%加重
- 帳簿書類の不備が著しい場合:青色申告の承認取消し
青色申告が取り消されると、欠損金の繰越控除が使えなくなるなど、税務上のメリットが一気に失われます。痛いですね。
財務省が公表した「輸入事後調査の状況等」によると、毎年数百社規模で調査が実施されており、調査先1社あたりの追徴税額は平均で数百万円規模に達するケースもあります。実際に「追徴税額(関税および消費税)1億1,700万円」という非違事例も税関の公表資料で確認できます。
帳簿書類の廃棄ミスや記載不備は、単なる事務上のミスで済まない場合があります。通関業者や輸入を業とする法人が日常業務の中で帳簿管理を怠ると、5年以上前の取引についても追いかけられる可能性がある、という点は常に念頭に置いてください。
また、法人税法上の帳簿保存義務を果たしていない場合は税務調査においても同様に問題となります。税務調査では通常3年分を調査しますが、脱税が疑われる不正事案では7年分まで遡って調査されるケースもあります。7年が条件です。
参考リンク(税関事後調査の概要・財務省公式資料)。
輸入事後調査の状況等 - 財務省
保存期間と起算日の知識が整ったとしても、実務で確実に運用できなければ意味がありません。ここでは、通関業従事者が実際の業務で活用しやすい管理のポイントを整理します。
① 書類の種類ごとに「廃棄可能日」をあらかじめ記録する
保存期間管理で最もシンプルかつ確実な方法は、書類ごとに「廃棄可能日」を最初から記録しておくことです。例えば輸入帳簿なら、輸入許可書に記載されている許可日に1日加えた翌日から7年後の日付をラベルに書いてフォルダに貼る、あるいはデータ管理ツールに入力しておくだけで、廃棄ミスを防げます。
フォルダを案件ごと(輸入許可番号ごと)に分けて管理すれば、税関職員による事後調査でも素早く資料を提示でき、調査対応の負担も大きく軽減されます。これは使えそうです。
② 電子帳簿対応を「関税法」と「電子帳簿保存法」の両面で確認する
重要なのは、関税関係帳簿書類の電子保存には、国税庁管轄の「電子帳簿保存法」とは別に、税関(財務省)管轄の「関税法の電子帳簿保存制度」があるという点です。2つは似ていますが別の法律です。
2024年1月1日以降、電子取引の取引情報については電子データでの保存が義務化されており、これは国税関係帳簿書類(電子帳簿保存法)だけでなく、関税関係帳簿書類(関税法)でも同様に求められます。電子メールで受領したインボイスや契約書などを紙に印刷するだけでは、要件を満たさない可能性があります。
また、メールサービスの自動削除機能によって受信した電子ファイルが消えてしまうリスクも実際にあります。メールの保管設定を定期的に確認しておくことが、予期せぬ書類消失を防ぐ実用的な対策です。
③ 欠損金発生年度を毎期チェックして保存期間を更新する
前述のとおり、欠損金が生じた事業年度の帳簿書類は10年保存が必要になります。これを見落としがちなのは、決算確定のタイミングで保存期間の見直しが行われないケースが多いからです。
対策として実用的なのは、毎期の決算が確定した後(通常5月前後)に、その年度の欠損金有無を確認し、保存期間の設定を「7年」から「10年」に更新するチェックリストを経理チームと共有することです。通関業者の場合、荷主企業の帳簿管理を間接的にアドバイスする機会もあるため、この知識は顧客サービスとしても活かせます。
④ 電子保存の要件適合確認は税関の「一問一答」を活用する
税関では「帳簿書類の保存義務と電子データによる保存 一問一答」を定期的に更新しており、令和7年6月時点でも改訂が行われています。電子保存の要件はタイムスタンプの付与要件、検索機能要件など複数あり、対応状況が変化しやすい分野です。年に一度は税関の公式資料を確認する習慣をつけておくことが、コンプライアンス維持の確実な方法です。
なお、関税関係帳簿書類の電子保存に対応するシステムとして、一般社団法人日本通関業連合会が提供するCCIS(通関情報処理システム)や、各社のクラウド文書管理サービスが活用されています。帳簿データとスキャン書類を許可番号で紐づけて保存できる機能があるサービスを選ぶと、事後調査での資料提示が格段に楽になります。
参考リンク(税関の電子保存一問一答・最新版)。
帳簿書類の保存義務と電子帳簿等保存制度(最新版): 税関 Japan Customs