転売制限を荷主から告知されても、それが「課税価格に影響するか否か」を判断しないまま申告すると、あなたの対応が追徴課税の引き金になります。
通関業務に携わる方なら、輸入貨物の課税価格は「取引価格(現実支払価格+加算要素)」をもとに決定するのが原則、という知識はすでにお持ちのはずです。これは関税定率法第4条第1項が定める「原則的な決定方法」です。
ところが、この原則が使えなくなる場面が4つあります。その中でも「転売制限」に直結するのが、同条第2項第1号です。
条文はこうなっています。「買手による当該輸入貨物の処分又は使用につき制限(買手による輸入貨物の販売が認められる地域についての制限その他の政令で定める制限を除く。)があること」が第1号の要件です。
ここで重要なのは、「転売制限が存在するだけ」ではなく、「その制限が取引価格に実質的な影響を与えているか」という点が判断の本質だということです。これが告知義務との絡みで最も混乱しやすいポイントです。
荷主から「この貨物は売手の指定エリア以外での転売を禁じられています」と告知されたとき、通関業従事者としてすぐに「原則的方法が使えないのでは?」と判断するのは早計です。告知義務が果たされたこと自体は大事ですが、その内容を評価する手順が別に必要です。
告知義務は、荷主が通関業者に対して取引の実態を正確に伝えるための手続き上の義務です。しかし、告知があったとしても、申告方法の判断は通関業従事者が法令に基づいて行う必要があります。告知されたから必ず申告が変わる、というわけではない点を押さえておきましょう。
税関の公式資料においても、「制限があるとは言えない場合には、このような取引価格は関税評価の基礎として採用することができる」と明記されています。つまり、転売制限があっても採用可能なケースは多く存在するということです。
参考:関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)第4条 課税価格の決定の原則
https://laws.e-gov.go.jp/law/143AC0000000054
転売制限の存在が直ちに課税価格に影響するわけではありません。関税定率法第4条第2項第1号には「除く」という括弧書きがあり、政令(関税定率法施行令)で定める制限は原則的方法の不適用事由から除外されます。
実務上、特に重要な「除外される制限」の類型は以下のとおりです。
まず一つ目が「販売地域についての制限」です。「日本国内でのみ販売可能」「東日本限定で販売」といった販売エリアの指定は、課税価格に実質的な影響を与えるとは見なされないケースがほとんどです。いわゆる並行輸入防止を目的とした地域限定販売の条件は、このカテゴリに該当することが多く、取引価格をそのまま課税価格の基礎として採用できます。
次に二つ目が「法令により又は国・地方公共団体により課される制限」です。例えば、輸入医薬品や農薬などは、薬機法や農薬取締法などの国内法令によって一般消費者への転売が禁止されていることがあります。このような法令上の制限は、売手が独自に課した制限とは異なり、「買手側の自由を恣意的に縛るもの」ではないと判断されます。つまり課税価格への影響はないとされ、取引価格を採用できます。これは意外に見落とされやすいポイントです。
三つ目は「課税価格に実質的な影響を与えない制限」です。関税定率法基本通達では、「制限の種類、輸入貨物の種類、産業の種類及び取引量等を総合的に考慮した上で個別に判断する」とされています。例えば展示会専用の展示品として輸入され「展示会場以外での使用・販売は禁止」という制限がついていても、その制限が価格設定に実際に影響していないと判断されれば、取引価格を採用できる場合があります。
三つの類型が全部あります。このうち何に該当するかを判断するためには、荷主から詳細な情報を得ること、つまり告知の質が重要になってきます。告知義務が形式的に果たされただけでは、通関業従事者は適切な判断ができません。「どのような制限か」「なぜその制限があるか」「価格に反映されているか」という内容まで確認することが実務上必須です。
| 制限の類型 | 例 | 課税価格への影響 |
|---|---|---|
| 販売地域の制限 | 「国内のみ販売可」 | 原則なし(取引価格採用可) |
| 法令・行政上の制限 | 薬事法上の再販禁止 | 原則なし(取引価格採用可) |
| 展示・慈善目的の制限 | 展示会場以外の販売禁止 | 課税価格に影響しない場合は採用可 |
| 売手が恣意的に課した転売禁止 | 一般市場への販売一切禁止 | 影響有の場合は原則的方法不適用 |
参考:関税定率法基本通達(昭和47年3月1日蔵関第101号)(抄)— 課税価格の決定に関する基本通達
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kanzeihyouka/hourei/k_tsutatsu.htm
告知義務の問題は単なる手続きの話ではなく、金銭的リスクに直結します。財務省が公表した令和6事務年度の輸入事後調査の結果を見ると、その規模の大きさが実感できます。
令和6事務年度に調査を受けた輸入者は3,609者、そのうち申告漏れ等があった輸入者は2,690者(約74.5%)にのぼります。申告漏れ等に係る課税価格の合計は1,390億7,156万円、追徴税額の合計は157億799万円です。決して他人事ではありません。
特に目を引くのは、電気機器(85類)が納付不足税額30億4,712万円でトップ、次いで自動車等(87類)が21億7,616万円という点です。これらはいずれも転売制限や取引条件の複雑な貨物が多く、課税価格の判断を誤りやすい分野でもあります。
重加算税の事例として公表された事例1では、輸入者がインボイスを改ざんして課税価格を隠蔽し、不足課税価格が1億952万円、追徴税額2,134万円という結果になりました。このケースのように、「転売制限があることを告知せずに低価格で申告する」という行為は、意図的な場合は重加算税の対象になります。
重加算税が課された場合の税率は過少申告加算税10%が35%へ、無申告加算税15%が40%へと跳ね上がります。これは痛いですね。
一方で、自主的に誤りを発見して修正申告を行った場合は、税負担を大幅に軽減できます。税関から調査通知を受けた後では過少申告加算税が5%以上課されますが、通知前の自主修正であれば過少申告加算税は0%になるケースもあります。早期対応が条件です。
通関業従事者として実務上気をつけるべき点をまとめると、以下のようになります。
参考:輸入事後調査の状況等(財務省・令和6事務年度)
https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/collection/ka20251112b1.html
通関現場では、荷主から「売手の契約条件に転売制限がある」と言われた際に、どう動けばよいかが悩みどころです。告知があったからといって即座に申告方法を変えるのも間違いですが、無視するのも大きなリスクです。
まず確認すべきは制限の内容と性質です。転売制限には大きく分けて「誰に転売できないか」「どこで転売できないか」「どのような用途に使用できないか」の3軸があります。荷主または荷主の取引先(売手)に対して、次の項目を書面で確認するのが基本です。
次に確認した情報をもとに、関税定率法基本通達の「4−4」(買手による輸入貨物の処分又は使用についての制限の取扱い)に照らして判断を行います。通達では「課税価格への実質的な影響の有無」は「制限の種類、輸入貨物の種類、産業の種類及び取引量等を総合的に考慮して個別に判断する」とされており、一律に判定できるものではないと明確にされています。つまり個別判断が原則です。
判断が難しいグレーゾーンの事案については、税関への照会制度(事前教示制度)を活用することが実務上有効です。この制度では、取引内容や制限の詳細を記載した書面を税関に提出し、課税価格の決定方法について事前に確認を取ることができます。文書回答が得られれば、申告の根拠として保存でき、事後調査への備えにもなります。
また、課税価格の判断に迷う案件では、輸入貨物の評価申告書(個別・包括)の提出も検討してください。評価申告書を提出することで、取引の実態と課税価格算定の根拠を税関に開示した上で申告できます。申告の透明性が高まることで、事後調査のリスクを軽減できます。評価申告書の提出は必須ではありませんが、複雑な取引では活用が推奨されます。
参考:課税価格の決定方法(カスタムスアンサー)— 原則的な方法が適用されない場合の概要
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1404_jr.htm
ここでは、検索上位ではほとんど取り上げられていない現場目線の話をします。転売制限の告知義務は「荷主が告知する」ことが前提ですが、実際には荷主自身が制限の存在を認識していないケースや、意図的に情報を絞って告知するケースが少なくありません。
例えば、ライセンス商品や有名ブランド品の輸入では、ライセンサーとの契約に転売制限や使用制限が盛り込まれていることがあります。しかし荷主担当者が「貿易に関係ない話だ」と判断し、通関業者に知らせないことがあります。これは意外ですね。
通関業従事者として転売制限の告知漏れを察知するサインには、次のようなものがあります。
インボイスに「For display only」などの記載がある場合、これは転売禁止を意味する可能性があり、第4条第2項第1号の処分・使用制限に該当するかどうかの評価が必要です。展示専用品として輸入される場合でも、展示目的のみの使用という制限が価格に実質的に影響しているかどうかは別途判断が必要です。課税価格に影響なしと判断される場合もありますが、その根拠を記録しておくことが重要です。
ロイヤリティや転売利益の一部を売手に戻す合意は、第4条第2項第3号(売手に帰属する収益)とも関連します。転売制限と同時に存在することが多く、複合的な判断が求められます。いずれにしても、荷主に丁寧にヒアリングを行い、取引の実態を把握することが通関業従事者の重要な役割です。
告知義務は法的には荷主(輸入者)側の義務ですが、通関業者として「申告内容が適正であるかどうか」を確認する義務は変わりません。通関業法上も、通関業者は依頼者から正確な情報提供を受ける立場にある一方で、明らかに不合理な申告内容に加担しないことが求められています。告知を受ける側でも、積極的に情報を引き出す姿勢が通関業務の品質を左右します。
参考:原則的な方法で課税価格を決定できない場合(有森FA法律事務所)
https://aog-partners.com/gensokutekinahouhoudekazeikakakuwoketteidekinaibaai/