コンテナ検査が区分3で確定しても、立会い費用ゼロで済む荷主が実際に存在します。
輸入申告をNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)に送信すると、瞬時に「申告区分」が返ってきます。この区分が「3」になったとき、通関業者の仕事は一気に忙しくなります。区分3とは「書類審査+現物検査」を意味しており、いわゆるコンテナ検査が確定したサインです。
関税法第67条の規定により、税関検査は法定行為です。つまり、一度区分3が確定したら拒否することは一切できません。これが基本原則です。
通関業者には、このコンテナ検査において大きく3つの役割があります。第1に「検査の段取り調整」、第2に「税関検査への立会い」、第3に「荷主への状況報告と費用説明」です。それぞれの業務は並行して動くことが多く、特に繁忙期は電話対応・NACCS確認・ドレージ業者への問い合わせが同時多発的に発生します。
区分3の通知が入ったら、まず行うのが検査日程の確認と大型X線検査場の予約です。大型X線検査場には予約が必要なため、繁忙期には当日予約が取れず翌日以降にずれ込むことが珍しくありません。その後、コンテナヤードから検査場まで貨物を移動させるためのドレージ業者(コンテナ輸送のトラック会社)を手配します。GW前や年末などの繁忙期は車の確保自体が困難になるため、電話をかけ続けて空き状況を確認するという地道な作業が発生します。
これらの調整が完了したら、検査当日に通関業者の担当者が現地に立会い、税関職員による検査が円滑に進むよう対応します。検査終了後、問題がなければその日のうちに輸入許可が下り、荷主への引取り連絡へと移ります。つまりコンテナ検査の仕事は、税関手続きと物流手配の両方にまたがる複合的な業務だということです。
参考:税関検査の立会い義務と検査の流れ(財務省税関)
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1112_jr.htm
税関によるコンテナ検査には、大きく分けて「大型X線検査」と「改品(開披)検査」の2種類があります。通関業者はこの違いを正確に理解しておかないと、当日の段取りでミスが生じます。
大型X線検査は、コンテナをトレーラーごと巨大なX線装置に通す方法です。全国の主要税関近くに専用施設があり、貨物を一切取り出さずにスキャンします。所要時間は10〜15分程度と短く、問題がなければそのまま輸入許可が下ります。ただし、X線画像に不審な影が映った場合は、その場でコンテナから貨物を全量取り出して改品検査に切り替わることがあります。
改品(開披)検査は、税関の検査場に貨物を持ち込み、梱包を開けて中身を目視確認する方法です。段ボール(カートン)箱であれば開封して中身を一つひとつ確認し、個数・品名・原産地表示などが申告内容と一致しているかチェックされます。改品検査は10〜20分程度が標準ですが、疑義が生じた場合は数時間に及ぶこともあります。最悪の場合、その日のうちに許可が下りないケースも現実に存在します。
このほかに「見本検査」と「税関分析」という方法もあります。見本検査はHSコードの確認を目的として、貨物のサンプルだけを税関に持ち込む検査です。化学品などでは貨物の一部(通常300gほど)を採取し、税関の中央分析センターで成分分析を行う「税関分析」が実施されます。分析結果が出るまでには2週間〜1か月かかることがあるため、荷主への納期説明には特別な注意が必要です。これは重要な点ですね。
「ふき取り検査」と呼ばれる麻薬探知のための検査も存在します。貨物の外装を専用の布で拭き取り、分析機器にかけて麻薬成分の付着がないか数分〜数十分で判定します。改品検査と並行して実施されることが多いので、立会い時には余裕を持ったスケジュールを組むことが基本です。
参考:税関検査の種類と内容(丸一海運株式会社)
https://mkc-net2.com/customs-inspection/
コンテナ検査が確定したとき、荷主から最初に来る質問はほぼ決まって「いくらかかるの?」と「いつ届くの?」の2つです。通関業者として正確な数字を把握しておくことが、荷主との信頼関係を守る上で欠かせません。
まず費用についてです。税関そのものが徴収する検査費用はゼロです。ただし、それで終わりではありません。通関業者への立会い料として3,000円〜3万円程度が発生し、コンテナヤードから検査場まで貨物を輸送するドレージ料、倉庫からの搬出入に伴うシフト料、開披検査の場合には梱包を開封・再梱包する作業料が加わります。コンテナ1本を全量検査した場合、これらを合計すると3万円前後に達するのが目安です。さらに、D2D海上速達便の実績データでは、検査内容によって25,000〜40,000円程度になるケースも報告されています。荷主に「検査費用はかかりません」と伝えるのはダメです。正確には「税関への支払いはゼロですが、諸費用が発生します」という説明が必要です。
次に時間の話です。X線検査・改品検査自体は10〜20分で終わりますが、問題は検査に至るまでの準備時間です。検査場の予約・ドレージ手配・搬出手続きを含めると、区分3が確定してから実際に検査が完了するまで最低でも2日、繁忙期には5日前後かかることがあります。コンテナ1本で考えると、東京ドームの内野席(約47,508席)が満席の状態を想像してほしいのですが、その規模の貨物が最大5日間、港で足止めされ続けるイメージです。荷主の製造ラインが止まるリスクもあるため、検査が確定した時点で速やかに報告し、代替案を含めた打ち合わせをすることが通関業者の責務です。
荷主が「なぜこんな費用が」と不満を持ちやすい場面でもあるため、費用明細を項目別に分けてわかりやすく提示する資料を事前に準備しておくと対応が格段にスムーズになります。これは使えそうです。
参考:税関検査にかかる費用の実態(日新運輸工業)
https://nissin21.co.jp/cat_service/cat_logistics/
「うちは毎回検査に当たるけど、あの会社はほとんど当たらない」という話を聞いたことがあるかもしれません。この差を生み出している大きな要因の一つがAEO(Authorized Economic Operator:認定事業者)制度です。
AEO制度とは、国際物流におけるセキュリティ管理と法令遵守体制が整備された貿易関連事業者を税関が認定し、通関手続きの簡素化や検査率の低減などのメリットを付与する制度です。輸入者がAEO輸入者(特例輸入者)として認定されると、原則として現物検査が免除されます。AEO輸入者でなくても、認定通関業者(AEO通関業者)に通関を委託することで特例輸入申告制度を利用でき、貨物引取り後に納税申告ができるという利便性も得られます。
認定を受けるための要件は厳しく、社内のコンプライアンス体制の整備・セキュリティ管理の文書化・定期的な内部監査などが求められます。認定後もその体制を維持し続けなければならないため、相応のコストがかかることは事実です。AEO認定はただの「お墨付き」ではありません。
しかしAEO認定を取得していない荷主でも、検査率を下げる方法があります。実績の積み上げが最も基本的な手段です。適正な申告を繰り返すことで税関から信頼を積み重ね、区分1(即時許可)が出やすい実績を作っていくことが王道です。逆に、輸出入実績のない新規の輸入者はほぼ確実に区分3に振り分けられると考えてよいでしょう。新規顧客から通関依頼を受けたときは、初回は検査になる可能性が高いことをあらかじめ説明しておくことが条件です。
また、申告時にHSコードの根拠・商品仕様書・写真・原産地を証明する書類などを添付しておくことが、区分変更(区分2や区分1への変更)につながるケースもあります。書類の質が申告区分に影響するということですね。通関業者として日々の申告品質を高める努力が、長期的には荷主の物流コストを下げることに直結します。
参考:AEO制度の各メリット(財務省税関)
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/aeo/aeo_merit.htm
検索上位の記事ではほとんど触れられていないのが「税関の検査強化期間」という概念です。これを知っているかどうかで、繁忙期の荷主対応が大きく変わってきます。
税関は年間を通じて、特定の時期に検査体制を強化することがあります。具体的には「年末特別警戒」「サミットや万博などの大規模国際イベントの前後」「国際大会の開催時期」などがこれにあたります。こうした時期には、税関から業界団体に対して「検査が増える可能性があるのでご理解とご協力をお願いします」という旨の依頼文書が事前に配布されることがあります。
実例として、2023年5月のG7広島サミット開催時には、全国の税関が輸入貨物の検査体制を大幅に強化しました。テロリスト対策や危険物の水際阻止を目的とした取り締まりで、通常は区分1や区分2で通過していた貨物でも区分3に変更されるケースが相次いだとされています。
通関業者として対応すべきことは2点あります。第1に、検査強化期間の情報を日本通関業連合会や各税関の公示から定期的に取得し、顧客に事前告知する体制を作ることです。第2に、強化期間中は検査場の予約がさらに混雑するため、通常よりも余裕を持った引取りスケジュールを荷主に提案することです。
「なぜいつもより検査が増えているのか」と荷主から問われたときに、検査強化期間という背景を説明できる担当者と説明できない担当者では、顧客信頼度に明確な差が生まれます。厳しいところですね。
なお、検査強化期間であっても、AEO認定を受けた事業者については原則として検査の優遇措置は維持されることが多いとされています。検査免除という明確なメリットが存在するため、顧客のAEO認定取得支援を通関業者がサポートする価値は非常に大きいと言えます。
参考:税関の水際対策強化の情報(財務省税関ホームページ)
https://www.customs.go.jp/mizugiwa/terro/index.htm
ここまで解説してきた内容を踏まえ、コンテナ検査が発生したときに通関業者として的確に動ける体制を整えるための実務確認事項をまとめます。
まず「検査確定直後」のアクションです。NACCSで区分3が表示されたら、①検査日程と検査方法の確認、②大型X線検査場の予約手配、③ドレージ業者への空き確認、④荷主への第一報、の4つを可能な限り素早く進めます。荷主への連絡は検査確定後30分以内を目安にすると、信頼感が大きく変わります。
次に「当日の検査立会い」時に確認すべき点です。検査場に向かう前に、①インボイス・パッキングリスト・サンプル写真などの書類一式の携帯、②申告外物品の有無の確認(荷主に事前確認が必要)、③開披の可能性がある場合は再梱包のための資材手配、④税関職員への説明用資料の準備、を確認しておきましょう。
「検査後の対応」も重要です。検査が終了したら、①輸入許可の確認とNACCSでのステータス確認、②荷主への引取り可能日の連絡、③費用明細の作成と請求書の発行、という流れが基本です。費用明細は「立会い料・ドレージ料・シフト料・作業料」と項目を分けて記載すると荷主からの問い合わせが減ります。
一方、日常的な業務として取り組むべきことも整理しておきましょう。
コンテナ検査の仕事は、書類作成や申告業務と違って「突発的に発生する」という点が最大の特徴です。だからこそ、慌てずに動ける準備を日常業務の中に組み込んでおくことが、通関業従事者としての実力を底上げする最も確実な方法です。
参考:日本通関業連合会(業界情報・政策動向の一次情報)
https://www.tsukangyo.or.jp/