一般規則を守れば特恵関税が必ず使えると思っていると、追徴課税1,679万円を請求されます。
FTA・EPAを活用して関税を削減するとき、原産地規則は必ず確認しなければならない核心的なルールです。この原産地規則は大きく「一般規則(原産地規則本体)」と「品目別規則(PSR:Product Specific Rules)」の2種類に分かれています。どちらも「その産品が本当にEPA締約国原産のものか」を判断するための基準ですが、記載場所も構造も役割も異なります。
一般規則は、協定本体の原産地規則の章に記載されており、そのFTA・EPA全体に共通する原産品判定基準を示したものです。原産品を定義するための「完全生産品」「原産材料のみから生産された産品」「実質的変更基準を満たす産品」という3カテゴリの全体ルールがここに書かれています。つまり大枠の枠組みです。
一方、品目別規則(PSR)は、協定の附属書に記載されており、HSコードで分類された品目ごとに具体的な原産性判定基準が書かれています。「この産品のHSコードには、どのレベルの関税分類変更が必要か」「付加価値割合は何パーセント以上か」といった、品目単位の細かい条件がここに記載されているわけです。
両者は「一般法と特別法」の関係にあります。品目別規則が原則です。対象HSコードに品目別規則が存在する場合は、一般規則よりも品目別規則が優先されます。一般規則でいくつかの判定基準を選択できると書かれていても、品目別規則で判定基準が特定されていればその基準しか使えません。つまり、一般規則だけ確認して「OKだ」と判断するのは危険なのです。
確認の順序はこうなります。
| ステップ | 作業内容 | 根拠資料 |
|---|---|---|
| ① | 産品のHSコードを特定する | 関税率表・類注・通則(GRI) |
| ② | 該当協定の附属書で品目別規則を検索する | 各EPA附属書(品目別規則表) |
| ③ | 品目別規則が存在しない場合のみ一般規則を適用する | 協定本体の原産地規則章 |
日本が締結しているEPAの多くは全品目に品目別規則を設けていますが、日・ASEANEPAや日・スイスEPA、日・ベトナムEPA、日・インドEPAでは、例外的な取り扱いをする品目のみを品目別規則に記載し、それ以外は一般規則が適用されます。協定によって仕組みが違うということです。
参考リンク(品目別規則と一般規則の関係・具体的な判定手順について)。
原産品判定基準の一般規則と品目別規則とは何か? – TARIFFLABO LOG
品目別規則(PSR)の中身を理解するには、原産性を判定する3つの基準を押さえる必要があります。これらは「実質的変更基準」と総称され、非原産材料を使っていても、その国で十分な加工・変更が行われたかどうかを測る物差しです。
① 関税分類変更基準(CTC:Change in Tariff Classification)
材料のHSコードと最終産品のHSコードが、指定された桁数レベルで変化していることを条件とする基準です。変化のレベルはCC・CTH・CTSHの3種類があります。
| 略称 | 内容 | ハードル |
|---|---|---|
| CC(類変更) | HSコード上位2桁(類)が変わること | 高い |
| CTH(項変更) | HSコード上位4桁(項)が変わること | 中程度 |
| CTSH(号変更) | HSコード6桁(号)が変わること | 低い |
たとえばTPP11では、牛革(HSコード4104.41)を使って時計バンド(HSコード9113.90)を製造した場合、「41類→91類」と類レベルで変わっているため、関税分類変更基準(CC)を満たします。これは東京→大阪のような大きな移動に相当するイメージです。
② 付加価値基準(VA:Value Added)
産品の製造工程で形成された原産性がある部分の価格割合が、一定比率を超えているかどうかで判定する基準です。たとえば「付加価値40%以上」と規定されていれば、EXWまたはFOB価格の40%以上が締約国由来の価値でなければなりません。
計算方式には積上方式(原産材料の合計価格を分子にする方法)と控除方式(非原産材料を分子にして計算する逆算方式)があり、どちらを使うかは協定や品目によって異なります。これは使い分けが重要です。
③ 加工工程基準(SP:Special Process)
「この加工工程を締約国内で行ったこと」を条件とする基準です。特に繊維・縫製品で多く使われます。たとえば日EU・EPAの繊維製品は「製織工程と製品化工程(裁断を含む)の2工程を域内で行う」という2工程ルールが基本になっています。
これら3つの基準には優先関係はなく、品目ごとにいずれか1つ(または複数の組み合わせ)が品目別規則(PSR)として定められています。いくつかの産品では「CTH、または付加価値40%以上」のように選択肢がある場合もあります。これは使えそうです。
参考リンク(関税分類変更基準・付加価値基準・加工工程基準の詳細解説)。
原産地規則と原産地手続事始め – EPAビジネス実務検定
多くの方が見落としがちな点があります。「同じ産品・同じHSコードでも、適用するEPA・FTA協定が異なると品目別規則の内容も変わる」という事実です。
例えば、電気式モーター(HSコード8501.31)の場合、日タイEPAでは「CTH または 付加価値40%以上」ですが、日EU・EPAでは「CTH または 付加価値55%(FOB基準) または 付加価値50%(EXW基準)」と要件が変わります。同じモーターでも仕向国によって全く別の基準が求められるわけです。
さらに、日インドEPAには一部品目で「CTH かつ 付加価値40%以上」のように「または」ではなく「かつ」と書かれているものがあります。この場合は両方の条件を同時に満たさないと原産品として認められません。ここを誤解すると、原産性の証明が無効になります。
加えて、HSコードは世界税関機構(WCO)の管理のもと約5年ごとに大きな改正が行われます。知らないうちに自社製品のHSコードが変わり、以前は問題なかったPSRが適用できなくなっているケースも実際に起きています。HSコードは一度確認したら終わり、ではないのです。
確認すべきポイントをまとめると以下の通りです。
税関の「原産地規則ポータル」では、FTA・EPAごと・品目別の原産地規則を一括で検索できる無料ツールが公開されています。HSコードを入れれば対応するPSRが出てきますので、実務での第一歩として活用価値が高いです。
参考リンク(FTAごとに品目別原産地規則を検索できる税関の公式ツール)。
原産地規則ポータル(FTAごと品目別原産地規則検索)– 税関 Japan Customs
原産地規則の誤適用は、数字で見ると相当に深刻な問題です。これは厳しいところですね。
財務省が公表している事後調査の事例では、ラオスからの繊維製品輸入でEPA特恵税率を誤適用した輸入者に対し、追徴税額1,679万円が課されました。また、ベトナムからの乾燥野菜輸入では、課税価格14億5,874万円に対して9%の関税が課されることとなり、追徴税額は1億5,032万円に達しました。
さらに恐ろしいのは、税関の事後調査では最大過去5年分に遡って追徴課税できるという点です。EPAを毎年使い続けていた企業が一度の調査で数年分の不足関税・過少申告加算税・延滞税を請求されるケースもあります。
よくある誤適用のパターンはこうです。
注意しなければならないのは「輸出者が証明書を出してくれたから大丈夫」という判断が通用しないことです。輸入者が原産性を自ら確認・立証できる状態にしておかないと、税関からの指摘に対応できません。
一般ルールは確認したが品目別規則を飛ばした、というパターンが一番多い誤りです。「品目別規則を先に確認する」という実務習慣を確立することが、リスク回避の第一歩になります。
参考リンク(EPA特恵税率の誤適用事例・事後調査で何が問われるか)。
税関事後調査でEPA適用が取り消されるケース – 関税削減.com
これはほとんど語られていない話ですが、世界税関機構(WCO)が約5年ごとに実施するHSコード改正は、既存のFTA・EPAに定められた品目別規則(PSR)の内容に大きな影響を及ぼします。
直近では2022年にHS2022改正が施行され、次回はHS2028改正が予定されています。HSコード自体が変わると、協定附属書に記載されているPSRのHSコード表記もそのままでは整合が取れなくなるケースが生じます。たとえばHS2022改正では、情報通信関連品目やプラスチック関連品目など多くの類・項・号が新設・統廃合されました。
このとき問題になるのは「既存の協定附属書をHS2022に対応させる改正作業が、全ての協定で迅速に完了するわけではない」という点です。古いHSコードが協定書に残ったまま運用されている局面では、実務担当者が自ら旧コード→新コードの読み替えを行わなければなりません。読み替えを誤ると、品目別規則の適用対象自体を取り違えることになります。
2026年現在でも、HS2022対応の附属書改正が完了していない協定が存在するため、この「読み替え問題」はリアルな実務リスクです。対策として以下の確認が有効です。
HS改正のたびに品目別規則の「有効性」を再点検することが条件です。
経済産業省では「FTAの原産地規則を確認する」というページで、各協定の品目別規則の参照先と確認手順を案内しています。改正のたびにここを起点に確認作業を行うことを習慣化すると、読み替えリスクを最小限にできます。
参考リンク(経済産業省による各FTA・EPAの原産地規則確認ガイド)。
FTAの原産地規則を確認する – 経済産業省