秘密保持義務と守秘義務の違い|通関業務での罰則・法律上の定義・契約の注意点

通関業務従事者が混同しがちな「秘密保持義務」と「守秘義務」。両者は本当に同じなのか、それとも法律上の違いがあるのか?通関業法第19条の秘密保持義務違反で受ける罰則や、契約上の注意点を実務目線で解説します。あなたの業務に潜むリスク、本当に理解していますか?

秘密保持義務と守秘義務の違い

守秘義務違反なら告訴されて1年以下の拘禁刑です。


この記事の3ポイント
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秘密保持義務と守秘義務は根拠が違う

秘密保持義務は契約で発生し、守秘義務は法律で課される義務。通関業務従事者には通関業法第19条で守秘義務が課せられる

⚖️
通関業法違反は刑事罰の対象

正当な理由なく秘密を漏らした場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。退職後も義務は続き、親告罪として扱われる

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秘密の範囲は客観的に判断される

通関業務で知り得た情報のうち、一般に知られておらず、依頼者や関係者に利益があると客観的に認められるものが秘密に該当する

秘密保持義務と守秘義務の法的根拠の違い


「秘密保持義務」と「守秘義務」は、一見すると同じ意味に思えますが、実は法的な発生根拠に違いがあります。秘密保持義務は、企業間取引や労働契約などで当事者同士が結ぶ契約によって発生する義務です。一方、守秘義務は、特定の職業に就いている人に対して法律が直接課す義務を指します。


参考)秘密保持義務とは?ひな型をもとに契約書(NDA)の書き方や注…


通関業務従事者の場合、通関業法第19条により「通関業務に関して知り得た秘密」を他に漏らしてはならないという守秘義務が課されています。


これは契約ではなく法律による義務です。



つまり、守秘義務は法定義務ということですね。


参考)守秘義務契約とは? 守秘義務との違い、契約違反についても解説…

医師や弁護士、公認会計士、税理士、公務員なども同様に、法律によって守秘義務を負う職業です。これらの職業では、業務上で他人の秘密を知る機会が多いため、法律が特別な保護を設けています。


参考)秘密保持義務|対象者や罰則、就業規則に規定するメリット - …


通関業務従事者も、輸入者や輸出者の機密情報に触れる立場にあるため、通関業法で守秘義務が明確に定められているのです。一般企業の従業員が負う秘密保持義務とは、法的な性質が異なります。


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契約と法律、どちらが根拠かで大きく違います。

通関業法第19条が定める守秘義務の内容

通関業法第19条では、通関業者(法人の場合はその役員)、通関士、その他の通関業務従事者に対して守秘義務を課しています。この義務は「正当な理由がなくて、通関業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない」という内容です。


参考)通関業法 (秘密を守る義務)|Lawzilla(迷わない法令…


重要なのは、この義務が退職後も続く点です。「これらの者でなくなった後においても、同様とする」と明記されており、通関業務を離れた後も終生の義務として継続します。


退職後も義務は続きます。

通関業務で「知り得た秘密」とは、依頼者の陳述や文書などから知った事実で、①一般に知られておらず、②知られないことが依頼者や関係者の利益になると客観的に認められるものを指します。例えば、輸入貨物の具体的な価格、取引先の情報、商品の仕様などが該当します。

「正当な理由」がある場合は例外となります。具体的には、裁判所からの開示命令、捜査機関による捜査協力、税務調査での開示要請などがこれに当たります。ただし、これらの場合も必要最小限の開示にとどめるべきです。


参考)【弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)】


守秘義務違反は親告罪として扱われるため、被害者(依頼者)からの告訴がなければ刑事訴追されません。しかし、告訴された場合は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金という重い刑事罰が科されます。


参考)e-Gov 法令検索


親告罪ですが罰則は重いです。

さらに刑事罰とは別に、通関業者に対しては行政処分も行われます。戒告、1年以内の業務停止処分、許可取消の3種類があり、業務停止や許可取消になれば事業継続に深刻な影響を及ぼします。


参考)罰則規定と処分の手続 第34条他 通関士試験 資格講座 20…


秘密保持義務の契約上の注意点

通関業務従事者が個別に秘密保持契約(NDAやCA)を締結する場合もあります。こうした契約では、秘密情報の定義、開示禁止の範囲、目的外使用の禁止、義務の期間などを明確にする必要があります。


参考)秘密保持条項とは?秘密保持の期間や例文(サンプル文)・レビュ…


秘密保持契約では、まず「秘密情報」の範囲を明確に定義することが重要です。定義が曖昧だと、何が秘密に該当するのか判断できず、後にトラブルの原因となります。一般的には、「書面、電子媒体、口頭などの形式を問わず開示された情報」といった包括的な定義が用いられます。


参考)契約書の秘密保持条項とは?契約書作成・レビューにおけるポイン…


定義の曖昧さがトラブルを招きます。

ただし、秘密保持義務には例外事項があります。①既に公知の情報、②秘密保持義務なく第三者から正当に入手した情報、③独自に開発した情報、④開示後に受領者の責任なく公知となった情報などは、秘密保持義務の対象外です。


参考)秘密保持契約・守秘義務契約・NDAとは?その違いや営業秘密と…


また、秘密情報を開示できる第三者の範囲も契約で定めます。自社の役員・従業員、再委託先や下請業者、弁護士や税理士などの外部専門家(法令上守秘義務を負う者)への開示は例外として認められるケースが多いです。


参考)秘密保持義務と例外の条項とは?第三者の範囲はどこまで?


ただし、第三者への開示を認める場合でも、開示先に同等の秘密保持義務を課し、その違反を受領者の責任とする規定を設けるべきです。これにより、情報が次々と拡散するリスクを防げます。

第三者への開示ルールも明確にしましょう。

秘密保持義務の期間設定も重要です。契約終了後も一定期間(2〜3年程度)は義務が存続するよう規定するのが一般的です。情報が陳腐化するまでの期間を考慮して設定します。


通関業務従事者の場合、通関業法第19条の守秘義務は終生続きますが、契約上の秘密保持義務は期間を区切ることができます。両者が併存する場合は、より厳しい方(法律上の守秘義務)が優先されると考えられます。


万が一、秘密保持義務に違反した場合、損害賠償請求の対象となります。契約書には、違反時の損害賠償に関する条項や、差止請求権の行使についても盛り込むべきです。具体的な損害額の立証が難しい場合に備え、違約金条項を設けることも検討できます。


参考)秘密保持契約書(NDA)・守秘義務契約書の活用法について弁護…


通関業務における秘密情報の具体例

通関業務で扱う秘密情報は多岐にわたります。輸入申告では、商品の具体的な価格(インボイス価格)、取引条件、仕入先の情報、運賃や保険料の詳細などが含まれます。これらは依頼者の商業機密であり、競合他社に知られると不利益を被る可能性があります。

輸出申告でも同様です。輸出先の情報、輸出価格、貿易条件、使用する船会社やフォワーダーの情報などは秘密情報に該当します。特に、継続的な取引関係にある相手先の情報は、営業上の重要な秘密です。

価格情報は特に重要な秘密です。

商品の詳細仕様や成分情報も秘密に含まれます。例えば、新製品の輸入では、その商品の技術的特徴や成分構成が企業の競争力の源泉となっている場合があります。こうした情報を漏らせば、依頼者に重大な損害を与えかねません。


参考)業務委託契約における秘密保持義務・守秘義務に関する条項のまと…

税関との折衝内容も秘密です。関税評価の算定方法、税番(HSコード)の判断理由、減免税の適用状況などは、依頼者固有の情報であり、他の通関案件に流用してはいけません。

顧客リスト自体も営業秘密に該当します。どの企業がどのような貨物を輸出入しているかという情報は、通関業者にとっても顧客にとっても価値ある情報です。退職時にこれらの情報を持ち出すことは、明確な守秘義務違反となります。

顧客リストの持ち出しは厳禁です。

一方で、一般に公開されている情報は秘密に該当しません。例えば、貿易統計で公表される輸出入額、税関のホームページで公開される通関手続きの情報、依頼者が自ら公表している企業情報などは秘密ではありません。


秘密保持義務違反のリスクと対策

秘密保持義務や守秘義務に違反した場合のリスクは、刑事罰だけではありません。民事上の損害賠償請求、信用失墜による取引停止、業界内での評判悪化など、多方面に影響が及びます。


通関業法第19条違反の場合、前述のとおり1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。これは通関業法の中でも最も重い刑事罰の一つです。さらに行政処分として、通関業の許可取消や業務停止処分を受ける可能性もあります。


許可取消は事業継続が不可能になります。

契約上の秘密保持義務違反の場合は、損害賠償請求が中心となります。情報漏洩により依頼者が被った損害(競合優位性の喪失、取引機会の逸失、信用毀損など)を金銭で賠償する必要があります。損害額が数千万円から数億円に及ぶケースもあります。

対策としては、まず社内の情報管理体制を整備することです。秘密情報へのアクセス権限を必要最小限に限定し、情報の持ち出しや私用メールでの送信を禁止するルールを設けます。パソコンのログ管理、USBメモリの使用制限なども有効です。

従業員教育も重要です。入社時や定期的な研修で、守秘義務の内容、違反のリスク、具体的な注意事項を周知徹底します。特に、退職後も守秘義務が続くことを明確に伝える必要があります。


定期的な研修で意識を高めましょう。

契約書のレビューも怠らないでください。秘密保持契約を締結する際は、自社に不利な条項がないか、秘密情報の範囲が適切か、例外事項が明確かなどを確認します。不明点があれば、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。


万が一、情報漏洩が発生した場合は、速やかに依頼者に報告し、被害の拡大防止に努めます。隠蔽しようとすると、後に発覚した際により重い責任を問われます。初動対応の適切さが、その後の損害の大きさを左右します。

個人レベルでも注意が必要です。家族や友人との会話で「今日、こんな高額商品を通関した」といった何気ない発言も、守秘義務違反となる可能性があります。SNSへの投稿は特に注意が必要で、依頼者名や貨物の内容を特定できる情報を書き込んではいけません。

何気ない会話にも気をつけてください。

税関の通関業法基本通達では、秘密を守る義務の具体的な解釈が示されています。通関業務従事者が守秘義務の範囲を正しく理解するための重要な参考資料です。
通関業法の全文はe-Gov法令検索で確認できます。第19条の守秘義務や第41条の罰則規定など、法律の正確な条文を確認する際に活用してください。




競業避止義務・秘密保持義務(労働法判例総合解説12)