ユーザンス手形で資金を猶予してもらっても、為替が動いて円安になれば支払額が数百万円単位で膨らむ可能性があります。
「ユーザンス(usance)」という言葉は、英語で「輸出入代金の支払猶予」を意味します。貿易取引においては、輸入者が輸出者へ商品代金を支払う際、本来の支払期日を一定期間先延ばしできる仕組みを指します。そしてその猶予を手形という有価証券の形で取り決めたものが「ユーザンス手形」です。
つまり期限付手形ということですね。
通常の一覧払(At Sight)手形では、手形が届いた時点で輸入者はただちに代金を支払わなければなりません。ところがユーザンス手形では、手形に記載された期日(例:「船積日から90日後」)まで支払いを待ってもらえます。輸入者にとっては、輸入した商品を国内で販売し、そこから得た売上代金を手形決済に充てるという流れが組みやすくなるため、輸入金融の中心的な手段として広く活用されています。
輸入代金の支払い猶予が「輸入ユーザンス」です。
実際の貿易取引では、商品が手元に届いてから代金が回収されるまでに一定の時間がかかります。特に関税手続きや国内流通のタイムラグを考えると、輸入者の手元資金だけで即時決済するのは難しいケースも少なくありません。ユーザンス手形は、そのような資金繰りのギャップを埋めるための重要な金融ツールとして機能しているのです。
また、ユーザンス期間の長さは取引ごとに異なります。一般的には30日・60日・90日・180日(6か月)などが多く見られます。期間が長いほど輸入者の資金的余裕は増しますが、その分だけ金利(ユーザンス金利)のコストも増加する点は頭に入れておく必要があります。
以下のリンクでは、日本貿易保険(NEXI)による「ユーザンス」の公式定義が確認できます。貿易保険の文脈でも重要な用語です。
ユーザンス手形には大きく「シッパーズ・ユーザンス」と「銀行ユーザンス」という2つの分類があります。どちらが輸入者に猶予を与えるか、つまり「誰がリスクを負うか」が根本的な違いです。
シッパーズ・ユーザンスは、海外の輸出者(シッパー)が輸入者に対して直接、代金決済の猶予を与える方式です。輸出者が期限付き荷為替手形を振り出し、輸入者はその期日に手形代金を支払います。銀行の信用保証がなく、輸出者側が代金回収のリスクをすべて負う形になります。そのため、初めての取引相手には使いにくく、本社と海外子会社の間や、長期的な信頼関係のある取引先同士(資本関係のある企業間・商社の海外現地法人など)での利用が中心です。
シッパーズ・ユーザンスはリスクが高い方式です。
具体的な方法は2種類あります。一つはL/C(信用状)を使わずにD/A(Documents against Acceptance:手形引受書類渡し)決済として、輸出者が期限付き荷為替手形を振り出し、輸入者がその期日に支払う方法。もう一つは、荷為替手形決済を使わず、船積後に双方が合意した期日(例:「B/L発行後30日以内」)に輸入者が送金する方法です。
銀行ユーザンスは、銀行が輸入者のために代金を立替払いし、その返済期日まで猶予を与える方式です。銀行が間に入ることで輸出者は早期に代金を回収でき、輸入者は一定期間の猶予を得られます。銀行ユーザンスはさらに「本邦ローン(自行ユーザンス)」と「外銀ユーザンス」に分かれます。これは最も多く利用されている形式です。
| 種類 | 猶予を与える主体 | リスク負担 | 主な用途 |
|------|----------------|------------|---------|
| シッパーズ・ユーザンス | 輸出者(シッパー) | 輸出者 | グループ企業間、信頼関係の深い取引 |
| 本邦ローン(自行ユーザンス) | 日本の銀行(邦銀) | 銀行 | 信用状付き・D/P取引など |
| 外銀ユーザンス | 外国の補償銀行 | 外国銀行 | L/C取引(外貨保有が少ない時代に多用) |
JETROの以下のページでは、L/C決済からD/A決済への変更リスクについて詳しく解説されています。シッパーズ・ユーザンスを選ぶ際の判断材料になります。
JETRO:輸出取引における決済方式の変更を依頼された際の留意点
銀行ユーザンスの中でも最も一般的な「本邦ローン(自行ユーザンス)」と「外銀ユーザンス」それぞれの流れを、具体的に整理しておきましょう。
本邦ローン(自行ユーザンス)の流れは以下のとおりです。
流れを整理するとこういうことです。輸入者は「T/R(輸入担保荷物保管証)」と「外貨建約束手形」の2つを銀行に差し入れることで、担保となっている貨物を先に引き取って販売できるわけです。これは輸入実務において非常に実用的な仕組みです。
外銀ユーザンスは、L/C取引で輸出者が振り出す期限付き為替手形の名宛人をニューヨークやロンドンの外国補償銀行(リンバース銀行)とし、その補償銀行が手形を引き受ける(アクセプタンスする)方式です。補償銀行が引き受けた手形はBA手形(Banker's Acceptance Bill)と呼ばれます。外銀ユーザンスは、かつて日本の外貨保有高が乏しかった時代に盛んに利用されましたが、近年の日本ではほとんど使われていません。
意外ですね。現在では本邦ローンが主流です。
以下のリンクでは、貿易決済の種類・条項について法律の専門家による詳細な解説が読めます。外銀ユーザンスの仕組みも丁寧に記載されています。
ユーザンス手形を利用すると、支払猶予期間に相当する「ユーザンス金利」が発生します。これは、銀行や輸出者が資金を立替・猶予している期間の対価として発生するコストです。金利が相手方負担か輸入者負担かは契約によって異なりますが、輸入者負担となるケースでは手形金額に金利が上乗せされて請求されます。
たとえば、商品代金が100万ドルで、90日間のユーザンス、年利3%の場合、ユーザンス金利は「100万ドル × 3% × 90/365 ≒ 7,397ドル」となります。為替レートが1ドル=150円であれば、約111万円のコストが追加で発生します。円安局面では、この金額がさらに膨らむことになります。
これは使えそうです。この計算を事前にしておくことが大切です。
さらに見落とされがちな点があります。ユーザンス期間が6か月(180日)を超えると、そのユーザンス金利には源泉徴収義務が発生します(所得税法第161条第1項第10号・所得税法施行令第283条)。国税庁の質疑応答事例でも明確に示されており、手形の決済時に手形代金のほかにユーザンス金利を支払う場合、それが6か月超であれば源泉徴収の対象となる国内源泉所得に該当します。
6か月以内のユーザンスは原則対象外です。
ただし、国税庁も「一般に輸入ユーザンスは6か月以内とされるものが多く、源泉徴収の対象となるケースは少ないと思われる」と付記しています。とはいえ、8か月や9か月など長期のユーザンスを設定した場合は注意が必要です。経理・税務担当者と事前に確認しておくことを強く推奨します。
以下の国税庁ページでは、輸入取立手形のユーザンス金利に関する源泉徴収の要否について公式に回答されています。税務判断の根拠として確認できます。
ユーザンス手形を活用する輸入取引では、関税や通関手続きとの関係も正確に理解しておく必要があります。輸入者にとっては「代金の支払い猶予」と「通関・関税の納付」は別のタイムラインで動くからです。
関税は原則として「輸入申告の時点(通関時)」に確定し、輸入許可前に納付(または担保提供)する必要があります。つまり、ユーザンス手形で商品代金の支払いが90日先になっていても、税関への関税支払いは貨物到着後の通関時に発生します。代金はまだ支払っていないのに関税はすぐ払う、という構造です。
関税は猶予されないのが原則です。
ただし、輸入者が銀行ユーザンス(本邦ローン)を利用している場合、T/R(貨物貸渡)により貨物を引き取った後に通関・関税納付ができます。この場合は「銀行が担保として貨物を抑えつつも輸入者に利用を許可している状態」なので、実務上は輸入者が通関手続きを代行するかたちで進みます。
また、関税の課税価格(CIF価格ベース)にユーザンス金利が含まれるかどうかは注意が必要です。WTO協定関税定率法の解釈では、原則として決済に用いた実際の取引価格(契約価格)が課税標準となりますが、ユーザンス金利が商品価格に上乗せされて請求されている場合、課税価格の計算に影響する可能性があります。不明な点は税関または通関士に相談することを推奨します。
実際の貿易実務では、輸入者は「手形の期日管理」と「関税・通関のスケジュール管理」を並行して行う必要があります。どちらかを見落とすと資金繰りに支障が出るため、輸入スケジュール表の作成と、銀行・通関士との連携体制を整えることが現実的な対策になります。
以下のリンクでは、輸入金融全体の流れ(本邦ローン・外銀ユーザンス・シッパーズ・ユーザンス・輸入はね返り金融)を具体的にわかりやすく解説しています。
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