特別特恵関税の適用国と制度を徹底解説

特別特恵関税の適用国はLDC44か国に限られますが、制度の仕組みや例外品目、卒業制度まで正しく理解できていますか?輸入コストを大幅に削減できる可能性を見逃していませんか?

特別特恵関税の適用国と制度の仕組みを正しく理解する

LDC国からの輸入なら「ほぼ何でも無税」と思っていると、特定の品目で痛い目に遭います。


この記事のポイント3選
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特別特恵関税の適用国はLDC44か国

令和7年4月1日現在、特恵受益国130か国・地域のうち、特別特恵関税(LDC特恵)が適用されるのは後発開発途上国44か国に限られます。カンボジア・バングラデシュ・ミャンマーなど身近な貿易相手国が多数含まれています。

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「原則無税」には例外品目がある

特別特恵関税は原則無税ですが、魚・のり・スキー靴など「LDC例外品目」には無税が適用されません。また、原産地証明書(Form A)の取得と直接輸送の要件も欠かせない条件です。

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「卒業制度」で適用国は変わる

2019年4月に中国・タイ・マレーシア・ブラジル・メキシコの5か国が特恵制度を「卒業」し適用除外になりました。適用国リストは毎年度見直されるため、最新情報を確認することが必須です。


特別特恵関税とは何か:LDC特恵制度の基本概念

特別特恵関税(LDC特恵)とは、国連が認定した後発開発途上国(Least Developed Countries:LDC)からの輸入品に対して、日本が一律無税を適用する特別優遇制度です。通常の一般特恵関税よりもさらに踏み込んだ措置として、1980年4月から運用されています。日本が1971年に特恵関税制度を導入してから約10年後に、最も経済的支援が必要な国々への追加配慮として設けられたという背景があります。


この制度の根拠は「関税暫定措置法」に置かれており、同法の別表第5に特別特恵例外品目が列挙されています。重要なのが、「原則無税」という表現で、LDC例外品目(関税暫定措置法別表第5に記載の品目)に該当する場合は例外的に無税が適用されないという点です。魚・のり・スキー靴などが代表的な例外品目として知られています。


一般特恵関税(GSP)との違いを簡単に整理するとこうなります。


| 区分 | 対象国 | 税率 | 対象品目数(概算) |
|------|--------|------|------------------|
| 一般特恵関税(GSP) | 特恵受益国 130か国・地域 | 品目ごとに設定(無税〜一般税率の80%) | 農水産品431品目、鉱工業産品3,285品目 |
| 特別特恵関税(LDC特恵) | LDC 44か国 | 原則一律無税 | LDC専用品目含め約98%が無税 |


つまり、LDC特恵は量・質ともに一般特恵より大幅な優遇です。鉱工業産品では約98.9%、農水産品でも約91.8%の品目に無税が適用されます。


現在の適用期限は令和12年度末(2030年度末)まで延長されており、10年ごとに延長が繰り返されてきた安定した制度です。制度を知っているだけで輸入コストが大幅に変わります。


参考:ジェトロによる一般特恵・特別特恵制度の詳細解説(適用条件・手続きを含む)
一般特恵関税制度と特別特恵関税制度:日本(ジェトロ)


特別特恵関税の適用国一覧:LDC44か国の具体的リスト

令和7年4月1日現在、特別特恵受益国(LDC)として指定されている国は44か国です。税関の公式サイトでは「*印」がLDCを示す形で特恵受益国全130か国・地域の一覧が公開されています。


LDC44か国はアジア・アフリカ・太平洋地域に広がっています。


アジア・太平洋地域(9か国)


- カンボジア 🇰🇭
- ラオス 🇱🇦
- ミャンマー 🇲🇲
- バングラデシュ 🇧🇩
- ネパール 🇳🇵
- ブータン 🇧🇹
- 東ティモール 🇹🇱
- アフガニスタン 🇦🇫
- キリバス 🇰🇮


アフリカ地域(主要国)


- タンザニア、エチオピア、ウガンダ、マダガスカル、モザンビーク、マラウイ、ザンビア、コンゴ民主共和国、ニジェール、マリ、チャド、中央アフリカ、スーダン、ソマリア、セネガル など


大西洋・その他


- ハイチ、イエメン、ソロモン、ツバルなど


アジア地域で特別重要なのが、CLMと呼ばれるカンボジア(Cambodia)・ラオス(Laos)・ミャンマー(Myanmar)の3か国です。これらはASEAN経済連携協定(AJCEP)の締約国でもあり、貿易実務上の扱いが他のLDC国とは異なる特徴があります(後述)。


バングラデシュは日本向け衣類輸出の大きなシェアを占めており、2022年4月時点の特恵関税適用実績では、上位5か国(バングラデシュ・カンボジア・ミャンマーなどLDC勢)が全体の約85%を占めていました。つまり、特別特恵関税の恩恵は実質的に特定のアジアLDC国との貿易に集中しています。


なお、適用国のリストは財務大臣の告示で指定されており、毎年度の税関発表を確認することが基本です。


参考:令和7年4月1日現在の特恵受益国・地域一覧(LDC*印付き)
特恵適用国・地域一覧(税関カスタムスアンサー)


特別特恵関税の適用条件:原産地証明書と直接輸送の要件

特別特恵関税を実際に利用するには、単に「LDC国から買う」だけでは不十分です。適用には大きく3つの条件をクリアする必要があります。これが原則です。


① 特別特恵受益国を「原産地」とする物品であること


輸入品がLDC国の産品であることが大前提です。原産地の認定には「完全生産品基準」と「実質的変更基準」の2種類があります。


完全生産品基準は、その国でまるごと生産・採取されたもの(農作物、水産物、天然鉱物など)が該当します。実質的変更基準は、他国から原材料を持ち込んで加工した場合に適用されるもので、「HSコード4桁(項)レベルの変更」が起きるような製造・加工が必要とされています。


例えば、第三国から輸入した生地(HS5407)をカンボジアで縫製してTシャツ(HS6109)を製造する場合、HSコードが変わるため実質変更基準を満たします。単なる袋詰めや箱詰めだけでは原産地基準を満たせません。


原産地証明書(Form A)の取得・提出


原産地の証明として、輸出国の商工会議所や税関などの公的機関が発給する原産地証明書(様式:Form A)の原本を、輸入通関時に税関へ提出する必要があります。


コピーでは受け付けられません。また、Form Aの記載内容(品名、数量、金額など)がインボイスやB/Lの記載と異なる場合は特恵関税が適用されないリスクがあります。記載の一致には細心の注意が必要です。


なお、申告の課税価格の総額が20万円以下の少額貨物については、原産地証明書の提出が不要になる特例があります。


③ 直接輸送の要件


物品がLDC受益国から日本へ「直接輸送」されることが原則として求められています。第三国を経由する場合、単なる運送上の理由(積み替え・一時蔵置)以外の加工・変更が行われると、直接輸送とは認められない場合があります。


参考:税関による特恵関税マニュアル(原産地基準・手続き詳細)
一般特恵関税マニュアル(税関・PDF)


特別特恵関税とEPA税率の優先関係:CLM3か国だけ「どちらも選べる」理由

関税の実務担当者が特に混乱しやすいのが、特別特恵税率とEPA税率の関係です。意外ですね。


一般特恵税率とEPA税率については、関税暫定措置法施行令第25条の規定により「EPA税率が一般特恵税率以下の場合は、EPA税率のみが適用される」という原則があります。つまり通常、より低い方(EPA)が強制的に優先されます。


しかし、特別特恵税率については、このルールが適用されません。


具体的には、カンボジア・ラオス・ミャンマーのCLM3か国は、日ASEAN経済連携協定(AJCEP)の締約国であると同時に、LDC特別特恵受益国でもあります。この場合、EPA税率と特別特恵税率のどちらも輸入者が自由に選択して使えます。


これがどういう意味を持つかというと、AJCEPの原産地基準は満たしているがForm Aが入手しにくい場合にはEPA税率を使い、逆にForm Aは取得済みでAJCEPの原産地基準を満たすのが難しい場合は特別特恵を使う、という柔軟な運用が可能になります。


インドやベトナム・インドネシアなどのEPA締約国は一般特恵受益国であり、EPA税率が原則優先されます。一方、CLMはEPA税率と特別特恵税率を自由に選べる。これを知っているだけで輸入戦略の幅が広がります。


| 国 | GSP区分 | EPA締約状況 | 特別特恵の選択適用 |
|---|---------|------------|-----------------|
| バングラデシュ | LDC(特別特恵) | EPA未締結 | 特別特恵のみ |
| カンボジア | LDC(特別特恵) | AJCEP締結 | EPA・特別特恵どちらも選択可 |
| ラオス | LDC(特別特恵) | AJCEP締結 | EPA・特別特恵どちらも選択可 |
| ミャンマー | LDC(特別特恵) | AJCEP締結 | EPA・特別特恵どちらも選択可 |
| ベトナム | 一般特恵 | AJCEP・日ベトナムEPA締結 | 不可(EPA優先) |


参考:ジェトロによるASEAN各国の関税・EPA取り扱いQ&A
ASEAN加盟国からの輸入の際の関税の優遇と原産地規則(ジェトロ)


特別特恵関税の「卒業制度」:適用国が変わる仕組みと最近の変更

特別特恵関税の適用国は永久に固定されているわけではありません。これが、制度を継続利用する際の盲点になりがちです。


特恵受益国には「卒業条項(適用除外措置)」という仕組みがあります。既に先進国並みに国際競争力を備えた国・地域に対しては、特恵関税の対象から除外するという考え方です。これは一般特恵(GSP)に関する制度ですが、LDC(後発開発途上国)の認定自体も国連レベルで見直されるため、特別特恵受益国の顔ぶれも変わることがあります。


直近で最もインパクトが大きかったのが2019年4月の変更です。中国・タイ・マレーシア・ブラジル・メキシコの5か国が一般特恵関税制度から全面卒業しました。2017年4月時点では特恵関税の適用実績は月1,126億円に達し、そのうち中国産品が約64%を占めていたほどです。


中国は2010年にGDPで日本を抜いて世界2位になっていたにもかかわらず、長年にわたり特恵関税の恩恵を受けていたことになります。痛いですね。


卒業の基準は「高所得国または高中所得国」に3年連続で該当したこと、かつ対日輸入シェアが一定基準(輸入額10億円超、輸入シェア25%超)を満たす品目については1年間適用除外になります。


LDC国についても、国連がLDCの認定を見直すことがあります。例えばサモアは2014年にLDCを卒業(グラデュエーション)しており、特別特恵受益国から除かれました。LDC卒業後は一定の経過措置期間(通常6〜9年)が設けられる場合もあります。


卒業制度の重要なポイントをまとめると以下の通りです。


- 特恵受益国の指定・卒業は財務大臣の告示で公表される
- 毎年4月1日付けで変更が生じることが多い
- 卒業後に輸入を継続する場合はWTO協定税率(MFN税率)が適用される
- 適用予定の輸入計画がある場合は年度切り替え前に必ず最新告示を確認する


参考:税関による特恵卒業(除外)国・地域の最新一覧
特恵卒業(除外)国・地域一覧(税関)


実務担当者が見落としがちな特別特恵関税の活用ポイント(独自視点)

制度の基本を押さえた上で、実際の輸入業務で見落とされやすい視点を整理しておきます。これは使えそうです。


① 衣類輸入での特別特恵の強さ


一般特恵(GSP)の例外品目として皮革・衣類・履物などが指定されており、ベトナムやインドネシアのような一般特恵受益国から衣類(HSコード第61類・62類)を輸入する場合、特恵関税の恩恵を受けることは難しい状況です。


しかし特別特恵受益国(LDC)からの輸入であれば、衣類も無税が適用されます。これがカンボジアやバングラデシュへの生産シフトが進んだ大きな理由の一つです。バングラデシュ・カンボジア・ミャンマーなどLDC上位5か国で特恵関税適用実績の約85%を占めている背景には、この「衣類の無税」が大きく貢献しています。


② Form Aの記載ミスは即・税率変更になる


原産地証明書(Form A)の記載がインボイスやB/Lと1字でも異なると、通関時に特恵関税が適用されないリスクがあります。例えば品名の英語スペルのブレや数量の単位表記の違いが原因でリジェクトされたケースが実際に報告されています。


Form Aの作成を輸出者・現地商工会議所に依頼する際は、事前にインボイスの完成版を共有し、記載内容を突き合わせて確認することが欠かせません。書類の細部が条件です。


③ 20万円以下の少額輸入は証明書不要の特例がある


課税価格の合計が20万円以下の輸入については、原産地証明書の提出が不要になる特例が設けられています。サンプル輸入や小口発注を活用するビジネスでは、この閾値を意識した発注サイズの設計がコスト削減に直結します。ただし、この金額は「課税価格の総額」であることに注意が必要です。


④ 関税率表(実行関税率表)で事前確認が鉄則


輸入前に税関ホームページで公開されている実行関税率表を確認することで、当該品目に特別特恵(無税)が設定されているかどうかを事前に確認できます。関税率表の「特別特恵」欄に「無税」と記載されている品目が、LDC産品のみに適用される税率です。


関税暫定措置法の改正や品目分類(HSコード)の改定は定期的に行われるため、前年度と同じ品目でも税率が変わっている場合があります。年度切り替えのタイミングで必ず確認するのが基本です。


参考:外務省による特恵関税制度と受益国一覧(公式)
特恵関税制度|外務省