違反広告を削除しても、措置命令はあなたに届きます。
「措置命令」という言葉を、輸入ビジネスや関税の文脈で耳にしたことがある方も多いでしょう。ところが、その具体的な意味や法的な根拠を正確に理解している人は意外と少ないものです。
措置命令とは、行政機関が法令に基づき、違反行為をした事業者に対して「違反行為の中止」「再発防止策の実施」「消費者への周知(謝罪告知など)」を強制的に命じる行政処分のひとつです。根拠となる法律はケースによって異なり、輸入品の広告や表示に関しては主に「景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)」が適用されます。また、通関手続きや保税地域に関わる問題については「関税法」が適用されます。
つまり結論は、「措置命令=ただの注意」ではありません。
措置命令は行政指導(任意の協力要請)よりも一段重い処分です。強制力を持ち、命令に従わなければ刑事罰に発展します。景品表示法では、措置命令に従わなかった場合、事業者の代表者に「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」、さらに法人本体には「最大3億円の罰金」が科される可能性があります。これは企業にとって致命的なリスクになり得ます。
行政処分には段階があります。大きく整理すると「行政指導(任意)→措置命令(強制)→課徴金納付命令(経済的制裁)→刑事告発」という流れが一般的です。消費者庁のウェブサイトでも、違反行為が認められた際の調査から処分までのフローが公開されています。
参考:景品表示法違反行為を行った場合の消費者庁の対応フロー
消費者庁|景品表示法違反行為を行った場合はどうなるのでしょうか?
措置命令が発令されると、消費者庁は内容をプレスリリースで公表します。企業名・違反内容・命令の詳細がすべて公開されるため、社会的信用への打撃は計り知れません。厳しいところですね。
関税や輸入に関わるビジネスをしていると、複数の法律が絡んできます。措置命令・行政処分の対象となり得る主な法令を整理しておくことは、ビジネスを守る上で非常に重要です。
まず押さえておきたいのは、景品表示法との接点です。輸入品を国内で販売する際に、商品の品質・原産地・価格などについて誇張した表示を行った場合、景表法違反として措置命令の対象になります。「〇〇産の高級素材使用」「日本国内では当社だけ」といった表現でも、根拠が不十分なら優良誤認表示に該当し得ます。
次に注目したいのが関税法との関係です。関税法では、輸出入手続きにおける不正行為(関税ほ脱・無許可輸出入など)について刑事罰が定められているほか、通告処分という独自の行政処分制度があります。これは、犯則行為の情状が罰金相当であるとき、直ちに告発せず税関長が罰金に相当する金額の納付を通告する仕組みです。関税の世界だけの特殊なルールですね。
さらに2026年時点で注目すべきなのが、関税法改正による業務改善命令の新設です。2026年2月20日に閣議決定された関税定率法等の一部改正法案では、保税業者(保税地域で貨物を管理する倉庫業者など)に対して、新たに「業務改善命令」を発令できる制度が盛り込まれました。この命令に違反した場合は「貨物の搬入停止」という重大な行政処分が科されます。
TemuやSHEINに代表される中国系越境ECの急増を背景に、偽ブランド品や違法薬物の密輸が多発していることへの対応策として、政府は水際の管理を抜本的に強化する方針を打ち出しています。関税に関わるビジネスをしている以上、この流れは今後ますます重要になります。
参考:保税業者への業務改善命令創設の背景と概要
また食品表示法も見逃せません。輸入食品の原産地や成分表示に誤りがあれば、消費者庁や農林水産省から措置命令の対象になる可能性があります。輸入ビジネスにおいては、関税手続きだけでなく表示ルールの遵守も同時に求められているということです。これが基本です。
実際に措置命令が発令されるまでには、どのようなプロセスがあるのでしょうか。流れを把握しておけば、万一のときに適切な対応を取りやすくなります。
①端緒の把握から始まります。消費者庁や都道府県は、消費者からの申告・内部告発・他機関からの通報・インターネット調査などをきっかけに違反の疑いを把握します。SNSでの指摘が調査の引き金になるケースも少なくありません。
②事業者への事情聴取・資料提出要求が行われます。この段階では、証拠資料の収集や担当者へのヒアリングが実施されます。
③弁明の機会の付与が法律上定められています。行政手続法の規定により、措置命令を発令する前に事業者は反論・釈明を行う機会が与えられます。ただし、この段階まで進んだ場合は措置命令・課徴金納付命令に至るリスクが非常に高いと考えておくべきです。
④措置命令の発令とプレスリリースになります。違反が認定されると消費者庁が命令を出し、同日または翌日には報道発表が行われます。
⑤課徴金納付命令の検討が行われます。優良誤認表示や有利誤認表示が認定された場合は、措置命令と合わせて課徴金納付命令も検討されます。課徴金は原則として売上額の3%で、違反期間は最大3年間さかのぼります。
重要な点が1つあります。景品表示法第7条には「違反行為が既になくなっている場合においても、措置命令をすることができる」と明記されています。つまり、違反広告をすでに削除していても、過去の行為に対して命令が届くのです。「もう対応済みだから大丈夫」という考えは通用しません。
参考:景品表示法の条文(第7条 措置命令の規定)
e-Gov法令検索|不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)全文
2024年10月からは「確約手続」も導入されました。消費者庁が適当と判断した場合、事業者は自ら是正計画(確約計画)を作成して申請することができ、認定されれば原則として措置命令・課徴金納付命令は行われません。これは使えそうです。
「措置命令を受けても、対処すれば終わりでしょ?」と思っている方は多いかもしれません。ところが課徴金の計算方法を知ると、その認識は一変するはずです。
景品表示法における課徴金の計算式は次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計算式 | 課徴金額 = 違反期間中の対象商品売上額 × 3% |
| 対象期間 | 最大3年間(過去にさかのぼる) |
| 発令条件 | 課徴金額が150万円以上になる場合のみ(売上5,000万円以上相当) |
| 再違反の割増 | 過去10年以内に命令歴がある場合は3% → 4.5%に引き上げ |
| 減額規定 | 消費者への返金措置を実施した場合、返金額を課徴金から差引き可 |
具体的な数字で考えてみましょう。月100万円の売上がある輸入品を、3年間にわたって誇張した広告で販売し続けた場合、課徴金は「3,600万円 × 3% = 108万円」です。ただしこれは利益ではなく「売上総額」に対する計算であることに注意が必要です。経費を差し引いた利益がほとんど出ていなくても、売上規模が大きければ課徴金は大きくなります。痛いですね。
実際の事例では、2023年4月に消費者庁が発令した課徴金命令では、景品表示法違反として過去最高となる6億744万円の課徴金納付命令が下されました。これはコンビニエンスストア約300店舗分の1日の売上に相当します。この数字は業界内でも大きな衝撃を与えました。
また、措置命令に従わない場合の刑事罰も確認しておきましょう。景品表示法の場合、代表者個人には2年以下の懲役・300万円以下の罰金、法人には最大3億円の罰金が科されることがあります。関税法における関税ほ脱犯(偽りの申告などで関税を免れる行為)については、10年以下の懲役または1,000万円以下(ほ脱額の10倍が上回る場合はその10倍以下)の罰金が法定されています。関税の不正は、景品表示法以上に厳しい刑事罰が待っています。
参考:関税法の罰条(税関公式)
税関 Japan Customs|関税法の罰条(詳細一覧)
一般的な解説記事では触れられない視点として、なぜ輸入ビジネスに関わる事業者が措置命令・行政処分のリスクにさらされやすいのかを整理しておきます。
第一の理由は、商品の「出どころ」を証明しにくいという構造的問題です。国内製造品であれば、製造工場・品質試験データ・成分証明書などを比較的容易に取得できます。しかし海外からの輸入品は、海外サプライヤーからの資料が英語・中国語で提供される、あるいは信頼性の低い文書しか入手できないケースが多々あります。消費者庁の調査に対し「合理的根拠資料」を15営業日以内に提出できなければ、優良誤認表示があったものと「みなされる」のです。これが条件です。
第二の理由は、越境ECプラットフォームの広告表示ルールと景品表示法が衝突しやすい点です。「売上No.1」「口コミ最高評価」「原産地〇〇」といったプラットフォーム側が推奨する訴求フォーマットが、実は景表法上グレーであるケースは少なくありません。プラットフォームのガイドラインに従っていても、景品表示法違反になり得るのです。「プラットフォームのルールに従っていたから」は免責事由になりません。
第三の理由は、2024年10月に施行された改正景品表示法の「直罰規定」新設です。これにより、故意に優良誤認表示・有利誤認表示を行った場合は、措置命令などの手続きを踏まずに直接100万円以下の罰金が科せられるようになりました。従来の「指導→命令→罰則」という段階的な流れが変わり、悪質と判断されれば即座にペナルティが下る時代になっています。
第四の理由として、関税法改正の観点から見ると、保税業者・通関業者への規制強化が輸入販売事業者にも波及する点が見逃せません。自社では適正な手続きを踏んでいても、取引先の保税業者が行政処分を受け業務停止になれば、自社の在庫がいつ通関できるか不明になります。2025年5月にケイラインロジスティックスが51日間の通関業務全部停止処分を受けた際も、取引先の荷主企業は大きな混乱を受けました。
このように、関税ビジネス・輸入販売は「自分が不正をしなければ安心」ではないのです。取引エコシステム全体のコンプライアンスが求められる時代に突入しています。
参考:令和8年度関税改正の全体像(輸入・通関業務への影響)
HUNADE|令和8年度関税改正の全体像|少額輸入・越境EC・通関実務はどう変わるか
知識として「怖い」と思うだけでは不十分です。具体的にどう動けばリスクを減らせるか、実践的なポイントをまとめます。
広告表示の根拠資料を事前に確保することが最も重要な対策です。商品の効果・原産地・No.1表示などを行う際は、必ずその「合理的な根拠」となる資料を手元に準備しておきましょう。消費者庁の調査では、調査開始から15営業日以内に根拠資料を提出できない場合は、優良誤認表示があったものと推定されます。海外のサプライヤーに対しては、試験成績書・認証書・原産地証明書などを発注前に取り寄せておく習慣をつけることが大切です。
「No.1」「日本初」「業界最安値」などの最上級表現は使い方に細心の注意が必要です。 消費者庁は2023年夏以降、客観的根拠のないNo.1表示に対する行政処分を連続して発令しており、その姿勢はさらに強まっています。特定の調査会社が発行するランキング証明書でも、調査対象・期間・方法が適切でなければ根拠とは認められません。
ステルスマーケティング規制(2023年10月施行)への対応も必須です。輸入品を販売する際にインフルエンサーや口コミサイトを活用している場合、「案件」であることを明示しなければ景表法違反になります。「#PR」「#広告」といった明示が求められるのは、SNSの投稿だけでなく口コミサイトのレビューも同様です。
通関・輸入手続き面では、取引先の保税業者・通関業者が適正な運営をしているかを定期的に確認することをお勧めします。業界団体である日本関税協会などが発行する研修資料や通達を参照しつつ、パートナー事業者の審査基準を設けておくと安心です。
また2024年10月から導入された確約手続きは、消費者庁から調査の通知を受けた際に活用を検討できる制度です。自ら是正計画を立てて申請・認定されれば、措置命令・課徴金命令の回避につながります。ただし、この制度はすべての案件に適用されるわけではなく、消費者庁が「適当」と判断した場合のみです。専門の弁護士・行政書士に相談することが現実的です。
参考:消費者庁の行政処分状況(景品表示法・特定商取引法)
消費者庁|行政処分の状況について(最新一覧)
輸入ビジネスにおけるコンプライアンスは、「後から修正すれば良い」ではなく「最初から作り込む」姿勢が求められます。措置命令・行政処分に至ってからでは、経済的損失も社会的信用の喪失も取り戻すことはできません。今の段階から社内チェック体制を整えておくことが、最大のリスクヘッジになります。