知らないと修正申告や経緯報告のリスクも。
無償サンプルでも申告しないと修正申告になります
無償貨物とは、サンプル品や代替品、加工委託の原材料など、輸出者と輸入者間で代金の支払いが発生しない貨物を指します。
参考)https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1404_jr.htm
多くの通関業務従事者が誤解しているのは、無償だから申告不要と考えるケースです。しかし外国貨物の輸入には原則として関税がかかるため、無償貨物であっても輸入申告が必要です。関税定率法第4条により、すべての輸入貨物について課税価格を決定し、輸入申告を行う必要があると定められています。
無償貨物は「輸入取引によらない輸入貨物」に該当します。輸入取引とは、本邦に拠点を有する者が買手として貨物を本邦に到着させることを目的とした売買を指すため、売買が成立していない無償貨物はこの定義から外れるのです。
実務上、税関検査でパッキングリストやインボイスに記載のない無償サンプルが発見されるケースがあります。この場合、箱の中身をすべて調べて数量と価格を決定し、修正申告を行うことになります。税関には経緯報告という名の反省文を提出し、その後の許可が下りにくくなるペナルティが発生する可能性もあります。
倉庫代やトラックのキャンセル料など、追加費用が発生するリスクもあります。スムーズな通関のため、無償貨物も必ず申告対象として扱う認識が重要です。
無償貨物は輸入取引による取引価格が存在しないため、原則的な課税価格の決定方法が適用できません。関税定率法第4条の4「特殊な輸入貨物に係る方法」により課税価格を算出します。
参考)https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kanzeihyouka/hyokajirei/hyokajirei4400009.pdf
具体的な決定方法は以下の順序で適用されます。
まず「同種又は類似の貨物にかかる取引価格による方法」を検討します。輸入貨物の生産国からほぼ同じ時期に日本に輸出された同種または類似貨物の取引価格があれば、それを基準にします。この際、取引段階や取引数量、運送距離などが異なる場合は必要な調整を行います。
つまり比較可能な貨物があれば使えます。
次に「国内販売価格に基づく方法」があります。その輸入貨物または同種・類似貨物の国内再販売価格から、国内販売に係る通常の手数料や利潤、一般経費、輸入港到着後の運賃・保険料、関税などを控除して課税価格を決定します。
さらに「製造原価に基づく方法」も選択肢です。輸入貨物の製造原価に、同類貨物の輸出のための販売に係る通常の利潤及び一般経費、輸入港までの運賃等を加算して算出します。輸入者が希望すれば、国内販売価格に基づく方法より優先して適用できます。
代替品として輸入される無償貨物の場合、特別な扱いがあります。欠損品と同一品のものであれば、もとの貨物の輸入申告時と同一の価格で申告します。これは関税関係基本通達4-102に基づく取扱いです。
参考)欠損のある輸入品の代替品を無償で提供される場合の関税等の適用…
無償貨物のインボイスには2つの重要な記載事項があります。
参考)サイトの検索 - SANKYU-物流情報サービス(CISS)
第一に、有償で輸入した場合と同様の価格を記載する必要があります。
これは課税価格算定の基礎となるためです。
実際に代金の支払いはなくても、本来の売値、つまり有償取引であれば発生する金額を明示しなければなりません。
第二に、「NO COMMERCIAL VALUE」と記載しておく必要があります。これにより無償貨物であることを明確にします。日本語では「無償」と表記することもあります。
この二重の記載が基本です。
金額記載を省略すると、税関検査で問題になります。たとえば、コンテナをX線検査した際にインボイスに記載のない箱が発見され、輸入者に確認したところ無償サンプルだったため申告しなかったというケースがあります。このような場合、全ての箱の中身を調べて数量と価格を決定し、修正申告が必要になります。
輸出貨物であっても同様に正しい金額表記が必要です。仕向地での通関も同じ原理が適用されるためです。加工委託契約で輸出する原材料の場合、輸出時のインボイスが減税計算の根拠となるため、特に注意が必要です。
再輸入減税や加工・修繕のために輸出された貨物の輸入(原則1年以内)についても減税が認められているため、輸出インボイスは必ず保管しておくべきです。
無償サンプルでも関税免除を受けられるケースが存在します。関税定率法第14条第6号により、注文取り集めのための見本で以下の条件を満たすものは関税が免除されます。
具体的な条件は3つです。見本用にのみ適するもの、著しく価額の低いもの、または輸入後に無償で配布されることが明らかなものです。
免税を受けるには手続きが必要です。輸入申告書に「関税定率法第14条第6号による関税免除を受ける旨」を記載して税関に提出します。注文の取り集めのための見本として輸入する場合は、輸入の際の消費税も免除されます。これは輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律第13条第1項第1号に基づく措置です。
ただし免税が適用されない場合でも、正しい金額表示は必須です。たとえば展示会で一時的に用いる場合や個人の贈与品で一万円以下の場合などの免税措置でも、本来の売値を表示しなければなりません。
アメリカやEUの一部の国では、適切な申告をすれば一定の金額まで無償サンプルを免税で輸入できる措置を設けています。各国の規定を事前に確認することで、コスト削減につながります。
商品サンプルの課税価格算定では、特殊な輸入貨物に係る課税価格決定方法を使います。新規取引に際して無償で輸入する商品サンプルでも、既製品として販売されている価格を基準に課税価格が計算されます。
無償提供物とは、輸入者が輸出者に無償または値引きで提供した物品やサービスを指します。これは関税評価において「加算要素」として申告価格に加えなければならないケースがあります。
関税評価の原則は「輸入取引における実質的な経済的価値を反映した価格」を基準にすることです。無償供与があると、安く仕入れているように見えるだけで、本来支払うべき正当な価値より低く課税されてしまうため、調整が求められます。
参考)課税価格における『無償供与』の取り扱いと加算要素
加算要素の対象となるのは以下の費用です。買手が無償または値引きして直接・間接に提供した輸入貨物に組み込まれる材料、部分品等に要する費用です。具体的には、無償提供物を作成するために要した生産費(取引価格、関税、通関費用、工場までの運賃、工場での加工賃等)及びこれを提供するために要した運賃等(無償提供物の本邦輸出港までの運賃、通関費用等を含む)の総額です。
これは申告価格に加算します。
税関事後調査で最も指摘率が高いのは、無償提供物の申告漏れです。具体的には以下のような非違が多く発見されます。輸入者が支払ったインボイス金額以外の貨物代金(価格調整金、ロイヤリティーなど)の申告漏れ、輸入者が無償提供した材料費用の申告漏れ、低価インボイスによる輸入申告、書類の改ざんによる特恵関税の適用です。
無償提供分の加算額は、提供物・役務の実際の価額(取得価格)をベースに算定されます。輸入品が多数にわたる場合は、個々の商品に適切に按分して評価する必要があります。包装が輸入貨物の一部であって、その生産と取引に関連して買手が無償または値引きをして提供する場合も、容器の費用と同様に加算対象となります。
事後調査での指摘を避けるため、無償提供物の詳細な記録を保管し、正確に申告することが重要です。
通関業務で無償貨物を扱う際は、以下の確認事項を押さえておく必要があります。
まず事前準備段階です。輸出者に対して、無償貨物であっても必ずインボイスに記載するよう周知します。勝手に混入されると通関トラブルの原因になるためです。インボイスには有償取引時の価格と「NO COMMERCIAL VALUE」の両方を記載させます。
次に課税価格の決定段階です。
無償貨物の種類を確認します。
サンプル、代替品、加工委託原材料などによって適用される決定方法が異なります。代替品の場合、欠損品と同一品であればもとの貨物の輸入申告時と同一価格を使用します。それ以外の場合は、同種・類似貨物の取引価格、国内販売価格、製造原価の順に適用可能な方法を選択します。
申告段階の注意点もあります。
免税要件を満たすか確認します。
注文取り集めのための見本で見本用にのみ適する場合など、関税定率法第14条第6号の要件に該当すれば、申告書にその旨を記載します。
どの方法が最適か判断します。
無償提供物の加算漏れがないかダブルチェックします。輸入者が無償または値引きで提供した材料、部分品等の費用は加算要素として申告価格に含める必要があります。生産費、運賃、通関費用などを漏れなく計上します。
記録保管の実務では、輸出インボイスを確実に保管します。再輸入減税や加工・修繕のための輸出貨物の輸入(原則1年以内)で減税を受ける際に必要になります。課税価格の算定根拠となる資料も整理保管します。税関事後調査で提示を求められる可能性があるためです。
特に注意すべき場面は、親会社からの無償支給原材料の輸入です。関税法第67条に基づき輸入申告を行い、輸入消費税も納付する必要があります。加工後に輸出する場合も同様に輸出申告が必要です。
参考)https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/shohi/170622/01.htm
これらのチェックポイントを押さえることで、申告漏れやペナルティのリスクを大幅に軽減できます。