第三国経由で輸出しても、日本の外為法違反で懲役3年が問われます。
第三国経由輸出とは、日本から最終仕向け地へ貨物を輸出する際に、直接送らず第三国(中継地)を経由して届ける形態を指します。たとえば「日本→シンガポール→イラン」のような経路がこれに当たります。一見すると単なる物流上の経路変更に見えますが、法的にはまったく別の問題が生じます。
迂回輸出(Circumvention)とは、輸出規制を意図的に回避する目的で第三国を経由させる行為を指します。これは外為法第69条の7および輸出貿易管理令に基づき、厳しく禁止されています。迂回輸出は故意・過失を問わず問題になりえます。
通関業従事者が実務で混同しやすいのが「経由地での再輸出」と「最終仕向け地への輸出」の区別です。経由地があくまで中継にすぎない場合でも、最終仕向け地が規制対象国・地域であれば、日本からの輸出許可が必要になります。最終仕向け地が原則です。
経済産業省の安全保障貿易管理のページでは、規制対象国リストや許可申請の要件が詳しく解説されています。実務の基準として必ず参照してください。
経済産業省:安全保障貿易管理の概要
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/index.html
注目すべき点として、「仲介貿易」との区別もあります。仲介貿易は日本の居住者が第三国間の貨物売買に関与するケースで、これも外為法の仲介貿易許可(第25条)の対象になり得ます。第三国経由の輸出と似て非なる規制体系が存在するため、取引形態の最初の整理が欠かせません。
外為法(外国為替及び外国貿易法)と輸出貿易管理令は、第三国経由であっても日本からの貨物輸出に対して等しく適用されます。これが実務上の大前提です。
リスト規制とは、輸出貿易管理令別表第1に掲げられた規制品目(武器・原子力関連・化学兵器関連・電子部品など)について、一定以上のスペックを持つ貨物の輸出に許可を求める制度です。これは経由地がどこであれ、最終仕向け地が規制対象国・非許可国であれば許可が必要になります。
キャッチオール規制(補完的輸出規制)は、リスト規制に該当しない一般的な貨物であっても、大量破壊兵器等の開発・製造・使用・貯蔵に用いられるおそれがある場合に輸出許可を求める制度です。これが盲点になりやすいです。
キャッチオール規制が適用されるかどうかの判断は、「需要者要件」と「用途要件」の2つで行います。需要者要件は、外務省が公表するリスト(外国ユーザーリスト)に掲載された企業・個人が取引に関与している場合に適用されます。用途要件は、輸出しようとする貨物が大量破壊兵器等の製造に使われると判断される場合です。
| 規制の種類 | 対象 | 許可の要否判断基準 |
|---|---|---|
| リスト規制 | 輸出貿易管理令別表第1の品目 | 品目・スペック・仕向け地の組合せ |
| キャッチオール規制(大量破壊兵器) | 全貨物(非該当品含む) | 用途要件・需要者要件 |
| キャッチオール規制(通常兵器) | 全貨物(ホワイト国以外) | 用途要件・需要者要件 |
| 仲介貿易許可 | 第三国間の売買取引 | 取引関与・仕向け地・品目 |
キャッチオール規制における「ホワイト国(グループA)」は2024年時点で42か国が指定されており、これらの国への輸出は通常兵器のキャッチオール規制が免除されます。ただし大量破壊兵器のキャッチオール規制は全仕向け地に適用されるため注意が必要です。ホワイト国でも油断は禁物です。
許可申請の要否を正確に判断するには、「貨物の該非判定」「最終仕向け地の確認」「最終需要者の確認」「用途の確認」という4つのステップを順番に踏むことが基本です。
ステップ1:該非判定
輸出しようとする貨物が輸出貿易管理令別表第1のいずれかの号に該当するか判断します。メーカーが発行する「非該当証明書」や「該非判定書」を取得し、貨物のスペックと照合します。該非判定書は必ず保存してください。
ステップ2:最終仕向け地の確認
貨物が最終的にどの国・地域に届くかを確認します。第三国経由の場合、経由地ではなく最終届け先の国が判断基準です。L/C(信用状)やEnd User Certificate(最終需要者証明書)などで確認します。
ステップ3:最終需要者の確認
外国ユーザーリストに掲載された企業・個人が取引に関与していないか確認します。経産省のウェブサイトで定期的にリストが更新されるため、最新版の照合が必要です。更新頻度は年に複数回あります。
ステップ4:用途確認
貨物が大量破壊兵器・通常兵器の開発・製造に使用されるおそれがないか、取引書類・顧客とのやり取りから判断します。不審な点があれば経産省に事前照会することも選択肢に入ります。
実際の取引では「インフォームド(Informed)」と呼ばれる状況、つまり経産省から「許可申請が必要である」旨の通知を受けた場合は、必ず輸出許可申請を行わなければなりません。通知を無視した輸出は外為法違反となります。これは法律上の義務です。
経産省が公開している「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス」は、判断フローのチェックリストとして実務に直接使える内容が掲載されています。
経済産業省:輸出許可申請の手引き
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply01.html
第三国経由輸出に関する摘発事例は、近年増加傾向にあります。経産省・税関・警察による合同調査が強化されており、見逃しが許されない状況です。
実際の摘発事例として広く知られているのが、2022年に発覚した半導体製造装置の迂回輸出事案です。日本企業が東南アジアの商社を経由してロシアに規制品目を輸出しようとしたケースで、外為法違反として捜査対象となりました。このように「商社を挟めば問題ない」という考えは通用しません。
外為法違反の法定刑は重大です。
- 個人:5年以下の懲役または300万円以下の罰金(外為法第69条の6)
- 法人:10億円以下の罰金(同第72条の両罰規定)
- 付加的措置:最大3年間の輸出禁止措置、社名の公表
特に注目すべきは「両罰規定」の存在で、担当者個人だけでなく法人(会社)も同時に処罰される仕組みになっています。担当者が独断で動いた場合でも、会社としての管理体制が問われます。管理体制が問われるということですね。
2022年のロシアへの輸出規制強化(ウクライナ侵攻に伴う制裁措置)以降、第三国経由での迂回輸出を目的とした取引への監視は格段に厳しくなりました。具体的には、UAE・トルコ・カザフスタンなどのロシアの近隣国経由での取引が重点的にチェックされています。
税関における事前照会制度(輸出事前確認制度)を活用することで、許可の要否に関する経産省の見解を事前に取得できます。疑わしい取引では必ず事前照会を行い、その記録を保存することがリスク管理の基本です。記録の保存が条件です。
通関業従事者が意外と認識していないのが「仲介者としての責任」です。荷主(輸出者)の指示に従って手続きを進めるだけでも、通関業者が規制逃れに加担したと判断されると、外為法上の共犯・幇助として処罰対象になり得ます。「言われた通りにやった」は免責になりません。
具体的には、以下の書類の不備や確認漏れが問題になるケースが多く報告されています。
- End User Certificate(EUC)の記載漏れ・偽造の見落とし:最終需要者の住所・署名・用途記載が不完全な場合、許可を取得していても有効性が否定されることがあります。
- B/L(船荷証券)上の仕向け地と実際の最終届け先の乖離:経由地が最終仕向け地として記載されているケースで、実際の届け先と異なる場合が問題になります。
- インボイスの記載と輸出申告書の不一致:貨物名・数量・金額の不一致は規制品目の隠蔽と見なされる場合があります。
書類管理の落とし穴として特に重要なのが「記録の保存期間」です。外為法では輸出関連書類の保存義務期間が輸出の日から7年間と定められています(外為法第67条の6)。7年間は保存が原則です。
通関業としての内部統制の観点からは、以下の3点を組織として整備することが推奨されます。
| 管理項目 | 具体的な対応 | 対応の目的 |
|---|---|---|
| 該非判定の記録化 | 判定書・非該当証明書の保管 | 事後的な証拠確保 |
| 外国ユーザーリストの照合記録 | 照合日・バージョン・結果の記録 | デューデリジェンスの証明 |
| 取引相手への用途確認記録 | メール・誓約書・EUCの保管 | 幇助責任のリスク低減 |
実務上、経産省の安全保障貿易管理に関する相談窓口(安全保障貿易審査課)への相談は無料で行えます。「この取引は許可が必要か?」という疑問が生じた段階で相談することが、最も効果的なリスク回避策です。これは使えそうです。
社内での安全保障貿易管理(Security Export Control:SEC)研修の定期的な実施も有効です。特に新しく輸出業務に携わる担当者への早期教育が、ヒューマンエラーによる違反を大幅に減らします。
また、2023年以降はJASTPROや日本貿易関係手続簡易化協会が提供する安全保障貿易管理実務セミナーが年間複数回開催されており、最新の規制動向をキャッチアップする機会として活用できます。
経済産業省:安全保障貿易管理相談窓口
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer.html
書類の確認・保存・照合という地道な作業が、最終的に会社と個人の双方を守る盾になります。第三国経由輸出の実務は、「書類の正確性」と「記録の継続」の2点に尽きます。この2点が基本です。