AFTAの略称を知っているだけでは、関税ゼロの恩恵を受けられないことがあります。
AFTAとは「ASEAN Free Trade Area」の頭文字をとった略称で、日本語では「ASEAN自由貿易地域」または「ASEAN自由貿易圏」と表記されます。読み方は「アフタ」が一般的です。
ASEAN(東南アジア諸国連合、Association of Southeast Asian Nations)という組織は、1967年に設立された地域協力機構ですが、AFTAはその経済連携の柱として1992年に設立が合意されました。
正式な合意は、1992年1月27〜28日にシンガポールで開催された第4回ASEAN首脳会議において「シンガポール宣言」として採択されたものです。実際の運用開始(発足)は1993年からで、当初の参加国はインドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ・ブルネイの6カ国でした。
設立の背景には、当時急速に拡大していたEU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)といった地域経済圏への対抗という意図があります。東南アジアとしても、まとまった市場を形成することで外国からの投資を呼び込み、産業競争力を高める狙いがありました。
その後、ベトナム(1995年)・ミャンマー・ラオス(1997年)・カンボジア(1999年)が順次ASEANに加盟し、現在は10カ国体制になっています。これによりASEAN10カ国、総人口約6億8,000万人(東京都の約55倍)という巨大な貿易圏が形成されました。
つまり、AFTAはASEANという組織の中に設けられた「関税を下げる仕組み」の名称だということです。
参考:ASEAN自由貿易地域の概要(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ASEAN自由貿易地域
AFTAという略称を覚えるだけでは実務には不十分です。
AFTAの具体的な関税引下げは「CEPT(Common Effective Preferential Tariff:共通効果特恵関税)」という仕組みを通じて行われてきました。CEPTは、「対象品目リスト(Inclusion List)に入っている製品の域内関税率を0〜5%に引き下げる」というルールです。1993年の発足当初、原加盟国6カ国はこのCEPT品目リストの80%を段階的に関税引下げ対象としていました。
その後、2010年には先行加盟6カ国の関税率がほぼ0%に達しました。これはサッカーコート約100面分(約100ヘクタール)の農地の関税をゼロにするような話ではなく、数千億円規模の貿易コストが削減されるインパクトを持つ変化でした。
そしてCEPTを実質的に引き継ぎ、より包括的なルールとして2010年8月に発効したのが「ATIGA(ASEAN Trade In Goods Agreement:ASEAN物品貿易協定)」です。ATIGAはAFTAの下で締結された物品貿易に関する正式な協定で、関税撤廃のスケジュールや原産地規則、税関手続きの簡素化などが詳細に定められています。
| 略称 | 正式名称 | 役割 |
|---|---|---|
| AFTA | ASEAN Free Trade Area | ASEAN域内の自由貿易地域の総称 |
| CEPT | Common Effective Preferential Tariff | AFTAの関税引下げ制度(旧) |
| ATIGA | ASEAN Trade In Goods Agreement | AFTAの物品貿易協定(現行) |
AFTAが「どこで行うか(地域の名称)」なのに対し、CEPTやATIGAは「どうやって関税を下げるか(制度・協定)」です。この関係が原則です。
また、ATIGAには「センシティブ品目(Sensitive List)」や「高度センシティブ品目(Highly Sensitive List)」と呼ばれる例外品目があります。コメや砂糖などの特定農産品は関税撤廃の対象外、または削減ペースが遅い扱いになっています。つまり「AFTA加盟国間なら何でも関税ゼロ」ではないのです。
参考:JETROによるATIGA協定の解説資料
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/wto-fta/asean_fta/pdf/atiga_202112.pdf
AFTAの周辺には似たような略称がいくつも存在します。これが混乱の原因になりやすいです。
まず「AEC(ASEAN Economic Community:ASEAN経済共同体)」は、AFTAをさらに発展させた概念です。2015年12月31日に発足し、物品・サービス・投資・熟練労働者・資本の自由な移動を目指す枠組みです。AFTAが「関税を下げる」ことに特化していたのに対し、AECは「単一市場・生産拠点」を目指す、より上位の構想です。
次に「RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership:地域的な包括的経済連携)」は、ASEAN10カ国に加え、日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランドを含む15カ国が参加する協定で、2022年1月に日本でも発効しました。AFTAがASEAN域内の話であるのに対し、RCEPはASEAN外の国も含む大きな枠組みです。
さらに「AJ-CEP(ASEAN-Japan Comprehensive Economic Partnership:日本・ASEAN包括的経済連携協定)」は、日本とASEAN全体の間で締結されたEPAで、2008年12月から順次発効しています。これは日本からASEAN各国へ輸出・輸入する際に特恵税率を使うための協定です。
これは使えそうですね。日本企業がASEANとの貿易で関税優遇を得たい場合、「AFTA(ATIGAベース)」を使うのか「AJ-CEP」を使うのかで、原産地証明の書式や適用税率が異なります。どちらか低い税率を選んで申請できますが、それぞれに必要な証明書の形式が違うため、事前の確認が欠かせません。
参考:外務省による日本・ASEAN包括的経済連携協定の説明
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/
AFTAの恩恵を実際に受けるには「関税ゼロだから自動で適用される」という理解では不十分です。
ATIGA(旧AFTA-CEPT)に基づいて特恵税率(0%)の適用を受けるためには、輸出国の管轄省庁が発行する「Form D(フォームD)」と呼ばれる特定原産地証明書を、輸入国の税関に提出する必要があります。これが基本条件です。
また、単に証明書を用意すればよいわけでもなく、貨物が「ASEAN原産品」として認められるための原産地規則を満たしていなければなりません。ATIGA上の原産地規則には次の2つの主要な基準があります。
たとえば日本から部品をタイに持ち込んで製品を組み立て、それをベトナムに輸出する場合、ASEAN域外由来の原材料比率が60%を超えると、Form Dを申請しても原産地資格が認められない可能性があります。
中小企業においてはこの判定プロセスが複雑で、Form Dを取得する手続き費用と削減できる関税を比較した結果「割に合わない」と感じて申請を諦めるケースが多いとされています。実際、日本の中小企業のFTA利用率は大企業と比べて大幅に低い水準にとどまっているのが現実です。
ATIGAでは2018年から電子原産地証明書(e-Form D)や輸出者による自己証明制度の導入も進んでいます。手続きの簡略化が進んでいるため、以前より利用しやすくなっています。対象品目や手続き詳細は、JETROや日本商工会議所のサポートページで確認するのが確実です。
参考:JETROによるFTA・EPA活用の手続き解説
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04J-111201.html
ここまでの知識を実務でどう活かすかが、最終的に重要になってきます。
たとえば日本からタイに機械部品を輸出する場合、AJ-CEP(日ASEAN EPA)を使えば特恵税率の適用を受けられます。一方、タイからベトナムへその部品を再輸出・加工する際にはATIGAのForm Dが使える可能性があります。複数の協定を重ねて活用することで、バリューチェーン全体の関税コストを最小化できるのです。
関税が高い品目でこれを見落とすと、たとえば関税率が10%の部品を年間1,000万円輸出している場合、毎年100万円分の節約機会を逃していることになります。数字を示すと実感しやすいですね。
実務上の確認ポイントをまとめると次のとおりです。
原産地証明書の記載に誤りがあった場合、税関に証明書の正当性を認めてもらえず、特恵関税の適用が拒否されるトラブルも実際に発生しています。誤字や項目漏れは修正液での修正も認められないため、一度で正確に作成することが条件です。
AFTAという略称を知るだけでなく、「誰が証明書を発行するのか」「どの条件を満たせば原産品と認められるか」を把握しておくことが、関税コスト削減の大前提といえます。
ASEAN域内の関税制度は今後もAEC(ASEAN経済共同体)の深化とともに変化していく見込みです。最新の税率や手続きはJETROのビジネス情報ページで定期的に確認しておくのが望ましいでしょう。
参考:JETROによるASEAN・FTA活用情報(最新情報含む)
https://www.jetro.go.jp/theme/wto-fta/