NAFTAの原産地証明書が不要でも、あなたの申告ミスで25%の追加関税が発生します。
USMCAは2020年7月1日に発効し、1994年から26年間続いたNAFTAに代わる北米3カ国の自由貿易協定です。正式名称は「米国・メキシコ・カナダ協定」(United States-Mexico-Canada Agreement)で、トランプ前政権の働きかけにより再交渉が行われました。
参考)米国・メキシコ・カナダ協定 - Wikipedia
NAFTAからの主な変更点は、デジタル貿易の促進、知的財産保護の強化、労働者の権利保護、そして原産地規則の大幅な厳格化です。特に自動車分野では、域内生産を促進するため従来の基準を大きく上回る要件が設定されました。
参考)NAFTAからUSMCAへ - 住商グローバル・ロジスティク…
通関業務従事者にとって最も重要な変更は、原産地証明書が不要になったことです。NAFTAでは特定フォーマットの証明書が必須でしたが、USMCAでは輸入者が9つのデータ要素を記載するだけで特恵関税の申請が可能になりました。電子署名やデジタル署名も認められています。
この制度変更により手続きの柔軟性は向上しましたが、輸入者の責任は重くなっています。原産性の判断を誤ると、事後検証で特恵関税の適用が取り消され、追加関税と延滞金が課されるリスクがあります。
参考)米国USMCAの事後請求と還付手続 – コンサル…
自動車分野でUSMCAが導入した最も厳格な要件が、域内原産割合(RVC)75%です。NAFTAの62.5%から12.5ポイントも引き上げられました。完成車だけでなく、エンジンやトランスミッションなどの基幹部品も同様に75%が求められます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0682ab20c3eb845057e89d031b1dc51aeea5713f
これは東京ドーム約1.2個分の工場で生産される部品のうち、4分の3以上が北米域内で製造・加工されなければならないことを意味します。
さらに労働価値含有量(LVC)要件も新設されました。乗用車では40%、小型トラックでは45%の部分が、時給16ドル(約2,400円、2026年2月レート換算)以上の労働者によって生産されることが条件です。この要件は、メキシコなど低賃金国への生産集中を抑制し、米国やカナダでの雇用を守る狙いがあります。
参考)https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/us200218.pdf
鉄鋼・アルミニウムの域内調達率70%以上という要件も追加されました。完成車メーカーが購入する鉄とアルミの7割がUSMCA域内原産材料でなければ、特恵関税は適用されません。
これら4つの要件すべてを満たさなければ原産品と認められない仕組みです。NAFTAと比べて格段に厳しい基準といえます。
USMCAでは原産地証明書が廃止され、自己申告制度が採用されました。輸入者、輸出者、生産者のいずれかが原産性を申告できます。
申告に必要な9つのデータ要素は以下の通りです:
特定のフォーマットは不要です。これにより、企業は独自の書式で申告書を作成できるようになりました。
トランプ政権下では、USMCA原産地規則を満たした製品でも、自動車・同部品については非米国産材料価格にのみ25%の追加関税が適用される仕組みになっています。一方、カナダとメキシコからの原産品は、原則として追加関税の適用除外となります。
事後請求も可能です。輸入時にUSMCA優遇を申告し忘れた場合や、サプライヤーから原産性の確証が遅れて届いた場合でも、一定期間内であれば還付手続きができます。ただし、申告漏れは企業の信用リスクにつながるため、初回申告時の正確性が求められます。
USMCAには第34.7条でサンセット条項が規定されています。協定は発効から16年後の2036年7月1日に自動終了しますが、3カ国の首脳が書面で延長を確認すれば、さらに16年延長される仕組みです。
参考)USMCA再検証と「離脱カード」の波紋——北米サプライチェー…
重要なのは6年目レビューです。2026年7月にUSMCAの見直しが実施され、3カ国が協議を行います。トランプ政権は「欠陥が解決可能な場合のみ延長する」という方針を表明しており、米国での生産をさらに促進するような修正提案がなされる可能性があります。
参考)トランプ関税に翻弄されるメキシコ・カナダ、2026年に迫るU…
2026年7月の見直しでは、北米3カ国の合意は難しいとの見方もあります。特に自動車原産地規則については、米国とカナダ・メキシコの間で仲裁が行われた経緯があり、対立点が残っています。
参考)2026年7月のUSMCA見直し、北米3カ国の合意は難しいと…
日本企業への影響も無視できません。米国向け製品の生産地をASEANからメキシコやカナダへシフトさせる動きが現実味を帯びており、関税リスク回避の代替ルートとしてUSMCAの重要性が再認識されています。
参考)https://www.digima-japan.com/knowhow/united_states/d-globalbusiness-00025.php
2025年には、USMCA原産品はトランプ関税を回避できる数少ない例外措置として位置づけられました。通関業務従事者は、この協定の活用方法を正確に理解し、クライアント企業に適切な助言を提供することが求められます。
参考)完成車と鉄鋼・アルミ製品除き、USMCA原産品はトランプ関税…
原産地規則の誤認は重大な損失につながります。2023年の仲裁事例では、米国が自動車部品のロールアップ(非原産材料を含む原産部品を100%原産とみなす計算方法)を制限しようとしましたが、仲裁パネルに否定されました。このように解釈の相違が生じやすい分野です。
原産性の立証責任は申告者にあります。税関の事後検証に備えて、以下の書類を保管する必要があります:
特にサプライチェーン全体での情報管理が課題です。一次サプライヤーだけでなく、二次・三次サプライヤーまで遡って原産性を確認する必要がある場合もあります。
トランプ関税との併用時は慎重な判断が必要です。USMCA原産地規則を満たしても、自動車分野では非米国産材料に25%の追加関税が課されるため、総コストを計算してUSMCAを利用するか通常税率で輸入するかを選択することになります。
一部の企業はUSMCA特恵関税を利用しない選択もしています。カナダおよびメキシコからのUSMCA特恵関税を利用しない自動車輸入は、2018年の0.2%から2022年には7.8%へと顕著に増加しました。厳格な原産地規則の遵守コストと特恵関税のメリットを天秤にかけた結果です。
定期的な社内研修とコンプライアンス体制の整備が不可欠です。2026年の見直しで規則が変更される可能性もあるため、最新情報を常にキャッチアップする姿勢が求められます。