撤回申出後でも、税関は貨物検査を実施できます。
輸入(納税)申告の撤回とは、税関に一度提出した輸入申告書を、輸入許可が下りる前に取り消す手続きのことです。根拠は関税法第7条第2項と、それを具体的に運用する関税法基本通達7-7に定められています。NACCSを使った電子申告が主流になった現在でも、この撤回の仕組みは書面申請と電子申請の両方に対応しており、それぞれで手順が若干異なります。
つまり「申告=確定」ではなく、許可前なら取り消しの余地があるということですね。
ただし、撤回が認められるには「正当な理由」が必要です。例えば、輸入予定の貨物を積戻し(関税法第75条)する必要が生じた場合、または保税運送をしなければならない事情が発生した場合などが典型的なケースとして挙げられます。単純な気変わりや書き間違い修正を目的とする場合は、後述するように別の手続きを使う必要があります。
また、NACCSでシステム申告を行った後に変更不可項目の訂正が必要になった場合も、訂正業務(IDA業務など)では対応できないため、いったん申告を撤回した上で内容を修正し、再申告するという流れになります。これは意外と見落とされがちな重要なポイントです。
変更不可項目の訂正は撤回しかないと覚えておけばOKです。
| 撤回が認められる主な理由 | 認められない理由 |
|---|---|
| 積戻し(関税法第75条)が必要になった | 納税申告の誤り是正のみを目的とする場合 |
| 保税運送が必要になった | 加算税の賦課決定を回避することが目的の場合 |
| NACCSの変更不可項目を修正する必要がある | 輸入許可後(許可後は撤回不可) |
| 違約品であることが判明した(BP承認貨物の例外) | BP承認後の原則(違約品を除く) |
参考:税関「輸入(納税)申告撤回申出書(C第5245号)」の注記事項。撤回後も関税法第67条に基づく貨物検査が実施される場合があることが明記されています。
税関様式C第5245号(輸入(納税)申告撤回申出書)|税関 Japan Customs
NACCSを使って輸入申告の撤回を行う方法は2パターンあります。一つは書面で「輸入(納税)申告撤回申出書」(税関様式C第5245号)を税関(通関担当部門)に直接持参・送付する方法、もう一つがNACCSの汎用申請業務(業務コード:HYS)を使った電子申請です。
これは使えそうです。
電子申請の場合、まず申請手続種別コード「GI6」(輸入(納税)申告撤回申出)を選択します。申請先は、当初の輸入申告を行った申告先官署に対して行う点がポイントです。別の税関官署に誤って送ると受け付けてもらえない可能性があります。手順を整理すると以下のとおりです。
重要なのは、事前に申告官署(通関担当部門)に電話等で申し出てからHYS業務を実施することです。書類だけ先に送りつけても、実際には事前連絡が必須とされています。また、添付する様式は汎用申請手続一覧からダウンロードした正規のフォームを使うことが原則です。
事前の電話連絡が条件です。
なお、HYS業務はNACCSの「時間外執務要請届(OSA業務)」の対象外のため、開庁時間外に撤回を急ぐ場合は事前に税関に電話連絡を入れる必要があります。深夜・休日など時間帯には特に注意が必要です。
参考:NACCSセンターが公開している汎用申請関係手続マニュアル。輸入申告撤回申出(GI6)の手続き詳細が確認できます。
第2節 汎用申請関係手続|NACCSセンター 税関手続関連(共通編)
ここは多くの実務担当者が誤解しやすいポイントです。関税法基本通達7-7には、「納税に関する申告を是正する必要があるとの理由のみによる申告書の撤回は認められない」と明確に記されています。そして括弧書きで「加算税に係る賦課決定を回避することを目的とするものを含む」とまで書かれています。
つまり「申告に間違いがあったので撤回してやり直したい」という理由だけでは、撤回申出は受け付けてもらえません。厳しいところですね。
では、申告内容に誤りがあった場合はどうすればよいのでしょうか? この場合は、関税法第7条の14・第7条の15・第7条の16に基づく修正申告(過少申告の場合)や更正の請求(過大申告の場合)を使う必要があります。修正申告の場合、自主的な修正であれば過少申告加算税が原則ゼロですが、税関の調査通知後に修正申告した場合は増加税額の5%が課される点も頭に入れておきましょう。
修正申告か更正の請求が正しい手続きです。
また、BP(輸入許可前貨物引取承認)承認後の貨物については、原則として申告撤回が認められません。例外は「輸入許可前に違約品であることが判明した場合」に限られます。仮にBP承認後に申告内容の誤りに気づいても、撤回を使わず修正申告で対応することになります。BP制度を使う業務では特に注意が必要です。
参考:関税法基本通達7-7の全文。撤回が認められる条件と、加算税回避目的の撤回が不可であることが明記されています。
関税法基本通達 第2章第2節「申告納税方式による関税の確定」|税関 Japan Customs
撤回申出書を提出すれば手続きが終わり、と思っていませんか? 実は税関様式C第5245号の注記には、「輸入(納税)申告の撤回申出後であっても、税関では、関税法第67条の規定に基づき、貨物の検査を行う場合があります」と明記されています。これは実務担当者でも見落としがちな重要事項です。
撤回後も検査はあり得ます。
関税法第67条は、輸入申告を受けた税関長が必要と認めたときに貨物検査を実施できる根拠規定です。この権限は申告の撤回申出とは独立しており、撤回申出があったからといって検査がキャンセルされるわけではありません。撤回申出後に検査が行われた場合、その貨物に問題が発見されれば、当然ながら輸入が認められない状況になる可能性があります。
また、関税法基本通達7-7の(3)には「申告撤回の申出があった場合において、必要があると認められるときは、当該申告の撤回を認める前に検査を行うことができる」とも規定されています。つまり撤回を認める前にも検査が入りうるということです。撤回を申し出た時点で「リセット」になるわけではなく、むしろ税関側が「なぜ撤回するのか」を確認するプロセスが同時進行することになります。
撤回=白紙には戻らないということですね。
このような実態を踏まえると、撤回を申し出る前に輸入者・通関業者間でしっかりと理由・背景を整理し、担当税関に口頭でも十分説明できる状態にしておくことが重要です。税関との事前コミュニケーションが、スムーズな撤回手続きの鍵を握ります。輸入業務に詳しい通関士や通関業者に相談しておくと安心です。
参考:税関が公表している輸入通関に関する各種情報。撤回申出書(C-5245)のWordファイルダウンロードも可能です。
NACCSの実務では、「撤回」と混同されやすい手続きとして「手作業移行」があります。どちらもシステム上の申告を"一度止める"操作に見えますが、目的と結果が全く異なります。この違いを知っておくと、現場での判断ミスを防ぐことができます。
手作業移行は申告取消ではなく、書面処理への切り替えです。
手作業移行とは、NACCSのシステム処理ができない事由(例:補正・是正により申告欄数が99欄を超える場合、内国消費税の受入科目が6科目を超える場合、訂正が9回を超える場合など)が生じた際に、書面での通関処理に切り替える手続きです。申告を"キャンセル"するわけではなく、あくまでシステム処理から書類処理に移行するだけです。
一方、撤回はその申告そのものを無効にし、新たに申告し直すことを前提とした手続きです。手作業移行の場合は輸入許可等まで実施可能ですが、撤回は「許可又は承認まで」という点は共通しています。
| 項目 | 撤回(CID業務・HYS/GI6) | 手作業移行 |
|---|---|---|
| 目的 | 申告そのものを無効にする | システム処理→書面処理に切替え |
| 申告の継続 | 再申告が必要 | 同一申告が書面で継続される |
| 主なトリガー | 積戻し・保税運送・変更不可項目訂正 | 申告欄数99超・訂正9回超など |
| 実施可能時期 | 輸入許可・承認まで | 輸入許可等まで |
こうした細かい使い分けが、輸入通関の現場では毎日のように必要になります。NACCSセンターが公開している「税関手続関連(航空編・海上編)」のPDF資料は、撤回・手作業移行・訂正それぞれの条件と手順が体系的にまとめられており、手元に置いて確認する価値があります。現場の疑問はNACCSセンターのQ&Aページ(bbs.naccscenter.com)でも随時対応しています。
参考:NACCSセンターが公開する海上貨物の撤回・手作業移行に関する手続きマニュアル。撤回可能時期や手作業移行事由が詳しく解説されています。
第5節 許可又は承認情報の登録並びに撤回及び手作業移行手続(海上貨物編)|NACCSセンター