薬事規制とは何か通関業従事者が知るべき基礎知識

薬事規制とは何か、通関業従事者の視点からわかりやすく解説します。輸入申告で見落としがちな規制の落とし穴や、違反時のリスクを具体的に紹介。あなたの業務は本当に大丈夫ですか?

薬事規制とは:通関業従事者が押さえるべき基礎と実務への影響

「薬事規制を"なんとなく"把握しているだけで輸入申告をすると、1件あたり最大300万円の罰金と前科がつく可能性があります。」


この記事の3つのポイント
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薬事規制の定義と根拠法

医薬品医療機器等法(薬機法)を中心とした薬事規制の全体像と、通関業務に直結する規制の範囲を整理します。

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輸入通関での違反リスク

知らなかったでは済まされない規制区分と、実際の行政処分・刑事罰の事例を具体的に解説します。

実務での確認フローと対策

輸入申告前にどの機関・書類を確認すべきか、通関業従事者として最低限やるべきチェックポイントを紹介します。


薬事規制とは何か:薬機法を軸にした法律体系の全体像

薬事規制とは、医薬品・医療機器・医薬部外品・化粧品などの製造・販売・輸入・流通に関して、国が安全性と有効性を確保するために設ける一連のルールの総称です。日本では主に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称:薬機法、旧薬事法)がその中心に位置します。2014年の改正で「薬事法」から「薬機法」へ名称が変わっており、現在はこの薬機法が基本法として機能しています。


通関業務の観点からは、輸入品が薬機法の規制対象に該当するかどうかを判断する場面が最も重要です。規制対象は大きく4つに分類されます。「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器・体外診断用医薬品」です。さらに2019年の改正では「再生医療等製品」も明確に規制対象として位置づけられました。つまり非常に幅広いカテゴリが対象です。


加えて、薬機法と連携して機能する関連法規も見逃せません。毒物及び劇物取締法(毒劇法)、麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)、覚醒剤取締法、大麻取締法などがそれぞれ特定の物質に対して規制を課しており、通関業従事者はこれらを複合的に理解しておく必要があります。これが基本です。


薬機法違反に関する厚生労働省の公式解説は、法律の条文だけでは読み解きにくいグレーゾーン事例も含めて確認できます。


厚生労働省:医薬品・医療機器に関する情報ページ


薬事規制とは何か:通関実務で問われる「該当性判断」の難しさ

通関業務で最も頭を悩ませるのが、輸入品が薬機法の「医薬品」に該当するかどうかの判断です。意外ですね。なぜ悩むかというと、薬機法上の「医薬品」は「成分」だけで決まらず、「用途」「表示」「形状」の3要素を総合的に判断するからです。


たとえば、同じカプセル状のサプリメントでも、ラベルに「疲労回復」と書かれていれば医薬品的効能効果の標榜とみなされ、無承認医薬品として規制対象になります。一方、「栄養補給に」という表示であれば食品として扱われる可能性があります。形状も同じ、成分も似ている。それでも規制区分が異なります。


この「薬機法における医薬品の定義」は第2条に規定されており、①日本薬局方に収載されているもの、②人や動物の疾病の診断・治療・予防を目的とするもの、③身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的とするもの(ただし食品・医療機器を除く)の3点のいずれかに該当すれば医薬品です。この3点が条件です。


通関業従事者が特に注意すべきは、海外の輸出者が「これはフードサプリです」と主張していても、日本の規制当局が判断するのは日本基準である点です。外国側の分類はあくまで参考に過ぎません。最終的な判断は厚生労働省および税関の双方が行います。輸入差し止めの事例では、外国製の「健康食品」が日本では医薬品成分(シルデナフィルやシブトラミンなど)を含有していたケースが複数報告されています。


税関:輸入が禁止・制限されている主な貨物(医薬品・医療機器関連含む)


薬事規制とは何か:輸入通関で必要になる承認・許可・届出の種類

薬機法の規制対象品を輸入する場合、単に関税を払えば済む話ではありません。必要な手続きが複数あります。どういうことでしょうか?


まず大前提として、医薬品や医療機器を業として輸入するには「医薬品等輸入販売業」または「医療機器輸入販売業」の許可(または認定)が必要です。これは薬機法第12条・第23条の2等に基づくもので、都道府県知事への申請を経て取得します。許可なしに業として輸入すれば、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります。これは無視できません。


次に、製品ごとの「製造販売承認」または「認証」「届出」が必要です。医薬品であれば製造販売承認(第14条)が原則必要で、リスクの低い一般医療機器(クラスⅠ)であれば届出のみで済みます。高度管理医療機器(クラスⅢ・Ⅳ)になると第三者認証や承認が必要です。つまりクラスによって手続きが異なります。


輸入通関の申告時には、税関に対して「薬監証明」(薬事監視証明書)の提示が求められる場合があります。これは、厚生労働省の地方厚生局または都道府県の薬務担当部署が発行するもので、当該製品が合法的に輸入できる状態にあることを証明するものです。この証明書なしに申告を進めようとすると、税関で差し止められます。薬監証明は必須です。


なお、個人使用目的の少量輸入(いわゆる「個人輸入」)については、一定の条件のもとで薬監証明が不要となるケースがありますが、これはあくまで個人が自分のために使う場合の話です。業として輸入する通関業務ではこの例外は適用されません。この区別は基本です。


厚生労働省:薬監証明に関する案内ページ


薬事規制とは何か:通関業従事者が見落としやすいグレーゾーン品目と実務上の判断フロー

薬事規制の実務で最も危険なのは「黒」ではなく「グレー」です。明らかな医薬品(注射剤・錠剤など)は経験上わかります。しかし問題になりやすいのは、一見すると雑貨や食品に見える製品が薬機法の規制対象に引っかかるケースです。


代表的なグレーゾーン品目を整理すると以下のようなものがあります。


  • 🌿 健康食品・機能性サプリ:成分に医薬品成分(たとえばシルデナフィル、フェンフルラミン、メラトニンの高濃度品など)が含まれていると無承認医薬品扱いになります。
  • 💄 美容系機器・美容器具:LED照射器・超音波機器・EMSデバイスなどは、用途の標榜次第で医療機器(クラスⅡ以上)と判断されることがあります。
  • 🧴 化粧品・スキンケア品:「シミを治す」「肌の細胞を修復する」等の表現は医薬品的効能の標榜に当たり、医薬品または医薬部外品として扱われる場合があります。
  • 🐾 動物用製品:ペット向けサプリ・動物用医薬品も薬機法(または動物用医薬品等取締規則)の対象になりえます。
  • 🔬 体外診断用キット:COVID-19以降、急増した検査キット類。2021年以降は体外診断用医薬品として規制が強化されており、輸入には承認が必要です。


実務上、判断に迷ったときの確認フローとしては、①まず厚生労働省の「薬事工業生産動態統計」や既存の承認品目一覧で類似品の区分を確認する、②次に厚生労働省の相談窓口(地方厚生局)へ照会する、③それでも不明な場合は輸入者に成分表・製品説明書の提出を求めた上で税関の事前照会制度を利用する、という順序が現実的です。この順序が原則です。


税関の「事前教示制度」は、輸入前に品目分類や規制適用の可否について税関から回答を得られる制度で、回答には一定の拘束力があります。時間コストはかかりますが、差し止めや処分リスクを考えれば活用する価値は十分あります。これは使えそうです。


税関:事前教示制度の概要と申請方法


薬事規制とは何か:2024年改正の動向と通関業従事者が今すぐ確認すべき変更点

薬機法は頻繁に改正されます。これが厳しいところですね。直近では2019年改正(2020年施行)で添付文書の電子化義務化・課徴金制度の導入・フォローアップ調査の義務強化などが実施されました。通関の現場への影響という観点で特に重要だったのは「外国製造業者認定制度の強化」です。輸入品の製造元(外国工場)も日本の薬機法上の認定を取得する必要があり、この認定がない工場からの製品は輸入できません。


2023年から2024年にかけての動向としては、医療機器のサイバーセキュリティ要件の追加が注目されています。ソフトウェアを含む医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)に対して、製品のサイバーセキュリティリスクに関する資料の提出が求められるようになりました。デジタルヘルス製品を扱う輸入案件では、この要件が通関手続きの新たなハードルになっています。意外な盲点です。


また、2024年時点で厚生労働省が進めている「薬機法の見直し検討(令和6年度)」では、OTC医薬品のEC販売規制の緩和・緩和に伴う新たな義務付けの議論が行われています。これはオンラインで完結する個人輸入の増加と絡んで、通関業務にも間接的な影響を及ぼす可能性があります。


通関業従事者として今すぐやるべきことは、厚生労働省の薬事審議会議事録や官報の改正告示をウォッチするルーティンを作ることです。改正施行日と輸入申告タイミングのズレは、適切に許可・承認を取得していたはずの品目が突然規制対象になるという事態を招きます。最低でも四半期に1回は確認する習慣が必要です。四半期に1回が目安です。


薬事規制の改正情報は厚生労働省の医薬・生活衛生局のページで定期的に更新されています。ブックマークしておくと確認が一度で済みます。


厚生労働省:薬機法関連の法令・通知一覧(医薬・生活衛生局)


改正年 主な改正内容 通関業務への主な影響
2014年 薬事法→薬機法へ改称、医療機器の独立規定化 医療機器の輸入承認手続きの明確化
2019年(2020年施行) 添付文書電子化、課徴金制度導入、外国製造業者認定強化 外国工場の認定確認が必須に
2021年 体外診断用医薬品の規制強化(検査キット類) 輸入申告時の承認番号確認が必要に
2023〜2024年 SaMDのサイバーセキュリティ要件追加 デジタル医療機器の資料要件が増加