「衣類のつもりで申告したら薬機法違反で貨物が留め置かれます。」
ワークマンが2025年9月に販売開始し、最初の1週間で約40万点を売り上げた「MEDIHEAL®(メディヒール)」というリカバリーウェアをご存じでしょうか。2025年1月から12月の1年間で300万着が売れ、2026年2月の新作発表会では「年間2100万着の販売計画」が宣言されるほど急成長している商品です。
ここで通関業従事者として押さえておきたいのが、このメディヒールの法的位置づけです。
メディヒールは、見た目はごく普通のTシャツやパジャマですが、「一般医療機器(クラスI)」として厚生労働省に届け出された医療機器です。正式な一般的名称は「家庭用遠赤外線血行促進用衣」(JMDNコード:71105001)といい、製造販売届出番号も付与されています。製造販売業者はファーストメディカル株式会社で、販売業者がワークマンという構造になっています。
つまり衣類ということですね。しかし同時に医療機器でもあります。
この「衣類でもあり医療機器でもある」という二面性が、輸入通関の実務で非常に重要なポイントになります。遠赤外線の血行促進作用により疲労回復や筋肉のコリ改善が期待できるとして届け出がなされており、薬機法(医薬品医療機器等法)の規制対象に含まれます。一般医療機器はリスク分類上「クラスI」、つまりメスやピンセットと同じ最低リスク区分ですが、それでも薬機法の手続きは必要です。
では、なぜ単なる衣類に見えるものが医療機器として認められるのでしょうか。仕組みは次のとおりです。繊維に高純度セラミックスを練り込み、着用者自身の体温で放出される遠赤外線をそのセラミックスが再輻射することで、血流量を増やす効果を持たせています。業界自主基準では、未加工品と比べて遠赤外線放射率が5%以上高いこと、120分着用時の血流量増加率が5%以上であることが求められており、FT-IR検査(フーリエ変換赤外分光法)と人体試験(臨床試験)によって裏付けが求められます。
これは使えそうです。通関業者として取り扱う機会は今後さらに増えるため、基礎知識として持っておくと業務に直結します。
税関カスタムスアンサー1805番:医薬品医療機器等法に基づく輸入規制の税関における確認内容(税関公式)
リカバリーウェアを輸入する際の通関手続きには、通常の衣類と異なる対応が必要です。これが原則です。
薬機法(医薬品医療機器等法)第12条・第13条の規定により、医療機器を業として輸入・販売するには「第三種医療機器製造販売業許可」(クラスIの場合)が必要です。関税法第70条では、輸入申告の際に医薬品医療機器等法上の許可・承認等を受けていることを税関に証明しなければならないと定められています。
| クラス区分 | 医療機器の例 | 必要な許可の種類 |
|---|---|---|
| クラスI(一般医療機器) | リカバリーウェア、メス、ピンセット | 第三種医療機器製造販売業許可 |
| クラスII(管理医療機器) | 血圧計、補聴器 | 第二種医療機器製造販売業許可 |
| クラスIII・IV(高度管理医療機器) | コンタクトレンズ、ペースメーカー | 第一種医療機器製造販売業許可 |
税関への輸入申告では、以下の書類を提示して確認を受ける必要があります。
なお、2016年1月1日以降、厚生局への輸入届の提出は不要となり、代わって輸入通関時に上記許可証等の写しを税関に提出する運用に変わっています。この変更を知らずに旧運用のまま動いている業者はいませんか?
輸入者と製造販売業者が異なる場合の取り扱いにも注意が必要です。製造販売業者が輸入申告の「代理人」欄に記載される形式でも申告できますが、その際に輸入者(販売業者等)の代わりに通関業務を行う場合は、通関業法に基づく通関業の許可を持った通関業者である必要があります。つまりこの場合、通関業者と製造販売業者の役割分担が明確でなければ、手続き上のトラブルに直結します。
また、一般医療機器(クラスI)の場合、個人使用を目的とした輸入では「家庭用器具1セット」の範囲内であれば許可なく輸入できる特例があります。ただし他人への売却・譲渡は認められません。業として輸入する場合は、この特例は適用されません。業として扱う場合は製造販売業許可が条件です。
JETROによる医療機器輸入手続き解説:HSコード・薬機法・電気用品安全法などの規制を網羅(JETRO公式)
通関業従事者にとって最も実務的に悩ましいのが、リカバリーウェアのHSコード(関税分類番号)の問題です。
リカバリーウェアは「衣類」か「医療機器」か、どちらに分類されるのでしょうか?
結論としては、HSコードはあくまで物品の性状・形状・材質に基づいて決まります。ワークマンのメディヒールのようなリカバリーウェアは、形状としてはTシャツやジョガーパンツであるため、原則として繊維製品の第61類(メリヤス編みのもの)または第62類(それ以外)に分類されます。たとえば、ポリエステル製の長袖クルーネックであればHS6109.90などが候補になります。
第90類(光学機器・精密機器)に含まれる「9018」などの医療機器用のHSコードは、電子的または機械的機能を持つ医療機器向けであり、繊維製品を素材とする衣類形状の医療機器に当てはまるケースは限定的です。これが条件です。
| 分類 | 主なHSコード | 関税率の目安 | 適用場面 |
|---|---|---|---|
| メリヤス編み衣類(61類) | 6109.90など | WTO協定税率 10.9%前後 | Tシャツ、長袖シャツなど |
| 非メリヤス編み衣類(62類) | 6211.33など | WTO協定税率 10.9%前後 | パンツ、トラウザーズなど |
ただし、税関は物品の「本質的性質」と「使用目的」も勘案します。リカバリーウェアは薬機法上の医療機器として届け出されていますが、税関の分類判断においては繊維製品としての形状・素材が優先されることが一般的です。この点は必ず事前教示制度を活用して税関相談官に照会することをお勧めします。
意外ですね。「医療機器」と聞くと第90類を想定しがちですが、繊維を素材とした衣類形状の場合は第61類・第62類が適用されるケースがほとんどです。そのため、輸入申告書の税番と薬機法の手続きを「別々のもの」として並行して処理する視点が実務の基本となります。
なお、EPAや特恵関税の適用も、最終的な税番に基づいて判断されます。誤った税番で申告するとEPA適用漏れや過少・過大申告のリスクがあるため、製品ごとに事前の確認が欠かせません。
鈴与(物流大手)による医療機器輸入物流ガイド:クラス区分・製造販売業許可・輸送上の注意点を実務目線で解説
リカバリーウェアの一般医療機器としての区分は、実は2022年10月に大きく変わっています。
以前は、一部のリカバリーウェアが既存の一般医療機器「温熱用パック」の名義で届出・販売されていました。しかし「温熱用パック」の定義は「加熱装置で加熱したパックを患部に当てる」ものであり、常時着用する衣類とは本来全く異なる枠組みでした。業界の抜け穴的な活用が続いていたわけです。
2022(令和4)年10月11日、厚生労働省は薬生発1011第7号の通知により、一般医療機器の一般的名称として「家庭用遠赤外線血行促進用衣」(JMDNコード:71105001)を新設しました。これにより、リカバリーウェアの法的根拠が「温熱用パック」から独立した専用カテゴリーへ移行し、1年間の猶予期間を経て旧名義での届出は廃止・移行が義務付けられました。
この変更によって届出区分の表記が一新されたため、輸入申告書に添付する製造販売届書の一般的名称を確認する際は、「温熱用パック」名義の古い届出書ではないかを必ず確認する必要があります。
さらに2025年8月にはQ&Aが改訂され、「家庭用遠赤外線血行促進用衣」として届出できる製品形状が「長袖シャツ」「長ズボン」「半袖シャツ」「半ズボン」の4種類に限定されました。あわせて、上半身用は少なくとも上腕部を、下半身用は少なくとも大腿部を被覆することが要件とされています。つまりタンクトップ、サポーター、レッグウォーマーなどのパーツ形状は対象外です。
この変更が実際の回収事例に直結しました。2025年11月、株式会社りらいぶが「リライブシャツα」「リライブスパッツα」の計約48万着を自主回収しました。理由は、プリント加工部分のみに遠赤外線機能を付与した構造が「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の定義(衣類全体が遠赤外線を輻射すること)に合致しないと判断されたためです。痛いですね。
通関業者の視点では、輸入時点での届出書の「一般的名称」欄と実際の製品仕様が一致しているかどうかを確認する業務が、この分野では特に重要になります。届出書が最新の規制に即して更新されているかどうかも確認ポイントです。
リカバリーウェア規制の変遷(2022〜2026年)を包括解説:温熱用パックからの移行経緯・Q&A改訂・回収事例を詳細に分析
通関業従事者は輸入申告だけでなく、輸入貨物に付随する書類・ラベル・広告表示の内容が適法かどうかも確認の視野に入ります。
リカバリーウェアの広告表現には薬機法と景品表示法のダブル規制がかかっています。これが基本です。
上記の「認められない表現」を謳う場合は、別途「新医療機器」として臨床試験データを揃えた上で厚生労働大臣の承認を取得する必要があります。「血行促進」という言葉のみであれば、一般医療機器の届出がなくても表示できることを厚生労働省は2022年の通知で示しています。
過去には「着るだけで筋力アップ」を謳った着圧シャツが景品表示法違反として措置命令を受けた事例があります。一般衣類として販売しながら、医療機器的な効能効果を科学的根拠なく表示したことが問題となりました。一方、ワークマンのメディヒールは「一般医療機器」として届出を行い、届出に記載された効能効果の範囲内で「疲労回復」と表現しているため、薬機法・景品表示法のいずれにも違反しません。
輸入される商品のパッケージや添付文書に日本語以外の言語で効果効能の表記がある場合、それが日本の薬機法の範囲を超えていないかどうかを事前に確認することが実務的には重要です。特に、中国語・英語表記のまま輸入される製品では、原文の表現が日本の法規制と整合しているかどうかの確認が求められる場面があります。
なお、「一般医療機器」は届出制であり、PMDAへの届出と都道府県知事への製造販売業許可の取得が必要です。一部のブランドでは届出を行いつつもエビデンス(FT-IR試験・人体試験のデータ)が不十分なケースがあると指摘されており、厚生労働省が抜き打ちで確認することがあるという情報も出ています。エビデンスを揃えていない場合は届出の取り消し・販売中止・回収の指示が出る可能性があります。
これは使えそうです。通関業者として、輸入者に事前に確認を促す際のチェックポイントとして活用できます。
薬機法とリカバリーウェアの最新動向:「疲労回復」を謳える理由・景品表示法違反の着圧シャツとの違いをわかりやすく解説
「個人でリカバリーウェアを海外から取り寄せたいのだが、通関の手続きはどうすればよいか」という問い合わせを受けた場合、通関業者は何を確認すべきでしょうか。
個人使用の場合と業務使用の場合では、適用されるルールが全く異なります。
まず個人使用の場合です。家庭用医療機器(マッサージ器や体温計など)に限り、最小単位(1セット)であれば許可なく輸入できます。リカバリーウェアは「家庭用遠赤外線血行促進用衣」として家庭用医療機器に該当するため、1セット(上下セット)の個人輸入は原則として認められます。ただし他人への売却・譲渡は禁止です。
次に業務として輸入する場合です。この場合は、医療用具を業として輸入するための製造販売業許可(第三種)の取得が必須です。さらに外国製造所で製造された製品の場合は、外国製造業者登録(FMR)も要求されます。荷主がこれらの許可を持っていない場合は、輸入前に都道府県の薬務主管課への相談が必要です。
| 区分 | 必要な手続き | 注意事項 |
|---|---|---|
| 個人使用(1セット) | 原則不要(特例適用) | 他人への売却・譲渡は不可 |
| 業として輸入・販売 | 第三種製造販売業許可+PMDAへの届出 | 外国製造業者登録も別途必要 |
| 輸入後に包装・表示変更 | 上記に加えて製造業登録も必要 | ラベルの日本語化等も含む |
通関業者として荷主へ確認を促す判断基準は3つです。
1つ目は「業として輸入するか、個人使用か」の確認です。転売目的・一定量以上の注文はほぼ確実に「業として」の輸入と判断されます。2つ目は「製造販売業許可証を取得しているか」の確認です。輸入申告時に税関に提出が必要な書類であるため、事前に確認しておかないと申告が通らない事態になります。3つ目は「届出書の製品情報が最新の規制に適合しているか」の確認です。2025年8月のQ&A改訂以降、形状・被覆範囲の要件が厳格化されたため、古い届出情報のままでは問題が生じる可能性があります。
3つ目だけは事前に確認しておけばOKです。荷主から届出書のコピーを受け取り、一般的名称欄・形状欄・記載日付を目視で確認することが実務上のファーストステップになります。
税関カスタムスアンサー1806番:医薬品・化粧品等の個人輸入について(個人輸入の範囲・医療機器の特例を公式に解説)