メールで照会を送っても、それだけでは輸入申告時に関税評価が認められず、追徴税が発生することがあります。
輸入ビジネスにおいて「関税がいくらかかるか」は、仕入れコストを左右する最重要テーマのひとつです。その答えを輸入前に確定できる制度が、税関の「事前教示制度」です。
この制度には「関税分類(HSコード)」「原産地」「関税評価」「減免税」の4種類の照会区分があります。今回テーマとする「サンプル評価メール」とは、このうち「関税評価」に関する照会をメールで税関へ送る手続きのことを指します。関税評価とは、輸入貨物の課税価格(関税の計算基準となる金額)の決め方に関する解釈・適用を確認する照会です。
事前教示の照会方法は、①文書(郵送)、②口頭(電話・窓口)、③Eメールの3種類があります。メールによる照会は平成26年(2014年)6月1日から運用が開始された比較的新しい方法です。手軽に送れる半面、重大な落とし穴が存在します。それが次のセクションで詳しく説明する「原則として審査時に尊重されない」という問題です。
つまり「メールで照会して回答をもらったから安心」は危険です。メール照会の性質と限界を正確に理解したうえで使いこなすことが、関税コントロールの第一歩になります。
| 照会方法 | 審査時の尊重 | 回答の有効期間 |
|---|---|---|
| 文書(郵送) | ✅ 原則3年間尊重 | 回答書発出から3年間 |
| Eメール(通常) | ❌ 原則として尊重されない | なし |
| Eメール(文書切替後) | ✅ 原則3年間尊重 | 回答書発出から3年間 |
| 口頭(電話・窓口) | ❌ 原則として尊重されない | なし |
上記の通り、単純なメール照会の回答は法的な拘束力を持ちません。これが原則です。
参考:税関公式ページ/Eメールを利用した事前教示制度(関税評価)について
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/e-jizen_hyoka.htm
税関へのサンプル評価メールには、税関が定めた必須記載事項があります。これを1つでも漏らすと、照会として受理されない場合があります。必須です。
以下の8項目をEメール本文に必ず記載してください。
これらに加えて、「照会不可要件(6つ)に該当しない旨」をメール本文に明記することも義務付けられています。照会不可要件とは、仮定の取引や取引内容が未確定の貨物、機密保護が難しい案件などが含まれます。該当しない旨を一文入れておくだけで、税関側の確認作業がスムーズになります。
なお、税関は「事前教示に関する照会フォーム」をWord形式で公開しています。これを使うと記載ミスを防げます。記入後はPDFに変換してから添付するのが推奨形式です。添付ファイルの容量が大きすぎると受信できない場合があるため、できるだけファイルを圧縮してから送ることも重要です。
参考:税関/事前教示に関する照会フォーム(Word形式)
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/e-j-shoukai_h.doc
サンプル評価メールの宛先は、「貨物の主要な輸入予定地を管轄している税関」が原則です。輸入予定地が判明していない場合は、照会者(自社)の所在地を管轄している税関に送ります。管轄が違うと担当部署のたらい回しになる場合があるため、この選定は重要です。
以下が、全国9税関の関税評価担当メールアドレスの一覧です。
| 税関名 | メールアドレス | 電話番号 |
|---|---|---|
| 東京税関 | tyo-gyomu-hyoka@customs.go.jp | 03-3599-6411 |
| 横浜税関 | yok-hyoka@customs.go.jp | 045-212-6139 |
| 神戸税関 | kobe-hyoka@customs.go.jp | 078-333-3119 |
| 大阪税関 | osaka-hyoka@customs.go.jp | 06-6576-3358 |
| 名古屋税関 | nagoya-gyomu-hyoka@customs.go.jp | 052-654-4158 |
| 門司税関 | moji-hyoka@customs.go.jp | 050-3530-8385 |
| 長崎税関 | nagasaki-gyo-hyoka@customs.go.jp | 095-828-8667 |
| 函館税関 | hkd-shinsa@customs.go.jp | 0138-40-4256 |
| 沖縄地区税関 | oki-9a-tsuso2@customs.go.jp | 098-862-9281 |
なお、関税評価の文書照会(郵送)の場合、回答は「原則として照会書受理後90日以内」とされています。これはHSコード分類照会の30日よりも3倍長い期間です。関税評価は取引の実態に関わる複雑な判断を伴うため、それだけ審査に時間がかかる、ということですね。
メール照会の場合も同様に、数十日単位の余裕を見てスケジュールを組むことが必要です。回答が来る前に輸入申告が到来するという事態を避けるためにも、少なくとも輸入の3ヶ月前には照会を送るのが実務上のセオリーです。
一方、照会に不備がある場合は税関から「修正依頼」の返信が来ます。修正して再送するとその分だけさらに日数が延びます。最初の照会を丁寧に仕上げることが、結果的に最速のルートになります。
参考:東京税関 事前教示制度について
https://www.customs.go.jp/tokyo/zei/jizenkyoji.htm
通常のメール照会は「口頭照会と同等」として審査時に尊重されません。しかし条件を満たせば、メール照会を「文書による照会に準じた取扱い」へ切り替えることが可能です。切り替えが完了すると、回答書の発出日から3年間、輸入申告の審査において税関がその回答内容を尊重してくれます。これが最大のメリットです。
文書切替の対象となる3つの条件は以下の通りです。
この3条件をすべて満たす場合に限り、照会者が切替えを希望すると、税関から切替えた旨のメールが届きます。切替後は文書照会と同様の手続きになり、回答書は「税関官署での受取り」「郵送」「Eメールによる電磁的記録の送付」の3通りから選べます。
注意したいのは、切替えた回答書の内容は原則として税関ホームページに公開されることです。企業秘密に関わる情報が含まれる場合は、公表を猶予してもらう「非公開期間」の設定が可能です(最大180日間)。ただし個人を特定する情報は公開されません。
結論は「可能な限り文書切替まで持っていく」が原則です。手順のまとめは以下の通りです。
参考:税関/Eメールによる事前教示の照会(文書による照会に準じた取扱いを希望する場合)
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/e-jizenbunsyo.htm
関税に興味を持つ方が見落としやすい落とし穴として、「無償サンプルの関税評価」という問題があります。サプライヤーから評価用に無償で送ってもらうサンプル品の輸入は、多くの輸入者が経験します。
「タダでもらったのだから申告額は0円でいい」と考えがちです。しかし、これは誤りです。インボイスに「0円(JPY 0)」と記載すると、税関で通関が止まります。
なぜかというと、関税の課税価格は「支払った金額」ではなく「貨物が持つ価値」に基づいて決定されるルールだからです。たとえ無償であっても、商品には市場価値が存在します。税関はインボイスに記載されたゼロ価格を「申告価格不備」と判断します。
正しい対応は以下の通りです。
なお、関税定率法第14条第6号には「注文取り集めのための見本で、見本用にのみ適するもの、または著しく価額の低いもの、または輸入後に無償で配布されることが明らかなものについては関税の免除を受けることができる」と規定されています。ただしこれは自動的に免税になるのではなく、免税の申請を行い認められた場合に限られます。
この点のメールでの事前照会を税関に行っておくと、通関時の不要なトラブルを防げます。これは使えそうです。
参考:JETRO/海外から見本を送ってもらう際の免税手続き
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04H-100315.html
関税評価の世界で、多くの輸入者が見落としているのが「評価申告漏れ」のリスクです。税関の事後調査は輸入申告日から遡って原則5年間が対象になります。もし評価申告が漏れていたことが発覚すると、不足税額の追徴に加えて過少申告加算税・延滞税が発生します。痛いですね。
評価申告が必要になる主なケースは以下の通りです。
こうした複雑な取引条件がある場合こそ、事前にサンプル評価メールを活用して税関の見解を取り付けることが有効です。評価申告には「個別評価申告」と「包括評価申告」の2種類があります。同一内容の輸入取引を繰り返す場合は包括評価申告が使えるため、一度正しく評価を確定させると、以後の個々の申告書提出を省略できる大きなメリットがあります。
具体的な行動として、まず自社の輸入取引に上記の加算要素が含まれていないかをチェックし、不明な点があればサンプル評価メールで税関に照会する、という順番が効率的です。
参考:丸一海運株式会社ブログ/評価申告の基本
https://mkc-net2.com/regarding-the-evaluation-declaration/