輸入品の価格拘束が「適法」に見えても、実は独占禁止法違反で課徴金が発生するケースが7割超あります。
再販売価格維持(RPM:Resale Price Maintenance)とは、製品を製造・供給するメーカーや輸入元が、卸売業者・小売業者などの流通段階にある事業者に対して、販売価格を指定・拘束する行為のことを指します。日本では、公正取引委員会が策定した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(流通・取引慣行ガイドライン)」がその判断基準として機能しています。
このガイドラインは2017年に大幅改定され、現在の基準が形成されました。改定前に「グレーゾーン」とされていた行為の多くが、明確に違法または合法として整理されています。知らないと損です。
再販売価格維持行為は、独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)第2条第9項第4号に規定された「不公正な取引方法」の一類型に該当します。具体的には、「再販売価格の拘束」として位置づけられており、公正取引委員会の告示(不公正な取引方法・一般指定13項)においても明文化されています。
違反した場合、メーカーや供給者には排除措置命令が下され、さらに売上額の一定割合(最大で関連売上高の6%)が課徴金として課される可能性があります。この課徴金の対象となった事例は過去に複数あり、2019年以降だけでも公正取引委員会が排除措置命令を出した事案は数件に上ります。基本は「拘束は原則違法」です。
一方で、輸入品においては、国内品と同様にこのガイドラインが適用されます。通関業従事者にとっては「輸入通関が完了したら業務終了」というイメージがあるかもしれませんが、輸入者が締結する取引契約の内容によっては、通関後の流通行為についても法的な問題が波及することがあります。
参考リンク(公正取引委員会の流通・取引慣行ガイドライン本文・独占禁止法との関係を詳述)。
公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」
ガイドラインにおいて、価格拘束が「違法な再販売価格維持」と判断されるには、いくつかの要件が重なる必要があります。単に「価格の目安を提示する」だけでは必ずしも違法にはなりません。問題になるのは「拘束性」の有無です。
具体的には、①メーカーや供給者が流通業者に対して特定の価格で販売するよう「義務付け」ていること、②その価格を守らない業者に対して取引停止・リベートの削減・出荷停止などの「制裁」を加えていることが、違法性判断の核心とされています。つまり強制力が条件です。
たとえば、ある輸入品のメーカーが日本の代理店に対して「最低販売価格1万2,000円を下回る場合は翌月の出荷量を半減する」という条件を設定していたとします。この場合、価格拘束+制裁の構造が揃っており、ガイドライン上は明確に違法な再販売価格維持行為と見なされます。
一方、「推奨小売価格(希望小売価格)」として価格を提示し、それを遵守しなくても何ら不利益を与えない場合は、原則として違法にはなりません。これは「拘束なき価格提示」と呼ばれ、ガイドラインでも適法と整理されています。実務上は区別が難しいケースも多いです。
通関業従事者にとって注意すべきなのは、インボイスや契約書に記載された価格条件の内容です。輸入申告の際に使用するコマーシャル・インボイスに「Resale Price Not Below USD XXX」などの文言が含まれている場合、それが独占禁止法上の問題を含む契約条件である可能性があります。
| 行為類型 | 価格提示の方法 | 制裁の有無 | 独禁法上の判断 |
|---|---|---|---|
| 希望小売価格の提示 | 推奨価格として提示 | なし | ✅ 原則適法 |
| 最低価格の義務付け | 最低価格を契約で規定 | あり(出荷停止など) | ❌ 違法(RPM) |
| 価格維持協力の要請 | 口頭・メールでの指示 | 実質的あり | ⚠️ 状況によって違法 |
参考リンク(公正取引委員会による排除措置命令事例・課徴金事例の一覧)。
公正取引委員会「報道発表資料(排除措置命令・課徴金納付命令)」
再販売価格維持が「原則違法」である中で、法律上明示的に適用除外とされている分野があります。それが「著作物再販制度」です。意外ですね。
独占禁止法第23条第4項は、書籍・雑誌・新聞・音楽CDなどの著作物について、発行者が定めた価格での販売を維持することを例外的に認めています。これは文化的多様性の保護や流通維持の観点から設けられた特別ルールです。ただし、この例外は非常に限定的です。
通関実務に関連させると、海外から輸入される書籍・CDなどの著作物については、この著作物再販制度が適用されるかどうかが問題になります。公正取引委員会の解釈によれば、著作物再販制度の適用を受けるのは「国内発行・国内流通を前提としたもの」であり、輸入された外国版著作物には必ずしも適用されないとされています。輸入版には適用外が原則です。
したがって、輸入書籍や輸入CDの流通において、外国メーカーや版元が価格拘束条件を課してきた場合でも、著作物再販制度を根拠に「適法」とすることはできないケースが多くあります。これは多くの実務担当者が勘違いしがちな点です。
また、2023年以降、デジタルコンテンツ(電子書籍・音楽配信など)については著作物再販制度の適用範囲外とする方向での議論が続いており、公正取引委員会も継続的にモニタリングを実施しています。
参考リンク(著作物再販制度の詳細な解説・公正取引委員会の調査報告書)。
公正取引委員会「著作物再販制度の取り扱いについて」
通関業務の現場では、インボイスの価格審査・関税評価・輸入申告書の作成が主な業務とされます。しかし、輸入者(依頼人)が締結している売買契約や代理店契約の内容が、独占禁止法上の問題を抱えているケースがあります。
実務的に最も注意すべきなのは「関連者間取引(関連会社取引)」における価格設定です。親会社・子会社間の取引や、本社・海外支店間の取引では、本社が子会社・代理店に対して再販価格を指示するケースが多く見られます。これが文書化されていると、ガイドライン違反の直接的な証拠になります。
また、税関に提出するインボイスや輸入者が保管する契約書に、「Minimum Resale Price」「Suggested Retail Price(遵守義務付き)」などの文言が含まれている場合、それを確認した通関業者が適切なアドバイスをしなかったことで、後に輸入者から責任を問われるリスクがゼロではありません。これは厳しいところですね。
さらに、関税評価においても間接的な関連があります。世界貿易機関(WTO)の関税評価協定および日本の関税定率法第4条に基づく課税価格の計算において、「価格拘束条件が付いた取引価格」は課税価格として採用できない場合があります。具体的には、関税定率法第4条第2項第2号が「輸入貨物の処分又は使用についての制限」がある場合には取引価格を使用できないと規定しており、再販価格拘束条件がこの「制限」に該当すると税関が判断するケースが存在します。
参考リンク(関税定率法第4条に基づく課税価格決定の詳細・税関の取り扱い)。
財務省関税局・税関「課税価格の決定方法」
では、通関業従事者としてガイドラインの知識をどのように実務に組み込めばよいのでしょうか?対応を体系化することで、リスクを大幅に減らせます。
まず、輸入者から提供される書類を受領した段階で「価格関連条件の確認チェック」を行うことが基本です。インボイスや売買契約書(あれば代理店契約書)に「Minimum Price」「Price Maintenance」「Resale Price Restriction」などの文言がないか確認します。これは1回の確認で完了するシンプルな作業です。これが第一歩です。
次に、問題のある文言を発見した場合は、輸入者に対して書面で情報提供することが重要です。「この条件は日本の独占禁止法および流通・取引慣行ガイドライン上、問題を含む可能性がある」旨を記録に残した形で伝えることで、後のトラブルにおいて通関業者の善意・適切対応を示す証拠になります。
また、課税価格の決定においても、価格拘束条件付き取引については税関への事前相談(関税評価に関する事前教示申出)を活用することを検討してください。事前教示制度を使えば、税関の判断を書面で確認でき、申告後のトラブルを予防できます。これは使えそうです。
さらに、契約書類を通関業者自身が保管・管理する場合は、個人情報保護法および秘密保持義務の観点から、輸入者の同意を得た上で適切に管理することも求められます。
公正取引委員会は流通・取引慣行ガイドラインを随時改定しており、2017年の大改定以降も補足的な解釈が追加されています。
参考リンク(税関による事前教示制度の概要・申請方法)。
財務省関税局・税関「事前教示制度(関税評価)」
実務の現場では「通関業務は書類の処理だから、取引契約の内容は関係ない」と考えている担当者も少なくありません。しかし、課税価格の算定根拠・契約条件の内容・独占禁止法上の問題は、通関業務と直接・間接につながっています。ガイドラインを知ることが、業務の質を高め、依頼人へのリスク提言力を高める最短ルートです。