航路変更(ダイバート)が起きても、貨物の輸入申告は原則そのままでOKだと思っていると、保税運送の再手配漏れで貨物が何日も足止めになることがあります。
航路変更(ダイバート)とは、飛行機が出発前に申告した目的空港への着陸を断念し、別の空港に着陸することを指します。英語では "divert"(転じる)という動詞が語源で、航空業界では「代替着陸」とも呼ばれます。旅客便でもたびたび発生しますが、航空貨物専用機(フレイター)でも同様に起こりえる事象です。
主な発生原因としては、台風・濃霧・雷雨などの悪天候、目的空港の滑走路閉鎖、機体の機械トラブル、乗員・乗客の急病対応、空港混雑による着陸許可不取得などが挙げられます。これは読者の予想どおりかもしれません。しかし実際の影響は想像より広範囲に及びます。
日本の実例として有名なのは、2009年3月23日に発生した成田国際空港でのFedEx貨物専用機の炎上事故です。この事故によりA滑走路が即日閉鎖され、その日だけで国際・国内線合わせて130便が欠航、50便がダイバートを余儀なくされました。翌24日の滑走路再開まで、空港開港以来最長の閉鎖時間となり、フォワーダーや通関業者は独自に情報収集しながら対応にあたりました。これは「偶然の話」ではなく、実務者が実際に経験した事案です。
また2008年のバンコク・スワンナプーム国際空港占拠事件では、10日間の空港機能停止によって1日あたり30億バーツ(約81億円)の輸出入損失が試算されており、航空貨物の通関停止が荷主に与える経済的ダメージの大きさを示しています。つまり、航路変更は「乗客の問題」ではなく、「輸入貨物を扱う通関業者の問題」でもあるということです。
【国土技術政策総合研究所】代替空港からの代替輸送に係る業務継続の検討(FedEx事故・バンコク事件の詳細と空港対応)
ダイバートが発生した場合、通関業者として最初に頭に入れておくべきことは、「貨物が降ろされるかどうか」によって手続きの流れが根本的に変わるという点です。
飛行機が燃料補給や機体点検のためだけに一時的に代替空港に立ち寄り、貨物は全て機内に残ったまま当初の目的空港へ向かうケースがあります。この場合は、基本的に通関手続きの内容に変更はありません。貨物は元の積荷目録のまま目的空港に到着し、通常どおりの輸入申告・保税地域搬入の流れとなります。大丈夫なケースです。
問題が発生するのは、ダイバート先の空港で貨物が陸揚げされる場合です。関税法第15条の規定により、外国貿易機が税関空港に入港する際は、機長等が所定の入港手続きを行う義務があります。ダイバート先が税関空港(開港)であれば、到着後直ちに入港手続きが必要となります。
さらに関税法が定める航空貨物に係る事前報告制度(ACI制度)では、原則として入港の3時間前までにNACCSを通じて積荷目録をオンライン報告することが義務付けられています。ただし、「通信設備の故障」「異常な気象」「航空機の重大な損傷による急迫した危難」「脅迫または国の機関の指示による強制入港」などのやむを得ない事由により、あらかじめ報告することが困難な場合は、報告が免除される規定が設けられています(関税法施行令第13条第1項)。これが原則です。
つまり、緊急ダイバートによる急迫した事情がある場合には、事前のACI報告がなくても直ちに違反とはなりません。入港後直ちに書類を提出することで対応が可能です。一方、報告を怠ったり虚偽報告をした場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則規定があります。この罰則は覚えておく必要があります。
【財務省関税局】航空貨物に係る事前報告制度の拡充について(手引き)第1版(ACI制度の詳細・報告免除規定・罰則を網羅)
ダイバート先の空港で貨物が陸揚げされた後、当初の目的空港(例:成田・関西・中部など)で輸入通関を行いたい場合、「保税運送」という手続きが必要になります。これが実務上の核心です。
保税運送とは、外国貨物のままの状態で、税関の承認を得てある保税地域から別の保税地域へ貨物を運送する手続きです(関税法第63条)。輸入申告・関税納付が完了していない外国貨物は、原則として保税地域の外に出すことができません。そのため、ダイバート先空港の保税地域から目的地の保税地域まで貨物を移送するには、必ずこの保税運送の承認を受ける必要があります。
実務上の手順を整理すると、次のような流れになります。まずダイバート先空港での入港手続きと積荷目録の確認・提出。次にNACCSを使用した保税運送申告(関税法第63条に基づく承認申請)。承認取得後、陸路(トラック)または航空機による目的空港の保税地域への移送。最後に目的空港での通常の輸入(納税)申告という流れです。
重要なのは、保税運送中の貨物は依然として「外国貨物」の状態であるという点です。保税運送の承認なしに貨物を移動させると、関税法違反となります。また保税運送には期限があり、原則として承認の日から所定の期間内に目的地に到着させる必要があります。期限内に到着しない場合、関税が課せられることがあるため注意が必要です。
さらに、ダイバート先が税関空港ではない空港(例:自衛隊基地など)の場合は、「不開港入港」の扱いとなり、別途税関長への届出や許可が必要になります。この場合は手続きが複雑になるため、所轄税関への迅速な連絡・確認が不可欠です。通関業者として先手を打つことが肝心です。
【フォーサイト】通関士の実務でも役に立つ!外国貨物のまま運送できる「保税運送」とは(保税運送制度の基礎から実務対応まで)
ダイバートによって最も影響が大きいのが、他法令該当貨物の扱いです。航空貨物には、関税法のみならず食品衛生法・植物防疫法・薬機法・動物検疫法などのいわゆる「他法令」の規制を受けるものが多く含まれます。
とりわけ植物検疫は「ファーストポート原則」が適用されます。外国から日本に到着した植物は、最初に到着した空港(ファーストポート)で植物防疫法に基づく輸入検査を受けなければなりません。これは原則です。つまりダイバートによって当初予定と異なる空港に貨物が到着した場合、その空港に植物防疫所の窓口があり、かつ対象品目の検疫対応が可能であれば、そこで検疫を受けることになります。
しかし問題が生じるのは、ダイバート先空港の植物防疫所が未整備または検疫対応不可能な場合です。この場合は貨物を当初の目的空港へ保税運送した上で、目的空港の植物防疫所で検疫を受けるという手順が必要になります。食品衛生法に基づく届出と検査が必要な食品貨物についても、同様に届出先の変更・再調整が求められます。
コスト面への影響も具体的に知っておく必要があります。ダイバートによる追加コストとしては、ダイバート先空港でのトラック・航空機による緊急運送費、保税倉庫の保管料(1日当たりの課金が発生)、保税運送申告などの追加通関手数料、他法令手続きの再手配費用などが発生します。通常の航空貨物通関費用(輸入通関料・輸入取扱料だけで2万〜4万円程度)に加えて、これらの追加費用が発生する可能性があります。痛いですね。
加えて、時間的損失も見逃せません。通常の航空貨物は到着から輸入許可まで平均0.5日(約12時間)で完了しますが、ダイバートによる保税運送・他法令再手配が加わると、数日単位の遅延が生じることがあります。鮮魚・生鮮花き・医薬品など時間的価値の高い貨物を扱う場合は、荷主への速やかな状況報告と代替手配の検討が求められます。
【ジェトロ】輸入貨物の到着から引き取りまでの手続き(保税地域搬入から輸入許可までの基本フロー)
ここからは、現場の通関業者として「ダイバート発生時に最初の1時間で何をすべきか」という独自視点の実務対応を整理します。多くの解説記事では触れられていない部分です。
① 情報収集は「航空会社」ではなく「フォワーダー」に先に連絡する
ダイバート発生直後、多くの通関業者はまず荷主に報告しようとします。しかしその前に、フォワーダー(航空貨物利用運送事業者)への確認が先決です。フォワーダーは航空会社からダイバート情報をリアルタイムで受け取る立場にあり、貨物がどの空港に降ろされるのか、いつ元の空港に到着するのかという情報を最も早く把握しています。2009年のFedEx事故でも、成田に入り込んだフォワーダーが独自に情報収集を行い、早期の運送再開判断につなげたという記録が残っています。
② AWB(航空貨物運送状)番号を手元に置いてNACCSの積荷目録を確認する
ダイバートが発生しても、NACCSに登録された積荷目録(ADM・マスターAWB/ハウスAWB情報)は更新されています。ダイバート先空港を管轄する税関でのNACCS照会により、貨物の現在の搬入状況・申告状態を速やかに確認できます。この確認を怠ると、二重申告や申告漏れのリスクが生じます。
③ 他法令該当貨物は品目リストを事前に整理しておく
これは日頃からの備えの話です。担当荷主の輸入貨物について、植物防疫法・食品衛生法・薬機法・動物検疫法などの他法令に該当するものをリスト化しておくことを勧めます。ダイバートという緊急事態の中で一から確認する余裕はありません。事前リストがあれば、ダイバート先空港で対応可能かどうかを即座に判断できます。これは使えそうです。
④ AEO制度(認定事業者制度)の活用で保税運送を簡素化する
AEO認定を受けた通関業者・保税承認者・AEO運送者は、個々の保税運送申告の一部が簡略化されています。ダイバートのような緊急事態においても、AEO制度の活用によって手続きの迅速化が可能です。AEO制度を未取得または十分活用していない場合、緊急時の対応コストが余分にかかるリスクがあります。AEO取得の有無が実務差になるということです。
⑤ 不開港入港の場合は所轄税関への連絡を最優先にする
ダイバート先が税関空港ではない場合(軍用空港・一般空港など)は、所轄税関への即時連絡が義務です。関税法上の不開港入港扱いとなり、税関長の許可なしに貨物を取り扱うことができません。この手順を省略すると、関税法違反となる可能性があります。違反は絶対に避けたいところです。
【税関】国際運送事業者のためのAEO制度実務手引書(保税運送簡略化・緊急時対応の根拠)
【NACCSセンター】税関手続関連(航空編)通関関係手続(輸入申告登録・受理・書類提出・搬入等の実務フロー)