営業秘密保護の法律と関税ビジネスの落とし穴

営業秘密保護に関わる法律は、関税や貿易ビジネスにも深く影響します。不正競争防止法の3要件や罰則、関税法との連携まで、知らないと損する重要ポイントを徹底解説。あなたのビジネスは本当に守られていますか?

営業秘密保護の法律を関税ビジネスで正しく理解する

「社外秘」のスタンプを押しただけでは、あなたの情報は法律で守られません。


この記事の3つのポイント
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営業秘密は「3要件」を満たさないと法律で保護されない

秘密管理性・有用性・非公知性の3つをすべて満たした情報だけが、不正競争防止法の「営業秘密」として保護されます。スタンプや口頭指示だけでは不十分なケースが多数あります。

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関税法改正で「営業秘密侵害品」は輸出入禁止物品に

2016年の関税法改正により、営業秘密の不正使用によって生じた物品は輸出入禁止物品に追加されました。貿易ビジネスで扱う商品が侵害品と認定されるリスクがあります。

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違反した場合、個人で最大10年拘禁・2,000万円罰金

2015年の不正競争防止法改正で罰則が大幅に強化。法人は最大5億円の罰金。さらに非親告罪化されたため、被害企業が告訴しなくても捜査が始まります。


営業秘密保護の法律「不正競争防止法」の基本とは

関税や輸出入ビジネスに携わっていると、取引先とのやりとりで設計図、仕入れ価格、顧客リストなどの機密情報を扱う場面が頻繁に生じます。そうした情報を守る中核的な法律が「不正競争防止法」です。


不正競争防止法では、企業が保有する「営業秘密」を不正に取得・使用・開示する行為を「不正競争行為」として規制しています。営業秘密を侵害された企業は、侵害者に対して差止請求・損害賠償請求・信用回復措置請求といった民事上の手段を取ることができます。重大なケースでは刑事告訴も可能です。


ここで重要なのは、「企業が秘密だと思っている情報」がすべて法律で保護されるわけではないという点です。つまりが条件です。法律が守ってくれるのは、特定の3要件を満たした情報に限られます。


では、なぜわざわざ要件を絞っているのでしょうか?理由は明快で、「保護されると重い刑事罰が科せられる」からです。すべての社内情報を営業秘密とみなしてしまうと、軽微な情報漏えいにも拘禁刑が科される不合理が生じます。そのため、保護を受ける情報の範囲を「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件でしっかり絞り込んでいます。


関税ビジネスの観点からも、取引相手が使う技術情報や製造ノウハウが営業秘密に該当するかどうかは、輸出入の適法性にも直結します。法律の基本を押さえておくことが、ビジネスリスクの回避につながります。


以下の参考リンクでは、不正競争防止法の全文と最新版を確認できます。


e-Gov法令検索|不正競争防止法(最新版)|条文の確認に役立ちます


営業秘密保護の法律が定める3要件と秘密管理性の落とし穴

不正競争防止法第2条6項によれば、営業秘密とは「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。この定義から導かれる3つの要件を、順に確認していきましょう。


① 秘密管理性:情報が秘密として管理されていること。これが最も重要で、かつ最も誤解が多い要件です。「社外秘」のスタンプを押すだけでは不十分とされた裁判例が複数存在しています。必要なのは「アクセス制限(誰でも見られない状態)」と「客観的認識可能性(その情報が秘密だと関係者が認識できる状態)」の2点です。


② 有用性:事業活動に有用な技術上・営業上の情報であること。直接ビジネスに活用している情報だけでなく、失敗データ(ネガティブ・インフォメーション)や将来の事業に活用できる情報にも有用性が認められます。これは意外ですね。


③ 非公知性:一般に知られていない情報であること。インターネット上に公開されていたり、書籍に掲載されているノウハウは対象外です。同じ情報を保有する同業者が存在していても、業界全体には知られていなければ非公知とみなされる場合があります。


3要件がすべて条件です。一つでも欠けると法律の保護が及びません。


特に落とし穴になりやすいのが秘密管理性です。たとえば、関税ビジネスで頻繁に使う「取引価格情報」や「仕入先リスト」を社内のサーバーに保存しているだけでは不十分な場合があります。パスワード設定、アクセス権限の限定、就業規則や誓約書による義務付けなど、複数の手段を組み合わせた管理が求められます。


令和7年(2025年)3月に改訂された経済産業省の営業秘密管理指針では、クラウド環境でのデータ管理テレワーク勤務における秘密管理のあり方についても新たな整理が加えられました。リモートワーク中に重要情報を扱う機会が増えている現代では、これを把握しておくことが不可欠です。


経済産業省|営業秘密管理指針(令和7年改訂版PDF)|秘密管理の具体的な方法の参考になります


営業秘密保護の法律における罰則強化と2015年改正の衝撃

2015年(平成27年)の不正競争防止法改正は、営業秘密の保護を大幅に強化した転換点となりました。改正の背景には、新日鐵住金事件(技術情報の中国企業への流出)や東芝事件(研究データの韓国企業への持ち出し)といった実際の大型漏えい事案があります。


改正のポイントは大きく3点です。


まず罰則の引き上げです。個人に対する罰金の上限が1,000万円から2,000万円へ倍増しました。海外への不正使用・開示が伴う場合には、法人に対して最大10億円の罰金が課されます。法人への通常の罰金上限は5億円ですが、海外絡みではさらに重くなります。


次に非親告罪化です。改正前は被害企業が告訴しなければ刑事訴追できない「親告罪」でしたが、2015年の改正により「非親告罪」に転換されました。つまり、被害企業が告訴しなくても警察が独自に捜査・起訴できるようになっています。これは大きな変化です。


さらに「営業秘密侵害品」の規制が追加されました。営業秘密の不正使用によって製造された物品を、善意無重過失の場合を除き、譲渡・輸出入・展示する行為も不正競争行為として規制されるようになりました。


東芝事件では、2015年3月に懲役5年・罰金300万円の実刑判決が下されました。ベネッセコーポレーション事件でも懲役2年6か月・罰金300万円の実刑が宣告されており、単なる「社内ルール違反」とは次元が異なる重大犯罪として扱われています。これは厳しいところですね。


デジタルフォレンジック研究会|2015年不正競争防止法の改正(営業秘密保護の強化)|改正内容の詳細が分かりやすく解説されています


営業秘密保護の法律と関税法の連携:輸出入差止制度の仕組み

関税に興味がある方が特に押さえておきたいのが、2016年(平成28年)の関税法改正です。この改正により、「営業秘密侵害品」が輸出入禁止物品に正式に追加されました。つまり営業秘密が関税の世界と直接つながった瞬間です。


それまで関税法で輸入差止の対象となっていたのは、特許権商標権著作権などの知的財産権の侵害品や、周知表示の混同惹起行為・形態模倣商品などに限られていました。2016年の改正はこれを拡張し、他社の営業秘密を不正使用して製造された製品も差止対象に加えたものです。


ただし、営業秘密侵害品の輸入差止には、通常の知財侵害品と異なる特有の手続きが必要です。税関長に輸入差止申立を行う前に、まず経済産業大臣の認定手続きを経なければなりません。認定を受ける必要がある事実は次の2点です。


| 確認事項 | 内容 |
|---------|------|
| ①侵害品該当性 | 当該物品が営業秘密侵害品であること |
| ②輸入者の悪意/重過失 | 輸入者が侵害品と知っていた、または知らないことに重過失があること |


通常の輸入差止では輸入者側が「善意無重過失」を立証しますが、関税法の手続きではこの立証責任が転換されています。輸入差止を申し立てる側(権利者)が②を証明しなければならない点に注意が必要です。


申請書には、営業秘密の内容・秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たすことの説明、侵害の態様、輸入者が悪意・重過失であることの根拠資料(設計図、手順書、判決文、弁護士・弁理士の鑑定書など)を添付することが求められます。


関税ビジネスを展開する企業にとって、自社が扱う商品が他社の営業秘密侵害品でないかを確認することは、税関で差し止められるリスクを回避するうえでも重要な確認事項となっています。


税関(財務省)|経済産業大臣意見照会(保護対象営業秘密関係)|輸入差止申立の手続きが確認できます


イノベンティア|営業秘密侵害品の輸出入差止(水際対策)の新設|関税法改正の内容を詳しく解説しています


営業秘密保護の法律で見落とされがちな退職者・取引先リスクへの対策

営業秘密の漏えいは、外部からのサイバー攻撃より、退職者や取引先による内部流出のほうが圧倒的に多いとされています。警視庁が公表するデータでも、内部不正が漏えいの主要経路として示されています。関税ビジネスの現場では、仕入れ先情報・通関ノウハウ・輸送コストデータなどの機密を複数の外部業者と共有するケースが多く、このリスクは特に高くなりがちです。


退職者が情報を持ち出した場合に、法的措置を取れるかどうかは「秘密管理性が認められるか」にかかっています。退職時に適切な秘密保持誓約書を取得していなかったり、就業規則の秘密保持条項が抽象的すぎる場合は、不正競争防止法での保護を受けられない可能性があります。つまり秘密管理性が条件です。


ネット上に転がっている汎用的な雛形をそのまま使った誓約書は「いざというときに役に立たない」と専門家は指摘しています。自社が扱う具体的な情報(例:「A社との取引価格情報」「○○製品の原価データ」)を明示した内容に作り込む必要があります。


また、取引先に秘密情報を開示する際の秘密保持契約(NDA)も同様です。関税法が絡む輸出入業務では、複数の運送業者・通関業者・倉庫業者と情報を共有するため、それぞれとのNDA締結が不可欠になります。


令和7年の営業秘密管理指針改訂では、テレワーク・副業・兼業の普及に伴う新たなリスクにも言及されました。自宅で営業秘密に触れる機会が増えた現代において、クラウドストレージのアクセス権限管理や、従業員への定期的な教育実施が秘密管理性の維持に不可欠な要素として強調されています。秘密管理性の維持には、管理体制の「継続的な見直し」が必要です。これは必須です。


特に、退職者による情報持ち出しリスクを事前に抑制する手段として、「競業避止義務条項」の整備も有効です。ただし、範囲・期間が合理的でない競業避止義務は裁判で無効とされるケースも多いため、弁護士の助言を踏まえて設計することを強くお勧めします。


警視庁|営業秘密漏えい防止のために|内部不正の実態と防止策が解説されています


経済産業省|水際対策(知的財産)|不正競争防止法に基づく税関での水際措置の申立て方法が確認できます