古いラベルデータをそのまま使い回すと、通関書類の不備で貨物が差し止められるリスクがあります。
UN3091は「リチウム金属電池(機器組み込み型)」を表す国連番号です。スマートフォンや医療機器など、リチウム金属電池を内蔵した完成品の輸送に使われます。まず基本です。
ラベルをダウンロードする際、多くの通関業従事者がGoogle検索で上位に出てきたPDFをそのまま使っています。しかし、版が古ければ現行規則に対応していない可能性があるため、必ず発行元を確認することが鉄則です。
正規の入手先として最も確実なのはIATA(国際航空運送協会)の公式サイトです。IATAは毎年改訂されるDGR(Dangerous Goods Regulations)に準拠したラベルデータを提供しており、PDF形式でダウンロードできます。ただし、DGR本体は有料出版物であり、ラベル単体の無料公開ページは限定的です。IATA公式情報の確認はこちらから参照できます。
IATA危険品規則(DGR)の公式ページ|ラベル要件・規則改訂情報の確認に
国内において信頼性が高い入手ルートとしては、国土交通省が公表する航空危険物に関する告示・通達があります。国内航空法に基づく規制はICAO(国際民間航空機関)のテクニカルインストラクションを国内法化したものであり、ラベルの仕様も基本的にICAO基準に準じています。
国土交通省 航空危険物輸送に関する情報|国内規制の基準確認に
つまり正規入手先はIATA・ICAO・国土交通省が原則です。
専用ソフトウェアや危険品管理システムを導入している事業者であれば、システム内にUN3091対応ラベルのテンプレートが内蔵されていることも多いため、更新のたびに自動反映されるメリットがあります。自社の管理システムのバージョンを今すぐ確認する習慣をつけておくと、ミスを防ぐ一歩になります。
ダウンロードしたラベルを印刷する際、「データがあれば何でも大丈夫」と思っていると落とし穴があります。IATAのDGRおよびICAOのTechnical Instructionsでは、ラベルのサイズ・色・視認性について具体的な数値が定められています。
ラベルのサイズは原則として1辺が100mm×100mmの正方形(ひし形として表示)です。100mmというのはちょうどハガキの長辺(148mm)より短く、クレジットカードの長辺(85mm)より長い感覚です。包装サイズによっては最小50mm×50mmまで縮小が認められますが、それ以下は不可です。これが条件です。
| 項目 | 標準サイズ | 最小サイズ(小型包装のみ) |
|---|---|---|
| 縦×横 | 100mm × 100mm | 50mm × 50mm |
| 形状 | ひし形(正方形を45度回転) | 同左 |
| 外枠線の幅 | 2mm以上(内側にも同幅の線) | 縮小比率に応じて調整 |
ラベルの上半分は白または赤(もしくは白地に赤いハッチング模様)、下半分は白地というのが基本的なカラーリングです。UN3091のClass 9(その他の危険物)のラベルは上部に縦縞模様のある白黒のデザインが用いられます。ただし、リチウム電池警告ラベル(リチウム電池マーク)は別途必要であり、Class 9ラベルとの2枚貼りになる点を見落とさないようにしてください。
印刷品質についても規定があります。にじみ・かすれ・変色があるラベルは規則上無効とみなされる可能性があり、特に航空輸送では航空会社の地上スタッフによる目視確認で弾かれるケースがあります。インクジェットプリンターで印刷する場合、耐水性のある用紙・インクを使用することが現場では一般的な対応策です。厳しいところですね。
ラベルの印刷が完了しても、それだけで通関が通るわけではありません。航空危険品輸送では、荷送人の危険品申告書(Shipper's Declaration for Dangerous Goods、以下DGD)との整合性が必ず確認されます。
DGDに記載すべき主な項目とUN3091に関連する要素を整理すると以下のとおりです。
Packing Groupが不要というのは意外と見落とされがちなポイントです。他のUN番号でPGⅠ~Ⅲを記載する習慣がある担当者が、UN3091にもPGを書いてしまうミスは実務でも報告されています。記載欄を空白または「—」にすることが原則です。
DGDとラベルの不整合として多いのは、電池セル1個あたりのワット時(Wh)数や電池の個数が申告書とラベルの追記事項でズレているケースです。特にSection IIAとSection IIで適用制限が異なるため(Section IIAは輸送量の上限がより厳しい)、どちらの区分を適用するかを出荷前に確認する習慣が重要です。結論は事前確認が最重要です。
日本航空貨物代理店協会(JATA)危険品情報|DGD記載例・通関実務の参考に
UN3091には「Section II」と「Section IIA」という2つの輸送区分があり、どちらを適用するかによって通関書類の内容が変わります。意外ですね。
Section IIは旅客機・貨物機ともに搭載可能な区分で、電池1個あたり2g以下のリチウム金属電池が対象です。Section IIAは旅客機搭載が禁止されており、電池セルあたりのリチウム含有量が2gを超えるケースに適用されます。この2gという基準はちょうど一円玉の重さ(1g)の2枚分です。小さな数字ですが、区分を間違えると旅客機搭載禁止品として空港で積み降ろしになる可能性があります。
| 区分 | 電池1セルあたりのLi含有量 | 旅客機搭載 | 貨物機搭載 |
|---|---|---|---|
| Section II | 2g以下 | ✅ 可 | |
| Section IIA | 2g超 | ❌ 不可 | ✅ 可 |
DGD上の記載欄では「Passenger and Cargo Aircraft」または「Cargo Aircraft Only」のいずれかに○をつける形式が多いですが、Section IIAを誤って旅客機OK扱いにした場合、航空会社から返送されるだけでなく、輸出者への警告・改善要求が入ることもあります。これは法的リスクにも直結します。
通関申告書(輸出申告)においても、インボイスや包装明細書との品名・数量の整合を確認することが必要です。特にリチウム電池は関税法施行令・外為法の輸出許可が必要になる場合があり、仕向け国・用途によっては安全保障貿易管理(経済産業省のリスト規制)の対象に該当することもあります。該当品目かどうかは、経済産業省の「安全保障貿易管理ページ」を都度確認することが推奨されます。
経済産業省 安全保障貿易管理|輸出許可要件・リスト規制品目の確認に
通関実務の現場でほとんど語られないのが、「ラベルの版年管理」という概念です。これは使えそうです。
IATAのDGRは毎年1月1日付で改訂されます。2024年版(第65版)から2025年版(第66版)にかけてもリチウム電池関連の規定に細かな修正が入っています。特にラベルに印字する追記事項(電池の個数・Wh数・Li含有量の記載要否)が版によって変更されることがあり、古いバージョンのラベルテンプレートをそのまま使い続けるとコンプライアンス上の問題が生じます。
多くの現場では、過去にダウンロードしたPDFがフォルダに残っており、「以前から使っているから大丈夫」という感覚で流用されることが少なくありません。これがリスクです。
具体的な管理手順として、以下のような運用が有効です。
この版年管理を徹底するだけで、「なぜか航空会社に弾かれた」という現場トラブルの一定割合は防げます。ラベル1枚の話ですが、出荷遅延が発生すれば荷主へのクレームにも発展するため、見た目以上に影響が大きいポイントです。
IATAのDGR最新版は有料ですが、改訂の概要(What's New in DGR)は年ごとにIATA公式サイトで公開されています。改訂点だけ確認して、自社のテンプレートへ反映するかどうか判断するだけでも大きなリスク低減になります。
IATA DGR出版物ページ|版年・改訂概要(What's New)の確認に
版年が一致しているかどうかだけ確認すれば大丈夫です。この一手間が、現場トラブルと荷主への信頼損失を防ぐ最も現実的な方法です。通関業のプロとして、書類だけでなくラベルの版管理まで視野に入れた業務フローを整えることが、長期的な競争力にも直結します。