CMO製品を輸入すると加工賃の3倍の関税がかかることもあります。
Contract Manufacturing Organization(CMO)とは、医薬品や医療機器などの製造を専門的に受託する組織のことです。CMOは製薬会社や医療機器メーカーから製造業務を請け負い、依頼主に代わって製品の生産を行います。
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この仕組みは「水平分業」と呼ばれ、開発企業は研究開発や販売に経営資源を集中し、製造はCMOに委託することで莫大な設備投資を回避できるメリットがあります。バイオ医薬品製造では特に初期投資が大きいため、CMO活用が世界的に拡大しています。
通関業務従事者の視点では、CMOが製造した製品を輸入する際には一般的な輸入とは異なる特殊な手続きと注意点が存在します。特に課税価格の算出方法、原産地の判定、品質管理責任の所在などが複雑になるため、これらを正確に理解しておく必要があります。
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CMOには原料から最終製品まで一貫して製造する企業もあれば、特定の工程のみを担当する企業もあります。このように製造工程が複数の国や企業に分かれる場合、通関時の原産地判定がさらに複雑化するため注意が必要です。
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委託加工貿易でCMO製品を輸入する場合、課税価格の計算は通常の輸入とは大きく異なります。原則として買手が売手に実際に支払った価格(現実支払価格)が課税標準となりますが、委託加工では無償や値引きをして原材料を支給することが多いため、それらの価格を現実支払価格に加算する必要があります。
具体的には、輸入者が無償または値引きして提供した原材料、部品、金型などの価格を加工賃に加算して申告しなければなりません。これを怠ると関税の過少申告となり、数年分の追徴課税と延滞税が課されるリスクがあります。
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例えば加工賃が100万円でも、無償提供した原材料が200万円相当であれば、課税価格は300万円として計算されます。つまり加工賃だけで関税を計算すると、本来の3倍の関税を後から請求される可能性があるということです。
参考)https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kanzeihyouka/hyokajirei/hyokajirei4112010.pdf
さらに他社から無償提供された材料にも関税がかかる点に注意が必要です。委託者以外の第三者が無償で材料を提供した場合でも、その価格は課税価格に含めなければなりません。課税価格の決定には税関の判断を要するため、事前に具体的な実例を提示して直接税関に問い合わせることが推奨されます。
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税関「輸入貨物に係る課税価格の計算方法及びその留意事項」には委託加工品の課税価格算出の詳細な事例が記載されています
CMOを活用して複数国で製造工程を分担する場合、原産地判定を誤ると想定外の高関税率が適用されるリスクがあります。特に中国で一部の生産工程を経た後、日本で最終加工を行い第三国へ輸出する場合、輸入国側が日本ではなく中国を原産国と認定する可能性があります。
米国を例にとると、原産国判定では「実質的変更」の基準が適用されます。日本での加工が実質的変更と認められない場合、日本から出荷しても中国原産として扱われ、中国に適用される高関税率(日本の数倍)が課される可能性があります。想定よりも数倍の関税額の支払いとなるということですね。
この問題は通関時または通関後に発覚することがあり、修正を求められた場合には大きな財務的損失につながります。原産国ごとに関税率の差が大きい状況では、税関当局は原産国確認を厳格化する傾向にあるため、事前の慎重な確認が不可欠です。
対策としては、製造工程のどの段階でどの国が関与するかを詳細に文書化し、輸入国の原産地規則に照らして事前に判定しておくことが重要です。不明確な場合は税関の事前教示制度を活用し、正式な原産地判定を受けておくことでリスクを回避できます。
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TKAO税理士法人「輸出/原産国視点で紐解くトランプ関税対策」には原産地誤認定による追加関税のリスク事例が詳しく解説されています
CMOに製造を委託した製品を輸入する場合、輸入者は製造物責任法上の「製造業者等」に該当し、製品の欠陥による損害賠償責任を負います。これは海外の実際の製造者ではなく、日本の輸入者が一義的に責任を問われるという重要なポイントです。
参考)輸入品の品質欠陥に起因する人的・財的損害が発生した際の製造物…
製造物責任法では、被害者が海外メーカーを直接訴えることが困難なため、輸入者が代位責任を負う仕組みになっています。つまり製品に欠陥があり消費者に損害が発生した場合、まず輸入者が賠償責任を負い、その後CMOに求償するという流れになります。
このリスクに対処するためには、CMOとの間で事前に「品質協定(Quality Agreement)」を締結し、製造物責任に関する費用負担や補償責任を明確にしておく必要があります。例えば「製造物責任賠償を含む第三者からの賠償責任について、売主(CMO)が責任を負い、買主(輸入者)を補償し免責する」といった特約を契約書に盛り込むべきです。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202106023A-sonota3.pdf
品質協定では、使用される原材料や製造プロセスがcGMP(医薬品適正製造基準)に準拠していることの保証、品質管理手順、変更管理プロセス、供給チェーンの管理方法なども詳細に規定します。委託施設の能力を監視し、認定業者から購入された材料のみを使用することを保証する条項も重要です。
通関業務従事者は、輸入申告時に製造業許可や製造販売承認書などの関連書類を適切に提示する必要があります。医薬品や医療機器の場合、これらの書類なしには通関できないため、事前にCMOおよび委託者から必要書類を入手しておくことが不可欠です。
参考)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iji/documents/20161117qa.pdf
厚生労働科学研究「医薬品の委託製造に関する取り決め:品質協定」にはCMO契約における品質保証の詳細なガイドラインが記載されています
CMO製品の輸入通関をスムーズに進めるためには、通関業者との密接な連携が不可欠です。通関業者に業務を委託する際には、委任状の提出とともに、製品の仕様明細や規格、製造工程の詳細情報を適切に提供する必要があります。
特にHSコード(関税分類)の決定は慎重に行うべきです。CMO製品は完成品か中間品か、医薬品か医療機器かなどによって分類が異なり、誤った分類は関税率が3倍になるような事態を招きます。新製品や仕様変更時には必ず再確認を実施し、分類が不明確な場合は事前教示制度を活用しましょう。
委託加工契約書の内容も通関時に重要な役割を果たします。契約書には加工数量、加工賃、原材料の提供方法、品質管理責任、監視管理費用の負担などを明確に記載しておく必要があります。これらの情報は課税価格の算出や原産地判定の根拠資料となります。
関税リスクと物流リスクを軽減するためには、サプライヤーと調達戦略の定期的な再評価が有効です。これにはインプットサプライヤーの多様化、明確なコスト転嫁条項の交渉、実行可能な場合のニアショア代替品の開発などが含まれます。2025年以降の関税環境の変化により、構造的な調達戦略の見直しが求められています。
参考)医薬品受託製造市場
通関業者任せにせず、輸入者として自ら分類やリスクを把握・理解することが基本です。商品ごとに社内で分類根拠台帳(HSコード、関税率、過去申告実績)を整備し、誤りが判明した場合は修正申告の要否とリスクを専門家に相談する体制を整えておきましょう。
ジェトロ「通関業者に通関業務を委託する際の注意点」には通関業者選定と委託時のチェックポイントが詳しく解説されています