撤回申出書を出しても、税関はあなたの貨物を検査できます。
輸出申告を行った後、何らかの事情で申告内容を取り下げたい場面があります。そのときに使う手続きが「輸出申告撤回」です。
根拠となる法令は、関税法基本通達67-1-10(輸出申告の撤回の取扱い)です。条文には次のように定められています。
「輸出申告の撤回は、その申告に係る輸出の許可前に限り認めるものとし、その撤回に当たっては、申告撤回理由等を記載した『輸出申告撤回申出書』(C第5240号)1通を当該輸出申告を行った税関官署に提出して行わせるものとする。」
つまり、撤回できる期間は「輸出許可が下りる前まで」という厳しい条件があります。
重要なのは申告後の状態の違いです。一般的な輸出通関の流れを整理すると、次のようになります。
| ステータス | 撤回の可否 |
|---|---|
| 輸出申告後・許可前(審査中) | ✅ 撤回申出可能 |
| 輸出許可後・船積み前 | ❌ 撤回は不可(輸出取止め再輸入の手続きへ) |
| 船積み(搭載)完了後 | ❌ 撤回・取止めともに不可(輸入手続き等が必要) |
「許可前なら自由に撤回できる」と思いがちです。ただし実務上は、申告撤回は重大なイレギュラー扱いになります。通関士はあらかじめ書類に問題がないことを確認したうえで申告しているため、撤回自体がまれな出来事です。経験豊富な通関士でも、撤回経験が一度もないというケースは珍しくありません。
撤回が必要になるのは主に次のような場面です。
- NACCSの申告で、訂正不可能な変更項目(申告種別・輸出者名など)を誤入力した場合
- 法令確認の漏れや判断誤りなど重大な誤りが判明した場合
- 搬入前申告において、当初予定していた保税地域とは異なる場所に搬入することになり、管轄する税関官署が変わる場合(官署変更)
軽微なインボイスの誤り・計算ミスなどは「申告内容訂正」で対応できます。撤回が必要かどうかの判断は通関業者に早急に相談することが基本です。
参考:税関様式C第5240号「輸出申告撤回申出書」(税関公式サイト)
輸出申告撤回申出書(C第5240号)ダウンロード | 税関 Japan Customs
NACCSを使って輸出申告撤回申出書を電子提出する場合、業務コード「HYS(汎用申請)」を使います。これは正式な電子申請手段として、NACCS事務手続き通達でも明記されています。
手順は次のとおりです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① | 申告官署の通関担当部門にその旨を申し出る |
| ② | 税関様式C第5240号「輸出申告撤回申出書」を1通作成する |
| ③ | NACCSのHYS業務で電子ファイルを添付して送信する |
| ④ | 税関が撤回を認めた場合、撤回情報がNACCSに登録される |
申出書に記載が必要な内容は「申告番号」「申告年月日」「撤回理由」「備考」の4項目です。撤回理由の記載は必須で、曖昧な表現では受け付けてもらえないことがあります。
注意点があります。HYS業務で申請後に撤回したい場合は、HYE(汎用申請変更)業務を使います。この場合、あらかじめ申請先税関に申し出たうえで、「NACCS登録情報変更申出」を添付します。手順は次のとおりです。
1. IHY(汎用申請照会)業務で汎用申請受理番号を入力して申請状況を確認する
2. 状況が「審査中」であれば税関に申し出る
3. HYE業務で汎用申請受理番号・電話番号・取消理由を入力して送信する
ただし、許可・承認後はHYE業務が実施不可となります。その場合は申請先税関に直接相談が必要です。
NACCSを使わずに書面で提出することも可能です。書面の場合は「申告官署の通関担当部門に提出する」という方法になります。電子と書面のどちらが適切かは状況によりますが、NACCS申告で行った手続きはNACCSを通じた手続きが標準とされています。
参考:NACCS掲示板「輸出申告撤回申出書の掲載場所について」
「輸出申告撤回申出書」の掲載場所について | NACCS掲示板
参考:NACCS掲示板「HYS(汎用申請)の撤回について」
HYS(汎用申請)の撤回方法 | NACCS掲示板
ここが最も見落とされやすいポイントです。
税関様式C第5240号(輸出申告撤回申出書)の注記には、次のように明記されています。
「(注)輸出申告の撤回申出後であっても、税関では、関税法第67条の規定に基づき、貨物の検査を行う場合があります。」
撤回したからといって、税関の検査が即座に終わるわけではありません。これは実務において見落とされることが多い事実です。
関税法基本通達でも同様に定められています。「申告撤回の申出があった場合において、必要があると認められるときは、当該申告の撤回を認める前に検査を行うことができる」とあります。つまり、撤回を認める前の段階で検査が行われます。
この検査が発生すると、現場での影響は小さくありません。
- 開梱検査が行われると、梱包の解体・再梱包の費用が発生する
- 検査待ち・結果待ちの間、貨物を動かせない時間が生じる
- 搬入前申告(コンテナ詰めのまま申告)の場合は、貨物の取り出しが必要になることもある
検査のための開梱・運搬に要した費用は荷主の実費負担となる場合があります。通関業者への立会費用も別途かかります。撤回手続きが「軽い修正」ではなく「コストと時間がかかるイレギュラー対応」である理由が、ここにあります。
また、ジェトロの公式情報でも「申告撤回は容易に認められず、輸出者からの事情聴取や貨物検査が行われることもある」と明記されています。搬入前申告では特に注意が必要です。
参考:ジェトロ「貨物をコンテナに詰めたまま輸出通関する『搬入前申告』」
搬入前申告に関する注意事項 | JETRO
NACCSを活用した輸出申告の中で、特例輸出申告(特定輸出申告と混同しないよう注意)は特別なルールが適用されます。
特例輸出申告とは、AEO(認定事業者)制度の一環で、貨物が保税地域になくても輸出申告できる仕組みです。通常の輸出申告と根本的に異なるのは、「貨物の所在地を問わず申告できる」という点です。この自由度ゆえに、撤回については原則として認められていません。
関税法基本通達67の3-1-1(3)では、次の場合を除いて原則撤回不可とされています。
| 例外ケース | 内容 |
|---|---|
| ① | 輸出されなくなったなどの事由で許可を受ける必要がなくなった場合 |
| ② | 特例輸出申告の対象とならない貨物について申告してしまった場合 |
| ③ | 財務大臣が指定する官署以外に申告した場合 |
上記3つの例外に当たらない場合は、撤回ではなく「輸出許可を受けた後に許可取消し申請を行う」という流れになります。外国貿易船等に積み込まずに許可を受けてから取り消す、という手順が基本です。
また、輸出入申告官署の自由化制度(2025年10月のNACCS第7次更改後に整備が進んでいる制度)においても注意が必要です。自由化申告では「申告官署を誤ったという理由のみ」に基づく申告撤回は原則として認められません。
通常申告・特例輸出申告・自由化申告は、それぞれ撤回の扱いが異なります。これが原則です。
参考:通関士試験対策ブログ(輸出申告の撤回・許可取消・輸出取止めの解説)
輸出申告の撤回と輸出許可の取消し・取止めの違い | 通関士試験一発合格ブログ
「撤回以外の方法が使えないか」を検討することが、実務上は時間節約につながります。申告後にとれる対応は、撤回だけではありません。
許可前に使える選択肢:
- 資料の追加提出:税関審査で疑義が生じた際に、説明資料を追加提出することで輸出許可を得られる場合があります
- 申告内容訂正:インボイスの軽微な誤りや申告書の誤入力であれば、申告内容訂正で対応できます
- 申告撤回:変更不可項目の誤入力・重大な法令違反が判明した場合に使います
許可後に使える選択肢:
- 輸出取止め再輸入:輸出許可を受けたあとに輸出をキャンセルして国内に引き取る手続きです。関税・貿易管理の再輸入免税(再輸入貨物の無条件免税)が適用されるため、関税負担は基本的に発生しません
- 輸出許可取消し:特定輸出許可を受けた貨物の輸出をキャンセルする場合に行います。この手続きは積み込みまでの間に行う必要があります
- 船名・数量等変更:搭載予定機の変更、積込港の変更、価格の変更などは「輸出許可内容変更申請」で対応できます
ここで覚えておきたい点があります。価格訂正には省略可能な範囲があり、以下の条件を満たす場合は変更申請が不要です。
- 申告価格が20万円未満で、本来の価格も20万円未満の場合
- 変更後の価格との差が千円未満の場合
許可後に変更不可項目の変更が必要になった場合も、「輸出取止め再輸入」を経て再申告するのが基本手順となります。
船積みが完了した後は対応の選択肢が大きく変わります。船積み(搭載)完了後は「輸出された」という扱いになるため、国内に戻すには通常の輸入手続きが必要になります。さらに、船積みは外為法上の「輸出」に該当するため、船積み後の積戻しには経済産業大臣の承認等が必要になることもあります。早期に対応することが大原則です。
参考:輸出通関でのトラブルへの対処法(カスタムスインフォ)
輸出通関でのトラブルへの対処法を解説 | カスタムスインフォ