定期航路の一覧を「船が出ている港のリスト」と思っているなら、関税コストを数十万円単位で損しているかもしれません。
定期航路とは、決まった寄港地を一定のスケジュールで繰り返し運航する海上輸送路のことです。不定期航路(トランプ航路)とは異なり、荷主が事前に船積みスケジュールを組める点が最大の特徴です。
定期航路は大きく「外航」と「内航」に分かれます。外航定期航路は日本と外国の港を結ぶ航路で、輸出入に関税が発生する「国境をまたぐ航路」です。一方、内航定期航路は国内の港同士を結ぶ航路で、関税は発生しません。さらに内航の中には、旅客と貨物を同時に運ぶ「フェリー」と、貨物専用の「内航コンテナ船・RORO船」があります。
関税に興味を持つ方にとって重要なのは、外航定期航路の一覧です。以下に主な種類をまとめます。
| 種類 | 代表例 | 関税の有無 | 主な貨物 |
|---|---|---|---|
| 外航コンテナ定期航路 | 北米航路・欧州航路・東南アジア航路 | あり | 工業製品・食品・化学品など |
| 外航フェリー(国際フェリー) | 下関〜釜山、大阪〜上海など | あり | 車両・雑貨・旅客手荷物 |
| 内航コンテナ定期航路 | 東京〜苫小牧、東京〜博多など | なし | 国内流通貨物全般 |
| 内航RORO・フェリー定期航路 | 東京〜北海道・九州各港 | なし | トラック・コンテナ・旅客 |
| 内航フィーダー定期航路 | 東京港〜地方港(輸出入コンテナ中継) | 間接的に関係あり | 国際コンテナの国内中継輸送 |
関税が発生するのは外航航路のみですが、内航フィーダー航路は外航コンテナと接続するため間接的に関税申告のコストに影響します。つまり外航だけ把握すればOKです。
東京都港湾局が公開している「東京港外航コンテナ船定期航路一覧」によれば、東京港だけでも世界各地向けに多数の外航定期コンテナ航路が就航しており、日本最大のライナーポートとして機能しています。輸出入の際に利用できる航路を事前に確認することは、最適な船積みスケジュールを立てる上で欠かせないステップです。
東京港の航路一覧は以下の公式ページで確認できます。
東京都港湾局「航路一覧|港湾利用者の方へ」(外航コンテナ・内航RORO・フィーダー航路の一覧を掲載)
外航コンテナの定期航路は、行き先と距離によっていくつかの系統に分類されます。この分類を知ることで、自社の輸出入貨物に使える航路の選択肢が整理できます。
まず最大規模の「北米航路」は、日本〜北米西岸(ロサンゼルス・タコマ・バンクーバー)または東岸(ニューヨーク・サバンナ)を結ぶ航路です。北米向けはアメリカの関税政策の影響を直接受ける航路であり、2025年にトランプ政権が相互関税を課した際には輸送需要が激変しました。北米西岸航路で日本に寄港する航路数は、2018年の15航路から減少傾向が続いており、荷主が利用できる選択肢は限られてきています。
次に「欧州航路」は、日本〜シンガポール〜インド〜スエズ運河〜ロッテルダム・ハンブルクなどを結ぶ超長距離航路です。輸送日数は約30〜35日程度かかり、東京から横浜まで新幹線で30分の感覚で言えば、その2,000倍以上の時間をかけた輸送です。この欧州航路は後のセクションで詳しく解説しますが、日本発の直行便は2026年度に事実上消滅する見通しです。
「東南アジア航路」は、シンガポール・マレーシア・ベトナム・タイなどと日本を結ぶ航路で、現在最も航路数が充実しています。トランプ関税によって中国からASEAN向けにサプライチェーンが移転する動きもあり、2025年にはASEAN発米国向けのコンテナ荷動きが急増しました。日本のASEAN向け輸出においても、この航路の重要性は増しています。
「東アジア航路」は日本〜中国・韓国・台湾・香港を結ぶ比較的近距離の航路です。週複数便のサービスが多く、リードタイム(輸送日数)が短いのが特徴です。ただし、米中貿易摩擦の影響で中国向け輸出に対する規制が複雑化しており、HS番号ごとに課される関税率の確認が以前より重要になっています。
「中南米・アフリカ・オセアニア航路」は本数が限られますが、名古屋港・神戸港などの主要港からサービスがあります。これらの航路を利用する場合、航路によって寄港地の数が多いため、輸送日数が50〜60日以上かかるケースもあります。
主要14港の外航定期航路(北米・欧州・アフリカ・東アジアなど方面別)の寄港状況は、港湾荷役協会が公開している一覧ページで確認することができます。
港湾荷役協会「我が国主要14港データ(外航定期航路比較・寄港状況一覧)」(各港の方面別航路就航状況を比較できる)
日本の輸出入を担う港湾の国際的な地位は、この20年で大きく低下しました。これは定期航路の一覧を見れば明らかです。
1980年代には神戸港が世界ランキング4位、横浜港が12位に入っていましたが、2023年時点では東京港46位、横浜港68位、神戸港72位にまで後退しています。(日本海事センター資料より)順位の差は、東京ドーム約10個分の面積を持つ上海港と、学校のプール1本分の施設しかないイメージで比べるくらいの規模差に近いと言えます。
具体的な航路数で見ると、日本に寄港する北米航路は2018年の16航路から2020年には12航路に減少し、日本から北米向け輸出が利用できる「東航」では延べ寄港港湾数が2013年の22港から2020年にはわずか7港まで激減しました。 7港というのは日本全国の主要港のうち、3分の2以上が北米直航便を失ったことを意味します。
これが荷主にとって意味するのは、輸出の選択肢が失われ、代替ルートのコストが増加するということです。直航便が少なくなると、釜山港(韓国)などのハブ港で貨物を積み替える「トランジット輸送」に頼らざるを得ません。釜山トランジットでは追加の船代・港費・荷役費が発生し、リードタイムも4〜10日程度延びます。金額にして1コンテナあたり数万円〜数十万円規模のコスト増になり得ます。痛いですね。
さらに、トランジットを経由することでリードタイムが不安定になり、関税申告の際に輸送書類(B/L)の到着タイミングが予測しにくくなるという実務上の問題も生じます。関税は輸入許可が下りるまで貨物を引き取れないため、B/L遅延は倉庫費用やラインの停止につながる場合があります。
日本政府はこの状況を改善するため、京浜港(東京・横浜・川崎)と阪神港(神戸・大阪)を「国際コンテナ戦略港湾」に指定し、2020年からは欧州・北米航路に就航する大型コンテナ船に対するとん税・特別とん税の軽減措置を創設しました。この措置により、入港コストが他のアジア港湾と比較して割高だった問題を一定程度緩和しています。
国土交通省による国際コンテナ戦略港湾政策の取組内容と最新状況は以下のページで確認できます。
国土交通省「国際コンテナ戦略港湾政策の取組状況について(2026年1月)」(京浜港・阪神港のとん税軽減措置や航路誘致施策の詳細が記載)
2026年度、日本発欧州向けのコンテナ直行便が事実上消滅します。これは定期航路の一覧表を眺めても気づきにくい、しかし輸出入コストに直撃する重大な変化です。
日本郵船・商船三井・川崎汽船の邦船3社が統合して設立したONE(オーシャンネットワークエクスプレス)は、2026年度の新サービス体系において日本発欧州向け直行便を廃止しました。これにより日本の荷主が欧州向けに輸出する場合、釜山などのハブ港で積み替えるルートしか実質的な選択肢がなくなります。欧州直行便は一つもありません。
この問題の根本原因は、日本の港のコンテナ取扱量が船社の寄港条件を満たせなくなっていることにあります。日本全国のコンテナ取扱量は約2,200万TEUに達しており、これを単一港に換算すれば世界トップ10圏内に相当します。しかし実際には全国20港以上に分散しているため、どの港も「1航路を維持できる物量」として船社に認識されにくい構造になっています。
欧州直行便がなくなると、具体的にどうなるのでしょうか?日本から欧州向けに輸出する場合、釜山港で積み替えるため輸送日数が4〜7日延長します。また釜山での荷役費用が1コンテナあたり追加で数万円発生する場合があります。輸出書類(B/LやC/O)の発行スケジュールも釜山でのトランジットスケジュールに左右されるため、関税申告のタイミング調整が以前より複雑になります。
さらに、欧州に輸出する際は原産地証明書(C/O)が必要になる場合が多くあります。トランジットが増えることで、輸送ルートが複雑になり「直送証明」の取得に手間がかかるケースも出てきます。これはEU向け輸出でGSP(一般特恵関税制度)などを活用している企業にとって、無視できないリスクです。直送証明が取れないと関税優遇を受けられない場面も出てきます。
この問題の構造を正確に把握するには、Wedgeの記事が参考になります。
定期航路の一覧は、単に「どこ行きの船があるか」を確認するだけのものではありません。正しい使い方をすれば、関税を含むトータルの輸送コストと通関リスクを最小化するツールになります。
まず重要なのは「直航便があるかどうか」の確認です。直航便とは積み替えなしで目的地に届く航路のことで、前述の通り釜山トランジットと比べてリードタイムが4〜10日短く、港湾での追加費用も発生しません。関税申告に必要なB/L(船荷証券)の入手も直航便の方がスムーズです。直航か否かで大きく変わります。
次に確認すべきは「寄港地と通関地の関係」です。たとえば、東南アジア経由の北米向け航路では、寄港地で一時的に荷卸しされるケースもあり、この場合は輸送中の貨物の関税申告ステータスが変わる可能性があります。荷主としては、フォワーダー(貨物取次業者)に「B/Lのissue port(発行港)はどこか」「transshipmentは発生するか」を必ず確認することが基本です。
また、定期航路の一覧は港湾ごとに公開されており、ベンダーや仕入れ先の所在地によって利用できる出港港が変わります。たとえば日本国内でも、地方港から釜山経由で輸出するルートと、内航フィーダーで東京港まで集貨してから直航便に乗せるルートでは、合計コストが数十万円単位で変わることがあります。これは使えそうです。
コンテナ輸送の総コストを比較・管理するには、フォワーダーやNVOCC(非船舶運航業者)に複数の航路プランを見積もってもらうことが有効です。特にトランプ関税以降、米国向け輸出では船会社ごとに運賃の乱高下が顕著であり、同じ仕向地でも航路によって数十〜数百ドルの差が生まれています。自社でフォワーダーと定期的に航路を見直す仕組みを持つことが重要です。
地方港の外貿定期コンテナ航路の就航状況(2025年12月末現在)は、日本海事新聞が定期的に一覧を公開しており、自社の最寄り港で利用可能な航路の有無を確認できます。主要5大港以外の地方港から直接輸出できる場合は内陸輸送費の削減にもつながるため、一度確認してみる価値があります。
NX総研による北米航路の寄港動向の分析は、どの港でどれだけの頻度で船が入っているかを把握する上で役立ちます。
NX総研「北米航路(定期コンテナ船)の寄港数が減り続ける日本の港湾」(2013〜2020年の港湾別北米航路寄港数の推移データを解説)