STマークが付いた商品は、税関検査でフリーパス扱いになると思っていませんか?実際には、STマーク未確認の輸入玩具を申告した通関士が、関税法違反で修正申告を求められたケースが年間数十件単位で発生しています。
STマークとは、「Safety Toy(セーフティートイ)」の頭文字を取った安全認証マークです。これは一般社団法人日本玩具協会が定める「玩具安全基準(ST基準)」に適合した製品のみに付けることが許可されています。
このマークが誕生したのは1971年のことで、当時、粗悪な玩具による子どもの事故が社会問題化したことを受けて制定されました。現在では50年以上の歴史を持つ、玩具分野における国内最も権威ある安全基準の一つです。
ST基準は大きく3つの分野に分かれています。機械的・物理的安全性(ST1)、可燃性(ST2)、化学的安全性(ST3)の3区分で審査が行われ、すべての基準をクリアした製品だけがSTマークを取得できます。つまり3つ全部クリアが条件です。
通関業務においてこのマークが重要なのは、輸入品の品名判定や関税分類(HSコード)の決定に際して、製品の安全基準適合状況が間接的に影響するためです。特に玩具(HS9503)に分類される商品については、STマークの有無が輸入者側の義務確認の起点になることがあります。
日本玩具協会の公式サイトには、ST基準の全文と認証製品リストが公開されています。通関士として品名を確認する際の一次情報として活用できます。
参考:STマーク制度の詳細・認証基準の全文(日本玩具協会公式)
https://www.toys.or.jp/st_mark.html
通関実務でよく混同されるのが、STマーク・PSTマーク・CEマークの3つです。それぞれ根拠となる制度が異なるため、正確に区別して理解しておく必要があります。
STマークは前述のとおり日本玩具協会の任意認証です。一方、PSTマーク(PSCマーク)は消費生活用製品安全法(消安法)に基づく国の強制認証であり、特定の製品(乳幼児用ベッド、乳幼児用椅子、自転車など)には必ず表示が必要です。ここが重要な違いです。
PSCマークのない対象製品は、輸入・販売が法律で禁止されています。これは任意のSTマークとは法的な強制力が根本的に異なります。輸入申告の際にPSCマーク対象品であることを見落とした場合、関税法第70条の規定により他法令確認義務違反として問題となります。
| マーク | 根拠 | 任意/強制 | 通関での重要度 |
|--------|------|-----------|----------------|
| STマーク | 日本玩具協会基準 | 任意 | 品名確認の参考 |
| PSCマーク | 消費生活用製品安全法 | 強制 | 他法令確認必須 |
| CEマーク | EU指令 | EU内強制 | 日本国内は任意 |
CEマークはEU域内での販売を目的とした欧州規格への適合表示です。EU向けに製造された輸入玩具がCEマークを持っていても、日本の法規制に適合しているとは限りません。これは別の話です。
実務上のポイントとして、輸入申告書の品名欄に「玩具」と記載した場合、税関側からPSCマーク対象品かどうかの確認が求められることがあります。あらかじめ輸入者に製品の安全基準適合証明書を用意させておくと、審査がスムーズに進みます。
消費者庁のPSCマーク対象品リストは定期的に更新されるため、最新版を確認する習慣をつけることをお勧めします。
参考:PSCマーク対象製品と規制内容(消費者庁公式)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_safety_marking_system.html
STマークの有無にかかわらず、輸入玩具の通関でもっとも神経を使うのがHSコードの正確な分類です。分類を誤ると、後から修正申告が必要になるだけでなく、関税率の差異によっては追徴課税が発生します。
玩具はHS第95類に分類されます。ただし、見た目が「玩具」に見えても、別の類に分類されるケースが頻繁にあります。例えば、電動で動くラジコンカーは「玩具」(9503)に入ることが多いですが、一定の出力を持つドローンは「航空機の部品・付属品」(8806/8807)に分類されることがあります。
また、知育玩具の中でも、パズルや積み木などは9503に該当しますが、教育用ソフトウェアが含まれるタブレット型学習ツールになると、8471(自動データ処理機械)や8543(電気機器)として分類される可能性があります。分類が変わると関税率も変わります。
具体的な関税率を見ると、9503の基本税率は0〜3.9%程度ですが、誤って他の類に分類してしまうと関税率が大きく変わるケースがあります。差額が数万円単位になることも珍しくありません。痛いですね。
HSコード分類の実務では、製品の主な機能・用途・構造を一次情報として確認することが基本です。STマークが付いているからといって自動的に9503になるわけではない点に注意が必要です。
分類に迷う場合は、税関の事前教示制度を活用する方法があります。正式な分類回答を書面で取得しておくことで、申告後の問い合わせリスクを大幅に減らせます。事前教示の申請は無料です。
参考:関税分類の事前教示制度について(財務省税関)
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/index.htm
玩具を輸入する際の他法令確認は、STマークの有無を起点に考えると整理しやすくなります。実際の実務フローを順を追って見ていきましょう。
まず、輸入される商品が「玩具」に該当するかどうかを確認します。この判断は対象年齢の表示、パッケージの記載、製品の機能・素材などを総合的に判断します。「玩具」と明示されていなくても、子どもが使う前提で設計された製品であれば玩具として扱われることがあります。
次に、PSCマーク対象品かどうかを確認します。現在PSCマーク(乳幼児用製品)の強制対象となっているのは、乳幼児用ベッド、乳幼児用椅子(バウンサー含む)、自転車(幼児用含む)、ライター、石油ストーブなど特定の品目です。これらはSTマークとは別に確認が必要です。
続いて、食品衛生法の対象かどうかを確認します。子どもが口に含む可能性のある玩具(例:赤ちゃん用おもちゃ、口笛・笛型玩具など)は、食品衛生法第62条に基づく器具・容器包装の規制対象になる可能性があります。これは盲点になりやすい点です。
最後にSTマークの確認です。STマークは任意ですが、マークの有無を確認し、輸入者へ伝えることで、販売時の消費者向け安全表示の整備に役立てられます。
この4ステップを踏んでおくことで、税関審査でのやり取りがスムーズになり、通関のリードタイムを無駄に延ばすリスクを最小限に抑えられます。フロー通りに確認すれば大丈夫です。
| 確認ステップ | 確認内容 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| ①玩具該当性 | 対象年齢・用途・構造 | HS分類基準 |
| ②PSCマーク | 強制対象品かどうか | 消費生活用製品安全法 |
| ③食品衛生法 | 口に含む可能性の有無 | 食品衛生法第62条 |
| ④STマーク | 任意認証の取得有無 | 日本玩具協会ST基準 |
近年、EC(電子商取引)を通じた中国製玩具の輸入件数が急増しています。2023年度の統計では、玩具・ゲーム類(HS95類)の輸入額のうち、中国からの輸入が約80%超を占めています。そのうち相当数がSTマークを取得していない、または取得申請すらしていない製品です。
STマークの取得は任意であるため、それ自体は違法ではありません。ただし、問題になるのはSTマーク非取得品のうち、化学的安全基準(ST3)の相当要件を満たしていない可能性がある製品が混在しているという点です。特に塗料・接着剤に含まれる重金属(鉛・カドミウム等)の含有量については、消費者庁が独自にサンプル調査を行っており、不適合品の回収命令が年に複数件出ています。
通関士として直接的にこれを防ぐことはできませんが、輸入者にあらかじめ「ST基準相当の成分分析証明書(COA)の提出」を促すことは十分に可能です。COAの準備を依頼するだけでリスクは大きく下がります。特に、子ども向けのアクセサリー・コスメ風玩具(スライム、ネイルシール等)は化学的安全性のリスクが高い傾向にあります。
また、SNS経由でバイラルになった玩具商品が突然大量輸入されるケースも増えています。こうした商品は、安全基準の確認が十分に行われないまま販売者がECサイトに出品することがあります。後から回収命令や販売停止が出た場合、輸入申告の記録が問われることがあるため、書類保管の徹底も重要です。
さらに意外なのが、STマーク取得済みの商品であっても、マークを模倣した偽造STマークを貼付している製品が一部流通しているという実態です。日本玩具協会は公式サイトにてSTマーク認証取得メーカーのリストを公開しているため、疑わしい製品はリストで照合することが有効な確認手段となります。つまり、マークがあっても安心はできません。
このような背景を踏まえると、「STマークがあるから問題なし」という判断ではなく、「STマークの意味を理解した上で、輸入者が適切な証明書類を揃えているかを確認する」という通関士としてのプロフェッショナルな姿勢が求められています。
参考:消費者庁による製品安全の取り組み・回収情報
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/recall/products/
参考:STマーク認証取得メーカーリスト(日本玩具協会)
https://www.toys.or.jp/st_mark_maker.html