通し船荷証券(Through B/L)の見本を持っていても、どの項目がEPA関税の適用に影響するか理解していないと、正常に見えるB/Lで関税の優遇が全額無効になります。
通し船荷証券(Through B/L)とは、仕出地(輸出地)から仕向地(最終輸入地)まで、複数の運送人や複数の輸送手段を経由する場合に、最初の運送人が全経路をカバーして1通で発行する船荷証券のことです。英語では「Through Bill of Lading」と表記され、貿易書類の中でも特に関税手続きに直結する重要な書類です。
通常のB/L(直航船荷証券:Direct B/L)と何が違うのかというと、直航B/Lは1隻の本船が積み替えなしに出発港から到着港まで直接運ぶ場合に発行されます。一方、通し船荷証券はシンガポールや香港などのハブ港でトランシップ(積み替え)が発生するケース、または海上輸送と陸上輸送の複合経路をとるケースに使われます。
見本(サンプル)の書式を眺めると一見どちらも同じように見えますが、実は見本の上部にある「Place of Receipt(荷受地)」と「Port of Loading(船積港)」の両方が記載されているかどうかが大きな識別ポイントです。通し船荷証券では荷受地と船積港が異なる地名になっていることが多く、これが通し輸送の証明になります。
| 区分 | 発行条件 | 積み替え | EPA積送基準への使用 |
|---|---|---|---|
| 直航船荷証券(Direct B/L) | 同一本船で直送 | なし | 通常のB/Lで対応可 |
| 通し船荷証券(Through B/L) | 複数運送人・複合経路 | あり | 積送基準の証明書類として使用 |
| 複合運送船荷証券(Combined Transport B/L) | 海陸複合輸送 | あり | 条件付きで通し船荷証券と同等扱い |
表にある複合運送船荷証券(Combined Transport B/L)については、「単一の船会社等が全経路について責任を負っており、当該者が発行した積地または荷受地と揚げ地の記載されたB/L」であれば、積送基準の確認書類として取り扱い可能であると税関のEPA原産地規則マニュアルに記載されています。これは意外と知られていない重要な事実です。
見本を使って通し船荷証券の各項目を把握しておくことは、実務上の最優先事項です。船会社ごとに書式のレイアウトは異なりますが、記載すべき主要項目はほぼ共通しています。以下の一覧で各項目の意味を押さえておきましょう。
通し船荷証券の見本を読む際に特に重視すべきは、「Place of Receipt」と「Place of Delivery」の両欄が埋まっているかどうかです。この2つが記載されていることで、門から門(Door to Door)または港から内陸地(Port to Inland)の全経路を1枚でカバーしていることが証明されます。これが原則です。
また、「Original」と「Copy」の区別も重要です。通し船荷証券もオリジナル(Negotiable B/L)は通常3通発行され、そのうち1通が銀行に呈示されます。積送基準の証明書類として税関に提出するのはコピー(写し)で問題ありません。
参考:B/Lの各記載項目と実務での確認ポイントについて、パソナ貿易実務講座の解説が詳しいです。
船荷証券(B/L)の意味や役割、記載内容の見方を詳しく解説 - パソナ
積送基準(せきそうきじゅん)という言葉を聞いたことがない人は多いかもしれません。これが実は、EPA関税の適用を受けられるかどうかを左右する「もう一つの必須条件」です。
積送基準とは、「EPA税率の対象となる原産品が、輸入国(日本)に到着するまでの間に、原産品としての資格を失っていないかどうかを判断する基準」のことです(税関・積送基準リーフレットより)。簡単に言えば、「原産国から日本まで、途中で余計な加工がされていないか、そして原則として直接運ばれているか」という条件です。
第三国を経由する場合、積送基準を満たすことを示す「運送要件証明書」を輸入申告時に税関へ提出する必要があります。課税価格が20万円を超える貨物では基本的に提出が必要です。この運送要件証明書として認められる書類は3種類あります。
つまり、①の通し船荷証券を確保しておくことが実務上の王道です。②と③は手続きが複雑で確実性も低く、後から手配しようとしても輸入申告のタイミングに間に合わないケースが多々あります。
特に注意が必要なのは、仮に原産地証明書を正しく取得していても、通し船荷証券がなければEPA関税が適用されないという点です。原産地証明書と積送基準の証明は、どちらか一方で足りるものではなく、両方を満たして初めてEPA税率が使えます。
参考:積送基準と通し船荷証券の関係について、元通関士による詳しい解説はこちら。
第三国経由貨物に特恵適用上必要な通しB/L - 関税削減.com
通し船荷証券の見本や実務書類を扱っていると、「House B/L」と「Master B/L」という2種類の書類に出くわすことがあります。この2つの違いを理解しておかないと、積送基準の証明で思わぬ落とし穴にはまることがあります。
Master B/L(マスターB/L)とは、実際に船を運航する船会社(実運送人)がNVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier:非船舶運航貨物業者)やフォワーダーに対して発行するB/Lのことです。これはNVOCCが輸送全体を荷主に代わって契約し、実際の本船輸送部分を船会社に委託するときに生まれます。
一方、House B/L(ハウスB/L)とは、NVOCCやフォワーダーが荷主(輸出者)に対して発行するB/Lです。荷主が目にするのは通常このHouse B/Lです。
税関の積送基準の確認において、House B/Lのみで通し船荷証券として通用するかどうかが実務上の問題になることがあります。税関のEPA原産地規則マニュアルによると、「単一の船会社等が全経路について責任を負っている場合において、当該者が発行した積地または荷受地と揚げ地の記載されたB/L」であれば積送が確認できるとされています。また、国際宅配業者から提出されたHAWB(House Air Waybill)についても、貨物の荷受地からの通しB/Lとして取り扱えるとされています。
ただし、House B/Lが通し船荷証券として認められるかどうかは発行条件によります。全経路の責任を一括して負っていることが明示されていることが条件です。Master B/LとHouse B/Lを両方確認することが条件です。
参考:Master B/LとHouse B/Lの違いや積送基準への影響については、税関のEPA原産地規則マニュアル(Q&A形式)に詳しく掲載されています。
EPA原産地規則マニュアル(Q&A)- 税関 Japan Customs
通し船荷証券を入手できれば問題ありませんが、実際の貿易実務では取得が難しい場面も出てきます。このセクションでは、それほど語られていない対処法と、それが関税コストにどう影響するかを整理します。
通し船荷証券の取得が困難になる代表的なシナリオとして、輸出者の事情により在庫を目的として第三国で一時保管(在庫目的のトランジット)するケースがあります。この場合、通常のB/Lが第三国での輸入通関を前提に発行されることが多く、その時点で積送基準の充足が非常に難しくなります。第三国の税関管理下(保税状態)を維持していたとしても、B/Lの発行形態によっては証明として認められないことがあります。
このような特殊ケースでの対処法として、実務上考えられる手段を整理します。
ここで把握しておくべき重要な数字があります。EPA税率の適用を逃した場合のコスト差は品目によって大きく異なりますが、たとえばタイ産の工業製品でEPA税率が0%のところ一般税率が3〜5%だった場合、100万円の貨物では3〜5万円の差が1回の輸入で生じます。通し船荷証券の確認を怠ることで毎回数万円の余計な関税支払いが続くリスクがあります。積送基準の確認は関税コスト管理の核心です。
なお、事前教示制度を利用する場合、照会書(税関様式C第1000号-2)を主要な輸入予定地を管轄する税関へ提出してください。税関は受理から30日以内に回答するよう努めています。
参考:積送基準の書類要件と事前教示制度の使い方について、税関の公式リーフレットで確認できます。
特恵税率の適用における積送基準について(リーフレット)- 税関 Japan Customs