戦争危険は本船上のみ補償で陸揚げ後は対象外です。
日本の外航貨物海上保険において、戦争保険は通常の海上保険とは別証券で引き受けられる補完的な保険制度です。一般的な貨物保険では戦争による損害は免責事項となっているため、戦争・内乱・革命・テロなどの政治的・軍事的リスクを補償するには、別途戦争保険への加入が必要になります。
通関業務に携わる方にとって重要なのは、輸入通関時にはCIF価格(商品価格+運賃+保険料)の申告が求められる点です。戦争保険料も含めた総額を正確に把握しておかないと、課税価格の計算に影響が出ます。
これは基本です。
2009年制定の協会戦争約款(Institute War Clauses)が日本でも標準的に使用されており、戦争・内乱・革命・謀反・反乱、これらから生じる捕獲・拿捕・抑留、遺棄された機雷・魚雷・爆弾などが補償対象となります。
戦争保険の保険料率は通常の海上危険とは別に設定され、国際情勢によって頻繁に変動します。どういうことでしょうか?
外航貨物海上保険の戦争保険料率は、過去には0.0275%程度でしたが、国際情勢の緊迫化により0.05%へと約2倍に引き上げられた実例があります。2025年現在、イラン・イスラエル間の緊張や紅海・ホルムズ海峡周辺の治安悪化により、戦争リスク保険の料率はさらに上昇傾向にあります。
参考)戦争リスク保険とは?──イラン・イスラエル情勢と原油価格の影…
保険金額の計算は、CIF価格の110%が国際的な商慣習です。例えば、CIF横浜港渡し価格が100万円の貨物の場合、保険金額は110万円となります。この110%という数字はインコタームズでも規定されており、商品の原価に加えて輸送中の付随費用や期待利益を考慮した金額です。
具体的な保険料計算例を挙げると、CIF価格100万円×110%×0.35%(保険料率)=3,850円となります。戦争保険料率は別途加算されるため、情勢次第で総保険料は大きく変動します。船体価額が1億ドルの一般的な貨物船では、1回の航海につき100万ドルの追加保険料が発生する可能性もあります。
参考)https://www.ntl-naigai.co.jp/document/service/marine_insurance.pdf
戦争保険には通常の海上保険とは異なる重要な制限があります。
通常の海上危険やストライキ危険の保険期間は「A地点を出発してからB地点に到着するまで」と広範囲ですが、戦争危険の保険期間は原則として貨物が外航本船(または航空機)に積み込まれている間のみです。つまり、貨物が陸上にある間の戦争危険による損害は補償されません。
参考)https://www.aig.co.jp/content/dam/aig/sonpo/jp/ja/documents/products/pamphlets/6A1-222.pdf
この違いは通関業務において極めて重要です。貨物が本船を離れて保税蔵置場やコンテナヤードに一時保管されている間に、万が一戦争や内乱による損害が発生しても、戦争保険からは保険金が支払われません。
海上輸送中のみが対象ということですね。
FOBやCFR条件で輸入する場合、輸入者が保険手配する際にはRisk Attachment Clause(危険開始条項)を適用し、売主から買主への危険負担移転時点から保険を開始させる必要があります。通関業務従事者は、どの時点から保険が有効かを正確に把握しておくことが求められます。
戦争保険でも補償されない免責事項が存在します。
最も重要な免責事項は、核燃料・核廃棄物、原子力設備、核兵器、放射能物質、化学兵器、生物兵器、生化学兵器および電磁兵器などに起因する損害です。これらは国際条約で禁止されている兵器であり、被害の予測が不可能なため、戦争保険でも完全に免責となります。
さらに、英国・アメリカ・フランス・ロシア・中国のいずれかの間で戦争が発生した場合も免責となる約款が一般的です。これは大国間の全面戦争では保険会社の支払能力を超える損害が発生する可能性があるためです。
厳しいところですね。
参考)船舶戦争保険
通関業務で扱う貨物に関しては、日本国または外国の公権力による強制使用、強制買上、検疫、貿易または関税に関する法令に基づく処分も免責事項に含まれます。輸入禁止措置や緊急輸入制限などの行政処分による損害は、戦争保険の対象外です。
また、貨物の故意の違法行為、梱包の不良による損害も完全免責となります。通関業務従事者は、これらの免責事項を理解した上で、荷主に適切なアドバイスを行う必要があります。
参考)https://www.clair.or.jp/j/forum/c_mailmagazine/201302_2/4-1.pdf
通関業務において戦争保険の知識は実務上の重要なポイントとなります。
CIF条件以外での輸入の場合、輸入通関時にはCIF価格への換算が必要です。このとき、戦争保険料を含めた保険料総額を正確に把握していないと、課税価格の計算に誤りが生じるリスクがあります。FOBやCFR条件で輸入する貨物については、自社で保険手配する際に戦争保険の付保漏れがないか確認が必須です。
中東情勢や地政学的リスクが高まっている地域からの輸入では、戦争保険料率が急騰する可能性があります。戦争保険料率の見積り有効期間は短く、頻繁に更新されるため、船積み時点での最新料率を保険会社に確認する必要があります。紅海やホルムズ海峡を通過する航路では、特に注意が必要です。
参考)https://www.marsh.com/jp/ja/industries/cargo/insights/how-cargo-shippers-can-mitigate-risks-from-changing-trade-policies.html
予定保険の活用も検討すべきです。危険が開始してから保険を申し込む場合、予定保険制度を利用することで迅速に補償を確保できます。通関業務従事者は、荷主に対して輸送ルートや国際情勢を考慮した保険戦略のアドバイスができると、信頼性が高まります。
ジェトロ公式サイトでは、外航貨物海上保険の保険料算定方法と補償内容の詳細が解説されています。通関業務の実務で迷ったときの参考リンクとして有用です。
ジェトロの免責事由解説ページでは、貨物海上保険で補償されない危険の詳細リストが掲載されており、通関業務でのリスク管理に役立ちます。