「健康食品」と書かれた申告書類を信じて通関手続きを進めると、最大3年の懲役リスクを荷主と一緒に負うことになります。
「無承認無許可医薬品」という言葉を、ニュースの話題として認識している通関業従事者は少なくありません。しかし実際の通関実務では、この概念の正確な理解が業務の安全性に直結します。
まず定義から整理しましょう。薬機法(医薬品医療機器等法)では、口から摂取するものは「医薬品」か「食品」のどちらかに分類されます。「医薬品」とは、①疾病の診断・治療・予防に使用されることを目的とするもの、②身体の構造や機能に影響を及ぼすことを目的とするもの、と定義されています。そして、この「医薬品」に該当するにもかかわらず、厚生労働大臣による製造販売の承認や製造販売業の許可を受けずに流通しているものを「無承認無許可医薬品」と呼びます。
つまり「医薬品に含まれる」のは当然です。
問題は、表面上は健康食品・サプリメントとして流通している製品が、実態として医薬品に分類されるケースがある点です。具体的には、以下の4つの要素のうち一つでも該当すれば、当該製品は医薬品とみなされます。
| 判断要素 | 具体例 |
|---|---|
| ①成分本質(原材料) | 「専ら医薬品として使用される成分本質リスト」記載の原材料を含む |
| ②医薬品的な効能効果の標榜 | 「○○病に効く」「血糖値を下げる」等の表示・広告 |
| ③医薬品的な形状 | アンプル剤・注射剤形状など、外見が医薬品と同一 |
| ④医薬品的な用法用量 | 「1日3錠、食後に服用」のような服薬指示 |
①の「成分本質リスト」は厚生労働省が定める「食薬区分リスト」のことで、「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト(通称:専医リスト)」に掲載された原材料を含む製品は、たとえ食品として販売されていても医薬品とみなされます。これが基本原則です。
通関業従事者として重要なのは、「食品」と申告されていても、製品の実態が上記4要素のどれかを満たしていれば、薬機法上は医薬品として扱われるという点です。書類の記載内容だけを信じることは、実務上のリスクになります。
参考情報(宮城県:無承認無許可医薬品の取締りページ)。
宮城県:無承認無許可医薬品の取締り(医薬品の範囲に関する基準)
健康食品に医薬品成分が混入している理由は、大きく2つのパターンに分けられます。この背景を理解しておくと、怪しい貨物の見分け方が変わってきます。
1つ目は「効果を際立たせるための意図的な添加」です。一般的に、本当の意味での食品・サプリメントは劇的な効果を発揮することはありません。しかし医薬品成分を違法に添加すれば、消費者が「本当に効く!」と感じる強い効果が生まれます。特にダイエット食品、強壮食品(ED関連)、漢方薬類に多く見られるパターンで、北海道立衛生研究所の調査では、ダイエット用健康食品から中枢神経性食欲抑制剤「シブトラミン」が、強壮食品からはバイアグラの有効成分である「シルデナフィル」「タダラフィル」が検出されています。
2001年から2002年にかけて実際に発生した事例では、中国製ダイエット用健康食品を服用した796人が肝機能障害を起こし、うち4人が死亡しました。これほどのケースです。
2つ目は「海外では食品・食品添加物として認められている成分を使用した結果、日本では医薬品に該当してしまうケース」です。これは製造者が悪意を持って混入させた訳ではなく、各国間での食薬区分の違いによるものです。意外ですね。例えば、ある国では一般的な食品成分として認められているハーブや植物エキスが、日本の「専医リスト」には医薬品成分として掲載されているケースがあります。
この2つのパターンを区別することが重要です。意図的な添加の場合は悪質性が高く、法執行機関による摘発の対象となりやすい一方、食薬区分の相違による場合でも、日本国内では同様に薬機法違反として扱われる点は変わりません。通関業従事者の立場からは、どちらのパターンであっても「医薬品に該当するかどうか」という結論だけが重要です。製造者の意図は問われません。
よく見られる無承認無許可医薬品の種類を挙げると、ダイエット目的の食品(食欲抑制成分、下剤成分)、強壮・男性機能改善を標榜するもの(PDE5阻害薬類似成分)、リウマチ・アトピー等に「効く」とされる漢方系食品(抗炎症薬成分)、そして海外産の「自然由来」成分を強調したサプリメントが代表的です。
参考情報(北海道立衛生研究所:健康食品と無承認無許可医薬品の詳細解説)。
北海道立衛生研究所:健康食品と無承認無許可医薬品(医薬品成分の検出事例と背景)
「申告内容は荷主が決めるものだから、通関業者は関係ない」と考えている方がいるとしたら、それは危険な認識です。結論を先に言います。
通関業者も薬機法違反に問われる可能性があります。
税関(財務省)の公式解説によれば、医薬品等を輸入しようとする場合には、税関への輸入申告の際に薬機法上の許可・承認等を受けていることを証明する必要があります。具体的には「医薬品等製造販売業許可証の写し」または「医薬品等製造販売承認書の写し」を税関に提出して確認を受けなければなりません。
この「確認」は関税法第70条に基づく他法令確認であり、通関業務を代行する通関業者は、輸入申告に際して必要な書類が整っているかを確認する義務があります。これが実務上のポイントです。
薬機法が定める罰則を具体的に確認しておきましょう。
| 違反行為 | 根拠条文 | 罰則 |
|---|---|---|
| 無許可での医薬品製造販売・販売 | 薬機法第84条(第12条・第24条違反) | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(または両方) |
| 虚偽・誇大広告 | 薬機法第85条(第66条違反) | 2年以下の懲役または200万円以下の罰金 |
| 課徴金(令和3年改正) | 薬機法第75条の5の2 | 対象期間の売上の4.5%相当額 |
「知らなかった」は免責にならない点が厳しいところです。たとえ通関業者が医薬品成分の混入を知らなかったとしても、輸入申告の代行業務を行った以上、関税法上の責任からは逃れにくくなります。
法人が関与した場合は両罰規定が適用され、個人への刑事罰に加えて法人にも最大1億円の罰金が課される可能性があります。通関業者が法人として業務を行っている場合、1件の見落としがこれほどの重大リスクに直結します。
また、薬機法違反が確定すると通関業者の許可取消しや業務停止処分といった行政処分の対象にもなりえます。事業継続リスクとしても深刻です。
参考情報(税関:薬機法に基づく輸入規制の確認内容)。
税関カスタムスアンサー:医薬品医療機器等法に基づく輸入規制の税関における確認内容
食薬区分の概念は理解できても、実際の通関実務で「この貨物は大丈夫か?」を判断するための具体的な手順がわからないという声をよく耳にします。ここでは実務で使えるチェックの流れを整理します。
まず「食薬区分リスト」の構造を把握しておくことが前提です。厚生労働省が定める食薬区分リストは、大きく2つのリストから構成されています。
- 専医リスト(別添1):「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」。このリストに掲載された成分を含む製品は、原則として医薬品とみなされます。
- 非医リスト(別添2):「医薬品的効能効果を標榜しない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」。このリストの成分は、効能効果を標榜しなければ食品として扱えます。
このリストは随時改正されるため、最新版の確認が必須です。
輸入前の自己点検は4ステップで行います。
ステップ1:製品の原材料表・成分表を入手する
インボイスや製品仕様書だけでなく、原材料リストと製造工程表を荷主から取り寄せます。
ステップ2:専医リストとの照合を行う
入手した原材料情報を厚生労働省の最新の食薬区分リスト(専医リスト)と照合します。1つでも専医リスト掲載成分が含まれていれば、その製品は医薬品扱いになります。
ステップ3:表示・広告内容の確認
製品パッケージ、説明書、販売サイトのスクリーンショット等を確認し、医薬品的な効能効果を標榜していないかチェックします。外国語で書かれていても判断基準は同じです。
ステップ4:疑義がある場合は都道府県薬務担当課へ照会する
自己点検で判断できない場合は、輸入者の事業所を管轄する都道府県の薬務担当課に事前照会できます。貨物が到着して通関止めになってから確認するより、事前照会の方が圧倒的に効率的です。通関前の確認が原則です。
もし貨物がすでに到着し、通関止めとなった場合の問い合わせ先は以下の通りです。
| 管轄区域 | 問い合わせ先 | 電話番号 |
|---|---|---|
| 函館・東京・横浜税関管轄 | 関東信越厚生局 | 048-740-0800 |
| 名古屋税関以西の税関管轄 | 近畿厚生局 | 06-6942-4096 |
参考情報(ミプロ:健康食品の輸入における食薬区分チェックの詳細手順)。
ミプロ(対日貿易投資交流促進協会):健康食品の輸入~知っておきたい法規制(PDF)
ここでは、一般的な解説記事にはあまり登場しない実務上の盲点を紹介します。通関業従事者として差がつく知識です。
落とし穴①:錠剤・カプセル形状だけでは判断できない
2001年の規制緩和以降、錠剤・カプセル形状の食品が認められるようになりました。つまり「錠剤だから医薬品」という判断は現在は成立しません。形状だけで医薬品か食品かを判断しようとすると、見落としが生まれます。形状は4要素のひとつにすぎない、という点を改めて押さえましょう。
落とし穴②:HSコードと食薬区分は別の話
HSコードで「2106(調製食料品)」や「2105(アイスクリーム等)」に分類されているからといって、薬機法上の医薬品該当性とは無関係です。関税分類と食薬区分の判断は別の法令に基づくものであり、通関業者がHSコードの分類をもって「食品で問題なし」と判断するのは早計です。両方を独立してチェックする必要があります。
落とし穴③:海外での正規品であっても日本では無承認無許可医薬品になる
米国FDAやEU各国の規制機関で「フードサプリメント」として合法的に流通している製品が、日本の食薬区分では医薬品に該当するケースが実際にあります。これは特に北米・欧州からのインポートで問題になりやすいパターンです。輸出国での合法性は、日本国内での適法性を担保しません。これが条件です。
落とし穴④:ニコチン含有製品の特殊な扱い
電子タバコのカートリッジ等に含まれるニコチンは医薬品成分であり、ニコチンを含むカートリッジは薬機法上の「医薬品」、これを霧化させる装置は「医療機器」として扱われます(茨城県薬務行政担当課の解説より)。電子タバコ関連製品の輸入手続きを担当する通関業者は、この点の確認が必要です。意外ですね。
落とし穴⑤:ワシントン条約規制品と食薬区分の二重リスク
健康食品の原材料に使われることのあるジャコウジカ・木香・天麻・アメリカニンジン・アロエなどは、ワシントン条約の規制対象でもあります。これらの成分が使われている場合、食薬区分の確認に加えてワシントン条約の輸出許可書の有無も確認しなければなりません。どちらか一方を見落とすと、税関での通関止めと薬機法違反の両方が同時に発生するリスクがあります。
以上の5つの落とし穴を把握することで、通関業務における確認の精度が格段に上がります。この情報は使えそうです。
健康食品の輸入案件を多く扱う事務所では、チェックリストを業務マニュアルに組み込むことを推奨します。厚生労働省の食薬区分リストは随時改正されるため、最低でも年1回は内容の更新確認を行いましょう。実務上、1件の見落としが引き起こすリスクを考えると、確認コストは非常に小さな投資です。
参考情報(厚生労働省:食薬区分における成分本質の取扱いの例示・最新リスト)。
厚生労働省:無承認無許可医薬品情報(最新の食薬区分リスト掲載ページ)