航海用船・定期用船の違いと関税への影響を徹底解説

航海用船と定期用船の違いを知らないと、輸入コストや関税評価で思わぬ損をする可能性があります。契約形態ごとの費用負担・リスクの違いとは?

航海用船・定期用船の違いと関税・輸入コストへの影響

航海用船契約の滞船料は関税の課税価格に加算されないため、あなたが払った滞船料分だけ関税を多く払い損している可能性があります。


📦 この記事の3ポイント要約
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航海用船契約とは?

1航海ごとに貨物を運ぶ運送契約。燃料費・港費・船員費はすべて船主負担で、荷主(用船者)はトンあたりの運賃だけを支払う。関税の課税価格に影響する。

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定期用船契約とは?

期間(月・年単位)で船を借りる契約。燃料費・港費は用船者負担。船員費・修繕費は船主負担という費用分担が特徴で、柔軟な配船が可能。

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関税に興味ある人が知るべき違い

契約形態によって「課税価格に算入される運賃の範囲」が異なる。特に滞船料(Demurrage)の扱いは関税評価に直結するため、輸入者は必ず確認が必要。


航海用船契約(Voyage Charter)の基本的な仕組みと費用負担

航海用船契約(ボエッジ・チャーター)とは、積地から揚地まで特定の区域間の貨物輸送を目的として、荷主(用船者)と船主(運送人)の間で締結される運送契約のことです。簡単に言えば「この貨物をA港からB港まで運んでください」という1回ごとの契約です。


費用の負担構造がこの契約の核心です。燃料費(バンカーオイル代)、港費、船員費など航海にかかる運送費用のすべては原則として船主が負担します。荷主(用船者)は、貨物を運んだ対価として「1トンあたりいくら」という形の運賃を支払うだけで済みます。例えば50,000MTのトウモロコシを北米から日本の名古屋港へ運ぶ場合、50 USD/MTで契約すれば250万ドルの運賃を船主に支払う計算になります。


つまり運賃オールインが基本です。


航海用船契約には独自の時間管理ルールがあります。「レイタイム(Laytime)」と呼ばれる荷役可能な許容時間が設定されており、この時間内に荷役が終わらなかった場合、荷主は「滞船料(Demurrage)」という割増料金を船主に支払わなければなりません。逆に想定より早く荷役が完了すれば「早出料(Despatch)」として船主から荷主へ報奨金が支払われます。


滞船料の存在は覚えておくべきです。


また、タンカーの航海用船では「ワールドスケール(Worldscale)」という国際的な運賃指標が使われる点も特徴的です。これは世界の主要航路の基準運賃を数値化したものであり、WS100を基準として「WS75」や「WS130」といった形で実際の運賃交渉が行われます。


費用項目 負担者
燃料費(バンカー代) 船主
港費・水先料 船主
船員費 船主
船舶保険料 船主
運賃(対価) 用船者(荷主)が支払う
滞船料(超過時) 用船者(荷主)が支払う


参考:航海用船契約の詳細な定義(JOGMEC 石油・天然ガス資源情報)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1000652/1000667.html


定期用船契約(Time Charter)の基本的な仕組みと費用負担

定期用船契約(タイム・チャーター)は、一定の期間を定めて船腹を借り受ける契約です。期間単位での船の賃貸借という性格が強く、用船料は「1日あたりいくら」または「1か月あたりいくら」という期間建てで計算されます。


期間の幅は驚くほど広い。短期では5〜6か月程度、長期では3〜7年、LNG(液化天然ガス)船の場合は30年を超える長期契約になることもあります。


定期用船契約の費用負担は航海用船とは逆の構造です。船主側は「船費」(船員費・修繕費・船用品費・減価償却費・保険料)を負担します。一方、用船者側は「運航費」(燃料費・港費・水先料・ターミナル使用料)を負担します。これは、用船者が実際の配船・運航業務を指示するからです。


費用分担が明確なのがポイントです。


また、定期用船契約において重要なのは「本船の引渡し・返船場所」も契約に明記される点です。用船者は引き渡しを受けた後、契約に定められた航行区域の範囲内であれば積み揚げ地を特定せず自由に配船できます。用船料は船が稼動していない時間(たとえば故障時などの「オフハイヤー」期間)は支払われないというルールもあります。


費用項目 負担者
船員費 船主
修繕費・船用品費 船主
船舶保険料 船主
燃料費(バンカー代) 用船者
港費・水先料 用船者
ターミナル使用料 用船者
用船料(対価) 用船者が支払う


参考:定期用船契約の詳細な定義(JOGMEC 石油・天然ガス資源情報)
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1001289/1001298.html


航海用船と定期用船の違いを5つの視点で比較する

両者の違いは費用負担だけではありません。実務上で特に重要な5つの視点から比較していきます。


① 契約の本質(賃貸借か運送か)


航海用船契約は法的には「運送契約」の性格が強く、船主は荷主に対して「貨物を安全に届ける義務」を負います。一方、定期用船契約は「賃貸借契約」に近い性格を持ち、船主は一定期間、稼動可能な状態の船舶を提供する義務を負います。この本質的な違いが、以下のすべての差異の根本にあります。


② 運航指示権(配船の自由度)


航海用船では、どこに行くかは契約で決まっており、用船者は航路・港を自由に指示できません。定期用船では、用船者が船長に対して航路・港・積み揚げ貨物について自由に指示できます。定期用船の方が圧倒的に柔軟です。


③ 燃料費リスクの所在


航海用船では燃料費は船主負担なので、燃料価格が上がっても荷主(用船者)は運賃額以上を追加負担しません。定期用船では燃料費が用船者負担なので、原油価格が急騰すれば用船者のコストが直撃します。これが知らないと損をする大きなリスクポイントです。


④ 滞船料・早出料(Demurrage / Despatch)の概念


この概念は航海用船契約に固有のものです。定期用船では時間が「用船料」に連続して反映されるため、個別の荷役遅延ペナルティという概念がありません。一方、航海用船では許容停泊時間(レイタイム)が設定されており、超過した場合は滞船料が発生します。


⑤ トリップ定期用船(TCT)という第三の選択肢


実務では「トリップ定期傭船(Trip Charter / TCT)」という中間形態も広く使われています。A地点からB地点までの特定1航海の期間のみ、船を時間単位で借りる方式です。大手ドライバルク運航会社では取引の7〜8割がこのTCTで占められているという実態があります。航海用船より成約数は圧倒的に少ないという先入観は誤りです。


比較項目 航海用船 定期用船
契約の性質 運送契約(貨物の運送) 賃貸借契約(船の貸借)
運賃の計算 トンあたり・1航海いくら 1日あたり・1か月いくら
配船・航路の指示 契約で固定(指示不可) 用船者が自由に指示可
燃料費負担 船主 用船者
船員費負担 船主 船主
滞船料・早出料 あり(レイタイム制度) なし
契約期間 1航海単位 数か月〜30年超


参考:用船契約の種類と法的性質について(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A8%E8%88%B9%E5%A5%91%E7%B4%84


航海用船契約と関税評価の落とし穴——滞船料は課税価格に入るのか?

関税に興味のある方が最も注意すべきポイントです。輸入者が航海用船契約を使って輸入する場合、関税法上の「課税価格」をどう計算するかで大きな差が生じます。


輸入貨物の関税定率法上の課税価格は、基本的に「現実支払価格(貨物代金)+輸入港までの運賃・保険料等」で計算されます。航海用船契約に基づく用船料(海上運賃)は、この「輸入港までの運賃」として課税価格に加算するのが原則です。


ここで多くの輸入者が疑問に思うのが「滞船料(Demurrage)」の扱いです。


税関の質疑応答事例(関税評価)では、「航海用船契約において輸入港における滞船料については、その費用発生の時点が輸入港到着後であるかないかを問わず、課税価格に算入されない」と明確に回答しています。つまり、バース待ちなどで本船の着岸前に滞船料が発生した場合でも、それが揚地(輸入港)での費用であれば課税価格に含めなくていいのです。


これは「輸入港到着前に発生したコストは全部課税価格に加算が必要」という思い込みを持っている輸入者にとって大きな朗報です。反対に言えば、この知識がなければ本来加算不要な滞船料を課税価格に含めて申告してしまい、払わなくてよい関税を余分に払うリスクがあります。


なお、同様に「早出料(Despatch)」についても輸入港での発生分は課税価格から控除されないというルールがあります。早出料は荷主がもらう報奨金ですが、これを控除できると勘違いしている実務者もいます。控除はできません。


以下に関係法令と税関の公式見解をまとめます。


  • ✅ 積地(輸出港)で発生した滞船料 → 課税価格に加算が必要
  • ❌ 揚地(輸入港)で発生した滞船料 → 課税価格に加算不要
  • ❌ 揚地(輸入港)で発生した早出料 → 課税価格から控除できない


根拠法令は関税定率法第4条第1項第1号、関税定率法基本通達4−8(3)ニ・ヘです。


参考:税関の公式質疑応答事例「航海用船契約において本船扱いにて輸入許可後に揚地で発生する滞船料」
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kanzeihyouka/hyokajirei/hyokajirei4111020.pdf


課税価格に関する疑問や個別ケースの確認は、税関の「事前教示制度」を使って文書で照会することが推奨されています。関税額に直結するため、不明点は通関業者や税関に確認する、これが原則です。


定期用船契約がIFRS新リース会計基準で「負債化」する衝撃の真実

関税とは別の視点で、もう一つ見落とされがちな重要トピックがあります。それは定期用船契約と会計処理の関係です。これは輸入に関わる企業が財務を把握する上で無視できません。


従来、定期用船契約はリース会計の対象外として処理されてきました。すなわち、長期の定期用船料はオフバランス(貸借対照表に載せない)で処理できたのです。


しかし国際会計基準(IFRS)や、2027年3月期から適用される日本の新リース会計基準では、この扱いが大きく変わります。


定性は変わりました。


定期用船契約は、実質的に「資産の使用権が移転している」と判断されるケースでは、リース契約として貸借対照表にオンバランス(資産・負債計上)することが求められます。具体的には、用船期間中の用船料総額の現在価値が「使用権資産」として資産計上される一方で、同額が「リース負債」として計上されます。


これによって自己資本比率が著しく低下するリスクがあります。試算によれば、リース負債のオンバランス化によって海運会社の自己資本比率が10%前後低下するケースもあると報告されています。自己資本比率が低下すると、銀行融資の条件(財務コベナンツ)に抵触したり、信用格付けが下がったりするリスクが生じます。


一方で、航海用船契約は「特定の航海の運送契約」であるため、定期用船のような長期リース性が低く、オンバランス化の影響は限定的とされています。この会計上の差異も、どちらの契約形態を選ぶかの判断材料になり得ます。


  • 🔴 定期用船契約(長期):新リース会計でオンバランス化 → 自己資本比率が最大10%超低下のリスク
  • 🟢 航海用船契約:1航海単位の運送契約 → オンバランス化の影響は限定的


参考:船舶リースと新リース会計基準による財務への影響(EY Japan)
https://www.ey.com/ja_jp/insights/assurance/info-sensor-2025-06-04-industries


自社が長期の定期用船契約を結んでいる場合は、この新会計基準の影響を早めに確認することが重要です。顧問税理士や公認会計士に「定期用船契約のオンバランス化影響試算」を依頼する、これが具体的な対応の第一歩です。


【独自視点】航海用船・定期用船の選択が輸入コスト構造に与える長期的な影響

最後に、上位記事ではほとんど語られていない独自の視点をお伝えします。それは「どちらの契約形態を選ぶかが、輸入コスト全体の構造を変える」という長期的な視点です。


航海用船契約を選んだ場合、コスト構造は非常にシンプルです。荷主は「運賃+滞船料リスク」だけを管理すればよく、燃料価格の変動リスクを負いません。1航海ごとに市場の最安値業者を選べるという柔軟性もあります。これはスポット輸入や少量輸入に向いた形態です。


定期用船契約を選んだ場合は、燃料費・港費の変動リスクを用船者が直接引き受けます。しかし見返りとして、長期間にわたって船を自由に配船できるため、複数航路・複数品目の貨物を効率的に輸送できます。年間輸入量が大きく、安定的な船腹が必要な大手商社や専業オペレーターにとっては有利です。


つまり、輸入規模によって最適な選択肢は変わります。


また、コスト計算の観点から見ると、関税の課税価格ベースでは航海用船の運賃はそのまま加算要素になりますが、定期用船では用船料・燃料費・港費が分離しているため、どの費用を「輸入港までの運賃」として課税価格に計上するかが複雑になります。この点は通関業者と事前に整理しておかないと、申告誤りにつながります。


関税の課税価格申告に関してはミスが許されません。


  • 📌 スポット・小口輸入 → 航海用船が適している(コスト予見性が高い)
  • 📌 大量・長期・安定輸入 → 定期用船が適している(配船の自由度が高い)
  • 📌 中間的ニーズ → トリップ定期用船(TCT)が現実的な選択肢


輸入者として関税コストを正確に把握するためには、まず自社の輸入形態がどの用船契約タイプに基づいているかを通関業者に確認することが出発点です。契約形態を把握したうえで、「課税価格に加算すべき運賃の範囲」を整理する、これが関税コスト最適化の基本です。


参考:マリタイムライブラリーによる航海傭船・定期傭船の実務解説
https://blog.nmb.co.jp/blog/vessel/737/