経済産業省安全保障貿易管理 貨物・技術のマトリクス表の使い方と該非判定

経済産業省が公開する「貨物・技術のマトリクス表」を正しく使えていますか?通関業従事者が見落としがちな法令用語の読み替え・解釈欄の重要性・毎年改正への対応まで、該非判定の実務ポイントを徹底解説します。

経済産業省安全保障貿易管理 貨物・技術のマトリクス表の正しい使い方と該非判定の実務

「ベアリング」で検索しても何も出ず、あなたの輸出は違反扱いになります。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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マトリクス表は「法令用語」でしか検索できない

「ベアリング」→「軸受」、「ドローン」→「無人航空機」など、日常用語と法令用語は別物。一般名称で検索してヒットしなかったからといって非該当と判断するのは危険です。

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「解釈」欄の省略は法令違反のリスクあり

マトリクス表の「解釈」欄の確認を省略してよいというルールはありません。この欄こそが、規制の境界線を正確に示す重要な情報源です。

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マトリクス表は原則「毎年改正」される

国際輸出管理レジームの合意内容を受け、リスト規制の品目は毎年改正されます。古いバージョンを使い続けると、最新の規制品目を見落とす恐れがあります。


経済産業省安全保障貿易管理 貨物・技術のマトリクス表とは何か

「貨物・技術のマトリクス表」とは、輸出貿易管理令別表第1(貨物)および外国為替令別表(技術)に規定されている規制品目を、Excelファイルにまとめた一覧表です。経済産業省の安全保障貿易管理のページで無償公開されており、誰でもダウンロードして利用できます。


この表は、1項(武器)から15項(機微品目)までの分類ごとに整理されています。具体的には、原子力・化学兵器・生物兵器・ミサイル・先端素材・材料加工・エレクトロニクス・電子計算機・通信・センサ・航法装置・海洋関連・推進装置などが対象です。これは「リスト規制」と呼ばれ、特定のスペックを持つ貨物や技術の輸出には経済産業大臣の許可が必要となります。


つまり、該非判定の出発点がこの表です。


マトリクス表は、政令・省令・通達等の複数の法令情報を一か所に集約した「検索用ツール」として機能します。ExcelのCtrl+F(検索機能)を使い、輸出しようとする貨物や技術のキーワードを入力してヒットするか確認する、という使い方が基本です。


ただし、検索方向を「列」に設定しないと一部の情報が見落とされるため、経済産業省は「行」設定を避けるよう明示しています。こうした細かい操作手順まで押さえておくことが、正確な該非判定への第一歩です。


参考:マトリクス表の公式ダウンロードページはこちら。貨物・技術の合体マトリクス表(Excel版)も含め、最新施行対応版が掲載されています。


該非判定/貨物・技術のマトリクス表について(経済産業省)


経済産業省安全保障貿易管理 マトリクス表で該非判定を行う手順

該非判定は、経済産業省が示す5つのSTEPに従って進めます。順を追って確認しましょう。


STEP1:輸出する貨物・技術の特定


輸出する品目の型番・スペック・用途を正確に整理します。あいまいなまま進めるとSTEP2以降の判定精度が落ちます。スペックが分からない場合はメーカーへの問い合わせが必要です。


STEP2:マトリクス表でキーワード検索


貨物・技術のマトリクス表(Excel)を開き、Ctrl+Fで対象品目のキーワードを入力します。ここで注意が必要です。


マトリクス表は「法令上の用語」で整理されています。一般的な呼び名とは異なる場合が多く、そのまま検索しても何もヒットしないことがあります。たとえば、「ベアリング」は法令上「軸受」、「ドローン」は「無人航空機」、「バルブ」は「弁」、「コンピュータ」は「電子計算機」です。検索にヒットしなくても、それだけで非該当と判断してはいけません。


経済産業省は「読替が必要な用語(例)」をExcel形式で公開しています。まずこのリストを参照し、複数のキーワードで検索することが原則です。


STEP3:貨物等省令のスペック要件との照合


マトリクス表でヒットした項目について、貨物等省令に規定されたスペック基準(性能の閾値)を確認します。自社製品のスペックがその閾値を超えているかどうかで、「該当」か「非該当」かが決まります。


STEP4:「解釈」欄の確認


マトリクス表には「解釈」欄があります。ここには、規制対象の範囲や除外条件など、判定に必要な細かい情報が記載されています。解釈欄が大事です。経済産業省のQ&Aでも明確に「省略してはならない」とされており、忙しい実務の中でも必ず目を通す必要があります。


STEP5:該非判定書の作成と記録保管


判定結果は文書化し、社内に保管します。何年後かに外為法違反の疑いで調査が入った場合、この記録が適正な手続きを証明する唯一の証拠になります。


経済産業省安全保障貿易管理 マトリクス表で見落としやすい3つの落とし穴

外為法違反の原因として、経済産業省の公表データ(2017年4月〜2022年3月)では「法令知識の欠如(該非判定の未実施)」が違反件数全体の23%を占めています。さらに「悪意はなかったが違反した」項目を合計すると、該非判定の未実施・見落としが全体の約47%に達します。


つまり、半数近くの違反は「うっかり」から始まっているのです。


落とし穴①:一般名称と法令用語のギャップ


前述の通り、日常使いの品名と法令用語は別物です。「ミキサー」→「混合機」、「タンク・シリンダー」→「貯蔵容器」など、想像以上に読み替えが必要な用語は多くあります。経済産業省が公開している「読替が必要な用語(例)」のExcelファイルは必ず事前に確認しましょう。このファイルで全てカバーされているわけではないため、類義語・別名でも追加検索する習慣が必要です。


落とし穴②:複数の項番で規制されている品目


一品目が複数の項番にまたがって規制されているケースがあります。たとえば「三フッ化塩素」は、輸出令別表第1の2項と4項の両方に規定があります。1つ見つけたからといって確認を終わりにせず、関連する項番全体を見渡す姿勢が重要です。つまり、1回ヒットで満足してはいけないということです。


落とし穴③:民生品もスペック次第で規制対象になる


身近な民生品でも、スペック次第で輸出規制の対象になることがあります。たとえば「カルシウム」は日常的な栄養素ですが、純度がカルシウム・マグネシウム以外の金属含有量0.1%未満・ほう素含有量0.001%未満の高純度品は、核燃料物質製造の還元剤として転用可能なため規制対象です(輸出令別表第1第2項)。「民生品だから関係ない」は厳禁です。


参考:外為法違反の落とし穴と該非判定ミスの実態について詳しく解説されています。


【輸出貿易管理令】該非判定を行う際の3つの落とし穴(丸一海運株式会社)


経済産業省安全保障貿易管理 マトリクス表は毎年改正される

マトリクス表は「一度ダウンロードして終わり」の書類ではありません。これが意外と見落とされています。


リスト規制の品目は、ワッセナー・アレンジメント(WA)・核兵器供与国グループ(NSG)・ミサイル技術管理レジーム(MTCR)・オーストラリア・グループ(AG)など、国際輸出管理レジームの年次合意を受けて毎年改正されます。改正のたびに規制品目や閾値が変わるため、昨年まで非該当だった品目が翌年から該当になるケースもあります。


直近では、2025年11月15日施行版と2026年2月14日施行版の2つが経済産業省サイトに並行掲載されています。どちらを使うべきかは施行日を基準に判断する必要があります。古いバージョンで判定した場合、最新の規制が適用されず外為法違反になるリスクがあります。


厳しいところですね。


該非判定書には「判定日」を必ず記入する必要があります。なぜなら、後から「その時点で最新の法令に基づいて判定した」ことを証明するためです。日付があれば改正前後のどちらの版で判定したかが分かり、適正性の確認が容易になります。


対応策として、経済産業省の安全保障貿易管理ページをブックマークして定期的に確認する運用が現実的です。また、CISTEC(安全保障貿易情報センター)のメールマガジンや改正解説資料を活用することも、最新情報を追いかける上で有効です。


参考:CISTEC(一般財団法人 安全保障貿易情報センター)では、法令改正の解説資料が随時公開されています。


2025年度定例のリスト改正等について(解説)(CISTEC)


経済産業省安全保障貿易管理 リスト規制とキャッチオール規制の関係と通関業者が知るべき違い

マトリクス表で「非該当」と判定が出ても、業務はそこで終わりではありません。キャッチオール規制の確認が別途必要だからです。


リスト規制は、輸出令別表第1の1項から15項に掲げられた特定品目を品目のスペックに基づいて規制する制度です。一方、キャッチオール規制は、リスト規制の対象外であっても、大量破壊兵器や通常兵器の開発に転用される恐れがあると判断される場合に許可申請を求める補完的な制度です(輸出令別表第1第16項)。


| | リスト規制 | キャッチオール規制 |
|---|---|---|
| 根拠 | 輸出令別表第1 第1〜15項 | 輸出令別表第1 第16項 |
| 対象 | 特定スペックの品目 | 全品目(リスト規制外) |
| 許可の要否 | 原則必要(仕向地問わず) | インフォーム通知 or 客観要件に該当する場合 |
| グループA向け | 許可必要(包括許可の活用可) | 対象外 |


グループA(旧ホワイト国)に分類されているのは、2026年時点でアメリカ・イギリス・フランス・ドイツ・韓国など26か国です。これらの国向けの輸出はキャッチオール規制の対象外ですが、リスト規制の対象外になるわけではないため注意が必要です。


また、2022年5月から「みなし輸出管理」の対象が拡大されました。日本国内でも、外国政府や外国法人との雇用契約がある「特定類型」の非居住者に対して技術を提供する場合、輸出許可が必要になることがあります。通関だけでなく、社内の技術情報管理の観点でも見直しが必要です。これは通関業者には盲点になりやすい論点です。


外為法違反に対する罰則は非常に重く、個人には最大「10年以下の懲役または3,000万円以下の罰金(もしくはその両方)」が科されます。法人の場合は最大10億円以下の罰金です。さらに、経済産業省から最大3年間の輸出禁止処分が下る可能性もあります。「知らなかった」は免責になりません。


参考:外為法の概要と違反事例について、分かりやすく解説されています。


外国為替及び外国貿易法(外為法)の概要と違反事例(東京商工会議所)


経済産業省安全保障貿易管理 マトリクス表活用で通関業者が取るべき実務アクション

ここまでの内容を踏まえ、通関業務の現場で今すぐ実践できる対応を整理します。


①「読替が必要な用語(例)」を業務用の参照資料として整備する


経済産業省が公開している読替用語リスト(Excel)を印刷またはブックマークし、検索の際に常に手元に置く運用にしましょう。「ヒットしなかったから問題ない」という判断を防ぐために、類義語・別名での再検索を必ずルール化しておくことが必要です。


②マトリクス表のバージョン管理を徹底する


ダウンロードしたマトリクス表のファイル名には施行日を明記し、旧バージョンと混在しないよう管理します。経済産業省のページには複数バージョンが掲載されることがあるため、施行日を確認してから使用するバージョンを選んでください。これだけで該非判定ミスのリスクを大きく減らせます。


③解釈欄を飛ばさない運用フローを作る


忙しい業務の中で解釈欄のチェックが形骸化しないよう、チェックリスト形式の判定フォームを用意する方法が有効です。「解釈欄確認済」の欄にチェックを入れる形にするだけで、見落としを防ぐ仕組みになります。CISTEC(一般財団法人 安全保障貿易情報センター)では、該非判定の実務研修や参考様式の提供も行っています。一度活用を検討してみてください。


④キャッチオール規制の確認を必ず「追加ステップ」として設ける


リスト規制で「非該当」と判定しても、キャッチオール規制の確認は別途行う必要があります。輸出先の国のグループ分類(A〜D)、用途・需要者に懸念がないかの確認という2つのチェックをフローに組み込むことが、法令遵守の基本です。


⑤改正情報を定期的に収集する仕組みをつくる


毎年改正が行われるという性質上、情報収集の仕組みを持たない組織は必ず遅れをとります。経済産業省のページを月1回以上チェックする、CISTECのメールマガジンを購読するなど、改正情報が自動的に入ってくる仕組みをつくることをお勧めします。


参考:CISTEC(一般財団法人 安全保障貿易情報センター)の輸出管理基礎・実務研修は、通関業者の実務スキル向上に直結する内容です。


輸出管理の基礎|安全保障貿易情報センター(CISTEC)