カウンターオファーを出した瞬間、相手の元オファーは法的に完全に消えます。
カウンターオファー(Counter Offer)を日本語に直訳すると「反対申込み」です。「カウンター(counter)」には「反対」「対抗」という意味があり、相手側の提案に対して別の条件を逆提示する行為を指します。
この言葉には、大きく分けて2つの使い方があります。
| 場面 | カウンターオファーの意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 🚢 貿易・契約交渉 | 相手のオファーに対して異なる条件を逆提示すること | 「単価を10,000円ではなく8,500円にしてほしい」と反対提案する |
| 👔 人事・採用・転職 | 退職希望者を引き留めるため、会社側が条件改善を提示すること | 「転職を考え直してほしいので、給料を15%上げる」と交渉する |
関税に興味を持つ方、あるいは輸出入ビジネスを始めようとしている方にとって、より重要なのは前者の貿易・契約交渉における意味です。ここでは主に貿易実務の文脈で掘り下げていきます。
貿易実務においては「オファー(Offer)」が起点になります。売り手や買い手がまず取引条件を提示するのがオファーであり、それに対して条件変更を求めて逆提案するのがカウンターオファーです。
つまり、カウンターオファーが基本です。
現実の貿易交渉で相手の最初の条件をそのまま承諾(Acceptance)することは少なく、ほとんどの取引でカウンターオファーの応酬が繰り返されます。農林水産省の輸出実務資料ではこれを「ボクシングのジャブの応酬」と表現しており、双方が誠意を持ってカウンターオファーを出し合うことで、妥協点を見いだしていくプロセスそのものが貿易交渉の本質です。
農林水産省北陸農政局「輸出 基礎の基礎」(PDF)— カウンターオファーをボクシングのジャブに例えた実践的な貿易実務解説
カウンターオファーを正確に理解するには、まず「オファー」の種類を整理しておく必要があります。貿易実務ではオファーが大きく3種類に分かれており、それぞれ法的な性質が異なります。
ここで特に重要なのがファームオファーとカウンターオファーの関係性です。
ファームオファーが出されている状態でも、相手がカウンターオファーを出した瞬間、元のファームオファーは即座に失効します。これは単なる慣習ではなく、法的なルールです。カウンターオファーは「元のオファーを拒絶し、新しい申込みをした」と解釈されるからです。
これは意外ですね。
「価格だけ少し変えてほしい」と軽い気持ちでカウンターオファーを出したつもりでも、その瞬間に相手の元オファーは消えます。その後、もし交渉が決裂してしまっても「やっぱり最初の条件でいいです」と元に戻ることは、法的には相手の同意がなければできません。
カウンターオファーを出す前には、修正条件を慎重に固めておくことが原則です。
公益財団法人神奈川中小企業センター「輸出者にとって一番有利な契約条件は?」(PDF)— ファームオファーとカウンターオファーの法的な関係を実務目線で解説
貿易取引のカウンターオファーを「値引き交渉」だと思っている人は少なくありません。しかし実際には、価格以外にも多くの条件をカウンターオファーの対象にできます。
取引条件には次のような項目が含まれます。
たとえば、海外バイヤーから「CIF上海 USD10,000/MT で1,000MT」というオファーが来たとします。こちらが「価格はUSD9,500/MTに、数量は500MTに下げてほしい」と返せば、これがカウンターオファーです。価格と数量の2条件を同時に修正した反対申込みになります。
複数条件を同時に交渉できるのがカウンターオファーの強みです。
実際の貿易実務では、この応酬を何往復も行いながら条件をすり合わせていくのが一般的です。重要なのは、各条件が互いに関連していることを意識することです。たとえば、数量を増やす代わりに単価を下げるという提案はよくある手法で、相手にとってもメリットがある形でカウンターオファーを組み立てることが、合意への近道になります。
中小企業基盤整備機構「海外貿易における価格交渉のポイントとインコタームズ®2020」— インコタームズを踏まえた多角的な価格交渉の考え方を解説
関税に関心がある方にとって、特に知っておきたいポイントがあります。それは、カウンターオファーで提示する価格条件を「関税を含む陸揚げコスト(Landed Cost)」ベースで考えるという発想です。
たとえばインコタームズのFOB(本船渡し)で価格を提示された場合、その価格には輸送費・保険料・関税が含まれていません。一方、DDP(関税持込み渡し)であれば関税まで売主負担です。同じ商品に見えても、どのインコタームズを適用するかで買主が実際に負担する総コストは大きく変わります。
これが条件です。
具体的なイメージとして、アジアから日本に食品を輸入する場合を考えてみましょう。
| コスト項目 | FOB価格(例) | 陸揚げコスト(例) |
|---|---|---|
| 商品本体価格 | ¥500,000 | |
| 国際輸送費(海上運賃) | 買主負担 | +¥60,000 |
| 貨物保険料 | 買主負担 | +¥8,000 |
| 輸入関税(例:8%) | 買主負担 | +¥40,000 |
| 通関・国内配送費 | 買主負担 | +¥25,000 |
| 合計(陸揚げコスト) | — | ¥633,000 |
この例では、FOB価格だけを見て交渉すると、実際に手元に届くまでに約13万円超の追加コストが発生します。関税率がわずか1〜2%変わるだけで数万円単位の差になる場合もあります。
そのため、輸入者側がカウンターオファーを出すときは「FOBではなくCIF条件にしてほしい」「DDPに変えてほしい」という形でインコタームズ自体を交渉対象にするのも有効な手段です。関税コストを含めた総コストを把握した上でカウンターオファーを組み立てることが、損失を防ぐ最大のポイントになります。
中小企業基盤整備機構「価格交渉のカギは陸揚げコスト」— FOB・CIF・DDPごとの費用負担区分を図解で解説
ここで少し踏み込んだ話をします。カウンターオファーをめぐる実務上のトラブルで意外と多いのが、「承諾した後でやっぱり条件を変えたい」というケースです。
貿易取引では、相手のカウンターオファーを口頭やメールで「承諾(Acceptance)します」と返信した瞬間、原則として契約が成立します。承諾後に「やはり納期を1週間延ばしたい」と申し出ても、それはカウンターオファーではなく「契約変更の申し出」になります。相手が同意しなければ変更はできません。
つまり、承諾はゴールです。
ここで問題になるのが、メールでの交渉です。特に英語でのやり取りでは、「We accept your offer, but could you adjust the delivery date?(承諾しますが、納期の調整は可能でしょうか?)」というような表現が意図せず「条件付き承諾=カウンターオファー」と解釈される場合があります。
国連国際物品売買条約(CISG:ウィーン売買条約)では、承諾の内容が申込み条件と実質的に異なる場合は「カウンターオファー(反対申込み)」とみなすというルールが定められています。CISGは日本も2009年に批准しており、国際取引に適用されます。
この点に注意すれば大丈夫です。
実務上の対策として、メールでカウンターオファーを出す際は以下の点を明確にすることをおすすめします。
貿易実務の基礎知識をまとめた「貿易実務検定®」のC級テキストでも、カウンターオファーに関する法的位置づけは頻出テーマです。輸出入ビジネスを本格的に行う場合、こうした資格学習を通じて正確な知識を身につけておくことが、実務上のトラブル防止に直結します。
宇都宮中央法律事務所「貿易取引における交渉」— 承諾とカウンターオファーの法的な境界線をわかりやすく解説
ここまでの内容を整理しておきましょう。カウンターオファーは、貿易取引では単なる値引き交渉ではなく、価格・数量・納期・決済・保証といった複数の取引条件をまとめて交渉できる「反対申込み」です。
改めて押さえておきたいポイントは次の通りです。
関税コストを含む陸揚げコストの計算や、インコタームズの選び方については、JETROや中小機構が無料の相談窓口を設けており、初めて輸出入ビジネスに取り組む方でも専門家に相談できる環境が整っています。カウンターオファーを正しく活用するためにも、まず自分の取引条件を数字で整理しておくところから始めることをおすすめします。
結論はカウンターオファーの正確な理解が損益を左右するです。
独立行政法人中小企業基盤整備機構「海外展開ハンズオン支援」— 貿易実務の価格交渉・契約相談を無料で何度でも受け付けている公的支援窓口