漁獲証明書の輸出手続きと関税・罰則の完全ガイド

漁獲証明書が輸出に必要な場面や魚種、関税との関係、申請手続きの注意点を徹底解説。証明書なしで輸出すると50万円の罰金リスクも。あなたは正しく対応できていますか?

漁獲証明書の輸出手続き・関税・罰則を徹底解説

証明書なしでアワビを輸出すると、あなたに50万円の罰金が科されます。


この記事でわかる3つのポイント
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漁獲証明書とは何か

IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)を防止するために、水産物が適法に漁獲されたことを政府が証明する書類。輸出通関時の添付が義務づけられています。

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輸出先・魚種ごとに要否が変わる

EUやアメリカ、韓国向けなど輸出先によって必要な証明書の種類が異なります。また養殖品・淡水産品は対象外になる場合もあるため、品目の確認が必須です。

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証明書なし輸出は直罰規定あり

水産流通適正化法により、アワビ・ナマコ・シラスウナギを証明書なしで輸出した場合は50万円以下の罰金が直接科されます。申請は通関日の最低2開庁日前が必要です。


漁獲証明書とは何か・輸出で求められる背景

漁獲証明書(Catch Certificate)とは、水産物が「いつ・どこで・誰が・何を・どのような方法で」漁獲したかを記録し、輸出国の政府機関が「適法に漁獲された水産物である」と認証した公的書類のことです。英語では "Catch Certificate" または "Catch Document" とも呼ばれます。


この証明書が国際的に注目されるようになった背景には、IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)の深刻化があります。IUU漁業とは、無許可での操業、漁獲量の虚偽報告、規制水域外での違法操業などを指し、世界の漁獲量の最大20%相当がIUU漁業由来ともいわれています。


IUU漁業によって流通する水産物は市場価格を不当に下げ、合法的に漁業を行う事業者に大きな損害を与えます。こうした問題に対処するため、EU(欧州連合)は2010年より水産物輸入時の漁獲証明書添付を義務付けました。これが世界的な制度整備の起点となっています。


日本では、2022年12月1日に「水産流通適正化法(特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律)」が施行されました。つまり近年始まった制度です。


この法律は国内の違法漁獲物の流通防止と、海外からのIUU由来水産物の輸入規制強化を同時に目的としています。具体的には、特定魚種の取扱事業者に対して届出義務・取引記録の作成・保存義務・輸出入時の証明書添付義務を課しています。


関税との関係でいえば、漁獲証明書は関税率そのものを変えるものではありませんが、証明書がない水産物は通関を通過できず「輸出できない状態」になります。結果的に、証明書の有無が輸出取引の成否を左右するため、関税コストと同等以上の経営インパクトを持つ書類です。これが基本です。


参考:水産流通適正化法の施行についての詳細(JETRO)


水産流通適正化法が12月1日施行、輸出時に適法漁獲等証明書が必要に(JETRO)


漁獲証明書が輸出に必要な魚種・対象品目の正確な範囲

「漁獲証明書が必要な魚種」については、制度ごと・輸出先ごとに対象が異なります。ここを混同すると、不要な書類コストが発生したり、逆に準備漏れで通関できなかったりします。正確に把握しておきましょう。


日本の水産流通適正化法(適法漁獲等証明書)の対象魚種


水産流通適正化法において、輸出時に適法漁獲等証明書の添付が義務付けられている「特定第一種水産動植物等」は現在3種類です。


- 🐚 アワビ(活・生鮮・冷蔵・冷凍・加工品を含む)
- 🦞 ナマコ(活・生鮮・冷蔵・冷凍・加工品を含む)
- 🐟 シラスウナギ(全長13cm以下のウナギの稚魚)※2025年12月1日施行


なお加工品については、これらの水産物が全重量の50%以上を占める場合が対象です。たとえばアワビ単品はもちろん、アワビが主原料の佃煮や水煮の缶詰なども対象に含まれます。つまり原材料に占める割合が条件です。


EU向け輸出の漁獲証明書(IUU漁業規則)対象


EU向けに水産物を輸出する場合は、EU独自のIUU漁業規則に基づく漁獲証明書が必要になります。EU規則は全魚種を原則対象としていますが、以下の品目は対象外です。


- 🌊 養殖水産物(サーモンなど)
- 🏞️ 淡水水産物
- 🦪 カキ・ホタテガイ・イガイ・巻き貝とそれらの加工品


意外なポイントとして、日本産のサケ(鮭)はEU向け輸出時に「養殖扱い」と認められているため、漁獲証明書の提出が不要です。これは日本が放流によるサケ漁業を行っていることをEUに説明・認定を受けているためで、純粋な野生捕獲魚と扱いが異なります。意外ですね。


米国向けのSIMP(水産物輸入監視制度)対象魚種


米国では2018年から水産物輸入監視制度(SIMP:Seafood Import Monitoring Program)が開始されました。マグロ類・カツオ・エビ・メカジキなど特定の魚種(缶詰など加工品を含む)を米国へ輸出する際には、漁獲場所・漁法・漁船名などを含む漁業起源証明書(Fisheries Certificate of Origin)の提出が求められます。


参考:EU向け水産物輸出の詳細手続き(水産庁)


水産物輸出に係る手続(施設認定、証明書等)について(水産庁)


漁獲証明書の輸出申請手続き・通関までのスケジュール

漁獲証明書の申請手続きは、「いつ申請するか」のタイミングが非常に重要です。締め切りを1日でも過ぎると通関日に間に合わず、貨物が止まります。


申請窓口と基本フロー


水産流通適正化法に基づく適法漁獲等証明書は、農林水産省が運営する「一元的な輸出証明書発給システム」から電子申請するのが原則です。2023年1月以降、このシステムが主な申請窓口になっています。


申請の基本的な流れは以下のとおりです。


1. 農林水産省の一元的な輸出証明書発給システムにアカウント登録
2. 申請書類を作成して電子申請(または書面で郵送・持参)
3. 水産庁が書類審査・証明書を交付
4. 交付された証明書を添付して輸出通関を実施


申請タイミングの厳格なルール


申請期限については水産庁が明確な基準を設けています。


- 🗓️ 生鮮・冷凍品など通常品:通関日(証明書が必要な日)の2開庁日前の16時までに不備なく申請
- 🏭 加工品:審査に時間がかかるため、通関日の7開庁日以上前に申請


「2開庁日前」というのは、土日祝日を除いた平日2日分を意味します。たとえば月曜日に通関予定なら、前の週の木曜日の16時までに申請を完了させる必要があります。この期限を過ぎると証明書は間に合いません。


加工品は審査項目が多く、書類に疑義や不備があると関係事業者への確認と書類修正に数日かかるため、7開庁日以上の余裕が必要とされています。週を1.5周分、たっぷりと見ておく必要があります。準備は早めが原則です。


手数料について(2025年4月以降)


2025年4月1日以降、輸出証明書の発行には1申請あたり870円の手数料が必要となっています。支払いはペイジー対応ATMまたはインターネットバンキングで電子納付します。なお、原発関連証明書については現在も手数料が不要です。


参考:申請から発給までのシステム操作方法(農林水産省)


輸出証明書のオンライン申請手続き(農林水産省)


証明書なし輸出の罰則と関税法上のリスク

漁獲証明書(適法漁獲等証明書)を添付せずに特定第一種水産動植物等を輸出した場合、罰則はどうなるのでしょうか?


水産流通適正化法第16条の規定により、適法漁獲等証明書を添付せずに輸出した事業者には、50万円以下の罰金が直接科されます(直罰規定)。


「直罰規定」というのは、行政指導や是正命令などのステップを経ずに、即座に刑事罰の対象になることを意味します。厳しいところですね。


関税法との連動


漁獲証明書は、関税法第70条に規定する「他法令の証明書類」として位置づけられています。つまり、関税法の輸出申告手続きにおいても、証明書なしの申告は受理されません。水産庁の指示通達でも「適法漁獲等証明書又はその写しをもって関税法第70条に規定する他法令の証明とする」と明記されています。


結論は、証明書なしでは通関申告そのものが成立しない、ということです。


証明書が「不要」となる例外ケース


一方で、以下の場合は例外的に証明書の添付が不要とされています。


- 👤 個人使用目的の少量貨物(売買の対象とならない程度の量)
- 🎁 無償のサンプル
- 🆘 無償の救援物資(救じゅつ品)


つまり商業目的の取引では基本すべて証明書が必要と考えてください。無償であっても「商業的」な意図があると判断されれば対象となりえます。


密漁品流通と取引記録の罰則


なお、水産流通適正化法は輸出だけでなく国内流通にも罰則を設けています。届出をせずに特定第一種水産動植物等を譲渡・販売した場合も50万円以下の罰金です。さらに漁業法改正(2020年12月施行)によって、アワビやナマコの密漁そのものには「3年以下の懲役または3,000万円以下の罰金」という大幅強化された罰則が適用されます。


参考:水産流通適正化制度の輸出入関係の解説資料(水産庁PDF)


水産流通適正化法と輸出の罰則規定の詳細(水産庁)


輸出先別・漁獲証明書の種類と関税優遇への影響を比較する独自視点

漁獲証明書には実は「種類」があり、輸出先ごとに異なる証明書を使い分ける必要があります。一口に「漁獲証明書」といっても、国内法由来のものとEU規則由来のもの、さらに国際条約に基づくものが並存しており、これが実務上の混乱を生む主因です。


以下に輸出先別の証明書の種類と特徴をまとめます。


| 輸出先 | 必要な証明書の種類 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| EU・英国・EFTA諸国 | EU/IUU漁業規則に基づく漁獲証明書+衛生証明書 | EU規則 (EC) No 1005/2008 |
| アメリカ | SIMP漁業起源証明書(Fisheries Certificate of Origin) | 米国連邦規則 |
| 韓国(サンマ等) | 漁獲証明書(水産庁取扱要綱) | 水産庁取扱要綱 |
| 中国(さけ類等) | CONAPESCA等の漁獲証明書 | 中国当局との協議に基づく |
| 全仕向地(アワビ・ナマコ・シラスウナギ) | 適法漁獲等証明書 | 水産流通適正化法第10条 |


関税優遇との関係


漁獲証明書は、EPA(経済連携協定)の関税優遇とは直接連動していません。しかし実務では間接的に影響します。たとえばEU向けの水産物でEPAの優遇関税を受けるためには「原産地証明書」が必要ですが、同時に漁獲証明書がなければそもそも輸出できません。どちらが欠けても成立しない関係です。


つまり関税の節税効果を最大化したい場合、原産地証明書と漁獲証明書を同時並行で準備するスケジュール管理が必要になります。これは使えそうです。


再輸出証明書という落とし穴


あまり知られていないのが「再輸出証明書」の存在です。たとえば外国産の水産物を日本で加工してからEUへ輸出する場合、新たに漁獲証明書を取得することはできません。代わりに「再輸出証明書(Reexport Certificate)」を発行する必要があり、これには元の漁獲証明書の原本が必要です。元の証明書を保管していないと再輸出証明書が発行できず、輸出自体が不可能になります。書類の保管が条件です。


加工品の再輸出を検討している場合は、仕入れ段階から漁獲証明書の原本を取り寄せ・保管しておく体制を整えることが欠かせません。輸出の数か月前から準備を逆算するのが現実的な対処法です。


参考:EU・英国向け漁獲証明書・加工証明書の取扱要綱(水産庁)


英国及びEU向け輸出水産製品の漁獲証明書及び加工証明書の取扱要綱(水産庁PDF)