原材料表示を省略してもいい、と思い込んでいると通関差止めになります。
食品表示基準(消費者庁告示)では、加工食品に使用された原材料はすべて表示することが原則です。しかし、一定の条件を満たした原材料については「省略可能」とされるルールが存在します。この仕組みを正確に理解しているかどうかが、通関業従事者にとって実務上の大きな分岐点になります。
「省略」という言葉は語感が軽く聞こえますが、実際には省略が認められる要件は複雑です。食品表示法および食品表示基準(平成27年消費者庁告示第3号)では、原材料の表示省略が認められるケースとして主に「加工助剤」「キャリーオーバー」の2類型が明示されています。これが基本です。
加工助剤とは、食品の製造・加工の過程で使用されるが、最終製品に残存しないか、残存しても機能を発揮しない物質のことです。例えば、豆腐製造時のにがり(塩化マグネシウム)の残存量がごく微量の場合などが典型です。キャリーオーバーとは、原材料に含まれていた添加物が最終製品にわずかに持ち越された場合で、その量が食品衛生上問題なく、かつ表示するほどの効果を最終製品に発揮しない場合を指します。
通関業従事者が輸入食品の書類審査をする際、現地の製造者が提出した成分表や原材料リストにこの2類型が含まれているかどうかを見極めなければなりません。日本国内向けに製品を調整している輸入元であっても、海外の製造工程そのものが日本基準と乖離していることは珍しくないため、見落としが起きやすいのです。
輸入通関の現場では、食品衛生法第26条に基づく輸入届出と食品表示基準に基づくラベル確認が同時に走ります。つまり、原材料表示の省略が適法かどうかを判断する作業は「2つの異なる法律の視点」から行う必要があります。これが実務を難しくしている大きな要因のひとつです。
参考:食品表示基準(消費者庁)
消費者庁:食品表示基準(PDF)
キャリーオーバーによる省略が認められるには、2つの条件を同時に満たす必要があります。①最終製品におけるその添加物の量が、食品衛生上問題のないレベルであること、②最終製品においてその添加物が何らかの食品添加物としての効果を発揮していないこと、この2点が条件です。
条件①は検査値で確認できる部分ですが、条件②は「効果を発揮しているかどうか」を製品の使用形態から判断する必要があり、これが実務的に難しい判断を要します。例えばケーキに使用されたマーガリンに含まれる乳化剤が最終製品のケーキにも微量残存している場合、そのケーキの製造でも乳化効果が一定程度維持されているなら、キャリーオーバーとして省略することはできません。意外ですね。
通関業従事者がよく陥る誤解は「少量残っているだけなら省略できる」という思い込みです。しかし「少量かどうか」と「効果を発揮しているかどうか」は別の話です。少量であっても最終製品で添加物としての機能が残っていれば省略できません。数値だけで判断すると違反になりえます。
さらに見落としやすいのが、複数の原材料を複合的に使用した加工食品のケースです。例えば「スープの素」を原材料として使った製品では、そのスープの素に含まれるすべての添加物について省略可能かどうかを個別に判断しなければなりません。これは一品ずつ確認が必要です。
参考:キャリーオーバーの解釈については消費者庁のQ&Aも参照できます。
原材料表示を省略できる条件を満たしていても、アレルゲン(特定原材料)が含まれる場合は表示義務が別途残ります。これが最も見落とされやすい落とし穴です。
食品表示基準では、特定原材料として「卵・乳・小麦・そば・落花生・えび・かに・くるみ」の8品目を「表示義務あり(必須表示)」と定め、「あわび・いか・いくら・オレンジ・カシューナッツ・キウイフルーツ・牛肉・ごま・さけ・さば・大豆・鶏肉・バナナ・豚肉・まつたけ・もも・やまいも・りんご・ゼラチン・アーモンド・ごま」など20品目を「推奨表示(任意)」としています。義務と任意は明確に区別されます。
例えば、キャリーオーバーとして省略可能な乳化剤が乳由来成分(カゼインナトリウムなど)を含む場合、その乳化剤の添加物としての表示は省略できても「乳成分を含む」というアレルゲン表示は必ず残さなければなりません。これはセットで考える必要があります。
通関書類の確認において、製品ラベルに添加物表示がなくても「乳成分を含む」などのアレルゲン記載がされているケースはこのためです。逆に、アレルゲン記載のない製品でキャリーオーバー省略を使っている場合は、原材料の由来を製造業者に確認する必要があります。確認しないと行政指導のリスクがあります。
実務上は、原材料リストを受け取ったら「省略の対象となる物質にアレルゲン由来成分が含まれていないか」を必ずチェックするフローを標準化しておくことが、差止めや改善命令を回避するうえで効果的です。チェックリストの整備が条件です。
参考:アレルゲン表示の基準については下記厚生労働省・消費者庁の資料が詳しいです。
食品表示法違反となった場合、消費者庁または都道府県の指示・命令により「表示の改善指示(第6条)」「改善命令(第6条2項)」が下され、悪質なケースでは業務停止命令や刑事罰(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)が科されます。痛いですね。
通関業者として特に注意が必要なのは、輸入者(依頼主)が食品表示法違反を起こした場合でも、通関手続きに携わった業者が行政から実態調査の対象となりうる点です。直接の罰則対象は輸入者ですが、通関書類の不備を黙認・見過ごした記録が残ると、今後の輸入許可に影響することがあります。
輸入段階での食品衛生法に基づく検疫所の審査では、届出内容と実際のラベル表示が一致しない場合、「積み戻し命令(廃棄または返送)」が出ます。廃棄処分となれば貨物価値がゼロになります。例えば、1ロット500万円相当の輸入食品が原材料表示の不備で廃棄処分となるケースも実際に発生しています。リスクの大きさを正確に認識しておくことが重要です。
また、食品表示法は消費者保護の観点から2015年施行後も改正が続いており、2023年4月からは「機能性表示食品の届出情報の変更手続き厳格化」など新たなルールが加わっています。制度は動き続けています。
通関業務における実務対応としては、輸入申告前に「輸入食品ラベル事前確認チェックシート」を活用する方法があります。消費者庁や一般財団法人食品産業センターなどが提供するチェックリストを取り込むことで、省略可否の判断を標準化できます。これは使えそうです。
参考:食品産業センターの表示関連ガイドライン
一般財団法人食品産業センター:食品表示関連情報
現場での混乱を防ぐために、原材料表示省略の可否を判断する実務フローを整理します。大きく「3ステップ」で考えると判断がスムーズになります。
ステップ1:その物質は添加物か原材料かを最初に確認します。省略規定は「添加物」に適用されるものと「複合原材料の構成成分」に適用されるものが異なります。複合原材料(例:カレールウ)の構成成分については、最終製品全体に占める重量割合が5%未満の場合に表示を省略できるルールがあります(ただし、省略できない原材料・添加物もあります)。これが最初の分岐点です。
ステップ2:キャリーオーバー・加工助剤の2条件を満たすかを確認します。先述の通り、最終製品での残存量と機能発揮の有無をセットで確認しなければなりません。製造業者から成分分析証明(COA:Certificate of Analysis)を入手し、残存量を数値で確認することが理想です。数値の裏付けが条件です。
ステップ3:アレルゲン由来成分を含まないかを最後に確認します。省略可能な結論が出た後でも、その物質にアレルゲン由来成分が含まれる場合はアレルゲン表示を別途追加する必要があります。省略OKでも表示が残るケースがあります。
以下に実務チェックポイントを整理します。
| 確認項目 | 確認内容 | 根拠規定 |
|---|---|---|
| 複合原材料の重量割合 | 全体の5%未満か | 食品表示基準 第3条 |
| キャリーオーバー条件① | 最終製品への残存量は問題ないか | 食品表示基準 別表第20 |
| キャリーオーバー条件② | 最終製品で効果を発揮していないか | 食品表示基準 別表第20 |
| 加工助剤条件 | 最終製品に残存しないか・残存しても機能なしか | 食品表示基準 別表第20 |
| アレルゲン確認 | 特定原材料8品目に由来する成分を含まないか | 食品表示基準 第3条別表第14 |
| COA(成分分析証明)の有無 | 製造業者からの証明書が入手できているか | 実務確認書類 |
この表を輸入審査フローのチェックシートに組み込んでおくだけで、属人的な判断ミスを大幅に減らすことができます。標準化が最大の防御策です。
さらに、輸入食品の表示確認に特化した業務支援ツールとして、一般財団法人食品産業センターが提供する「食品表示ウォッチャー」活用や、消費者庁の「食品表示に関する情報ポータル」を定期的にチェックする習慣をつけておくと、法改正への対応漏れを防げます。情報収集に期限はありません。
参考:消費者庁 食品表示に関するポータルサイト
消費者庁:食品表示に関する総合情報ページ