行政指導に法的根拠がなくても、あなたが断ると通関許可が遅れると思い込んでいませんか?
行政指導とは、国や地方公共団体などの行政機関が、特定の行為を求めたり、やめるよう促したりする「お願い」のことです。これが大前提です。
重要なのは、行政指導は「権力的行為」ではないという点です。つまり、命令でも強制でもないため、法令上の明示的な根拠がなくても実施できると解釈されています。この考え方は行政法学の通説であり、日本の行政実務においても広く定着しています。
行政手続法(平成5年法律第88号)の第32条第1項には、「行政指導にあっては、行政機関は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」と明記されています。つまり、従わなくても罰則はないのが原則です。
ただし「根拠なしでも実施できる」というのは、行政指導が任意協力を求める行為だからこそ成り立つ論理です。強制力がない代わりに、法的義務もないという二面性があります。これが基本です。
通関業の現場では、税関の職員から「この書類も持参してください」「こういった記載が望ましいです」といった指導を受けることがあります。それが法令の明文根拠に基づくものか、行政指導の範疇なのかを区別できていない実務者は少なくありません。
行政手続法の制定(1993年)以前は、行政指導の定義すら法律に規定されておらず、現場の慣行に委ねられていました。制定後も、行政指導の多くは「グレーゾーン」として残っています。意外ですね。
上記リンクでは、行政手続法第30条〜第36条の「行政指導」に関する規定を直接確認できます。第32条(行政指導の一般原則)と第35条(行政指導の方式)は特に重要です。
行政指導に法的根拠がない場合でも、それに従わないと税関手続きが遅れると感じる通関業従事者は多いです。しかし実際には、行政手続法が複数の「対抗手段」を用意しています。
まず、行政手続法第35条第1項は「行政指導に際しては、行政機関は、その相手方に対し、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確にしなければならない」と定めています。これは義務規定です。
さらに第35条第2項は、「行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から書面の交付を求めたときは、……書面を交付しなければならない」と規定しています。つまり、口頭で「こうしてください」と言われた場合でも、書面による明示を堂々と求めることができます。
書面を要求するだけで、根拠のない指導が自然に取り下げられるケースも実際にあります。これは使えそうです。
ただし、実務上は「書面を求めると関係が悪化するのでは」という懸念もあります。その場合は、まず内部で「これは法令根拠のある処分か、行政指導か」を確認するだけでも有効です。社内の法務担当や通関士に確認を入れるだけで、対応の方向性が変わることがあります。
また、行政手続法第36条の2(H26年改正で追加)では、行政指導が相手方の意思に反して継続して行われる場合に「中止その他必要な措置」を求める申出ができると規定されています。これを「行政指導の中止等の求め」といいます。この条文を知っている通関業従事者は少数派です。
上記PDFは総務省が作成した行政手続法の解説資料です。第32条から第36条の2にかけての行政指導に関する条文と趣旨が整理されており、実務的な理解に役立ちます。
通関の現場で受ける指示がすべて「法的根拠のある処分」だと思い込んでいる方は多いです。しかし実際には、行政指導と行政処分は性質がまったく異なります。
行政処分とは、許可・取消・命令など法律に基づき権利義務に直接影響を与える行為です。一方、行政指導は「こうしてほしい」というお願いにすぎません。法的処分なら不服申立て(審査請求)の対象になりますが、行政指導はそもそも対象外です。ここが原則です。
実務上の見分け方として、以下のポイントが参考になります。
たとえば、税関が「輸入申告書に参考資料を添付することが望ましい」と伝えてきた場合、これは法的根拠のある要件ではなく行政指導です。添付しなくても、法的に申告が無効になるわけではありません。
ただし、実務上は従っておくほうがスムーズなケースも多く、全面的に拒否することが得策とは限りません。結論はケースバイケースです。
問題は「拒否できることを知らずに、すべて義務として対応している」状態です。この状態が続くと、本来不要な書類準備・確認作業が常態化し、1件あたりの業務コストが積み上がります。厳しいところですね。
上記ページでは、税関が通関業者・通関士に対して定める法令上の根拠を確認できます。どこからが義務でどこからが任意なのかを法令ベースで確認する際に役立ちます。
行政指導への対応で最も避けたいのは、「なんとなく従い続けて、後から問題になる」パターンです。対応を記録に残すことが、業務リスクを下げる最短ルートです。
実務上のポイントを整理します。
「断る」という選択肢がある場合でも、関係性を壊さない伝え方が重要です。「書面でいただけますか?」という一言は、対立的に聞こえることなく権利を行使できる最も実用的なフレーズです。これだけ覚えておけばOKです。
行政指導を完全に無視することにはリスクもあります。特に、後続の行政処分の前段階として行政指導が行われる場合があるため、内容を軽視しすぎるのも禁物です。
行政手続法第36条の2に基づく「中止の求め」は、行政指導が継続して行われ、かつ当事者が中止を望む場合に行政機関に申し出ることができる制度です。この申し出を受けた行政機関は、必要な調査を行い措置を講ずる義務があります。ただし、申し出が認められるかどうかは案件によります。
総務省:行政不服申立て・行政苦情救済の窓口(行政苦情110番)
行政指導に対する苦情・相談は、総務省の行政評価局が運営する「行政苦情110番」(電話:0570-090110)に相談することもできます。税関指導に関する疑義も受け付け対象になり得ます。
これは検索上位の記事にはほとんど書かれていない視点です。通関業界では、長年の慣行として行政指導が「暗黙のルール」として扱われてきた側面があります。
税関との関係は長期的・継続的なものであるため、「角を立てずに従う」という文化が根付いています。これは一定の合理性もある反面、法的根拠のない指導が「事実上の義務」として固定化するリスクをはらんでいます。
具体的には、次のような形で「見えないコスト」が発生します。
これは業界全体の問題です。
この状況を改善するためには、会社単位での「行政指導対応マニュアル」の整備が有効です。行政指導を受けた際の記録フォーマット、書面要求の文例、内部共有のフロー、これらを文書化しておくことで、属人的な判断から組織的な対応へ移行できます。
また、通関士試験の学習では行政手続法の内容も出題範囲に含まれますが、実務での活用まで意識している従事者は多くありません。試験で学んだ知識を実務に接続することが、業務品質の底上げにつながります。
日本通関業連合会(JCBA)が主催する研修や、税関との意見交換会などの場を活用し、「これは行政指導か、法令上の義務か」を確認し合う文化を育てることが、業界全体のコンプライアンス向上に貢献します。
日本通関業連合会の公式サイトでは、通関業者向けの法令情報、研修案内、税関との連絡事項が確認できます。行政指導への対応に関する業界ガイドラインが存在するかどうかの確認にも有用です。