「食品表示の確認は輸入者の仕事」と思っていると、通関業者もJAS法違反の共同責任を問われることがあります。
食品表示基準Q&A(以下「Q&A」)は、消費者庁が公表する公式の解釈指針です。2015年に食品表示法が施行されて以来、随時追加・改訂が行われており、2024年時点では数百問以上の問答が蓄積されています。
通関業従事者にとって、このQ&Aは「輸入者が読むもの」というイメージが強いかもしれません。しかし実際には、通関申告書の添付資料となる「食品等輸入届出書」の内容確認や、輸入者への確認・助言を行う場面で、Q&Aの知識が直接業務精度に影響します。
食品表示基準はJAS法・健康増進法・食品衛生法の三法を一元化した食品表示法に基づいています。この一元化以前と以降では、適用ルールが大きく変わっています。つまり旧法時代の知識をそのまま使い続けると危険です。
Q&Aは消費者庁の公式サイトからPDF形式で入手できますが、更新のたびに差分が分かりにくいという課題があります。改訂箇所は本文中に「※令和〇年〇月追加」と記載されているため、直近の追加問番号を把握しておくことが実務上の第一歩となります。
食品表示基準Q&Aの最新版はこちら(消費者庁公式)で確認できます。
Q&Aと食品表示基準本文の関係も整理しておきましょう。Q&Aはあくまで「行政解釈」であり法令そのものではありませんが、検査官・税関・保健所の判断基準として実質的に機能します。これが条件です。
2023年から2024年にかけてのQ&A改訂では、特に「機能性表示食品」「アレルゲン表示」「栄養成分表示」の3分野で大きな変更がありました。
機能性表示食品については、2023年の小林製薬問題を契機に、届出表示の根拠となるQ&Aが厳格化されました。届出番号の表示位置や書体の規格が細かく明文化され、以前は「概ね適切」とされていた表現が「不可」に変更されたケースがあります。これは意外ですね。
アレルゲン表示に関しては、特定原材料「くるみ」が2023年3月に義務表示品目(第1グループ)に追加されたことに伴い、Q&Aも大幅に改訂されました。
- 加工食品にくるみ由来成分が含まれる場合、たとえ0.001g未満でも「含む」旨の表示が必要
- 「くるみ風味」「くるみ不使用」などの任意表示に関する解釈が新設
- 輸入食品でくるみを別名称(ウォールナッツ)で記載している場合の対応
くるみの追加は2023年3月が移行期間終了日です。この日より前に製造した在庫品の扱いはQ&A第5版以降で確認できますが、輸入品の場合は製造年月日が国外であるため、通関時点の日付で判断されます。実務上の注意点として、輸入食品の製造日と通関申告日のズレに起因する表示違反が増加していることが報告されています。
栄養成分表示については、「推定値」と「実測値」の使い分けに関するQ&Aが整理されました。以前は輸入食品でデータシートの数値をそのまま転記することが慣例的に行われていましたが、最新Q&Aでは分析値との乖離が一定以上の場合に表示修正を求める解釈が明確化されています。
栄養成分の乖離許容幅は「表示値の±20%以内」が原則です。つまり海外製品のデータシートが古い場合、そのまま転記すると違反になる可能性があります。
厚生労働省が毎年公表する「輸入食品監視統計」によれば、食品表示に関連する不適合件数は年間数百件規模で推移しています。その中でも通関業務で特に注意が必要なのは、アレルゲン・添加物・原産国の3分野です。
アレルゲン表示の違反は全体の約30〜40%を占めるとされており、最も多い類型です。具体的には以下のようなパターンが繰り返し見られます。
- 原材料のアレルゲンが「一括表示」の外に隠れている(例:加工助剤として使用した小麦を未記載)
- 「〜由来」表示の省略(例:「醤油」ではなく「大豆・小麦由来の醤油」と書かなければならないケース)
- 翻訳ミスにより「Sesame」→「ゴマ」の対応が抜けている
添加物表示については、Q&Aで「使用目的」による記載方法の差異が詳細に規定されています。加工助剤・キャリーオーバーの例外規定を誤解して適用しているケースが多く、検査での不適合理由として頻繁に挙げられます。キャリーオーバーが認められるのは「原材料に由来し、最終製品で効果を発揮しない場合」に限られます。これが原則です。
原産国表示については、Q&Aの最新版で「加工国」と「原産国」の定義が改めて整理されています。特に複数国で加工工程が行われる食品(例:カナダ産小麦を米国で製粉してフランスでパン製造)の場合、「最終的な本質的変更が行われた国」が原産国となる解釈が明確化されました。
通関業者として対応できることは限られています。しかし「おかしいと思ったら輸入者に確認を求める」という1アクションが、後々の返品・廃棄・罰則リスクを未然に防ぐ最大の武器となります。これは使えそうです。
Q&Aには本文の食品表示基準では読み取りにくい「例外規定」が複数存在します。通関実務でこれを知っているか否かで、輸入者への助言精度が大きく変わります。
最も重要な例外のひとつが「小規模事業者の特例」です。食品表示基準では、栄養成分表示は原則義務とされていますが、年間の売上規模や製造量が一定基準以下の事業者には表示の省略が認められる場合があります。ただし輸入食品の場合、この特例は国内製造者向けの規定であるため、海外製造品には適用されません。
「加工食品の定義」に関する例外も見落としやすい点です。Q&Aでは「軽度の加工」にとどまる食品(例:単に洗浄・乾燥しただけの農産物)は生鮮食品として扱われる場合があり、加工食品向けの表示義務が適用されないことがあります。具体的には、カット野菜と袋入りカット野菜では適用されるQ&Aの問番号が異なります。これは意外ですね。
また「容器包装に入れない状態で販売する食品」の例外規定も通関では見落とされがちです。いわゆる「バルク輸入」の場合、国内での最終包装が前提であれば一部表示義務が免除される解釈がQ&Aで示されています。ただし、この免除は「国内の製造業者または販売者が最終表示を行うことが契約上明確な場合」に限られます。口頭合意では認められません。
| 例外規定の類型 | 適用条件 | 輸入食品への適用 |
|---|---|---|
| 小規模事業者特例(栄養成分省略) | 国内製造・販売者の規模要件 | ❌ 原則不可 |
| 生鮮食品扱い(軽度加工) | 加工工程が洗浄・乾燥のみ等 | ⚠️ 品目により個別判断 |
| バルク輸入の表示免除 | 国内最終包装が契約上明確 | ✅ 条件付きで可 |
| キャリーオーバー免除(添加物) | 最終製品で効果を発揮しない | ⚠️ 成分証明が必要 |
この表を通関申告前のチェック項目として活用することで、輸入者への確認漏れを減らすことができます。知っているだけで実務の精度が上がります。
Q&Aは数百問に及ぶため、必要な情報を素早く引くスキルが求められます。これが実務での差になります。
消費者庁のQ&A本文はPDF形式で提供されており、Adobe AcrobatやブラウザのPDF表示機能で「Ctrl+F(検索)」を使うのが基本です。ただし、Q&AのPDFは章ごとに分割されていることがあるため、「第〇章:アレルゲン」「第〇章:添加物」のように章構成を事前に把握しておくと検索効率が格段に上がります。
検索で使う語句にはコツがあります。Q&Aでは「〜について」「〜の場合」という書き方が多用されているため、商品ジャンル名ではなく「表示方法」「義務」「免除」「例外」などの概念語で引くほうがヒットしやすいです。例えば「くるみ 含む 義務」よりも「特定原材料 含む 旨 義務」のほうが関連問番号を広く拾えます。
最新の改訂情報を追う方法としては以下の3つが有効です。
- 消費者庁の「新着情報」ページをブックマークし、月1回チェックする
- 日本通関業連合会(通関業者向け業界団体)が発行するニュースレターを購読する
- 厚生労働省の「食品等輸入届出に関するQ&A」も並行して参照する(両省で解釈が微妙に異なる場合があるため)
また、通関業者として特に役立つのが「過去の行政処分事例」を参照することです。消費者庁や厚生労働省は食品表示違反に対する改善命令・措置命令の事例を公表しており、Q&Aの解釈がどのように現場で運用されているかを具体的に把握できます。Q&Aだけでなく事例を読むことが条件です。
実際の通関業務フローとしては、①食品輸入届出書の品目確認→②Q&Aで該当ジャンルの表示義務照合→③輸入者へ不備確認依頼→④是正後に申告手続き、という4ステップを標準化しておくことを推奨します。このフローを定型化すると、担当者が変わっても対応品質が下がりません。
最後に、Q&Aの解釈に迷った際の最終手段として、消費者庁の「食品表示に関する相談窓口(電話・メール)」に直接問い合わせるという選択肢があります。回答は「個別事案への確約ではない」とされますが、担当者の見解を記録しておくことで、後の検査対応に役立てることができます。行動は1つ、「相談記録を残す」だけで十分です。