糖質が書いてない栄養成分表示の食品でも、日本の食品表示基準を満たせば通関で差し戻されずに輸入できます。
食品表示基準(消費者庁)では、加工食品に必ず表示しなければならない栄養成分は「熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量」の5項目です。糖質はこの5項目に含まれていません。
つまり糖質は任意表示です。
メーカーが自主的に「糖質〇g」と記載している場合はありますが、法律上は省略しても違反にはなりません。通関実務においても、糖質の記載がないことだけを理由に輸入許可が下りないことはなく、この点を正確に理解しておくことが業務効率につながります。
一方で、消費者向けに「糖質ゼロ」「糖質オフ」などの強調表示を行う場合は話が変わります。強調表示を行う場合は、食品表示基準第7条に基づき、糖質量の根拠となる数値を示す義務が生じます。この場合は糖質を栄養成分表示欄に記載するか、別途根拠を明示する必要があります。強調表示と通常表示は別物です。
食品表示法のルールをまとめると以下のとおりです。
| 表示の種類 | 糖質の記載 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 通常の栄養成分表示 | 任意(省略可) | 食品表示基準 第3条 |
| 強調表示(糖質ゼロ等) | 原則必要 | 食品表示基準 第7条 |
| 特別用途食品(病者用等) | 個別基準に従う | 健康増進法 第26条 |
消費者庁の食品表示基準については、以下の公式ページで条文を確認できます。
通関実務で特に混乱しやすいのが「炭水化物」と「糖質」の概念の違いです。これは重要な区別です。
炭水化物=糖質+食物繊維という関係があります。つまり「炭水化物」は糖質と食物繊維を合計した値であり、食品表示基準が義務付けているのは「炭水化物」の記載であって「糖質」の記載ではありません。
輸入食品のラベルに「Carbohydrates(炭水化物)」とだけ記載されており、「Sugars(糖類)」や「Net Carbs(正味糖質)」の記載がない場合、これは日本の食品表示基準における炭水化物表示に相当します。そのため日本語ラベルに翻訳する際は「炭水化物〇g」と表記すれば足り、糖質を別途計算して記載する義務はありません。
ただし、欧米の食品ラベルでは「Dietary Fiber(食物繊維)」が炭水化物から差し引かれた「Net Carbs」を強調するケースがあります。このような場合は、日本語ラベルへの翻訳時に数値の解釈を誤ると過少表示になりかねないため注意が必要です。
欧米ラベルの数値をそのまま日本語に転記すると、日本の食品表示基準との定義ズレが生じることがあります。実際に輸入業者から「ラベルの炭水化物が合わない」と相談が来るケースも少なくありません。
通関業者としては、輸入者に対し「原産国の表示基準と日本の基準は異なる場合がある」と事前に伝えておくことがトラブル防止になります。
消費者庁|栄養成分表示に関するQ&A(PDF):炭水化物・糖質・食物繊維の定義が詳しく解説されています
「糖質が書いてない」だけで通関が止まることはありません。ただし、以下の条件が重なると食品衛生法や食品表示法違反として輸入が認められない場合があります。
まず一つ目は、強調表示との矛盾です。例えば、外装に大きく「LOW CARB(低糖質)」と印刷されているにもかかわらず、日本語ラベルに糖質量の根拠が一切ない場合、食品表示基準第7条違反に問われるリスクがあります。実際に消費者庁が平成30年以降、糖質強調表示に関する調査・指導件数を増やしており、2023年度だけで42件の食品表示基準違反案件が公表されています(消費者庁「食品表示に関する一元化通知等」より)。
次に問題になるのが、健康食品・サプリメントとの境界領域です。糖質ゼロを訴求するサプリメント類や機能性食品の場合、機能性表示食品の届出または特定保健用食品(トクホ)の許可が必要になります。これらの届出・許可を経ていない商品が「糖質〇〇mg配合で血糖値をケア」などと記載している場合、薬機法(旧薬事法)違反となり得ます。
三つ目は、必須5項目の欠落です。糖質の有無にかかわらず、熱量・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量の5項目のうちいずれかが欠けている場合は、食品表示基準違反として確実に指摘対象になります。これは絶対NGです。
| 問題のパターン | 関係する法令 | リスクレベル |
|---|---|---|
| 糖質強調表示+根拠なし | 食品表示基準 第7条 | 🔴 高 |
| 5項目の必須表示が欠落 | 食品表示基準 第3条 | 🔴 高 |
| 健康効果の標榜+糖質ゼロ訴求 | 薬機法 第68条 | 🔴 高 |
| 糖質の記載なし(強調なし) | 違反なし | 🟢 低 |
通関手続き上は、税関での食品衛生法の確認(輸入食品届)と並行して、食品表示法上の表示チェックも行うことが実務の基本です。食品表示は税関ではなく消費者庁・自治体管轄ですが、流通前に問題を発見しておくことが輸入者へのリスク説明義務を果たすことにもなります。
実際に糖質表示の問題でラベル修正が必要になった場合、どのような手続きとコストが発生するか理解しておくことが重要です。
日本向け輸入食品のラベル貼付(上貼りシール)は、輸入者が日本語表示に修正する際に最もよく使われる方法です。1SKU(品番)あたりのシール作成費用は、デザイン費・版代込みで初回10万〜30万円程度かかるケースが多く、複数SKUにわたる場合はその倍数となります。これは意外と大きな出費です。
さらに、倉庫での貼付作業工賃が1ケースあたり100〜300円程度、大量ロットであれば別途立ち会い費用が発生することもあります。例えば500ケース×24個入りの商品で1万2,000枚のシールを貼る作業の場合、工賃だけで数十万円規模になることもあります。
糖質表示に限らず、栄養成分表示の修正が発生するケースは実は多く、輸入者が事前に原産国メーカーとの取り決めを交わしていないことが主な原因です。通関業者が輸入者に対し「日本向けラベルのチェックリスト」を事前提供することで、こうした後工程のコストを大幅に削減できます。
消費者庁のホームページでは、食品表示のチェックに使える「食品表示法早わかりガイドブック」が無料で公開されています。輸入者への説明資料として活用できます。
消費者庁|食品表示法早わかりガイドブック(最新版PDF):輸入者向け説明時の参考資料として活用できます
多くの通関業者が見落としがちな視点として、「糖質表示がないこと自体はOKだが、それに付随するリスクの連鎖を事前につぶしておく」という発想があります。これが実務の本質です。
現場では「ラベルチェックは輸入者の責任」という認識が一般的ですが、通関業法第13条に基づく誠実業務義務の観点からは、明らかな違反の可能性がある場合に輸入者へ情報提供しないことはリスクにもなり得ます。特に繰り返し輸入を行う取引先に対しては、事前チェックの仕組みを整えておくことが信頼構築につながります。
以下は、糖質表示がない輸入食品を扱う際に使える簡易チェックリストです。
このチェックリストをもとに輸入者と事前にコミュニケーションを取ることで、輸入後のラベル修正コストや通関遅延リスクを大幅に減らすことができます。
事前確認の仕組みがあれば、コストを下げられます。
なお、食品表示に関する違反が疑われる場合、通関業者として輸入者に対し食品表示基準の該当条文を示したうえで消費者庁または都道府県の担当窓口への確認を促すことが、実務上のリスク管理として適切です。消費者庁の「食品表示110番」(0570-048110)は食品表示に関する相談を受け付けており、輸入者からの問い合わせにも対応しています。
消費者庁|食品表示110番(相談窓口):食品表示基準に関する疑問を直接相談できる窓口情報があります