ダンピング提訴が受理されただけで、提訴品目の通関申告に追加書類が求められるケースがあります。
ダンピングとは、輸出国の国内市場での販売価格(正常価格)よりも低い価格で外国市場へ輸出する行為を指します。この差額を「ダンピング・マージン」と呼びます。
たとえば、ある国の鉄鋼メーカーが自国市場では1トンあたり10万円で販売している鋼材を、日本向けには7万円で輸出するとします。この場合のダンピング・マージンは3万円、率にして30%です。輸入国側の産業にとっては価格競争で対抗できず、雇用や生産量に深刻なダメージを受けます。
つまり提訴自体は「被害の訴え」です。
提訴が認められて調査が正式開始されると、対象となる輸入品は通関の場でも特別な扱いを受ける可能性が生じます。通関業従事者がこの段階から業務上のリスクを意識しておく必要があるのは、後述する担保提供や遡及課税の問題があるためです。
ダンピング提訴を理解する上で欠かせない用語を整理しておきましょう。
| 用語 | 意味 |
|------|------|
| 正常価格(Normal Value) | 輸出国の国内市場での販売価格または第三国への輸出価格 |
| 輸出価格(Export Price) | 実際に輸入国へ輸出された価格 |
| ダンピング・マージン | 正常価格と輸出価格の差額(通常は%で表示) |
| 実質的損害 | 国内産業が受けた具体的・測定可能な被害 |
| 因果関係 | ダンピング輸入と国内産業被害の間の直接的なつながり |
これが基本です。
WTO反ダンピング協定の原文および解説は、WTO公式サイトで確認できます。日本語訳は外務省・経済産業省のウェブサイトにも掲載されています。
提訴を受けた政府機関は、まず「提訴要件を満たしているか」を審査します。WTO協定上、申請者が国内の同種産業全体の生産量の25%以上を占めていることが最低条件であり、かつ賛成する生産者が反対する生産者を数量で上回ることが必要です。この要件を満たさない提訴は門前払いになります。
要件を満たすと判断されれば、調査開始の公告が官報に掲載されます。
調査開始から通常は1年以内(延長されても最長18カ月)に最終決定が出るのが原則です。ただし実務では複雑な案件ほど延長されやすく、通関業者として「いつ措置が確定するか」を追い続ける必要があります。
調査の流れを時系列で示すと、以下のようになります。
仮措置の段階が、通関業者にとって最初の実務的ハードルです。
仮措置は現金保証金や保証債務(担保)の形をとることが多く、輸入申告の際に「担保を積んだ上で通関」という対応が求められます。担保が不要と思い込んで申告を進めると、後から追徴が発生するリスクがあります。担保の要否と金額は、調査開始公告および仮措置公告の内容を必ず確認する必要があります。
担保を積めばOKということです。
財務省関税局の反ダンピング措置に関する情報は、官報とあわせて以下で確認できます。
反ダンピング税(不当廉売関税)が確定すると、通常の関税に上乗せして課されます。税率は輸出企業ごとに異なる場合があり、特定の輸出企業に対して20%、別の企業には45%といった形で、企業別に設定されることが珍しくありません。
これは重要なポイントです。
つまり、同じ品目・同じ原産国の貨物であっても、どのメーカーが製造したかによって適用税率が変わるのです。通関申告書類には輸出者(製造者)情報を正確に記載する必要があり、証明書類(製造者証明書など)の提出を求められるケースもあります。
日本の事例を見ると、中国産鉄鋼・炭素鋼製品などで反ダンピング税が適用された実績があります。たとえば過去に適用された中国産普通合金鋼線材に対する不当廉売関税では、複数の中国企業に対して異なる税率が設定されました。税率の幅は数%から数十%に及ぶことがあります。
通関業者として確認すべき実務チェックポイントは次の通りです。
遡及適用が最大のリスクです。
WTO協定では、反ダンピング税の遡及適用は原則として仮措置発動日にまで限定されますが、「クリティカル・サーカムスタンス(重大な事情)」が認定された場合は調査開始日の90日前にまで遡ることが可能です。このケースはまれですが、輸入者への影響が非常に大きいため、可能性がある案件では早期に顧問弁護士や通関業者への相談を促すことが重要です。
反ダンピング措置が発動されている品目を通関する際、多くの輸入者が「HSコードと金額さえ合っていれば問題ない」と考えがちです。しかし実際にはそれだけでは不十分です。
見落とされやすいのが製造者証明の問題です。
同一HSコードの製品でも、措置対象の輸出者から仕入れたものと非対象の輸出者から仕入れたものが混在する場合、製造者を特定する書類がなければ税関は安全サイドの判断、すなわち措置税率の適用をとります。これにより輸入者が想定外のコスト増を被るケースが発生しています。
この問題を回避するために通関業者として取れる対応を整理します。
書類の準備は早めが原則です。
また、見落とされがちなのが「迂回ダンピング(Circumvention)」に対する調査への巻き込みリスクです。たとえば、措置対象国から第三国を経由して輸入するルートを経由したとしても、実質的に措置対象国の製品と認定された場合は反ダンピング税の対象になります。通関申告における原産地の判断を誤ると、虚偽申告と認定されるリスクさえあります。
これは法的リスクに直結します。
迂回ダンピング調査が開始されている品目については、経済産業省や財務省の公告を定期的に確認する習慣をつけることが現実的な対策です。各機関のメールマガジンや官報の自動通知サービスを活用すると、確認漏れを防げます。
経済産業省:不当廉売関税(反ダンピング措置)に関する最新情報
WTOの統計によれば、世界全体で毎年100件前後の新規反ダンピング調査が開始されています。提訴件数は2010年代後半から増加傾向にあり、特に鉄鋼・アルミ・化学品・農産品などの分野で活発です。
中国が最も多く調査対象となっている国です。
WTOが公表しているデータでは、2000年以降の反ダンピング措置の累計において、中国は調査対象国として突出した件数を占めています。しかしインド・韓国・台湾・トルコなども主要な対象国として名を連ねており、特定の国だけの問題ではありません。
日本の通関業者が特に注意を要する品目・地域の傾向として、以下の点が挙げられます。
動向把握が業務品質を左右します。
通関業者として実践的な情報収集ツールとして活用できるのが、WTOの「Anti-Dumping Gateway」です。英語インターフェースですが、国別・年別・産品別で調査状況を絞り込め、調査対象品目の把握に役立ちます。
また、日本国内で発動されている措置については財務省税関のウェブサイトで一覧が公開されています。顧客から新規輸入案件の相談を受けた際には、まずこのリストでの確認を手順に組み込むことで、見落としによるリスクを大幅に減らせます。
WTO反ダンピング関連統計と最新調査動向の確認には以下も参照できます。