PFAS含有の成形品を誤って輸入申告すると、通関許可が下りないどころか貨物が差し戻されます。
PFAS(有機フッ素化合物、通称ピーファス)は、炭素とフッ素が強く結びついた構造を持つ化学物質の総称です。その種類は1万種類以上に及ぶとされており、撥水・撥油性・耐熱性・化学的安定性の高さから、フライパンのコーティング、半導体製造、消火剤、衣類の撥水加工など幅広い用途で使われてきました。
問題視された理由は大きく2つあります。ひとつは「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」と呼ばれるほど自然環境でほぼ分解されないこと、もうひとつは人体への健康影響です。WHO傘下のIARC(国際がん研究機関)は、PFOAを「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」、PFOSを「グループ2B(発がん性がある可能性がある)」に分類しています。深刻なのはその蓄積性で、一度体内に取り込まれると排出されにくく、肝臓・腎臓・甲状腺などへの影響が長期的に続くとされています。
国際社会がこの問題を制度で受け止めたのが、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)です。日本を含む186か国・EUが締結済みで(2024年12月時点)、PFOS・PFOA・PFHxSが廃絶対象に指定されています。つまりPFAS規制は、国内の思いつきではなく国際条約に基づいた法的義務です。
日本ではPOPs条約の改正に合わせて化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)を改正し、対応してきました。この化審法こそ、通関業務に直結する最重要法令です。第一種特定化学物質に指定された物質は「製造・輸入・使用が原則禁止」となり、それを使用した製品(成形品)の輸入も同様に禁止されます。ここが通関現場で特に注意すべきポイントです。
| PFAS物質 | POPs条約指定年 | 日本化審法指定年 | 輸入禁止開始時期 |
|---|---|---|---|
| PFOS | 2009年(附属書B) | 2010年 | 2010年4月〜(一部)、2018年〜全面 |
| PFOA | 2019年(附属書A) | 2021年 | 2021年〜 |
| PFHxS | 2022年(附属書A) | 2024年2月 | 2024年2月〜 |
| LC-PFCA関連物質 | 2025年決定 | 2026年秋頃指定見込み | 2026年秋頃〜(予定) |
規制の歴史が積み重なっています。通関業従事者として把握すべき出発点は、ここにあります。
参考:環境省「有機フッ素化合物(PFAS)について」(FAQ)
https://www.env.go.jp/water/pfas/faq003.html
「PFAS規制はいつから始まるのか」という問いへの答えは、実は「すでに2010年から段階的に始まっており、2026年現在も更新中」です。意外ですね。
通関業務の現場で整理しておくべき国内施行日を確認しましょう。
✅ 化審法に基づく製造・輸入禁止スケジュール
✅ 水道法・水質基準の施行スケジュール
✅ 化審法に基づく通関手続きの注意点
化審法上、第一種特定化学物質が使用されている「製品(成形品)」は輸入してはならないとされています(法第24条)。これが通関業務で最も見落とされやすい点です。「原料としての化学物質」だけでなく、その物質を使用して作られた成形品も対象になります。
たとえば、PFOS・PFOAを含む防水加工を施した業務用防護服や、PFHxSを含む金属メッキ部品なども該当する可能性があります。輸入申告時には、HSコードだけでなく製品に使用されている化学物質の成分情報を荷主から入手し、他法令確認を怠りなく行うことが条件です。
LC-PFCA関連物質については、2026年2月2日付けの経産省告示によって化審法第一種特定化学物質への指定と輸入禁止製品指定のための政令改正手続きが進行中です。2026年秋頃の施行が見込まれており、今後の輸入申告に影響が出るため、最新情報のフォローが必須です。
参考:経済産業省「化学物質の輸入通関手続」
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/todoke/import.html
国内だけでなく、輸出先・輸入元の規制も把握しておく必要があります。特にEUとフランスの動向は、日本からの輸出企業の荷主にとっても極めて重要で、通関業従事者としてアドバイスを求められる場面が増えています。
🇫🇷 フランス(2026年1月1日施行・すでに施行済)
フランスは2026年1月1日より、PFASを含む特定製品の製造・輸出入・市場投入を全面禁止しました。禁止対象は以下の製品カテゴリです。
重要なのは「輸入はすべて市場投入とみなされる」という解釈です。これはフランス当局の明示した方針であり、日本からフランスへの輸出時に上記カテゴリの製品でPFASが検出された場合、輸入禁止となります。さらに2030年1月1日以降は、規制が原則全ての繊維製品へ拡大する予定です。
🇪🇺 EU全域(2026年8月12日施行予定)
EU全域では2026年8月12日から、食品包装材におけるPFASの使用が制限されます(REACH規則附属書XVII)。さらに2026年中には、約1万種類のPFASを対象とする包括的な規制案の採択・施行が予定されています。これはREACH規則の枠組みに基づくもので、世界最大規模の化学物質規制と言われています。
🇺🇸 米国(州ごとに段階的施行)
米国のPFAS規制は連邦法と州法が並存しており、対応が複雑です。ミネソタ州は2025年から化粧品・カーペット・調理器具など11カテゴリでPFAS含有製品の販売を禁止。カリフォルニア州も2026年7月1日以降、消費者製品への適用拡大が決定しています。連邦レベルではTSCA(有害物質規制法)に基づき、2011〜2022年にPFASを製造・輸入した者に対して、2026年4月から6か月以内の報告提出が義務化されました。
この報告義務は、日本企業が米国向けに輸出した際の相手方(米国輸入者)にも影響します。荷主が報告漏れにならないよう、関連情報を共有することが通関業務のひとつの付加価値になります。
| 地域 | 主な規制内容 | 施行日 |
|---|---|---|
| フランス | 衣類・化粧品等のPFAS含有品 輸入禁止 | 2026年1月1日(施行済) |
| EU全域(REACH) | 食品包装材のPFAS使用制限 | 2026年8月12日 |
| EU全域(REACH包括案) | 約1万種類のPFAS 製造・使用・上市禁止 | 2026年中(予定) |
| 米国・連邦(TSCA) | PFAS製造・輸入者への報告義務 | 2026年4月〜(6か月間) |
| 米国・ミネソタ州 | 11カテゴリ製品のPFAS販売禁止 | 2025年〜(施行済) |
これだけの施行日が集中しています。通関業務の現場での多国規制対応が急務です。
参考:日本繊研新聞「フランスでPFAS規制法施行 衣類、靴、化粧品などが対象」
https://senken.co.jp/posts/pfas-260105
参考:JETROビジネス短信「2026年1月1日からフランスでPFAS含有の化粧品、衣類などの製造、輸出入、市場投入を禁止」
https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/03/3a703ccc382b5d4f.html
PFAS規制に関して、通関業従事者が「全面禁止だから確認不要」と思い込むと、かえって判断を誤るリスクがあります。例外規定の存在は、実は見逃せない実務上のポイントです。
化審法の例外規定:試験研究用途と泡消火薬剤
化審法上、第一種特定化学物質であっても「試験研究用」として輸入する場合は手続きを踏むことで認められています。ただし様式第1(試験研究用又は試薬として用いられる新規化学物質)の提出が必要で、通常輸入と同じ手続きでは通りません。
また、PFOSを含む泡消火薬剤については、航空機・石油コンビナート・空港施設など特定の防火設備における在庫の使用が例外的に認められています。代替品への切り替えが完了していない現場での緊急時対応という理由からです。ただしこれは「新規製造・輸入の許可」ではなく、「過去に製造・購入済みの在庫の使用」に限られた例外です。新規に輸入することは原則できません。
「製品(成形品)」の輸入禁止が意味すること
化審法第24条は、「第一種特定化学物質が使用されている製品」を輸入してはならないと定めています。経産省が定める政令には、対象となる製品の品目リストと、それに対応する関税率表(HS番号)の区分が紐付けられており、通関手続き時にはこの対応表の確認が必要です。
たとえば「防水加工の施された業務用ジャケット」「PFOS系成分が含まれるメッキ部品」「PFOAを含むフッ素樹脂コーティングのフライパン」などが該当しうる製品の例として挙げられます。HSコードが何であれ、成分に第一種特定化学物質が使用されているなら輸入禁止です。
実務上の確認手順
このリスクを回避するための実務手順は、次のとおりです。
NITE-CHRIPは無料で使えます。まず確認する習慣をつけることが大切です。
エッセンシャルユース(代替技術がなく不可欠な用途として例外を認める制度)については、2026年3月現在、経産省のページでは「現在指定されているエッセンシャルユースはありません」と明示されています。つまり実質的な逃げ道は試験研究用途に限られています。
参考:経済産業省「エッセンシャルユースについて」
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/kasinhou/about/class1specified_kijun.html
規制スケジュールを知ることと、通関業務に落とし込むことは別の話です。ここでは、一般的な解説記事ではほとんど触れられない「通関実務ならではのリスク管理」の視点をお伝えします。
🔍 視点1:「規制物質が変わる」だけでなく「対象HS番号が増える」リスク
化審法の施行令が改正されるたびに、「第一種特定化学物質使用製品」として輸入禁止に指定される品目リストと関税率表(HS番号)の対応が更新されます。2026年秋のLC-PFCA施行に伴い、新たなHS番号が対象に加わる見込みです。今まで問題なく通関できていた品目が、改正後は他法令確認が必要になるケースが生じます。
定期的に経産省の「化学物質の輸入通関手続等について」の最新版(PDFガイド)を確認し、通関システム上の他法令コード設定の見直しを行うことが習慣として必要です。
🔍 視点2:「荷主が知らない」ことが最大のリスク
大手輸出入企業では法務・CSR部門がPFAS対応を進めていますが、中小規模の輸入業者は「PFAS規制があることすら知らない」ケースが2026年現在でも少なくありません。通関業者は通関申告書類の正確性について法的責任を負う立場でもあり、荷主の無知がそのまま通関業者のリスクになる場面があります。
顧客への定期的な法改正案内、とくに「このHS番号の商品はPFAS確認が必要です」という具体的な注意喚起を行うことが、リスク管理と顧客信頼の両方を高めます。
🔍 視点3:EU向け輸出の通関でも「成分証明」が必須になっている
フランス規制(施行済み)では、輸入はすべて市場投入とみなされます。日本からフランス向けに衣類・化粧品・スキーワックスを輸出する荷主の依頼を受けた場合、フランス側の通関でPFAS含有が確認されると貨物が差し戻されます。輸出通関の時点で「成分証明書は準備できているか」「PFAS閾値以下であることの試験成績書はあるか」を荷主に確認することが、トラブル予防につながります。
🔍 視点4:LC-PFCA関連物質は「新しい物質名」に注意
LC-PFCAとは長鎖ペルフルオロカルボン酸(C9〜C14)の総称で、かつてPFOS・PFOAの代替として使われてきた物質群です。「PFOSもPFOAも確認したから大丈夫」という発想では、LC-PFCAが含まれる製品の見落としが起きます。SDSや成分証明書の確認時には、「PFAS全般」としての確認が基本原則です。
規制は「終わり」ではなく「起点」です。化審法、REACH規則、各国国内法は毎年更新されており、それを追い続けることが通関業務の付加価値の源泉になっています。
参考:ユーロフィン日本環境「これまでのPFAS規制の歴史と動向は?現状と今後の規制を予測」
https://www.eurofins.co.jp/pfas分析/pfas-media/世界のpfasニュース/これまでのpfas規制の歴史と動向は-現状と今後の規制を予測/