D/A決済で手形を引き受けさせても、商品はすでに輸入者の手元にあります。
期限付き手形(ユーザンス手形)とは、貿易取引で輸入者が手形を受け取った日または指定された確定日から、一定期間後に代金を支払うことを約束した為替手形のことです。英語では「Usance Bill of Exchange」と呼ばれ、「Usance(ユーザンス)」は「支払い猶予」を意味します。
一覧払手形(At Sight手形)がその場で即時決済を求めるのに対し、期限付き手形は「90日後」「180日後」といった形で期日が設定されます。例えば「at 90 days after sight」と記載されていれば、輸入者が手形を受け取った日から数えて90日後が支払期日となります。支払いが先になるということです。
貿易取引では「荷為替手形」という形で使われることが多く、為替手形に船荷証券(B/L)やInvoice・Packing Listといった船積書類を添付したものが輸出者から銀行経由で輸入者へ送られます。この流れの中に期限付き手形が組み込まれると、D/A決済(Documents against Acceptance:引受時書類渡し)が成立します。
関税実務との関係でいえば、輸入者は手形を引き受けた(サインした)時点で船積書類を入手でき、その書類を使って輸入通関・関税納付を行い商品を引き取ることができます。つまり、関税を支払うタイミングと手形の代金を支払うタイミングは別々になります。これは意外と知られていない点です。
また、期限付き手形には支払日の記載方法が2種類あります。
- 一覧後定期払い(at X days after sight):輸入者が手形を引き受けた日からX日後が支払期日になります。日本語では「一覧後X日払い」とも言います。
- 確定日後定期払い(at X days after B/L date):船積日などの確定した基準日から数えてX日後が支払期日になります。どちらにするかは契約時に双方で取り決めます。
コトバンク「期限付手形」定義ページ(支払期日の分類を確認できます)
期限付き手形を理解するうえで欠かせないのが、D/A決済とD/P決済の違いです。どちらも「信用状(L/C)なし荷為替手形決済」に分類されますが、輸出者と輸入者どちらにリスクが寄るかがまったく異なります。
D/A決済(Documents against Acceptance)は、輸入者が「手形を引き受ける(将来払う意思を示す)」ことと引き換えに、銀行が船積書類を渡す方法です。この際に使われるのが期限付き手形(ユーザンス手形)です。輸入者にとっては代金を払う前に書類を入手して商品を受け取れるため、資金繰りの観点から非常に有利な条件です。
一方D/P決済(Documents against Payment)は、輸入者が「その場で代金を支払う」ことと引き換えに書類が渡される仕組みです。D/P決済では一覧払手形(At Sight手形)が使われます。輸入者はお金を払わないと商品を受け取れないため、輸出者のリスクは低くなります。
D/A決済のデメリットが輸出者に集中する点です。手形を引き受けてもらった時点で商品の所有権が移転し、その後は輸入者の信用力だけが代金回収の拠り所になります。仮に輸入者が倒産したり支払いを拒否したりしても、商品はすでに相手の手元にあるため、回収は困難です。
まとめると、D/A=期限付き手形・輸入者有利、D/P=一覧払手形・輸出者有利という構図が基本です。
| 項目 | D/A決済 | D/P決済 |
|---|---|---|
| 使用する手形 | 期限付き手形(ユーザンス手形) | 一覧払手形(At Sight手形) |
| 書類の引渡タイミング | 手形引受時(代金払う前) | 代金支払時 |
| 輸出者リスク | 🔴 高い | 🟡 中程度 |
| 輸入者リスク | 🟢 低い | 🔴 高い |
Digima〜出島「D/P決済とD/A決済の違い」解説ページ(リスク比較を図解で確認できます)
期限付き手形を使った「支払い猶予」の仕組みには、大きく分けて「シッパーズ・ユーザンス」と「銀行ユーザンス」の2種類があります。どちらを選ぶかによって、コスト負担の所在とリスクの性質が変わります。
シッパーズ・ユーザンスとは、輸出者(シッパー)が輸入者に対して直接、支払い期日の猶予を与える方式です。典型的にはD/A決済の形を取り、輸出者が期限付き荷為替手形を振り出します。輸出者は代金回収を先延ばしする分、金利相当のコストを自ら負担することになります。信頼関係が確立されたグループ企業間や継続取引先の間で多く使われます。初めての取引では原則使わないほうが無難です。
銀行ユーザンスとは、銀行が輸入者に対してお金を立て替えて支払いを猶予する方式です。代表的なものに「本邦ローン(自行ユーザンス)」があり、L/C(信用状)を使った一覧払い取引で輸出者へは即時支払いが行われる一方、輸入者は銀行に対して後日返済します。輸出者の立場では代金回収リスクが大幅に低減されるうえ、早期に資金化できます。輸入者はユーザンス金利を銀行に支払います。
関税実務の観点でいえば、シッパーズ・ユーザンスのD/A決済では輸入者が手形を引き受けたその時点で船積書類を手に入れ、輸入通関と関税支払いができます。つまり、関税は手形期日より先に払わなければならないことになります。
銀行ユーザンスの場合、L/C発行銀行が書類を押さえながら輸入者への融資を並行して行うため、関税・通関の実務は輸入者が別途資金を手当てして対応するケースが多くなります。関税と手形代金の支払いが時間的にずれる点は、どちらの方式でも共通します。
パソナ「輸入金融:シッパーズ・ユーザンスと銀行ユーザンスの解説ページ」(仕組みの図解あり)
関税に関わる貿易実務を行ううえで最も見落とされやすいリスクが、D/A決済における「手形の満期不払い」です。輸入者が期日に代金を支払わなくても、商品はすでに相手の倉庫にあります。そのリスクを軽減する手段として知っておきたいのが「フォーフェイティング(Forfeiting)」です。
フォーフェイティングとは、輸出者が銀行に期限付き(ユーザンス)輸出手形を売却し、銀行が「ノンリコース(Non-Recourse)」で買い取る仕組みです。ノンリコースとは、万が一手形が不払いになっても、銀行が輸出者に手形の買い戻しを要求しない(遡及権を放棄する)ことを意味します。輸出者にとっては代金リスクからの完全な解放です。
注目すべき数字があります。一般的な貿易保険(NEXI)のリスクカバー率は通常90〜95%ですが、フォーフェイティングは手形金額の100%が対象です。この差は大きいです。しかも、カントリーリスク(相手国での外貨送金停止など)や手形決済の延滞利息についても、買取銀行が負担するため輸出者には請求されません。
フォーフェイティングの利用条件は以下の通りです。
- 🔷 L/C(信用状)付きの期限付き輸出手形であること(一覧払手形は対象外)
- 🔷 L/C発行銀行が手形を引き受けていること(引受済みであることが前提)
- 🔷 埼玉りそな銀行の例では、1件あたり原則20百万円以上・期間90日以上が目安
- 🔷 手形通貨は米ドル・円・ユーロなど国際通貨が基本
コストは、手形買取時に割引利息として差し引かれます。金利はL/C発行銀行の信用力とカントリーリスクで変わります。この利用コストと代金未回収リスクを天秤にかけて判断することが実務上のポイントです。
フォーフェイティングの具体的な相談先としては国内大手銀行や在日外銀支店が窓口になります。JETROの貿易・投資相談Q&Aでも詳細な情報が公開されています。
JETRO「フォーフェイティング:日本」Q&A(リスクカバー率100%の仕組みをJETROが解説)
期限付き手形は、決済条件の話だけで完結しません。関税実務や通関業務と深く絡み合う場面があります。ここでは実務担当者が特に注意すべきポイントを整理します。
①関税支払いと手形満期日は別タイムラインである
D/A決済で輸入者が手形を引き受けると、船積書類が手元に来ます。輸入者はそのB/Lを使って通関し、関税を支払い、商品を引き取ります。この時点でまだ手形の代金は払っていません。つまり、関税は先に出ていき、手形代金は後から出ていきます。キャッシュフロー管理を誤ると、手形期日に資金が不足する事態になりかねません。
②D/A決済のユーザンス期間と資金計画の連動
「at 90 days after sight」なら手形引受から90日後、「at 180 days after B/L date」なら船積みから180日後が支払期日です。180日は約6か月であり、半年間は仕入れ資金が立て替え状態になります。仕入れ→通関→関税支払い→販売→回収→手形決済というキャッシュサイクルを事前に設計することが不可欠です。
③信用調査の実施タイミング
輸出者としてD/A決済を受け入れる場合、相手の輸入者の信用調査は契約前に完了させておく必要があります。手形を引き受けてもらった後では、事実上リスクを回避できません。信用調査機関(例:帝国データバンク・東京商工リサーチ、海外向けはDun & Bradstreetなど)を活用し、相手国の経済状況・企業財務を確認することが基本です。
④関税の課税対象はあくまで商品の取引価格
期限付き手形にはユーザンス金利が含まれる場合があります。関税評価(課税価格)の算定に際し、金利部分を分離して計上できるかどうかは取引条件によります。特に「CIF+ユーザンス金利」が一体で請求される場合、税関への申告価格の扱いに注意が必要です。
⑤貿易保険(NEXI)の活用を忘れない
D/AやD/P取引で信用状がない場合、日本貿易保険(NEXI)の包括保険に加入することで、相手国の非常事由(戦争・外貨送金停止)や取引先の倒産・不払いによる損失の90〜95%をカバーできます。フォーフェイティングが100%カバーであるのに対してカバー率はやや低いですが、コストは相対的に抑えられます。NEXI包括保険への加入検討は、D/A決済を導入する前に必ず行うべき対策の一つです。
日本貿易保険(NEXI)貿易保険総合パンフレット(D/A・D/P手形のリスクカバーの詳細を確認できます)