環太平洋経済連携協定 略称の使い分けと通関業務への影響

環太平洋経済連携協定の略称TPPとCPTPP、実は通関業務で間違えると重大なトラブルに。原産地証明から記録保管まで、知らないと損する実務ポイントを解説します。あなたは正しく使い分けられていますか?

環太平洋経済連携協定の略称と通関実務

TPPは「環太平洋連携協定」じゃなくて「経済連携」が正式名称です。

この記事の3つのポイント
📋
略称の正確な理解

TPPとCPTPPの違い、正式名称との対応関係を明確に把握

📦
通関実務への影響

原産地証明書の作成から記録保管まで実務上の注意点

⚠️
ペナルティリスク

誤った証明書提出による関税追徴と罰金のリスク管理

環太平洋経済連携協定の正式名称と略称TPP


環太平洋経済連携協定は、英語で「Trans-Pacific Partnership Agreement」と表記され、この頭文字を取った略称が「TPP」です。日本語では「環太平洋パートナーシップ協定」または「環太平洋経済連携協定」と呼ばれています。
参考)環太平洋パートナーシップ協定 - Wikipedia


この協定は2010年に交渉が開始され、当初は太平洋沿岸の12か国が参加していました。日本は2013年7月に交渉に参加し、2015年10月に大筋合意、2016年2月に協定文書への署名が行われました。
参考)わかりやすい用語集 解説:環太平洋連携協定(かんたいへいよう…


つまりTPPが原型です。
しかし2017年1月、米国が離脱を表明したことで状況が大きく変化しました。残された11か国は協定の再編成を決定し、新たな枠組みを構築することになったのです。
参考)ティーピーピー【TPP】


通関業務において、この略称を正確に理解することは極めて重要です。特恵税率の適用申請や原産地証明書の作成時に、誤った協定名を記載すると、税関での審査が遅延したり、最悪の場合は特恵待遇が認められないリスクがあります。​

環太平洋経済連携協定のCPTPPへの移行経緯

米国離脱後、残された11か国は2017年11月にベトナムのダナンで開催された首脳会合において、新協定の名称を「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)とすることで合意しました。この略称が「CPTPP」または「TPP11」です。
参考)CPTPP|TPP等政府対策本部


CPTPPは2018年3月に署名され、同年12月30日に発効しました。発効条件は、6か国以上が国内手続きを完了することでした。メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアの6か国が最初の発効国となりました。
参考)CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的…


協定名が変わったということです。
CPTPPは、元のTPP協定の22項目を「凍結」する形で発効しました。これは米国が復帰するまで実施を保留するという意味で、協定の基本構造は維持されています。​
内閣官房TPP等政府対策本部では、CPTPPの詳細な協定文書や関連資料が公開されており、通関業務に携わる方は定期的に確認することが推奨されます。
現在、CPTPPには日本を含む11か国が加盟しており、世界のGDPの約14%を占める巨大な自由経済圏を形成しています。さらに英国の加盟により、その規模は15%に拡大する見込みです。
参考)https://digitalcommons.unl.edu/yiitpr/6/


環太平洋経済連携協定における原産地証明の通関実務

CPTPPでは自己証明制度が採用されており、輸出者・生産者・輸入者のいずれかが原産地証明書を作成できます。これは第三者機関による発給を必要とする従来のEPAとは大きく異なる点です。
参考)https://www.customs.go.jp/roo/origin/pdf/1.7shiryoujitsumu.pdf


通関時に必要な書類は、原産地証明書と通常の船積書類(船荷証券、インボイス、パッキングリストなど)です。特恵待遇要求のために特別な説明書類は原則不要とされています。​
原産地証明書には必須記載事項があります。
具体的には、証明者の氏名・住所、輸出者情報、生産者情報、輸入者情報、産品の品名・HSコード、原産地基準などが含まれます。これらの情報に不備があると、特恵税率の適用が認められないだけでなく、通関後であっても関税追徴や罰金が課される可能性があります。
参考)CPTPP税率適用に求められる必要書類とは?記載事項や保存ル…


原産地証明書の有効期限は発行後1年間です。ただし、CPTPPでは輸入後4年間にわたって特恵関税の要求と還付が認められる国もあります。ニュージーランドではこの事後要求制度が活用できるため、当初一般税率で輸入した貨物についても、後から特恵税率を適用できる可能性があります。
参考)https://www.customslegaloffice.com/fta/wp-content/uploads/2018/12/jetrotpp.pdf


積送基準にも注意が必要です。貨物の輸送途上にCPTPP域外の経由地があったり、積み替えが行われた場合には、第3.18条第2項の要件を満たす書類の提出が別途必要になります。​

環太平洋経済連携協定の記録保管義務と検認対応

CPTPP協定第3.26条では、輸入者は輸入許可日から、輸出者・生産者は原産地証明書の作成日から起算して、少なくとも5年間の記録保管義務が規定されています。各締約国は国内法でこれより長い期間を定めることもできます。
参考)TPP特恵で関税を引き下げるための実務とは(2)(ニュージー…


実際、ニュージーランドでは輸入者に対して7年間の記録保管義務が課されています。これはTPP協定文で示された期間より2年長く、より厳格な運用がなされているケースです。​
5年以上が基本ルールです。
保管すべき書類には、原産地証明書本体、インボイス、パッキングリスト、船荷証券、製造工程を示す資料、原材料の調達先を証明する書類などが含まれます。特に原産地規則を満たすことを証明するための根拠資料は、必ず作成・保管しなければなりません。
参考)https://hero-gensanchi.com/tpp11_epa.html


輸入国税関は、輸入された産品が原産品であるかどうかを確認するため、①輸入者への情報提供の要請、②輸出者・生産者への情報提供の要請、③それらの施設への訪問(検認)を行うことができます。この検認は外交ルートで日本税関を経由して行われます。
検認対応で最も重要なのは、原産品であることを明確に証明できる資料を整備しておくことです。関税分類変更基準を適用した場合には、使用した原材料のHSコードと完成品のHSコードの対比表を作成しておくと効果的です。​
証明に誤りがあると、輸入者には関税削減相当額とペナルティが課せられます。この場合、輸出者は輸入者から損害賠償を請求されるリスクがあるため、証明書作成時の正確性確保が極めて重要です。​

環太平洋経済連携協定と他のEPAとの使い分け戦略

日本は既にCPTPP加盟国のうち9か国と個別のFTA/EPAを締結しています。そのため通関業務では、どの協定を適用すれば最も有利な税率が得られるかを判断する必要があります。
参考)Analysis of the Impact of CPTP…

例えば日EU・EPAとの比較では、品目によって有利な協定が異なります。HSコードごとに各協定の税率を確認し、最も低い税率が適用できる協定を選択することが基本戦略です。
参考)https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/wto-fta/tpp/TPP11_kaisetsu.pdf

協定の選択は品目次第です。
CPTPPの特徴は、原産地証明が自己証明制度である点、ほぼすべての品目で関税を撤廃する方針である点、非関税障壁の撤廃にも踏み込んでいる点などが挙げられます。特に国有企業への過剰な補助金や不透明な取引慣行を制限する規定は、他の協定にはない特徴です。
参考)TPPとCPTPPの仕組みを解説:国際経済の新しい貿易|みっ…


事前教示制度を活用することも有効です。文書による事前教示を取得しておけば、通関時に原産地証明書の明細書等の提出を省略できる場合があります。また、税関との見解相違によるトラブルも未然に防ぐことができます。​
税関のTPP原産地規則ページでは、品目別規則(PSR)の詳細な解説や記号の意味が説明されており、実務担当者にとって必須の参考資料となっています。
複数のEPAを使い分ける際には、システム的な管理も重要です。輸入申告時にどの協定を適用したか、その根拠となる原産地証明書はどれか、関連書類は適切に保管されているかを、一元的に管理できる体制を整えることが、検認リスクを最小化する鍵となります。




環太平洋諸国(日・韓・中・米・豪)における外国判決の承認・執行の現状(別冊NBL No.145) (別冊NBL no. 145)