委託在庫・預託在庫の違いと通関実務への影響

委託在庫と預託在庫の違い、所有権・管理主体・売上計上タイミングの差異を通関実務の視点から解説。VMI輸入時の輸入者名義問題や下請法リスクまで詳しく知りたい方は必見です。

委託在庫と預託在庫の違いと通関実務での注意点

預託在庫をそのまま輸入すると、フォワーダーが輸入者に「なれない」ことがあります。


この記事の3つのポイント
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所有権と管理主体が異なる

委託在庫は「委託者が所有・受託者が管理」、預託在庫は「サプライヤーが所有・管理も主導」という構造上の違いがあります。

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VMI型の預託在庫は輸入者名義が複雑になる

2023年10月改正以降、フォワーダーや通関業者を名義上の輸入者にすることが認められにくくなり、税関事務管理人(ACP)の活用が必要になるケースが増加しています。

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下請法リスクと収益認識ミスに要注意

棚卸時に預託在庫を自社資産に誤計上すると下請法違反となる可能性があり、売上計上のタイミング誤りは税務調査でも指摘を受けやすいポイントです。


委託在庫と預託在庫の基本的な違い:所有権と管理主体

委託在庫と預託在庫は、どちらも「自社の商品を外部の場所に置いておく」という点で似ています。しかし、その本質的な構造はかなり異なります。


委託在庫とは、委託者(自社)が商品の所有権を保持しながら、受託者(他社・外部倉庫・販売委託先など)の場所に商品を預けている状態の在庫です。実務では「預け在庫」と呼ばれることもあります。自社倉庫から外部に出ているのに、所有権は自社側にある、というのがポイントです。外部倉庫に在庫管理を外注している卸売業や、外注先に部材を無償支給している製造業のケースが典型例として挙げられます。


一方、預託在庫(VMI:Vendor Managed Inventory)は、サプライヤー(供給者)が顧客の倉庫に在庫を置き、なおかつ在庫の所有権もサプライヤーが持ち続けるという形態です。つまり、在庫管理の主導権がサプライヤー側にあります。これが最大の違いです。


項目 委託在庫 預託在庫(VMI)
所有権 委託者(自社) サプライヤー
在庫管理の主体 受託者(外部倉庫等) サプライヤーが主導
売上計上タイミング 受託者が販売した日 顧客が使用・消費した日
主な利用場面 卸売・製造業の外注部材管理 自動車・医療機器・半導体部品


「管理を誰がするか」が原則です。委託在庫は受託側が管理し、預託在庫はサプライヤー側が管理します。同じ「外部に置く在庫」でも、責任とコストの流れが逆方向になるので、混同すると契約トラブルや会計ミスにつながります。この区別だけ覚えておけばOKです。


なお、企業によって呼称の使い方が異なる場合もあり、「委託在庫=預け在庫」と同義に扱う実務も存在します。重要なのは呼称そのものではなく、「誰が所有していて、誰が管理主体なのか」を契約書ベースで明確にしておくことです。


参考:委託在庫(預け在庫)の定義と所有権について
委託在庫とは?預け在庫・VMIとの違いとIoTによる棚卸自動化(SmartMat)


委託在庫の通関実務での取り扱い:輸入申告者の名義問題

通関業従事者として特に押さえておきたいのが、委託在庫・預託在庫を輸入する際の「輸入申告者は誰か」という問題です。これは2023年10月以降、大きく整理された論点です。


関税法基本通達(第67-3-3の2)によれば、輸入申告者(貨物を輸入しようとする者)は「国内引取り後の輸入貨物の処分の権限を有する者」とされています。2023年10月1日の制度改正により、この「処分権限者」を輸入者と明確に位置付ける方針が打ち出されました。


委託在庫のケースでは、商品は受託者の場所にあっても所有権は委託者にありますから、原則として委託者が輸入申告者になります。問題はVMI型の預託在庫です。外国サプライヤーが日本の顧客の近くで在庫を管理しようとすると、外国サプライヤー自身が輸入者にならなければなりません。


ここで重要なのが「税関事務管理人(ACP:Attorney for Customs Procedures)」の制度です。日本国内に事務所を持たない外国法人は、直接輸入申告ができません。そのため、日本国内の代理人として税関事務管理人を選任し、その者を通じて輸入者としての届出を行う必要があります。


  • ❌ フォワーダーや通関業者を名義上の輸入者として仕立てることは、2023年10月以降は認められにくくなっています
  • ✅ 外国サプライヤー自身が輸入者(IOR:Importer of Record)となり、ACPを通じて税関対応を行うのが正しい方法です
  • ✅ さらに消費税のインボイス制度の観点から、消費税の納税管理人の選任も必要になります


VMI型の輸入は特殊な取扱いになります。慣れていない通関業者が対応すると、税関から説明を求められ、貨物が長期間保留されるトラブルも実際に起きています。外国サプライヤーからVMI対応の依頼を受けた場合は、ACPの手配を含めた事前準備が必須です。


参考:外国法人によるVMI輸入と税関事務管理人(ACP)の活用
VMIでの税関事務管理人利用・海外法人のIOR輸入者サポート(SKアドバイザリー)


参考:輸入申告者の意義の明確化(2023年10月制度改正)
輸入申告項目・税関事務管理人制度の見直しについて(財務省税関)


委託在庫と預託在庫の売上計上タイミング:収益認識の違い

会計・税務の観点から、委託在庫・預託在庫の扱いで最も注意すべきポイントは「売上をいつ計上するか」です。通関業に携わる場合でも、顧客への説明責任や書類整備の面で理解が必要な知識です。


原則として、委託在庫の売上計上タイミングは「受託者(受け取った側)が第三者に販売した日」または「受託者自身が商品を消費した日」です。自社倉庫から委託先に商品を発送した日ではありません。これは国税庁が公表している「委託販売に係る収益の帰属の時期」の通達にも明記されています。


預託在庫の場合も考え方は同じで、「顧客が在庫を使用・消費した日」が収益認識のタイミングです。顧客倉庫に搬入した時点ではなく、顧客がその在庫を実際に生産や販売に使った時点が起算日になります。


なぜこれが問題になるのでしょうか?


発送・搬入の時点で売上を計上してしまうと、期末時点で実際には未販売の在庫が帳簿上では「売上済み」として処理されてしまいます。これは収益の前倒し計上(期ズレ)にあたり、税務調査で指摘されるリスクが高まります。また、2022年4月以降に適用が始まった「収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)」により、上場企業を含む多くの企業でこの判断基準が厳格化されています。


  • 📌 委託在庫の売上計上:受託者が第三者に販売した日(仕切精算書の受領日を基準とする実務も多い)
  • 📌 預託在庫の売上計上:顧客が在庫を消費・使用した日
  • 📌 どちらも「発送日」「搬入日」ではない点が重要


消費時点を正確に把握できない場合、在庫管理システムによるリアルタイム消費検知を導入している企業もあります。特にVMI型の預託在庫では、顧客が何個を何日に使ったかのデータを取得する仕組みが収益認識の正確性に直結します。


参考:委託販売に係る収益の帰属時期(法人税基本通達)
委託販売に係る収益の帰属の時期(国税庁)


預託在庫が抱える下請法リスク:通関業者も知るべき法的注意点

預託在庫に関して、特にサプライヤー側が直面しやすい法的リスクとして「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」との抵触があります。通関業者・フォワーダーとしても、顧客の取引構造を理解するうえで把握しておきたいポイントです。


2026年1月1日からは下請法が大幅に改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」として施行されています。物流分野では「特定運送委託」が規制対象として新たに追加されており、荷主企業にも対応義務が生じています。


具体的にどのような場面で下請法・取適法のリスクが生じるのか、以下に整理します。


  • ⚠️ 棚卸時の誤計上リスク:預託在庫は所有権がサプライヤーにあるため、顧客側が棚卸資産に誤って計上してはいけません。逆に、サプライヤー側が正確に棚卸資産として管理しなければ、会計監査で指摘を受けます
  • ⚠️ 不当な返品要求のリスク:顧客が「生産計画の変更」を理由として、使用しなかった預託在庫をサプライヤーに無制限に返品できる条件の契約を結んでいる場合、下請法上の「返品の禁止(第4条1項4号)」に抵触する可能性があります
  • ⚠️ 無償での在庫預託強制のリスク:発注とは別に、契約書への明記なしで倉庫への在庫預託を一方的に求めた場合も法的問題となりえます


厳しいところですね。特に大手メーカーとサプライヤー間の取引では、立場の強い側が実態上不利な条件を押しつけているケースが見受けられます。通関業従事者として顧客の輸入貨物を取り扱う際には、その貨物が預託在庫なのか委託在庫なのかを把握し、取引構造に不自然な点があれば確認することがリスク回避につながります。


参考:下請法における預かり在庫のリスク(弁護士解説)
下請法:預かり在庫(埼玉の顧問弁護士・企業法務)


参考:改正下請法(取適法)の物流業界への影響
改正下請法(取適法)が2026年1月に施行、物流業界への影響と必要な対応(ロジポケ)


【独自視点】委託在庫と預託在庫の「棚卸調整」が通関後の事後調査に波及するケース

これはあまり語られない視点ですが、通関業従事者として知っておくと実務に役立つ話です。


税関の輸入許可後にも、税関による「事後調査(事後確認)」が行われることがあります。この際、輸入された貨物の使用実態や在庫管理状況が確認対象となることがあり、委託在庫・預託在庫の管理ずさんさが問題視されるケースがあります。


預託在庫における棚卸の特殊性として、次のような点があります。サプライヤーが輸入した預託在庫は、顧客倉庫に保管されていますが、所有権はサプライヤーにあります。このため、顧客の棚卸には含めず、サプライヤーの棚卸に含める必要があります。ところが、実際の在庫は顧客の倉庫の中にありますから、サプライヤーが独自に在庫数を把握する手段を持っていなければ、棚卸数量の乖離が生じやすくなります。


棚卸差異が大きく、かつ輸入貨物の数量と帳簿上の残高が合わない場合、税関の事後調査では「輸入された貨物が本当にその目的で使用されているか」「輸入許可内容に反した用途変更がないか」といった観点から確認が入ることがあります。これは特定の関税減免制度(用途税率など)が適用された輸入貨物において顕著です。


また、製造業で外注先に部材を無償支給している委託在庫の場合、外注先が実際に加工に使用した数量と、帳簿上の在庫数量が一致しているかどうかは、下請法コンプライアンスと同時に輸入関係書類の保存義務(関税法第94条)の観点からも重要になります。


  • 🔍 輸入許可後の事後調査では「貨物が適正な用途に使われているか」も確認対象になる
  • 🔍 委託在庫・預託在庫の棚卸差異が大きい企業は、事後調査時の説明コストが増大する
  • 🔍 関税法上、輸入者は関係書類を原則として輸入許可後5年間保存する義務がある(関税法第94条)


在庫の所在と所有権の実態が一致していない場合に、税関調査でも会計監査でも同時に問題になります。在庫管理システムを活用して、いつ・どの数量が消費されたかを記録できる体制を整えておくと、事後調査対応コストの削減に直結します。これは使えそうです。


参考:預かり在庫管理の課題と下請法リスク
預かり在庫とは?預け在庫との違いやトラブルを防ぐための管理方法について解説(アラジンオフィス)