承継届が受理された証明書を税関に出し忘れると、輸入貨物がその日のうちに止まります。
医薬品医療機器等法(薬機法)における「承継」とは、製造販売承認の取得者としての地位を、別の事業者へ引き継がせる制度のことです。単に担当者が変わったり、同一法人内で部門が再編されたりする場合とは、法律上まったく異なる扱いになります。
承継制度が認められるのは、大きく次の2つのケースに限られています。①相続・合併・分割が行われる場合(薬機法第23条の2の11第1項)、②承認取得者が契約によりその地位を承継させる目的で、品目に係る一切の資料・情報を譲渡する場合(同条第2項)です。逆に言えば、この2つ以外の理由では承継制度を利用することができません。これが原則です。
通関業従事者にとって重要なのは、この「承継」が完了しているかどうかが、輸入申告時の証明書類に直接影響するという点です。承継前の製造販売業者名が記載された承認書を提示しても、承継後の輸入者名義と一致しないため、税関での確認がスムーズに進まなくなります。
さらに見落とされがちな点として、承継制度には「対象範囲の限定」があります。製造販売承認(大臣承認)と製造販売認証(登録認証機関による認証)には承継制度がありますが、一般医療機器の「製造販売届書」については法律で定められた承継制度が存在しません。つまり一般医療機器では、新たな製造販売業者が届書を出し直す必要があります。意外ですね。
また、医療機器製造販売業許可や製造業登録自体は、承継制度の対象外です。許可や登録の名義変更は別手続きが必要で、承認の承継が完了していても許可証が旧社名のままでは通関書類が揃いません。この点は通関実務で特に混乱しやすいポイントです。
参考:薬機法第23条の2の11(承継規定)の条文と解説
承継制度を使いたくても使えないケースがあります。現場で「承継届を出せばいい」と思い込んでいると、後で大きな問題になることがあります。
まず1つ目は、承認後1年未満の品目です。製造販売の実績が1年に満たないものは、原則として承継できません。これは、市場での安全管理データが蓄積されていない段階で承認者が変わることを防ぐ趣旨です。ただし例外もあり、製造業に特化する場合であって製造所の人的・物的要件に変更がない場合などは1年未満でも認められるケースがあります。厳しいところですね。
2つ目は、一部変更承認申請(一変申請)中の品目です。承認書の内容変更を申請している最中に承継しようとすると、申請の主体が変わってしまい審査が成立しなくなります。このため一変申請中の品目は原則として承継の対象外となります。承継の計画を立てる際には、社内で一変申請が動いている品目を事前に洗い出すことが必須です。
3つ目は、(国内)製造販売業者から外国製造医療機器等特例承認取得者への承継、またはその逆です。たとえば国内の製造販売業者が保有している承認を、外国法人(外国製造医療機器等特例承認取得者)に引き継がせることはできません。この経路の承継制度は定められていないからです。この場合は「まるT申請(〇T申請)」と呼ばれる通知上の取り扱いにより、改めて承認を取り直す必要があります。
「まるT申請」とは何かというと、一切の資料の引き継ぎを前提に、新たに承認申請を行うことで製品を簡便に引き継げる実務的な方法です。通常の新規承認よりも資料省略が認められており、現場ではよく使われます。ただし、あくまでも「新たな承認申請」であるため、承継制度とは別物です。承継届の提出ではなく、PMDAへの申請が必要になります。
承継できない状況に気づかないまま取引先から「承継した」と連絡を受け、古い承認書を持ち込まれると通関書類の整合が取れなくなります。これが条件です。
参考:承継できない場合のまるT申請の取り扱いについて
承継の届出は、いつでも出せばよいというものではありません。タイミングを誤ると承継日に手続きが間に合わず、通関書類の整合が取れない空白期間が生じます。
承継届の提出タイミングは次のように定められています。
| 承継の類型 | 届出のタイミング |
|---|---|
| 相続の場合 | 相続後、遅滞なく |
| 合併・契約・分割の場合(知事承認品目) | 承継予定日から起算して3か月前まで |
| 合併・契約・分割の場合(大臣承認品目) | 承継予定日から起算して5か月前まで |
知事承認品目は3か月前ですが、厚生大臣の許可に係る品目(大臣承認品目)については5か月前までの届出が必要です。これは審査に時間がかかるためです。届出先はPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)です。これは使えそうです。
M&AやグループIの再編で承継の計画が動き出したとき、担当者が「承継は届出だから簡単」と思って後回しにしていると、5か月というタイムラインをあっという間に超えてしまいます。承継日から逆算して、大臣承認品目なら半年近く前から動き始める必要があります。
承継届の提出に必要な書類は次のとおりです。
合併等の登記を要するものについては、登記後にその謄本を速やかに提出することも必要です。書類の種類が多く、契約書・誓約書・承認書の3点の内容が互いに矛盾していないか、承継日が正確に一致しているかの確認が欠かせません。
なお、承継の届出は書類提出だけで完了するわけではありません。受理後、提出先から「受付印が押印された控え」または「受付票」が返付されますが、これこそが通関時に税関へ提示する「受理の証明書類」になります。この書類がないと承継後の輸入通関が滞ります。受理の証明書類を手元に確保しているかどうかの確認が、通関業従事者として最初に行うべき作業です。
参考:サポート行政書士法人による承継手続きの詳細解説
医療機器許可・承認:承認・認証の承継(サポート行政書士法人)
承継が完了した後、輸入通関時にはどのような書類を税関へ提示すればよいのでしょうか?承継前と提示書類のセットが変わるため、担当者間の引き継ぎ漏れが起きやすいポイントです。
厚生労働省の「医薬品等輸入手続質疑応答集(Q&A)令和6年3月26日版」では、承継後の通関時に提示すべき書類として以下の3点が明示されています。
ポイントは②の製造販売承認書が「旧承継者(被承継者)名義のまま」で提示することが想定されているという点です。承継直後は承認書の記載が旧名義のままであるため、③の承継届書と①の業許可証を合わせて提示することで、輸入者と承認書に記載された業者が同一であることを税関が確認します。これが条件です。
通関業者として実際に輸入申告書を作成する場面では、インボイスに記載された輸入者名と、業許可証・承認書それぞれの記載名が一致しているかを突き合わせる作業が必要です。もし不一致がある場合は、承継届の内容を示して変更前後の名称を説明する資料を合わせて提示することになります。
なお、輸入通関書類の一部には機密情報が含まれる場合があります。通関業者に手続きを委託する際、承認書等に記載されている提示不要な情報はマスキング(黒塗り)することが認められています。ただし税関の確認に支障が出ないよう、マスキングは必要最小限にとどめ、委託先との秘密保持契約を締結しておくことが望ましいとされています。いいことですね。
さらに実務で便利な運用として、品目名が承認書表記とインボイス表記で異なる場合に、独自の突き合わせ一覧表を作成して税関に提示することも認められています。ただしその内容の正確性は輸入者側の責任になるため、作成には十分な確認が必要です。
参考:輸入通関時の提示書類に関する最新Q&A(厚生労働省・令和6年版)
医薬品等輸入手続質疑応答集(Q&A)令和6年3月26日版(関東信越厚生局)
承継制度を正しく理解するうえで、通関業従事者がとくに意識しておきたい「見落とし」があります。それは、製造販売承認の承継と、製造販売業許可・製造業登録の名義変更は、まったく別の手続きだという点です。
承継届を出して製造販売承認を無事に引き継げたとしても、製造販売業許可証がまだ旧社名のままであれば、税関に提示する業許可証と輸入申告書上の輸入者名が一致しません。この場合は、書換え交付後の業許可証とともに、業許可変更に係る変更届書(写)も合わせて税関に提示する必要があります。書き換えが間に合っていない場合でも、変更前の許可証+変更届書(写)を組み合わせることで対応可能とされています。
承継と並行して製造業登録にも変更が必要なケースがあることも、見落とし禁止のポイントです。合併や分割の場合、承継した法人が新たに製造業登録を要するか否かは個別に確認が必要で、事前に都道府県の薬務主管課または保健所と確認を取ることが推奨されます。
通関業従事者としての実務対応として最も有効なのは、輸入貨物の荷主(製造販売業者)から次の情報を事前に収集しておく仕組みを作ることです。
これらを事前チェックリストとして荷主へのヒアリングに組み込んでおけば、通関当日に書類が不足して貨物が止まるリスクを大幅に下げられます。承継イベントが発生するタイミングは、荷主側のM&A・事業譲渡・グループ再編と連動しているため、荷主の動向を日頃から把握しておくことが重要です。
承認後1年未満・一変申請中の品目が承継対象に含まれていないか、という確認も通関業者ができる視点です。もし含まれていれば、承継が認められない可能性があるため、荷主に対して事前に薬事担当部門や行政書士等の専門家への確認を促すことが現実的な対応です。
参考:税関における医薬品医療機器等法に基づく輸入規制の確認内容
1805 医薬品医療機器等法に基づく輸入規制の税関における確認内容(税関)